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2024.05.17 2024/05/16

職人が誇りを取り戻し、移住者は増加
「ものづくりのまち」に起こった小さな産業革命

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職人が誇りを取り戻し、移住者は増加 <br>「ものづくりのまち」に起こった小さな産業革命</br>

めがねの聖地として知られ、国内生産シェアの約9割を誇る福井県鯖江市。繊維産業や漆器産業も盛んで、「職人のまち」「ものづくりのまち」としての顔を持ちます。
そんな鯖江市で「デザイン」による地域のブランディングを支援しているのが、合同会社ツギ(以下、TSUGI)です。デザイン事務所でありながら、「売ることまで考える」をモットーにして流通もサポートしています。
代表を務めるのは、鯖江市の移住者第一号でもある新山直広(にいやま・なおひろ)さん。今に至るまで、どのようにまちづくりに関わってきたのか。その過程や気づきについて伺いました。

移住者第一号として鯖江市に移住
まちづくりの始まりは予期せぬ声から

合同会社ツギ代表 新山直広(にいやま・なおひろ)さん オンラインでお話を伺いました

編集部:新山さんはもともと建築家を目指していたそうですね。

新山直広さん(以下、敬称略。新山):そうなんですよ。大学生のときまでは建築家になろうと思っていました。

編集部:鯖江市に移住したきっかけは?

新山:大学4年のときに鯖江市で開催された「河和田アートキャンプ」に参加したことなどから、地域が縮退していく今後は、コミュニティのような「目に見えないもの」のデザインが大事になるんじゃないかと思いはじめたんです。
それでまちづくりに興味を持って、2009年、同キャンプの運営会社に就職すると同時に鯖江市に移住しました。

編集部:「まちづくりをしたい」という思いとともに移住したわけですね。

新山:はい。ただ「自分が地域を活性化させるんだ」って張り切って移住したら、地元の方々に「ここはものづくりのまちだ。まちづくりの前に売上を上げんといかん」としょっぱなから怒られて(笑)住んでいる人の思いを何も考えていなかったわけですよ。それをきっかけに私の意識も、「地に足をつけてできることを模索していこう」と切り替わりました。

河和田アートキャンプに集まった若者たち

編集部:最初はどのような活動をしましたか?

新山:2009年から2012年までは、就職した会社で、アートキャンプの運営や漆器の産業調査を行いました。調査活動のときにこれからの展望をお聞きすると、返ってくる言葉の多くが、「漆器はおわり」といったものだったんです。3年間調査をする中で、職人さんたちの誇りが失われつつあることを痛感しました。
同時に、都市部の百貨店やセレクトショップに漆器があまり置かれていないことも知りました。漆器はBtoBの要素が強いので、BtoCの流通ルートが確立されていなかったんです。

編集部:それらの経験が今の新山さんの根っこにあるのですね。

新山:そうです。「ここはものづくりのまちだから、ものづくりが元気になることでまちが元気になる」。そう考えたときに、「このまちにはデザインが必要だ!」と思って、流通まで案内できる包括的なデザイナーになることを目指し始めました。上京してデザインについて学ぶことも考えたのですが、当時の市長に「行政こそデザインが大事」と勧めていただき、2012年、鯖江市役所に入庁しました。

「流通まで案内できるデザイン事務所」を目指し法人化
主催のオープンファクトリーは国内最大級

鯖江市市役所時代の新山さん

編集部:TSUGIの設立が2013年。そのきっかけや経緯について教えてください。

新山:市役所職員としてまちのブランディングに関わる中で、倒産情報が次から次へと入ってきて、「自分がデザイナーになる前にまちが衰退してしまう」という危機感が大きくなったんです。
ちょうどその頃、河和田アートキャンプの卒業生を中心に、鯖江市への移住者が増え始めました。みんなで話していて、少しでも早くアクションを起こそうということになり、2013年にサークル団体のような形でTSUGIを設立しました。

編集部:その後はどういった活動を?

新山:最初の2年間は「地域の担い手になるために何ができるか」という視点で、各自の仕事終わりや休日の時間を使って、イベント開催やコミュニティづくりに奔走しましたね。今も拠点にしている漆器店のショールームを自分たちで改装してトークイベントやワークショップをしたり、地域の新聞社とタッグを組んで「食」に関するプロジェクトをしたりしました。

福井新聞社と開催した食イベント

編集部:2015年に法人化に至った経緯を伺えますか?

新山:活動するうちに、思いに共感してくれる若者とのつながりが増えていって、大手メディアが取材にくるような規模になっていたんです。
もともと私が目指していたのは、流通まで案内できるデザイナーになること。それをデザイン事務所として形にできるのではないかと思い、半ば勢いで法人化しました。

編集部:TSUGIのメンバーは移住者が多いですね。

新山:現在のメンバーは19人で、そのうち13人が県外出身者です。意図的に集めているわけではなくて、県外出身の方からの問い合わせが多いんですよ。

編集部:TSUGIの代表的な活動に、オープンファクトリー「RENEW(リニュー)」がありますね。

新山:RENEWは法人化当初から実施していて、今年で10回目の開催です。今や100社ほどが参加する日本最大級のオープンファクトリーに成長しました。
お客様はものづくりを見学・体験して、そこにある思いや背景に直接触れることができる。職人さんにとってもお客様の声をじかに聞くことができるので、日々の原動力になっているようです。

まちに起きた意識の変化
移住者がまちづくりに関わる際に気を付けたいこと

職人さんとの対話から変化が生まれる

編集部:新山さんが鯖江市に来てから今に至るまで、どんなまちの変化を感じますか?

