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2022.12.01 2023/03/01

“企業型” が普及のカギに?
テレワークの課題とともに考える、ワーケーションのこれから <後編>

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“企業型” が普及のカギに?<br> テレワークの課題とともに考える、ワーケーションのこれから <後編>

ラシク編集長の小山です。今回、「ワーケーションの“これまで”と“これから”」というテーマでコラムを書いています。

前編では、コロナ禍を境に急速に広がったテレワークについて、新しい業務スタイルとして定着した企業の取り組みや個人でワーケーションを実践してきた方の取り組みをご紹介しました。後編では、「企業型ワーケーション」を中心に、テレワークとワーケーションの今後について考えてみたいと思います。

コロナ禍以降に見られるワーケーションの特徴

企業型ワーケーションの広がり

これまでは個人主体のワーケーションが主流でしたが、企業でテレワークが進んだことや国の取り組みによって、ここ数年は大手を中心に組織主導のワーケーション事例も出てきました。

働く場所や時間が自由になる、といった働く個人に寄ったメリットに加え、イノベーションの創出など組織にとってプラスになる要素も分かり、より多面的な角度からワーケーションが持つ価値や可能性が見えてきました。下の図(目的・メリット)にある「チームビルディング」や「社員満足度の向上」は、ラシクの取材でも特に多く聞かれるものでした。

 

地域に首都圏の企業を誘致するためのワーケーションなども盛んになってきています

 

ワーケーションが在宅勤務の課題を緩和するフックに

今年、取材でお話をうかがった東京のIT企業、e-Janネットワークス株式会社は、5年ほど前からテレワークの定着と浸透に取り組まれ、柔軟な働き方を推進するためのさまざまな制度を導入してきました。会社独自のワーケーション制度はもちろん、日本全国どこでも移住できる制度を新設し、“永久在宅勤務契約”で沖縄に移住した社員の事例もできたそうです。

取材の中で、「多様な働き方やイノベーティブな取り組みにチャレンジする社員が増えてきてきた」、「普段は交流できない社員同士がリアルでコミュニケーションでき、士気が高まった」と手応えを話してくださいました。

先日出席した北海道富良野市主催の交流会では、コロナ禍に社会人となった方々に、ワーケーションを通して得られた効果をお聞きしました。株式会社リコーとNPO法人富良野自然塾が昨年から共同で実施しているワーケーション実証実験(※1)では、新卒2年次の社員が地域住民と交流し、環境問題や地域課題への理解を深める取り組みを行っています。

参加した社員からは、「コロナ禍の就職活動だったこともあり、同期であっても話したことがない人もいた。ワーケーションを通したくさん交流できてよかった」、「在宅勤務が多くコミュニケーション不足に悩んでいた。同期はもちろん、地域の方たちとの交流を通し、人とのつながりの大切さを改めて実感した」といった声が聞かれました。

(※1)株式会社リコー ニュースリリース

ワーケーションのこれから

より多様なワーケーション事例の創出に向けて

盛り上がりを見せているワーケーションですが、国土交通省の調査(※2)によると、ワーケーションを導入した企業の割合は44%と決して高くはありません。総務専門誌「月刊総務」の調査(※3)でも、全国178人の総務担当者の8割以上が「ワーケーションの導入を検討したことがない」と回答しています。労働時間の管理やインターネット環境、セキュリティー、出社している社員や取引先とのコンタクトの取り方など、組織的にワーケーションを推進する上での課題は少なくはなく、企業型ワーケーションの普及・浸透はもう少し時間がかかると思われます。

とはいえ、今後コロナが収束しても企業におけるテレワークは働き方の一つとして残ると推測すると、テレワーク上での課題を解決するフックとしてワーケーションは有効活用できると思います。特に企業型ワーケーションは、社内チームビルディングの強化など社員間のコミュニケーションを円滑にする目的のものから、地域の課題解決に取り組む共創型ワーケーションまでさまざまなタイプがあるため、自社の課題や目的に応じた多様な事例が出てくることが期待されます。

私自身は今後も個人的に「親子ワーケーション」を実践していくつもりですが、子どもの長期休暇を利用した実施だけでなく、学校がある時期の実施方法も探っていきたいです。地方と都市を結ぶ新しい学校のかたちとして注目される「デュアルスクール」は、豊かな自然環境の中で子どもにさまざまな体験をさせたい親から支持を集めています。「親の働き方」と「子どもの学び方」両方がうまく回る手段、可能性の一つとして私も強い関心を持っているので、今後も動向をウォッチしていこうと思います。

(※2)国土交通省 観光庁「新たな旅のスタイル」に関する実態調査報告書
(※3)「月刊総務」ワーケーションに関する調査/2021年6月

 

今年の夏に富良野市のワーケーション実証費用助成金制度を活用し行った「親子ワーケーション」の一コマ。富良野自然塾のフィールドで母(私)はテレワーク、息子は馬のお世話を行いました

関係人口のさらなる創出、人がつながるコミュニティの輪の広がり

ワーケーションは、「関係人口(地域と多様な関わりをもつ人)」を創出する視点でも期待されています。ラシクの取材でお話をうかがった戦略人事コンサルティングチームの株式会社Colere(コレル)は、長崎県の壱岐島で、4月からワーケーション事業を開始しました。ワーケーション施設「ACB Living(アシベリビング)」は、個人の利用や企業の研修の場としてはもちろん、地域住民との交流の場としても機能しているそうです。

 

壱岐島のワーケーションオフィスで打ち合わせをするようす/株式会社Colere提供

働く人、企業、受け入れ先の地域それぞれにとって「三方よし」の政策になるワーケーションは新たな働き方の選択肢の一つです。いち実践者としても、多様な働き方を取材するひとりとしても、今後も注目していきたいです。

ライター

小山佐知子

ラシク編集部  旧編集長

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