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2023.09.29 2024/02/14

大手人材派遣会社 初の女性執行役員が
体現してきた「迷いながらも前進する力」

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大手人材派遣会社 初の女性執行役員が <br>体現してきた「迷いながらも前進する力」

「この仕事は自分には向いていないのでは」
「子どもを産んでも今の仕事を続けられるだろうか」

そんな漠然とした不安にふと立ち止まってしまう人も多いのでは? 株式会社リクルートスタッフィングで執行役員を務める平本早苗(ひらもと・さなえ)さんもまた、順風満帆に見えるキャリアの裏側で、さまざまな葛藤を乗り越えてきた人物です。女性のライフイベントに伴う心のゆらぎ、女性管理職として抱いた孤独や違和感。不安でも立ち止まらず、キャリアの壁を突破していった彼女の心構えとは? 

仕事に足踏みしている人にぜひ読んでほしい! 仕事への向き合い方が学べる平本さんのライフストーリーをお届けします。

私はこのままでいいの?
周囲の動きに焦燥感を募らせた20代半ば

平本早苗さん

地方出身の女性が、東京でひとり生き抜いていくには選択肢の少なかった時代。新潟県出身の私は大学卒業後、東京で自立して生きていける就職先を探し求めていました。男性と対等に扱ってくれる業界はそのころ少なく、女性の総合職もあってないようなものという印象がありました 。限られた選択肢の中で最終的にたどり着いたのが、当時から女性活躍を推進していた株式会社リクルート(以下、リクルート)でした。

総合職として入社し、中途採用媒体の営業職として働き始めた私はとにかく東京に残りたい一心で仕事に打ち込みました。自活するためには、まずはお金を稼がなくてはと。その気持ちが仕事の原動力になっていたと思います。がむしゃらに仕事と向き合い、仕事のおもしろみを感じられるようになった25歳のころ。ちょうど周囲では結婚に向けて動き出す人が少しずつ出てきました。当時は、リクルートのような比較的男女の区別なく活躍できる企業でさえ、大卒入社3年目ほどで寿退社をする女性が珍しくない時代。同僚女性たちが結婚したり、結婚に備えて転職したりする姿を目の当たりにしているうちに、言いようのない不安に襲われるようになりました。今思えば「結婚」という人生設計に沿って行動する彼女たちと、結婚願望もなく、かといってやりたいことが具体的に何もない自分とを比べて、強い焦燥感を募らせていたのだと思います。

職場にも職務にもまったく不満はないにもかかわらず「私はこのまま同じ場所にとどまっていていいのだろうか」と、焦り悩む日々。ざわざわする心を抑えきれない私は、今後のキャリアを形成していくためにも、新しい環境に身を投じることを思い立ちました。そこで、リクルートグループ内で異動できる人事制度を活用して、リクルートスタッフィングへの転籍を決断したんです。

人材派遣事業をメインに扱うリクルートスタッフィングを選んだのは、学生時代に派遣スタッフとして働いた経験から。自分で仕事を探すのではなく、スキルや志向からマッチングしてもらえるのはすごくいいしくみだと感じていたんです。さらに、当時から派遣という柔軟な働き方を選択する利用者には、女性が圧倒的に多かったことから、「働く女性たちの活躍を下支えしたい」という想いが湧き上がっていました。

30歳手前で再びざわざわ
ロールモデルになろうと決意した部下の言葉

転籍後は、新たな仕事に夢中になれたおかげで、将来への不安は自然とかき消されていきました。しかし、それもほんの一瞬のこと。今度は30歳を目前にした第2次結婚ラッシュが訪れ、再び心がざわざわし始めます。ただ、そのタイミングでありがたいことに管理職に昇進。部下を持ったことで、仕事への向き合い方が大きく変化することになっていったんです。

きっかけは、女性の部下たちから投げかけられる問いかけの数々でした。

「結婚しても営業の仕事は続けられるのでしょうか?」

「営業の仕事が自分に向いているのか自信が持てません」

「平本さんはいつまで仕事を続けるんですか?」

彼女たちが口にする仕事への迷いは、私がこれまで抱え続けてきた、漠然とした不安とほぼ同じだったんです。そんな彼女たちを見て、上司である私がちゃんと地に足を着けて、働く女性のロールモデルにならなくてはと、覚悟を迫られたような気持ちになりました。前に進むしかないと強く思えたあの瞬間は、私にとってひとつのターニングポイントだったのかもしれません。迷いながらも前進し続けることの大切さを、自ら体現できる人になりたいと、新たな目標が芽生えた時期でもありました。

