ここ数年でよく耳にするようになった「こども食堂」。子どもたちに対して無料または低額で栄養のある食事を提供する取り組みですが、皆さんはどのような印象を持っていますか?
最近では「貧困家庭や孤食の子どもに食事を届ける」というところから転じ、利用者を「図々しい」と捉える風潮が広がることで、本当に支援を必要としている人の利用がはばかられている現状があるようです。
こども食堂は本来、老若問わず孤食になるのを避けたり、地域交流を活発化させる目的もあります。しかし、主体が地域住民のボランティアということもあり、居場所を求める利用者のタイミングや必要な頻度で、必ずしも開催されているわけではありません。
こうした現状や課題を解決するべく誕生したのが、「こどもごちめし」という新たな取り組みです。地域の飲食店をこども食堂として利用する、こども食堂のデジタルトランスフォーメーション(DX)といえるかもしれません。
仕掛け人は、音楽プロデューサーの今井了介さん。本職である音楽とは別に、こども食堂事業を運営しようと思った理由とは――今井さんの話を交えて「こどもごちめし」をご紹介します。
地域の飲食店を起点に子どもの居場所をつくる、新しいこども食堂
「こどもごちめし」のしくみ
「こどもごちめし」の特徴は運営者プラットフォームを通じて、支援者、子ども、飲食店がつながり、それぞれがメリットを得られる“三方よし”のしくみにあります。
子どもたちへ提供される食事の財源は、個人や企業、自治体(ふるさと納税などを含む)からの寄付金です。子どもたち(保護者)にはスマートフォンやカードで会員証が発行され、それを登録飲食店で見せると1,000円までの飲食代が無料になります(大人も同席・注文できますが、実費)。飲食代は運営法人より飲食店に支払われます(飲食店に手数料はかかりません)。
「こどもごちめし」の特徴は、地域の飲食店をこども食堂として利用することで、既存のこども食堂が直面する人手や資金、場所、開催頻度、持続可能性といった課題をクリアにします。食事の提供者は営業許可を得ている店舗ということもあり、衛生面でも安心なことも魅力的なポイントです。
運営元はNPO法人 Kids Future Passport
「こどもごちめし」はNPO法人 Kids Future Passport(キッズ・フューチャー・パスポート)が運営しています。今井さんが代表を務めるGigi株式会社が運営する「ごちめし」というサービスがもとになり、福岡での実証実験を経て、2023年7月にNPO法人化されました。
Gigi株式会社は、オンラインで“食”を贈り合うことができるプラットフォーム「GOCHIプラットフォーム」を運営しています。個人から個人へ感謝として食事を贈る「ごちめし」、コロナ禍に飲食店を先払いで応援する「さきめし」、社員の福利厚生として飲食店を利用する「びずめし」といったサービスのラインナップがあります。
仕掛け人は現役の音楽プロデューサー、今井了介さん
畑違いの領域で“食”のプラットフォームをつくったわけ
NPO法人 Kids Future Passporの代表理事は音楽プロデューサーの今井了介さんです。一見畑違いの領域へ氏を向かわせたのは2011年の震災でした。もともと新しいガジェットやWebサービスにはアンテナを立てていたそうですが、震災当日に感じたWeb(ネット)の可能性と、音楽といった娯楽に対する無力感から、“食”に関する何かをWebを使ってできればと思い至ったといいます。
忘れもしない、2011年3月11日2時46分(地震発生時間)に246(国道)にいたんです。近くにあった世田谷公園に避難し、たまたま持っていたワンセグ接続したiPadでニュースを見ていたら「ちょっと見せてもらっていいですか?」と人が集まってきて。非常時でのITの力を感じました。その後被災地に向け寄付や支援なども行いましたが、衣食住に対して音楽といった娯楽は数ヵ月触れなくても生死に関わるわけではなく、より直接的な支援として”食”のプラットフォームを思いついたんです。
モヤモヤ期を経て巡ってきた奇跡の出会い
食に関わるプラットフォームを”と思い立ったものの、音楽業でビッグプロジェクトが続くなど多忙を極めた今井さん。何かしたいとアンテナは張り続け、いくつかアイデアが湧いても、すでに類似のサービスがあるなど実現には至らなかったといいます。
