この10年、女性の「はたらく」はどうなった?
2つの人材マッチングサービスの今後を通して考える<後編>
女性活躍推進法の施行やコロナ禍によるリモートワークの普及などにより、ここ10年ほどの間に、働き方の選択肢が増えています。
前編では、「女性の働き方はどう変わったか」をテーマに、女性の就業をサポートする事業を推進する「Waris」共同代表の田中美和(たなか・みわ)さん、ブランク期間によって能力を眠らせている駐在妻と企業をマッチングする「CAREER MARK」共同代表の三好怜子(みよし・れいこ)さんのふたりの専門家を招き、ラシク編集長小山とともにこの10年間の女性のキャリアの変化についてお話をうかがいました。
後編では、田中さんと三好さんのふたりが、女性が求める働き方の傾向や採用のリアルなど、マッチング事業者として肌で感じられていることをお届けします。
田中 美和さん
株式会社Waris共同代表/一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会理事
三好 怜子さん
株式会社ノヴィータ代表取締役社長/駐在妻キャリア支援「CAREER MARK」共同代表/ラシク運営責任者
小山 佐知子
「ラシク」編集長
前編はこちら
いま、女性の仕事探しで重視されていることは?
編集部:女性が仕事を探すとき、希望する条件がどう変わっていると感じますか?
田中美和さん(以下、敬称略。田中):リモートワークを希望する方が増えています。子育てとの両立がしやすいですし、パートナーの転勤の影響を受けずに働くことができます。また、副業を歓迎する企業への就職や、副業フリーランスとしての活動を希望される方も多いですよ。
三好怜子さん(以下、敬称略。三好):やっぱりリモートワークの希望者は増えているのですね!Warisさんへの登録者層に変化はありますか?
田中:最近は、男性の登録者も増えています。あとは、性別を問わず、20代の登録者も増加しています。若いうちからキャリアをデザインしたい、将来に備えておきたい気持ちが強まっていると考えられます。
三好:CAREER MARKでも、同様の傾向があります。駐在帯同中、また駐在帯同前からも、当サービスへ登録する女性が以前よりも増えています。本帰国したあとの仕事に向けて備えておきたいという気持ちを感じます。
ただ、希望する就業形態はフリーランスよりも正社員が多いです。これには、駐在帯同前の働き方が影響しています。当サービスへ登録する女性の経歴を見ると、規模の大きい企業で勤務をして経験を積んでいたり、転職回数が少なくひとつの会社に長く勤めていたりした方が多い。
あと、「夫の会社のものではない、“自分自身の”健康保険証をもう一度持ちたい」といった声がよく上がります。夫に帯同して海外生活を送っていた彼女たちは帰国後、妻や母とは別の「働く自分」という顔を欲しているのではないでしょうか。
人事や広報職も、フリーランス人材へ業務委託
編集部:企業が求める人材はどう変わってきていますか?
田中:フリーランスへの理解が進み、社外の人であっても能力があればチームに招いて仕事をするようになっています。10年前は、フリーランスとフリーターの区別が曖昧だった人がいたことを考えると、フリーランスを戦力として企業が評価するようになったといえます。
三好:フリーランスと聞いて、私たちも仕事で発注経験があるライターやデザイナーといった専門職を想像できても、人事のような総合職はなかなか結びつきづらいものですよね。プロジェクト単位で必要な人材を業務委託として採用するのも、以前は一般的ではありませんでした。
田中:オンラインでつながりやすくなったことから、チーム組成の概念が変わり、社外のメンバーとの協働が容易になりました。最近では、人事や広報、マーケティングをフリーランスに依頼する傾向が見られるようになっています。
フリーランスとして活動している方は専門的な知見を持っているので、アウトプットの質が高い。社員であっても不慣れな人が担当するよりも、高い専門性を持つ社外の人をチームに招いた方がいいわけです。
三好:採用って、投資のような側面がありますよね。書類や面接でスキルや経験を見極めますが、結局のところは一緒に仕事をしてみないと分からない部分はあります。でも、フリーランスであれば、社員よりも採用のハードルが下がり、プロジェクトに参加してもらいやすくなります。
田中:フリーランスなら企業が必要な時に、必要な仕事をお願いできます。取引のある首都圏のスタートアップ企業の担当者と話すと、5〜10人で会社を立ち上げて、メンバーはすべて業務委託であることがよくあります。
リスキリングを活用した採用のしくみも増加
編集部:では、どのようなスキルを持った人材が企業に求められているのでしょうか?
田中:コロナ禍によって、顧客接点をリアルに加えてオンラインでも持ちたいと企業が思うようになっています。そのため、デジタルマーケティングやインサイドセールス、カスタマーサクセスなどの経験を持った人材は特に求められていますね。
以前からそれらの分野に詳しい人の需要はありましたが、コロナ禍でいっそうニーズが強化されました。
小山:人材といえば、最近はリスキリングが話題ですよね。Warisさんも今、リスキリングに力を入れていらっしゃいますよね?
田中:政府も予算を割いていますしね。リスキリングは自社の従業員に向けて行うのが一般的ですが、最近は中途採用の一環として取り入れるケースが見られるようになってきました。
三好:採用前の段階からリスキリングを行うのですね!