ひとつの山場を越えたことで、仕事に悩む部下や後輩たちに対して「迷っているうちは答えが出るまで突き進んでみたらいいんじゃない?」と、声をかけられるようになっていました。まだ起きてもいないことに不安になって、自分にブレーキをかける必要なんてないんだと。

当時はまだ女性管理職も少なく、孤独感や居心地の悪さもなかったわけではありません。でも、自分自身にも言い聞かせるように伝えていた言葉は、間接的に多くの社員の背中を押すことにつながっていきました。「迷いながらも前に進む」人が増え、社内に良い循環が生まれていく様子に、マネジメントへのやりがいや手応えを感じるようになっていました。それが27歳の終わりごろでした。

女性初の役員登用
「昇進=やりたいことへの挑戦」という気づき

当時から「仕事は楽しむ」がモットーの平本さん

その後、部長へと昇進した私は、再び大きな転機を迎えることになります。それは女性初となる役員への登用でした。当時の私は、チャレンジしたい目標や会社に貢献したいという思いを抱いている一方で、役職を上げることには興味がありませんでした。

上司には私の意向を伝え続けていましたが「今の仕事の枠にとどまらずチャレンジしたいことがたくさんあるんだよね? 役職が上がることをそこまで避ける必要があるの?」と、上司からたびたび問いかけられていました。おそらく上司は、確信があったんだと思います。私は役職には興味を示さないけれど、昇進することでやりたいことに近づくことに。役職の響きに過剰反応して、拒絶しているだけだと気づいていたから、何度も働きかけてくれたんだと思います。

しかし上司からの勧めには、依然として答えられない自分がいました。会社にもっと貢献したいし、自分自身も成長したい。なのに、私はなぜ昇進を拒んでしまうのか。葛藤を抱えながら、しばらく自分自身と向き合う時間を過ごしました。

最終的に、私が昇進を避け続けていたのは、自信のなさや恐れからただ逃げ道をつくっていただけなのだと気づきました。失敗した自分を想像すると、立ち直れないかもしれないと怖がったり、昇進することで周りの同僚と距離ができてしまうのではないかと不安になったり。だからチャレンジするよりも「今に満足しているからそれでいい」という言い方をしていたんだなと。結果的に「役職が上がること」と、自分自身の成長や周囲にとって役立つ人になりたいという思いは同義である、と結びついたとき、役員への昇進を引き受ける決意ができました。

当時の経験を踏まえて、昇進をためらっている人に声をかけるなら「選択肢を自分の手で閉ざさないで」と伝えたいです。役職を上げたいとか、キャリアアップしたいかどうかはいったん置いておいて、もっとシンプルに人生の選択肢を広げたいのか狭めたいのかを問い直してみてほしい。今はまだ気持ちが固まっていなくても、将来考えが変わるかもしれないし、やってもいないことに対して自分は向いていないとか、見えない不安によって断念してしまうのはすごくもったいないことです。「選ばない」選択はいつでもできるから、巡ってきたチャンスを恐れずつかんでほしいと思います。

「何をするにも遅すぎることはない」
年齢や状況を理由に、可能性を閉ざさない

キャリアも、ライフも「Never too late」の姿勢で

かつての私は見えない不安によって自分の可能性にブレーキをかけたり、昇進することに足踏みをしたりしていました。でも、最終的に不安に足を取られることなく壁を乗り越えられたのは、迷っているうちは決して足を止めない、覚悟が固まるまでは選択肢を閉ざさないと決めていたからです。万が一、チャレンジしてうまくいかなかったとしても、そのときに考えればいい。いつからか、そう思えるようになっていました。なぜなら、人はいつからだってまた人生を始められるからです。

もう年だから、子どもを産んで出遅れたからという理由で、キャリアや自分のやりたいことを諦める必要はありません。私が普段から大切にしている座右の銘に「Never too late」という言葉がありますが、つまりは「何をするにも遅すぎることはない」ということ。だからこそ年齢や状況を理由に、自分の可能性に制限をかけないでほしいし、気負わずいつからでも挑戦を楽しんでもらいたいです。

現在は、女性の活躍を推進するプロジェクトにも携わり、私の経験をお話しする機会が増えています。これまで管理職を敬遠していた女性社員が「挑戦してみようかな」「そんなに難しく考えなくていいのかも」と変化していく様子に、毎回刺激を受けています。とはいえ、女性管理職の存在が当たり前の環境になるには、管理職の男女比率を一定の水準まで向上させる必要があります。彼女たちを無理に追い立てるのではなく、誰もが自分らしく働ける環境をつくる、その道筋を照らし続ける存在でありたいと願っています。

ライター

倉沢れい

ライター

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