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2023.12.05 2024/02/14

キャリアの分断がない働き方を支援
ライフイベントの波を乗りこなす組織づくりとは?

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キャリアの分断がない働き方を支援<br>ライフイベントの波を乗りこなす組織づくりとは?

リモートワークの浸透により、「時間」と「場所」に縛られず働く人が増えた一方で、あらゆる属性の人々が業務効率を維持しながら、健やかに働き続けられる環境を整えることは、企業にとって取り組むべき課題のひとつとなっています。

今回お話をうかがった株式会社ワカルク(以下、ワカルク)は、「誰もが選択肢を持って働き続けられる社会」をテーマに、オンラインのオフィスワーク代行サービスを展開する企業です。制限があっても働きたい女性たちのスキルを生かし、事業を推進したい企業のサポート業務を行っています。

「社員の8割が子育て中の女性」であるワカルクでは、社員すべてがフルリモートで、日本全国さまざまな地域からプロジェクトに参画。管理者から作業者まで、ほぼ全員が仕事と子育ての両立を図るメンバーで構成される中、いかにして円滑に業務を遂行しているのでしょうか? 

同社代表取締役CEOの石川沙絵子(いしかわ・さえこ)さんに、社員がそれぞれのライフイベントに直面しても、効率的かつ健やかに働き続けられるための環境づくりや制度づくりについて、お話をうかがいました。

目指すは「キャリアをゼロリセットしない社会」

株式会社ワカルク代表取締役CEO 石川沙絵子さん

編集部「忙しい経営者」と「働き方に制限がある女性」の課題を解決する御社の事業において、特に結婚、出産、子育て、キャリアチェンジといったライフイベントと向き合っている女性たちにフォーカスした取り組みが印象的です。創業にはどんな背景があったのでしょうか?

石川沙絵子さん(以下、敬称略。石川)私自身も現在3児の母として子育てをしている身ですが、前職のベンチャー企業では、責任をもってプロジェクトにコミットする代わりに、時間や場所に縛られず働き方を自由に調整できました。そのおかげでキャリアを分断されず、出産・育児と仕事を両立できたことは非常に良い経験となりました。ところが、周りを見渡すとパートナーの転勤などで、働きたくてもキャリアを断念してしまう女性たちが多くいたんです。彼女たちを見て、働けないから働かないという、ゼロかイチかの選択ではなく、0.1でも働き続けられるような環境をつくりたいと思ったのが、創業のきっかけです。

編集部そこからオフィス代行サービスを立ち上げたのはどんな理由からでしょうか?

石川当初は、自身の採用コンサルタントの経験を生かし、採用代行サービスを考えたこともありました。そうなると人事経験者など、どうしても間口が狭まってしまいます。そのため、たくさんの人がワカルクというプラットフォームに参画できるように対象領域を広げて、バックオフィス業務全般のサポート業務から始めた経緯があります。現在は、加えてセールス部門やマーケティング部門など、売上貢献につながるフロントオフィス業務も担当しています。

編集部数あるオフィス代行サービスの中でも、御社ならではの強みはどんな点ですか? 

石川ワカルクの最大のバリューは、「お客様のお悩みを聞きながら、一緒に実行までのプロセスを創り上げる」ことです。切り出されたタスクを実行するのではなく、業務フローをともに構築しながら、ゴールまでのプロセスに寄り添い伴走する点が最大の強みですね。そのため、業務構築も含めてまるっとお任せしたいという少数精鋭のコンサルティング会社など、スタートアップ企業がクライアントとして多い傾向にあります。

組織づくりで大切にしたい「スモールチャレンジ」

ZOOM入社式では、おそろいのウエルカム背景でお出迎え

編集部さまざまな条件下で働く社員を抱える中で、御社が大切にしている組織づくりの考え方について教えてください。

石川まず前提としているのは、働く時間や人生のステージによって、その人の能力が落ちるわけではないということです。そのときの状況によって、キャリアのアクセルを緩めているだけであって、チャレンジしないという選択はもったいないことだと思っています。