新山:一番は、職人さんの意識がどんどんポジティブになっていることでしょうか。移住してからしばらくの間は、ネガティブな発言を聞くことが多くありましたが、今は「次は何を仕掛けようか」って前向きな発言ばかりです。
以前は、「つくったものを都市部に売りにいく」という流れが主でしたし、ものを売るってそういうものだ、と思われていました。しかし現在は、RENEWを中心に「まちに来てもらって直接購入してもらう」というルートもできたので、意識の変化につながっているのだと思います。

編集部:目に見える変化などありますか?

新山:この10年間で、市内のものづくり企業が35店舗も増えたんです。まちの盛り上がりに比例するように移住者も増加して、今では100名を超えています。「小さな産業革命」が起こった。大げさに聞こえるかもしれませんが、そう言えるような変化だと思っています。

事務所メンバーは大半が移住者

編集部:移住者がまちづくりに関わるにあたって、何が大切だとお考えですか?

新山:まちづくりには、「中の人」「外からきた人」、それぞれの視点を生かした役割分担が重要だと思います。外からの視点は移住者ならではの役割ですが、その際に、「まちづくりがしたい」という気持ちが先行するのは危険だと思っていて……。

編集部:といいますと?

新山:「移住者が勝手にまちづくりをしている」と認識された時点で、両者の間に大きな壁ができてしまうからです。お互いが手を取り合うのが大切で、そのためには地元の人々の思いをくみ取ったうえで、潮流を読みながら活動する必要があります。

編集部:「自分は移住者だから」とあまり肩肘を張らないほうがいいわけですね。

新山:そう思います。まちにベースがあるからこそまちづくりが進むのであって、移住者が上というわけではありませんから。
私のときだって、「まちを活性化させます」って独りよがりな若者を、まちの方々が受け入れてくれた。そんな懐の深さがあったからこそ、今まで活動を続けてくることができたんだと思っています。

官・公とは“同じ人間”として連携し合う
「世界にひとつ」の創造的なまちに

編集部:まちづくりにあたって、「官」や「公」とはどのように連携していますか?

新山:それぞれの得意分野を生かして補完し合っているイメージです。たとえば行政であれば、インフラのような基盤を整えることに強みを持つけれど、企画をつくるのは得意でなかったりします。民間はその逆で、企画を考えることが得意ですよね。
鯖江市は、2010年に「市民主役条例」を施行するなど、行政が市民の活躍を後押しする土壌ができているんです。それもあって、深く関わりながら連携を取っています。

編集部:ご自身の経験から、行政との連携において大切にすべきことはありますか?

新山:変に壁をつくったりへりくだったりする必要はなくて、「人と人」という感覚で接するのがいいんじゃないでしょうか。行政って民間からしたら特殊な世界だし独自のルールも多いけれど、必要以上に意識しなくていいと思います。

編集部:TSUGIとしての展望を伺えますか?

SAVA!STORE福井駅前店。創造的な街の発信拠点

新山:最近、TSUGIのビジョンを再考して「福井を創造的な地域にする」って言葉を掲げました。鯖江市には柔軟な方々がたくさんいて、歴史的にも変化を受け入れる土壌があります。
ものづくりを軸としてまだまだポテンシャルを秘めているので、創意工夫を凝らしながら、地域の方々の「こんなまちにしたい」をみんなでつくっていきたいですね。
個人的には、「こんなまちが世界にひとつあってもいいね」と言われるくらいの、オリジナリティのあるまちを目指したいです。

編集部:最後に、個人的な目標について一言お願いします。

新山:世間的に「まちをつくる=政治家」というイメージがありますよね。私自身も「政界進出ですか?」なんてよく言われます。
けれど、政治家以外のまちづくりへの関わり方ってたくさんあるし、これからの時代、さらに多様化していくと思います。政治家にならずして、いかにまちづくりができるか。それを体現していきたいです。

「鯖江市って面白いかも」「地元もいいじゃん」。そういった思いから、U・Iターン就職する若者がここ2、3年で増加しているそうです。インタビューの中で新山さん自身も、「目をキラキラさせてやってくる若者が暮らしやすいまちにしたい」と仰っていました。
さらなる活性化に向けて、TSUGIはどのようなアクションを起こすのか。そして、鯖江市がこれからどんなまちになっていくのか。楽しみにしつつ応援しています。

プロフィール

新山直広さん

合同会社ツギ代表

ライター

紺野天地

ライター、文筆家

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