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2024.03.20 2024/04/12

“余白”が人生を豊かにする 「生きるをあそぶ」を掲げる友安製作所の組織運営を探る

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“余白”が人生を豊かにする 「生きるをあそぶ」を掲げる友安製作所の組織運営を探る

「人的資本経営」という言葉に表されるように、近年、企業経営において「人材をどう生かすか」が注目されています。個々の持つ「スキル」「知識」「経験」などの無形資産をいかに引き出して経営に落とし込むか。それが企業に求められているのです。

大阪府八尾市の株式会社友安製作所は、1948年にネジ工場として創業し、現在はライフスタイルカンパニーとして幅広い事業を手がけています。会社のスローガンは「生きるをあそぶ」。「全社員がデザイナー」という考えのもとで個々のポテンシャルを引き出しています。

今回は、その詳細を探るために、ソーシャルデザイン部担当執行役員の松尾泰貴(まつお・やすき)さんにインタビューしました。松尾さんは八尾市役所に13年間勤務した経歴を持ち、現職では組織づくりや新卒リクルート、工務店事業、クリエイティブ、情報システム、まちづくり事業を担っています。企業としての方向性をどのように定め、それをどう浸透させているのか、日々の働く様子を交えて伺いました。

役職呼び禁止、日頃からニックネームで
日報も共有してフラットな人間関係をつくる

ソーシャルデザイン部担当執行役員の松尾泰貴さん。オンラインでお話を伺いました。

編集部:はじめに、事業内容について伺えますか?

松尾泰貴さん(以下、敬称略。松尾):インテリア用品の製造・販売をはじめ、まちづくりやカフェの運営など幅広い事業を展開しています。もともとは1948年、木ねじやヒートンを扱う町工場として創業した会社です。現在はライフスタイルカンパニーとして「人生を彩り豊かにすること」に関するサービスを手がけています。

編集部:独自の文化をお持ちの会社だと伺っていますが、普段の社内はどのような雰囲気ですか?

松尾:企業全体がフラットな人間関係で、良い意味で日本の会社らしくない雰囲気だと思いますね。ルールが少なく、自分たちで事業を生み出し、運営することを前提とした会社なので、各々が主体的に動いています。

編集部:フラットな人間関係を築くために、普段から取り組んでいることはありますか?

松尾:ありますよ!代表的なところで言うと、社員同士がニックネームで呼び合っていて、役職呼称は禁止なんです。私も普段は「Will(ウィル)」というニックネームで、「執行役員」と呼ばれることはないですし。ニックネームは社用IDにも使っていて、入社書類を書くことより前に決めてもらっています(笑)

編集部:ほかにも取り組んでいることがあればお聞かせください。

松尾:日報を社内SNSに載せていて、「誰が何をしてどう感じたのか」を全社員に共有しています。お互いの理解を深められるのはもちろん、初対面のはずなのに「この間のプロジェクト、お疲れさま!」みたいな会話が生まれたりして、東京や福岡など他拠点とのコミュニケーション促進にもつながっているんです。

編集部:そのような取り組みはもともとあったのですか?

松尾:そうですね。私が入社した2021年には、すでに行われていました。というのも、当社の社長は、社員のことをしっかりと感じ取りたいタイプなんです。ひなまつりのようなイベント時におかしを配ったり、全社員の誕生日をカレンダーに入れてお祝いを渡したりしていますよ。

根っこからの組織改革を図って、
全社員が一堂に会しコアバリューを刷新

全体会議での様子。付箋に思いを書いて貼っていく。

編集部:2022年に会社のコアバリューを刷新したそうですね。松尾さんはその主導者だったと聞いていますが、刷新にはどういった経緯があったのですか?

松尾:実は入社前から社長と仕事のつながりがあって、「組織をどうつくっていったらいいか」という話を聞いていたんです。トップダウンの空気ができているから、一人ひとりが自分事として動けるボトムアップ型の会社にしたいと。

いざ入社して状況を整理していくと、当時の「コアバリュー」が社長が考えたものだったことを知りました。トップがどれだけ熱い思いを持っていても、それが自分ごとになっていなかったり、社員に伝わっていないケースって多いんですよ。コアバリューを社員全員で変えることで組織の根っこが変わると思い、刷新に向けて動き出しました。

編集部:取り組んだ内容について伺えますか?

松尾:まずは、各部署の代表社員を集めて、90分のグループインタビューをしました。そうしたら、「コロナの影響や企業成長に伴い、横のつながりが希薄になっている」という課題が浮き彫りになったんです。

そこで、会社としての指標や判断基準をみんなでつくるために、約70名の全正社員を集めて、大切にしたい価値観を付箋に自由に書いてもらって共有し合いました。それを私が最終的に「Tomoyasu way of life」という10個のコアバリューにまとめた、という流れです。

編集部:コアバリューを組織にどう浸透させているのですか?