モヤモヤと震災から6年が経ったある日、目に留まった記事で北海道帯広市にある「結」というお店が「ゴチメシ」なるサービスを行っていることを知ったんです。直感的に「これだ!」と思い、経営者の本間さんに会うため、帯広に飛んで行ったことから一気に動き出しました。「ゴチメシ」は食事をした人が余分に払ったお金で、他の人が無料で食事できるというもの。そのしくみをWebで展開することの了承を得て、2019年に「ごちめし」サービスをローンチしました。
イタリアのナポリに「サスペンデッドコーヒー」といって、次の人のコーヒー代を払っていく助け合いの風習があるんですが、それに影響を受けたらしいんです。でも、400円の食事を支援するのに帯広まで行くと4万円くらいかかってしまう。現実的じゃないですよね。これをWeb上のサービスとして行えば、より多くの人に届けられると確信しました。
人から人へ“恩”を送る、人とお店と地域にやさしいビジネスモデル
根底にあるのは「Your Happiness is My Happiness」
今井さんが自らの会社Gigi株式会社で最初に立ち上げた「ごちめし」は、個から個へ感謝を伝えるサービス。その後、個人がお店を応援する「さきめし」、企業の社員に対する福利厚生としての「びずめし」とサービス形態を広げてこられました。
全てのサービスの根底にあるのは会社の社是である「Your Happiness is My Happiness」なんです。音楽家というのはその音楽で人が喜んでくれるか否かが重要で、誰かの幸せをより多く提供できたときに、その人たちの気持ちが大きな塊となって経済活動へとつながっていきます。それと同様、誰かの幸せが自分の幸せになると思って活動しています。
未来への「恩送り」
「こどもごちめし」サービスは、「ごちめし」を立ち上げた2019年当初から想定されていたといいます。
創業メンバーの一人に地方自治体とのつながりが深く、貧困問題を間近で見た経験のある者がいたのと、私自身が子どもを持った際に「未来」を育てる・支援することの重要性を感じていましたので、子どもを対象にしたサービスは進めたいと思っていました。
イタリアのサスペンデッドコーヒー、帯広の「ゴチメシ」はともに、「恩送り」(Pay it forward)の精神です。「こどもごちめし」にも「Your Happiness is My Happiness」の精神に加え、未来へ「恩送り」していく助け合いの精神が根底にあります。
飲食店とともに地域を盛り上げ、地域の子どもたちの未来を応援したい、という自治体や企業の皆さまにご支援いただけると嬉しいです。
「こどもごちめし」の利用と支援方法
誰がどうやって使えるの?
最後に、「こどもごちめし」の具体的な活用についてご紹介します。
<利用対象>
中学生までの児童・生徒
<利用手順>
- こどもごちめしWEBサイトから“GOCHIアカウント”に登録(審査あり)
- スマホで提示する電子会員証、もしくは紙での会員証が発行
- 利用店舗・メニュー・利用者の選択
- 店舗に提示
- 使用後にコメントを投稿
食事代は1回1,000円、頻度は週3回まで(生活保護対象家庭は毎日)利用できます。
支援するには?
支援はこどもごちめしのサイトから簡単に行うことができます。
<手順>
- 支援先を選ぶ:全国だけでなく都道府県、自治体・活動から選択可能
- 支払い額を決める
- 支援回数(1回、毎月)を選ぶ
- 支払い方法を選ぶ(Webを利用したくない人のために銀行振込も選択可能)
この4ステップ。
任意でメッセージを添えることもできます。
利用時、支援時ともにGOCHIアカウントを作ることでマイページ管理ができます(支援は登録しなくても可能)。
まとめ
2018年の時点で7人に1人が相対的貧困状態であるとの統計が出ていましたが、コロナ禍を経た現在ではますます進んでいることが予測されます。つらい時期をじっと耐えている大人の傍らで子どもたちも飢えています。少しでも余裕のある人ができること「Pay it forward」。スマートフォンからその一歩は踏み出せるのです。
【参考】
こどもごちめし
NPO法人 Kids Future Passport(キッズ・フューチャー・パスポート)
ごちめし
さきめし
びずめし
企画・編集/小山 佐知子
ライター