セキュリティー業界で活躍する女性ホワイトハッカー
キャリアの燃料は尽きない探究心
株式会社日立ソリューションズ(以下、日立ソリューションズ)で、ホワイトハッカーとして活動する青山桃子(あおやま・ももこ)さん。ホワイトハッカーとは、コンピューターやネットワークなどの高度な知識や技術を善良な目的に使い、サイバー攻撃から企業や社会インフラを守る専門家のこと。顧客のセキュリティー対策のほか、啓発運動や人材育成など、社内外のセミナー講師としても幅広く活躍されています。 2度目の育休復帰後からは、セキュリティー診断チームのリーダーとしても活躍の幅を広げる青山さん。「個人的に好きだからやっている」と笑顔で話す彼女の原動力とは? 高いスキルとともにブレない自分軸を築いてきた青山さんのライフストーリーをお届けします。
「地球防衛軍にならないか?」
セキュリティー分野へと導かれた恩師の言葉
日立ソリューションズには新卒として2013年に入社しました。現在は、セキュリティー診断チームのリーダーを務めながら「ホワイトハッカー」として活動しています。具体的な業務としては、お客さまの情報システムを診断し、サイバー攻撃に対処できるよう支援を行っています。
そもそも私がIT分野に進む原点は、小学生のころ。当時からパソコンを使うことが好きで、親のパソコンを使ってゲームをしたり、お絵描きしたり、文章を書いたり。小さいころから自分で調べて試して、新しいことを学ぶことがとても好きな子どもでした。中学生のころにはITエンジニアという職業を知り、将来の夢として憧れを抱くようになりました。
大学進学時には自然とIT分野の進路を選び、情報工学を専攻。そこからセキュリティー領域に興味をもったのは、大学3年の研究室配属のとき。サイバー防衛を研究する恩師から「地球防衛軍にならないか?」と呼びかけられたことからでした。マルウェア解析などを行っていたのは恩師の研究室だけだったこともあり、「ぜひ入りたい!」と配属を希望し、大学院ではネットワークとセキュリティーの研究にいそしむことになります。
振り返ると、学生時代はさまざまな大会や危機管理コンテストに出場してきました。原動力となったのは、おもしろいことを追求したいと思う好奇心です。その気持ちに後押しされるように挑戦を重ね、知識や技術を広げていきました。“おもしろい”と心動かされることが、その後の私のキャリアを大きく支えてくれることになりましたね。
変化や進化が速いサイバーセキュリティー分野
尽きない探究心が仕事の原動力に
大学院卒業後、日立ソリューションズを就職先として選んだ理由は、働きやすさと雰囲気が合うと感じたからです。会社で過ごす時間は生活の中で大きな割合を占めるため、自分に合っていて、過ごしやすい場所であることは必要条件でした。
入社後は、セキュリティー製品の検証、販売拡大を主に担当するエンジニアとして活動し、その後Webサイトやネットワークのセキュリティー診断を担当する部署に異動。2016年からはホワイトハッカーチームのアナリストとして活動しています。現在はホワイトハッカーチームとセキュリティー診断サービスの二つの業務を兼任。お客さまのWebサイトやネットワーク、製品、サービスの脆弱性を検証するテストを行い、問題があれば結果をレポートし、その対策を提案しています。
仕事の魅力は、なんといっても最前線で新しい技術を肌で感じられることです。最新のサイバー攻撃の手口を体感し、有効な対策を探っていくプロセスには非常におもしろみを感じています。さらに専門家として、セキュリティーインシデント(不正アクセスやコンピューターウイルス感染など)が発生したお客さまの現場や、製品・サービスを開発する社内の方々に対して力になれることは大きなやりがいです。
啓発活動や人材育成にも取り組んでいて、社内ではセキュリティースキルコンテストを開催したり、社外では地域の人たちに向けてセキュリティーの大切さを発信する活動を行ったりしています。また、会社の業務とは別に、情報セキュリティー技術に興味がある女性を対象としたコミュニティ「CTF for GIRLS」にも所属(CTFとは、情報セキュリティーの技術を競うコンテストのこと)。女性同士で技術を教え合うCTFワークショップの運営にも携わり、講師を務めたり演習課題を作成したりしています。「CTF for GIRLS」には、いろんな分野の女性技術者が集まっているので、これまで知らなかった技術を得られることはすごく新鮮で、大きな刺激にもなっています。
