アンラーニングにリスキリング
変化の激しい時代に「学び」が求められるわけ
昨今では、働き方や生き方など、あらゆる観点において変化が激しい時代となっています。従来の習慣や価値観が、早いピッチで上書きされていき、次々と新しい「当たり前」が誕生しています。
皆さんも、職場やプライベートで「これまでの常識が通用しなくなったな」と実感するシーンに遭遇したことが一度はあるのではないでしょうか? そしてそれは40〜50代だけでなく、20〜30代だとしても当てはまることでしょう。
そこで近年注目されているのが「アンラーニング」や「リスキリング」です。
似たような意味を持つように思われる2つの手法には、どのような違いがあるのでしょうか?また、なぜ今アンラーニングやリスキリングが注目されているのでしょうか?
この記事では、個人がアンラーニングとリスキリングをどう捉え実践していくか、取り組む際に意識したいことについてもふれていきます。
アンラーニングとは?
リスキリングとどう違うのか
アンラーニングとリスキリング。同じ文脈で使われることの多い2つの手法には、どのような違いがあるのでしょうか?
まずは、両者の違いを整理していきましょう。
アンラーニング(Unlearning)とは「学習棄却」を意味する言葉です。つまり、これまで学んできた知識や習慣、価値基準を取捨選択し直し、新しく学び直すことを指します。(※1)
一見すると「棄却」という言葉から、過去の学習で得てきたものを完全に捨て去ることと捉えられるかもしれません。しかしアンラーニングは、単に捨て去ることを指すのでなく、不適切になった既存のものを取捨選択し直すことによって、アップデートするプロセス全般を表します。
このように、既存の知識や経験によって思考や行動が凝り固まらないようにする意味合いから、アンラーニングは「学びほぐし」と呼ばれることもあります。
一方でリスキリング(Re-skilling)とは「スキルの再習得」を意味する言葉です。
また経済産業省の説明によると、リスキリングを以下のように表現しています。
新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること
つまり、アンラーニングは「過去に得た知識や価値観を振り返り、取捨選択すること」を意味するのに対し、リスキリングは「新たなスキルの獲得」に焦点を置いています。
アンラーニングとリスキリングは、決して矛盾するものではありません。これまでに習得したものをアンラーニングによって取捨選択し直すプロセスは、新たなスキルを習得する土台になると考えられるからです。
(※1)参考:Schoo for Business「アンラーニングとは?意味やリスキリングとの違い、メリットを解説
(※2)引用:経済産業省「リスキリングとは ーDX時代の人材戦略と世界の潮流ー」
「VUCAの時代」に「人生100年時代」
学び直しが注目されている時代背景
では、なぜいまアンラーニングやリスキリングが注目されているのでしょうか? その背景について探っていきます。
大きな要因として、現代が「VUCAの時代」であることが挙げられます。
VUCAとは、Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語です。つまりVUCAの時代とは「先行きが不透明で、未来の予測が困難な状態にある時代」を意味します。
近年、働き方や生き方の多様化が大きく進んでいます。コロナ禍をひとつのきっかけに、オンラインツールを活用した業務が急速に広がり、リモートワークや兼業・副業、雇用関係によらない働き方(フリーランス等)が普及しました。また、とどまることのないICTの発展により、ビジネス環境はめまぐるしいスピードで進んでいます。
このような変化の激しい時代においては、習得したスキルがたったの数年で時代遅れになってしまうことが往々にしてあるため、既存の思考や行動を点検し直し、新たなスキルを習得する重要性が高まっているといえるでしょう。
実際に、近年各業界で急速に進んだデジタル変革(DX化)は、アンラーニングやリスキリングの必要性を認識せざるを得なかった例であったと考えられます。
さらには、現代が「人生100年時代」であることも、学び直しが必要な理由として挙げられるでしょう。
