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2023.09.28 2023/12/27

日本に「提案」改革を。
プロポーザルマネジメントに学ぶ、「よい提案」とは

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日本に「提案」改革を。<br> プロポーザルマネジメントに学ぶ、「よい提案」とは

「徹夜で仕上げた提案書。自分では良いプレゼンをしたつもりなのに、顧客に評価されず受注機会を逃してしまった」

「理由がよく分からないままコンペで負けてしまった」

ビジネスシーンにおいて、こうした苦い経験をもつ方は少なくないかもしれません。

日本では働き方改革とセットで生産性向上がうたわれて久しいですが、提案活動において労力をかける割に望むようなアウトプットが出せず、苦戦を強いられている現場もあります。

組織において提案活動がうまくいかない背景にはどのような課題があるのでしょうか。

「“プロポーザルマネジメント”を組織の共通言語にして実践できれば、受注の確度が高まります。」こう話すのは、一般社団法人日本プロポーザルマネジメント協会代表理事の式町久美子(しきまち・くみこ)さんです。式町さんは、外資系企業での勤務時代に、社内初の提案専門部署を立ち上げ、提案支援業務を10年以上にわたり主導した「提案のプロ」。

欧米では“組織戦” で行う提案活動がスタンダードだと語る式町さんに、ぜひ取り入れていきたい提案の視点やコツについてうかがいました。

改めて考えたい、「よい提案」とは何か

ビジネスシーンであれ、日々の暮らしのシーンであれ、私たちは他者に対して何かを「提案」をすることでコミュニケーションを図っています。「提案」は文字通り、議題や意見、アイディアなどを伝えることをいいますが、その背景には意図や目的があるはずです。

では、「よい提案」とは何でしょうか。式町さんは「相手の立場に立ち、相手に合わせて伝えること」がビジネスにおけるよい提案の基本だと話します。

相手の課題や悩みごとを把握し、ふさわしい情報や解決策を示すことが大事です。そのためにも、相手が求めることとこちらからの提案内容との間にミスマッチがない状態をつくる必要があります。

式町 久美子さん/オンラインでお話を伺いました

自社なら上司や同僚、社外なら顧客。相手の課題や悩みをまずはきちんと把握し、そのうえで解決のための戦略を考える——言われてみればとても納得感がある言葉。当たり前のことがどれだけしっかりできていないかを感じずにはいられません。

プロポーザルマネジメントとは

「プロポーザルマネジメント」は、よい提案をするために必要な方法論です。「提案価値を最大化するマネジメント手法」と書くと少し難しく感じられるかもしれませんが、受注を勝ち取るために必要な手法だと捉えていただくといいでしょう。

もともとはアメリカの官公庁向けの入札ノウハウを発祥としていて、企業が提案活動を通して受注を勝ち取るためのノウハウがまとめられています。世界基準の知識体系をもとに「提案プロセス」が定義されているので、プロポーザルマネジメントを導入することで、個人はもちろん、組織の提案力を高めることができます。

企業がプロポーザルマネジメントを導入することで、顧客のニーズを正しく理解し、顧客とともに提案を組み立てる力、ニーズを可視化し自社の差別化要素を言語化する力、複数の組織にまたがる提案関係者へ適切にフィードバックする力、社内外のリソースを集結させ、効率的に一貫性のある提案書を作成する力など、提案活動に求められる総合力を組織的に強化することができます。

式町さんによると、

  • 顧客のニーズを的確につかめない
  • 自社のソリューションやサービスを他社と差別化できない
  • 顧客に自社の価値が正しく伝わらない

といった課題を有する組織に、プロポーザルマネジメントは有益とのこと。

実際に導入した企業は、「前年度重要案件を失注したが、研修を通じて翌年度は全部奪還できた」、「限られた取引で徐々に売り上げが減っていたが、徹底したことで利益率が大幅に向上し社内表彰を受けた」といった成果を残しています。

「よい提案」の背景にある日本人の誤解

冒頭で、よい提案について、「相手の立場に立ち、相手に合わせて伝えること」と書きましたが、それを実際に提案書や企画書、プレゼンで形にしようとしたとき、私たちは見栄えのいい資料を作ることや、流ちょうに話すといったことに意識を向けがちです。式町さんは、プロポーザルマネジメントの観点から、それだけでは不十分だと話します。

そもそも見栄えのいい資料や分かりやすい説明はアウトプットの話ですが、最も大事なのはそのアウトプットを出すための「インプットの正確性」です。提案を受けた顧客が評価できるアウトプットを出すためには、なぜその提案が顧客にとって必要なのかが明確に言語化されている必要があります。顧客ニーズを正しく把握できるようにマネジメントする、インプットの正確性が最も重要になります。

そもそも、提案書の作成やプレゼンは個人のスキルに左右されるものなので、個人の裁量に偏りすぎてしまうとアウトプット至上主義からは脱却できません。

提案書作りもプレゼンも、個人のスキルの一部ですから、提案活動がどれだけ個人に依存しているか分かりますね。実際の提案活動は営業がひとりで完結できるものではありません。顧客の課題を把握し、それに対してよりよい解決策を提案するためには、社内のさまざまな部署の協力を得ることが必要になります。

社内外の利害関係者のマネジメントや調整という視点が大切になりそうです。

脱・個人のスキル依存
目指すは組織での“常勝”