田中:あらかじめ学習をしてスキルを身につけた人材と企業とをマッチングをすれば、ミスマッチが起こりづらくなります。当社でも、そのようなリスキリングのプログラムを用意しています。
転職目的の方はもちろん、非正規雇用や離職中の方が新たなスキルを学んで正社員としての仕事獲得を目指したり、再就職をはたしたりされています。
三好:これから働き手は確実に減少するので、今後はいかに人材を確保できるかが課題です。フリーランスをチームに加えたり、ブランクのある人たちの能力を活用したりすることは、有効な解決策となるはずです。
働く時間は短くても、社員としての募集は増えています。このように、企業側の受け入れの間口が以前よりも広がっている印象を受けます。
履歴書には書かれない「強み」「魅力」を読み取ることが採用のカギ
編集部:先ほど採用の話が上がりました。企業は優秀な人材を確保するうえで、採用についてどのようなスタンスで臨むのがよいと思いますか?
三好:ブランク期間をどう捉えるかではないでしょうか。企業はブランクに対して必要以上にマイナスのイメージを抱いていると私は感じます。たとえば、同じスキルを持っているふたりの女性がいるとします。ひとりは就業を継続している人、もうひとりは海外への駐在帯同で数年のブランクがある人です。
おそらく、多くの企業はブランクがない人を採用すると思います。でも、ブランクを理由として労働市場に戻ってくる人材の就労機会をなくすのはもったいないと思うんです。
田中:三好さんがおっしゃるように、働き方の変化に対して、採用サイドが追いついていない印象は私も受けます。
三好:駐在帯同中に何もせずに過ごした人は、ほぼいません。慣れない環境への適応力や、新しく学び直す力、また変化に屈しないレジリエンスもある。文化も言語も違う環境で生活するのは、とても大変なことです。
帯同生活での学びや身につけた環境適応力は、履歴書や職務経歴書に実績として書ける欄がありません。採用時に企業は、そういった書類に表現されない求職者の強みを読み取ることが大切です。とはいえ、求職者側も自信の強みを把握し言葉にできる人はそう多くいません。そこで、CAREER MARKでも、帯同者自身が帯同中の経験も踏まえた強みを知って企業にアピールできるように新しいサービス「CAREER MARK+」を立ち上げました。
田中:Warisでは、企業とブランクのある求職者でイベントを開催したことがありました。そこで求職者に1分間のスピーチをしてもらったところ、企業担当者の評価は上々でした。
「ブランクがある=マイナス」と思っている企業に向けて、まずは求職者の「人となり」を知ってもらうことの大切さを痛感した出来事でした。履歴書や職務経歴書を最初に見るとブランクが目立ってしまい、マイナスのイメージが強化されてしまいます。書類だけに頼らない採用があってもいいと感じました。
三好:働き方の多様化に伴い、今の事業や組織において、どういう人を採用すべきなのか。社員なのか、フリーランスのような外部の人員なのか、どちらを選ぶとよりよい結果が得られるのか判断が難しくなっています。採用に課題を感じながらも、自分たちだけで解決できないケースはありますよね。
小山:そういった悩みに対しては、WarisさんやCAREER MARKのような「第三者」を上手に活用できるとよさそうですね。
企画・編集/小山 佐知子
お話をうかがって、女性活躍を進めるためには「採用のあり方を変えること」が必要だとあらためて感じました。特に、ブランク期間はマイナスのイメージを持たれがちです。ここをどう考えるかは、企業が採用で重視すべきポイントとなりそうです。
また、これから社会復帰をしたい人も、仕事から離れた期間で学んだことや経験したことを整理してみるといいですね。成長したことを整理して、企業にしっかりと伝えていくためにも、第三者からのフィードバックを得られるコミュニティも活用できそうです。
プロフィール
田中美和さん
株式会社Waris 共同代表
働く女性向け雑誌の編集記者時代に感じた課題感をもとに、女性が生き生き働き続けるためのサポートを行うべく2012年に独立。フリーランスとしての活動をへて2013年に多様な生き方・働き方を実現する人材エージェント株式会社Warisを共同創業し現職。最近では女性役員紹介事業を通じて意思決定層の多様性推進にも尽力。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』。国家資格キャリアコンサルタント。5歳女児のママ。
三好怜子さん
大学時代から、ノヴィータの前身となる会社でインターンとして活動。2006年、ノヴィータ設立時に立ち上げメンバーとして参画。Webディレクターとして顧客折衝・企画営業・進行/品質管理などに従事する傍ら、自身や社員の将来も見据えて社内の労働環境整備に注力。2010年3月に取締役に就任し、経営者として現場と経営の意思疎通をはかりながら、業績向上、および社員の労働環境向上に従事。
2015年2月に代表取締役就任。同年8月に、女性の働き方を取り上げるメディア「ラシク(LAXIC)」を立ち上げる。翌2016年1月に第一子を出産、自身も育児と仕事の両立を図る日々。CAREER MARKでは共同代表として、主に意思決定、求人企業との折衝役を務める。
ライター