セキュリティー分野では次々に新しい技術が公開されたり、攻撃手法もすぐに進化したりするので、新しく学ぶことが多くて興味が尽きないんです。学ぶことが心からおもしろいと思えるから、その気持ちが続く限りは仕事への熱意も尽きないと思います。
「手放すこと」と「自分にしかできないこと」を明確にする
現在は、6歳児と2歳児の子育てをしていることから、保育園のお迎え時間もあって毎日定時に勤務を終えています。限られた時間の中で、お客さまからの見積もり依頼など、期日に追われるタスクが積み上がってくると両立の大変さを感じることはあります。
とはいえ業務において私が意識しているのは、ある程度、割り切って仕事に取り組むこと。仕事も完璧にやろうとしすぎると時間内に終えられず、それがストレスになってしまうこともあります。もちろん私の中では「ここまではやりたい」というものはあるけれど、そこは割り切って、できる範囲のことを精いっぱいやろうという考え方にシフトするようにしました。つまりほかに回せると判断した部分は手放し、こだわらない。ただ、私が手を放した部分は周りの方がサポートしてくださっているので、そこは本当に感謝しています。
日々の家事育児についても“手放す・こだわらない”という考え方は意識していて、そのために実践しているのが「時間の節約」と「作業のシンプル化」です。
まず、わが家の場合はあらゆる便利家電をフル活用しています。ロボット掃除機、乾燥機、食洗機をはじめ、高機能調理家電、スマートロックといったIoT家電など、機械にできることは機械に任せる。人間がやらなくてもいいところは家電に頼り、子どもと過ごす時間や個人の時間を捻出するようにしています。
あとは育休中に取得した整理収納アドバイザーの資格を駆使して、物を効率よく使えるように配置したり、不要なものを置かないルールを作ったりして、物の管理に時間を取られないようにも工夫しています。
中でも自分時間を確保するために実践しているのが、細切れであっても「スキマ時間を賢く活用する」こと。空き時間にやりたいことを考えておいて、時間が空いたらすぐに作業できるよう準備することは欠かせません。先日もマルウェア解析技術に関するセキュリティー技術の資格試験があったのですが、夕食後からお風呂までの時間など、都度空いた時間をうまく活用するようにしていました。教材や必要な機材は手の届きやすい場所に置いておいて、時間が空いたらさっと取り出して勉強する。そのかいもあって、無事試験にも合格することができました。
「好き」を優先して生きるために「やるべきこと」にも向き合う
人生においては「やりたいことを優先する」と決めています。その分、やりたくないことも引き受ける覚悟で。人間だから不安や不満もあるけれど、「やりたくない」「嫌だな」という感情に引っ張られず、淡々と手を動かしていく時間も必要だと思うんです。そのためには目標を明確にして、ブレない。自分が何を欲しているのかをちゃんと理解したうえで、そのゴールに向かって障害物を地道に乗り越えていく感じでしょうか。
今は仕事と育児との両立で手いっぱいなところはあります。けれど、大変な時期はほそぼそとでもいいからキャリアはキャリアで継続させて、子どもの手が離れたら、そのときに自分がやりたいことに集中できたらと思っています。セキュリティー分野の専門家として知識や技術を極めてきたからこそ、これらの強みを生かして、その時々でやれることを考えていけたらいいかなと。
後に続く後輩たちに対しても、「やりたいことはやった方がいいよ」と伝えていきたいですね。そのためには、やりたくないこともやらざるを得ないけれど、「やりたいことをやるためにやってるんだ」という気持ちで向き合えば、感情に振り回されず健康的な気持ちで仕事に取り組めると思うんです。ブレない軸をつくるには、自分が何を好きなのか、どんなことを大切にしたいのか、どうなりたいのかをしっかりと定めていくことが必要です。私の場合は“おもしろい”という原動力に突き動かされてきたけれど、自分にとってキャリアの燃料になるものを見つけることは、ブレないキャリア軸をつくるために必要なことなのかもしれません。
ライター