日本経済団体連合会の「2017 年労働時間等実態調査 集計結果」によると、長時間労働につながりやすい職場慣行として1位に「業務の属人化」が挙げられています。(※)

日本ではしばしば、「社内で手分けして作っている提案書の体裁がバラバラ」、「資料作りが属人化していて成果物や提案資料の品質がまちまちで非効率」といった声を聞きます。

また、こうした資料づくり以外にも、顧客分析や競合分析、戦略策定などが自己流であるために本質的な顧客のニーズをつかめず失注することも。

式町さんは日本とアメリカの提案活動の違いについて「ジョブ化されているか、できる人が属人的にやるかの違い」や、「提案プロセス標準が会社全体のしくみになっているかどうかの違い」があると話します。

 

「徹夜で仕上げた提案書」のエピソードもそうですが、そもそもなぜ、そういう状態になっているのか。裁量という名のもと個人に業務が委ねられすぎてしまうと、非効率ですし、基準がないため「できたつもり」になってしまいます。

また顧客ニーズを自分都合で考えてしまったり、競合優位性を自分に都合よく解釈してしまうなど、そもそもの認識を誤るとアウトプットも誤ってしまいます。

誤った思い込みのままプレゼンまで進んでしまい受注ができない……。残念ながら日本企業ではこうした状態が常態化しています。

しくみ化されている組織は、提案チームが誤った認識のまま進まないよう客観視し、軌道修正することができるため、注がれた労力が正しいアウトプットに生かされています。

提案活動における労力の無駄を省き、顧客の顕在・潜在ニーズに刺さる提案を効率よく生み出す。式町さんによると、このように戦略的に動いていくことで、顧客に選ばれる“常勝”の組織、生産性の高い組織に生まれ変わることができるそうです。

※参考 日本経済団体連合会「2017年労働時間等実態調査 集計結果

「よい提案」に向けて、今日から意識したいこと

組織戦で勝ちに行く——属人化を招き、提案活動が停滞している企業にはこのマインドセットが必要になるということが分かりました。

一方で、とはいえ、実際には急に組織をそう整えることができない、と感じる方もおられるはずです。プロポーザルマネジメントの考え方を少しずつ取り入れ、私たちが個人で明日からできることとして何かヒントはないものか……。再び「よい提案」について、式町さんに伺いました。

相手目線で考えを伝えるためには、まず何から取り組めばよいでしょうか? 

相手の状況や課題、ビジネスの理解から始めます。たとえば、顧客に自社サービスの紹介をする際、顧客が置かれている業界の状況や顧客が抱えている課題、求める解決策を把握していないと、的外れな話をしてしまいます。

相手が上司にしろ、顧客にしろ、「何に悩んでいますか?」と質問をしても、本音を返してくれるかは分かりません。普段からの業界研究のほか、相手の役職や仕事の役割、普段のやりとりでの発言などを通じて推測してみるといいでしょう。 ただ、観察をせずに「きっとこうだろう」と思い込んだまま進めるのはNGです。自社が大手企業というだけで、他社よりも提案内容も優位に立っていると勘違いをするケースがありますが、それも勝手な思い込みです。

いざ提案する際、伝え方の具体的なコツはあるのでしょうか。

相手がメリットだと感じる情報、つまり相手が受け取ることができる「ベネフィット」を先に伝えることです。上司に新企画を話す場合は「企画を進めると自社やチームにどんな良いことがあるのか」を、顧客へ自社製品を売り込む場合は「この製品が顧客の課題をどう解消するのか」を伝える、といった感じです。

根拠も合わせて伝えます。「コストをこれくらい下げられる」と言うと、相手は「本当にそうなのかな?」と疑問を抱きます。そこで、コスト削減が可能であることを裏付ける情報や、第三者からの評価といった客観的なデータを示し、相手の不安を解消するよう努めます。こうすることで、安心感を抱きつつ聞いてもらえます。

まとめ

提案やプレゼンと聞くと、「相手を動かそう」と考えがちです。ただ、冷静に考えれば、相手の立場や希望を考慮することもなく一方的に何かを伝えようとしても、うまくいかないのは当然です。

プロポーザルマネジメントの発祥は日本ではなく、これまであまりなじみがなかった方も多いと思います。ただ、「相手の困りごとを解消するために自分には何ができるか」という考え方は、世界のどこにいても、どんな仕事に就いていても大切なことだと感じました。

プロポーザルマネジメントについて詳しく知りたい、という方は、ぜひ、式町さんが代表を務める一般社団法人日本プロポーザルマネジメント協会の公式サイトを見てみてください。同協会が実施する講座の受講者は男性が多いですが、グローバル視点でこの分野を見ると女性の方が多いそうです。多角的な視点を持ち、ライフイベントも含めたさまざまな経験やキャリアを持つ女性にもぜひ学んでいただけたらと思います。

 

式町 久美子さん
日本ヒューレット・パッカードにて、法人営業の提案支援チームを立ち上げ提案活動の生産性向上に従事。提案活動全般をマネジメントし組織提案力を高める「プロポーザルマネジメント」を体系化する国際的組織 APMP(Association of Proposal Management Professionals) が認定する最上位資格を、日本人で初めて取得。日本での普及を目的とした一般社団法人日本プロポーザルマネジメント協会を設立。組織提案力強化を通じ、人や組織の発展を目指した活動に取り組んでいる。 

HP:一般社団法人日本プロポーザルマネジメント協会

ライター

小山佐知子

ラシク編集部  旧編集長

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