厚生労働省によると、令和4年における男性の平均寿命(0歳の平均余命のこと)は81.05年、女性の平均寿命は87.09年でした。(※3)仮に現在30歳の人であれば、人生は折り返しにも至っておらず、50年以上の時間が残されていることに。
今後も平均寿命は伸びることが予想され、人生100年時代となっていくことから、現在の20〜30代は60〜65歳で定年退職することは難しいのではとされています。国の人口減少により、数十年後の年金受給額は老後の生活を送るうえで十分ではないと予想されるからです。
このように私たちは、60歳以降もなんらかの形で経済活動に関わり、年金以外の方法で収入を得ていく必要性があるといえるでしょう。だからこそ、さまざまなスキルを習得したり人脈を築いたりすることで、仕事を継続できる状態を維持していく重要性が高まっています。
こうした背景からも、アンラーニングやリスキリングの意義が注目されているのです。
(※3)参考:厚生労働省「令和4年簡易生命表の概況」主な年齢の平均余命
アンラーニングやリスキリングを実践するときに意識したいこと
ここからは、個人がアンラーニングやリスキリングを実践するときに意識したいことを整理していきます。
企業組織の中にいてはもちろんのこと、個々人としても学び直しが求められる時代に、どんなことを念頭に置いて実践すればいいのでしょうか。
「学び直し」と聞くと、新たなスキルをどんどん習得していく意味として認識してしまうかもしれません。しかし、前述したように既存の知識やスキル、価値基準を見直すプロセスがベースあって、新しい知見に目を向けることができるもの。リスキリングの効果を最大化するためにも、新しい視座のスペースを用意しておくことは肝要です。
つまり、アンラーニングとリスキリングは、両輪で相互に作用しあう関係性のもので、このサイクルを繰り返すことで絶えずスキルを最適化していく、という認識でいるとよいでしょう。
ただ、アンラーニングにあたっては、少なからずストレスを伴うこともあるかもしれません。これまで習得してきたスキルや信じてきた価値観を見直し、場合によってはそれらを完全に捨て去ることになるためです。一定の忍耐力が必要になると考えられるものの、これまで習得してきたものを見直して取捨選択するプロセス自体に、好奇心を持って前向きに取り組めたらベストでしょう。
また、リスキリングの段階においては「何を学ぶのか」だけではなく、「なぜ学ぶのか」を明確にする必要があります。新たなスキルの獲得には時間や労力がかかるため、目的をしっかり定めたうえで取り組まないと、リソースの浪費となってしまう可能性があるからです。
特に、以下の分野におけるリスキリングは、社会全体で推進されつつあります。
<リスキリングの対象例>
- ITスキル
- デジタルマーケティングスキル
- 業務効率化スキル
- 英語スキル
- コミュニケーションスキル
インターネット全般のスキルにはじまり、デジタル化に伴う業務効率化のスキル、グローバル化に合わせた英語スキルの構築、そしていつの時代も普遍的に必要とされるコミュニケーションスキルなど。
再習得対象のスキルは多岐に渡りますが、時代の変化と自身のキャリアプランを踏まえ、どんなスキルを新たに習得するかを見極めることが重要です。
予測できない未来に向けて、学び続ける姿勢を持つ
アンラーニングとリスキリングの違いを踏まえて、変化の激しい時代における「学びほぐし」と「学び直し」の重要性について述べてきました。
VUCAの時代や人生100年時代。私たちの未来には、予測不能な時代が待ち構えています。今年から、経済産業省による「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」が始まったことからも分かるように時代が変わるからこそ、私たち自身も思考や行動が凝り固まらないように、アップデートしていく必要があるといえるでしょう。
従来の常識を見直し、場合によっては捨て去ることは容易ではありません。それでも、既存の知識やスキルがあっという間に旧来化してしまう可能性が十分にある時代。いつもスキルや知識を最適化することにアンテナを立て、アンラーニングとリスキリングのサイクルを繰り返すこと、それすらも無意識で臨むことができるようになることが目指す地平かもしれません。しなやかに変化しながら、学び続ける姿勢を持ち続けたいものです。
ライター