「マルハラ」「おじさん構文・おばさん構文」など、若者たちからしばしば揶揄されるコミュニケーションの世代間ギャップ。いつの時代も若者文化は変化し続けるものですが、近年の若者のコミュニケーションスタイルはデジタルツールの発展による変化が目覚ましいのは周知のこと。SNSやチャットアプリ、オンラインゲームなど、デジタルツールを駆使して人とつながる若者たちは今、コミュニケーションをどう捉えているのでしょうか。
テキストコミュニケーションの感覚の違い
Twitter(現X)の日本版がリリースされたのは2008年、LINEが誕生したのは2011年。以降、チャット形式でのオンラインコミュニケーションツールが急速に広がったことは記憶に新しいかと思います。今では仕事でも欠かせないツールでもあり、もはや一般的になったチャットツール、上司世代はその繁栄していく様を実際に体験している身として使いこなしている自負はあると思います。ですが、若手との使い方の違いに戸惑いを見せる上司世代も…
画像だけでコミュニケーション? 上司世代の戸惑い
「若手が写真だけをチャットに送ってくることがあり、真意を掴みかねる。『で、なんなの?』といちいち聞くのが面倒くさい。もちろんそんな冷たい言い方はできないので言い方を考えていると時間がかかり、電話した方が早いとつい電話してしまう」(40代・管理職)
ちなみに送られてきたのは、上司宛の郵便物がPCの上に置いてある画像。わざわざ画像で送ってくるということは、何か重要な郵便物なのか? と悶々としたんだそうです。たまりかねて、本人に直接「あれはどういう意味? 何か変わったことがあったのかな」と聞くと「あ、届いてたので」との回答だったとのこと。
「だからなぜそれを、チャットで送ってきたの? 席に戻ってからではダメな理由が何かあるのかと思うじゃないですか…」というのが上司の言い分です。
Z世代のコミュニケーション観
この事例についてZ世代の若者たちに意見を伺ってみました。
「単に親切心で送ったんだと思いますよ。『〇〇からどんな郵便が届いてます』とか、いろいろ確認しながら打つより、画像一枚送った方が圧倒的に情報量が多いし早いですよね」(20代・事務)
「相手が目の前にいても自分だったらチャットしますね。その方がいつ届いていたのか明確だし、受け取る人は邪魔されず好きなタイミングで確認すればいいので」(20代・営業)
なるほど、Z世代と話しているうちに、彼らのコミュニケーション観が見えてきました。
・リアルタイム性を重視
「情報はその場で素早く共有する」というのがZ世代の常識。相手と会ってから話そうと思って忘れた、すれ違ってなかなか話せなかった…なんて非効率なコミュニケーションの取り方はしないのです。報連相の観点から見ても、“即共有”は合理的と言えます。
・相手の邪魔をしない
コミュニケーションはキャッチボールと言われますが、Z世代は相手の邪魔をしないのが鉄則です。自分の発する情報が相手にとってどの程度の緊急度・重要度なのかは相手がジャッジすること。自分の都合で一方的に話しかけて相手の作業を中断させるのではなく、オンライン上で投げかけてワンクッション置いた上で、相手がのってきたところから会話のキャッチボールが始まるようです。
自分が持つ情報はまず共有、相手の都合を尊重し、反応があってからコミュニケーションをスタートする。実に効率がよく、また相手の事情を受け入れる懐の広さをもったコミュニケーションの仕方と言えます。
ネット上で無数に広がるコミュニティ
コミュニケーションと言えば「飲みニケーション」という言葉もあるように、リアルで会ってお酒を飲みながら親睦を深めるものでは!? そう感じる方も多いかもしれません。今時の若者は飲み会に来ない、と言われるようになってもう久しいですが、Z世代たちは飲み会ではなくどこで人々との交流を深めているのでしょうか。
リアルは不要? 話題ごとに異なるコミュニティに次々顔を出す
「とにかく忙しいです。配信見たり、SNS見たり、やることたくさんあるんですよ。飲み会でダラダラ喋ったり、電車で移動してる時間がなんかもったいなく思えるんですよね」(20代・事務)
仕事について、婚活について、趣味について…話題ごとにSNSのアカウントを使い分けて、ネット上で同時にたくさんのコミュニティに顔を出しているのだそう。このアカウントではこの話題、こっちのアカウントではこの話題…と切り分けて、自分の中のさまざまな顔を使い分けていく。そうやってオンライン上での交流を同時多発的に行いながら、配信を見たり、オンラインゲームを見たり、とにかくやることがたくさんあるのだと言います。
「例えば仕事の話にしても、年齢も住んでる場所も全然違う人たちとSNSだと気軽に話せるんですよ。それこそ海外に住んでる人だっている。普通に生活していると出会えないような立場の人と家にいながら議論できるなんてタイパいいですよね」(20代・事務)
コンテンツが飽和している今の時代、コスパならぬタイパが重要視されています。タイムパフォーマンス、つまり時間対効果を考えないと無数の情報を処理できない。コミュニケーションにおいてもタイパが求められているのです。
オフライン派もオンラインの出会いから
でも、コミュニケーションって雑談や無駄話あってこそなのでは?
リアルで会って喋るスタイルのコミュニケーションは求められてないのだろうか?
と思ってしまいそうですが、もちろんそんなことはなく、当然オンラインだけでなく実際に会うのが好きなタイプの子もいるようです。
「自分はリアルで人に会うのも好きですね。でもお酒を飲めるようになった大学時代がコロナ禍だったので、あんまり人とワイワイ飲むっていう価値観ではないのかも。でも今は、ネット上で出会った人と会うこともありますよ。というか、今友達と言える人って全員出会いはネットからかも」(20代・事務)
オンライン上のつながりが先で、そこからオフラインでも会う友人になっていく。SNSで互いの嗜好を理解している分、共通の話題が多く盛り上がりやすいのだそうです。事前に互いの情報を得ているためリアルで会っても気まずくなく、距離をつめるための話のネタを考える必要もなく、親しくなりやすい。オンラインからオフラインに変わっても、コミュニケーションには効率がつきもののようです。
また、特にコロナ禍に学生時代を過ごした世代は、授業も飲み会もバイトも就活の面接も、すべてがオンライン。まずオンラインから始まり、その先にオフラインがあるという価値観になるのも無理のないことなのかもしれません。
コミュニケーションとデジタルツールの進化は今や切っても切れないもの。Z世代はツールの持つ特性を活かしながら、相手の都合を尊重し受け入れる姿勢を持ってコミュニケーションをしています。時間も場所も選ばず、リアルでは会えないような人たちと効率よく交流し、新たな人脈やコミュニティを形成している様子からは、上司世代も学ぶことも多いことでしょう。彼らのコミュニケーション観を完全には理解できなくても、それを極端に軽んじたり逆に媚びたりすることなく、純粋に尊重する姿勢を持って対峙していきたいものですね。
ライター