松尾:基本的なところだと、人事評価制度にすぐに反映させました。自分の頑張るバリューを3つ設定してもらい、実行できたかどうかを、その理由と合わせて自己評価してもらっています。

あとは、10個のコアバリューの中から「その年に強化したいもの」を毎年設定して、普段から合言葉のように使ったりもしていますね。

編集部:会社の指針が定まると、採用活動にも良い面がありそうです。

松尾:担当者にとって選考時の指標になるし、一人ひとりの社員がコアバリューを意識した発信をするおかげで、組織にマッチする人材が集まるようになってきました。現に最近は、「大学時代に自分で学生団体を立ち上げました」みたいな、チャレンジ精神に富んだ人の応募が増えています。

自分の好きなことに会社を巻き込む
「全社員がデザイナー」に込めた思いとは

会社所有の別荘で社員が集まってBBQを楽しんだりすることも。

編集部:友安製作所では現在、スローガンとして「生きるをあそぶ」を掲げています。この言葉には、どのような意味が込められているのでしょうか?

松尾:前段として、当社の企業理念は「Add Colors To everyone’s Life.」で、世界中の人々の人生に彩りを加えたいという思いを込めています。これを実現するために「どうやって変化を加えるのか?」って考えたときに、遊びの部分、一言でいうと「余白」が大事だと思っているんです。

一般的に、「成長したければ余暇を勉強などの投資に使え」って言われることが多いですよね。けれど、私たちは遊びこそが投資だと捉えています。遊びの中で新たに知ることがあったり、モチベーションアップにつながったり。そんなふうに自分の人生を楽しむことが、人を楽しませることにつながるという意味で「生きるをあそぶ」を掲げています。

編集部:それを体現するためのモットーのようなものが「全社員がデザイナー」だと。

松尾:まさしく! 地域やお客さんが抱える課題をどう読み取って、解決への筋道をどう立てるか、発想豊かに自分たちで考える。それを広い意味で「仕事をデザインする」と捉えています。

編集部:日々の「余白」の中で得たものが、事業を生むきっかけになったりするのでしょうか?

松尾:そうなんです。だから、事業の中に自分の好きなものを重ねてもいいわけです。私なんて、「まちづくりがしたい」って言って、そのまま事業としてまちづくりをしてますから。

自分の好きなことを仕事にできるほうが、爆発的なエネルギーにつながりやすい。たとえば、当社にカレーが大好きなメンバーがいるのですが、最近スパイス屋さんとメニュー開発をしていて、スパイスキットを販売するプロジェクトを進めているんですよ。

地域で「一番頼りになる会社」を目指す

社員と地域を一緒に盛り上げる企業が全員集合する「トモヤスセイサクショフェス」

編集部松尾さんは元市役所職員ですが、官民の連携についてどのような形が理想だとお考えですか?

松尾:お互いの得意領域をベースにして、手を取り合うのが理想だと思っています。自治体もどうにかしたいと思ってるけど、何をどうしたらいいかが分からないケースって多い。一方でよくあるのが、会社側はコミュニケーションをとる前から相手の肩書を意識してしまい、身構えて本音で話せなくなってしまうんですよね。

編集部:たしかに、「行政」ってだけで距離を置く人は少なくない気がします。

松尾:そうですよね。だから、「一緒にまちづくりしませんか?」ってスタンスよりも、「一度お話ししましょう」、なんなら「飲みにいきましょう」くらいのスタンスでいいと思ってます。お互い「余白」を残しながら接するイメージですかね。

私が自治体職員のとき、「施設を有効活用したいのでみんなで考えませんか?」っていうプロジェクトを、あえてゴールを決めずに始めたことがあります。そのときも、最初は趣味や年代なんかでつながっていき、気が付いたら「このまちをどうしたい?」って語り合う空気ができていました。

編集部:最後に、会社の展望について松尾さんの思いも踏まえて伺えますか?

松尾:私は自治体職員だったころから、「まちの変化の起点になる」と言い続けています。今でもその思いは同じで、当社のプロジェクトを通じて、まちに変化を起こしたり、誰かが熱い思いを抱くきっかけをつくったりできたらいいですね。まずは「地域で一番頼りになる」「地域で一番すげえ」。そう言われるくらい影響力のある会社にできたらと思います!

会社ありきで考えず、「今の会社の課題は?」「自分たちはどうありたい?」と社員の主体性をもって、根っこの部分から組織改革に取り組んできた友安製作所。だからこそ、理念やスローガンが末端まで息づき、働く意義を社員がそれぞれに見出すことができるのでしょう。
インタビューの最後に、松尾さんは「今後は日本のものづくりを海外に発信する事業を構想している」と仰っていました。友安製作所のこれからが楽しみです。

プロフィール

松尾泰貴さん

関西大学卒業後、八尾市に入庁。13年勤めた行政マンをやめ、2021年に友安製作所入社。秘書課、産業政策を経て、経済産業省で関西圏内のベンチャー政策に携わる。その後、八尾市にてみせるばやおを立ち上げ、『地方公務員アワード2019』を受賞。2022年より現職、まちづくり事業を立ち上げ、オープンファクトリーFactorISMや和歌山県専門家、大阪市生野区、八尾市の公共事業のプロデュースを行う。ForbesJAPANのスモールジャイアンツイノベーターに選定される。

ライター

紺野天地

ライター、文筆家

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