つまり子育て中だから、時短で働いているからといって、その業務を「任せない」とか「やらない」というのは理由にはならないと思っていて。だからこそ、わずかでも成長のチャンスを手に入れたい人に対して、チャレンジの機会を与えること。それが組織づくりで大切にしていることです。

編集部特に時短で働いていると、任せられる業務も限られがちで、未経験な領域にもチャレンジしにくい現実がありますよね。

石川チャレンジの機会がないと、できることが増えていかないんですよね。そういった環境はなかなか与えられないので、ないならつくろうと思い、私自身がこの新しいチャレンジに取り組んでいるところです。

編集部実際に未経験の分野にチャレンジしたメンバーの成功事例を教えてください。

石川たとえばこれまでマーケティング分野の経験がない方に、不動産会社のSNS運用業務を担当してもらったとき、能力を一気に開花させたことがありました。聞けばインテリアが好きで、SNSは見る専門だったのが仕事となったことで「好き」と「得意」が結びついたようです。

あとは、これまで対面で接客業をされていたような方は、オンラインのサポート業務においてもきめ細かな配慮ができ、職種は変わってもこれまでの経験が生きるパターンが多いですね。

編集部未経験領域へのチャレンジは一般的に難しいといわれる中で、御社で実現できているのには、どんな背景があるからなのでしょうか?

石川やったことのない業務へのチャレンジの機会が与えられないのは、業務をスモール単位では渡しにくいという事情があるからなんです。規模が大きく、長期間のプロジェクトになると、役割が固定化されてしまい、スモール単位での切り出しができなくなります。その点、弊社では短期間という単位でプロジェクトを受けている分、業務を深く掘るよりも幅広くこなすことが求められます。その分、業務の切り出しがしやすいことから、スモールチャレンジの機会を用意しやすい環境にあるのだと思います。

定期的な面談と業務の可視化で「声に出しづらい人の声を拾う」

年に1度のオフサイトミーティング「ワカルク感謝祭」

編集部完全フルリモート環境下で、かつ働く時間に制限があるメンバーで構成される御社では、円滑にコミュニケーションを図ったり、業務を遂行したりするために、どのような取り組みを実践されているのでしょうか?

石川テキストコミュニケーションが中心の働き方なので、一般的な傾向として、どうしても声に出せる人の声だけを拾いがちになってしまうんですよね。でも、声に出さなければないものとしてみなされてしまうので、モヤモヤを抱えた人の声にもちゃんと耳を傾けられるように努めています。

弊社では全社ミーティングを週1回行っているのですが、毎回2名ほどのメンバーに、弊社が掲げるフィロソフィーに対する成功事例や、振り返りポイントをみんなの前で共有してもらっています。

編集部スタッフ間で、気持ちの共有や経験をシェアできる環境づくりをされているのですね。

石川はい、弊社のスタンスのひとつに「自分の心の声を大切にします」とありますが、社員に対しては、自分の変化をちゃんと声に出してください、と入社時から伝え続けています。

あと、円滑な業務遂行のために、弊社では5分単位で「誰が、どのクライアントの、どんな業務を担当したか」をすべて稼働表につけているんです。それを見ると、誰かがオーバーワークになっていないか、どのプロジェクトが忙しいかが一目瞭然なので、気になる点があればプロジェクトマネージャーに声をかけ、調整をかけるなどしています。

編集部メンバー同士のサポート体制についてはいかがですか? 特にブランクから復帰したばかりの場合、業務に慣れるのに時間がかかり、サポートする側もサポートされる側も大変さが積み上がりがちですが。

石川結局は「頼り頼られ」だと思うんです。入社したてのころは、業務がおぼつかない分ミスをして、周りに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになることもあります。だけど、入ったばかりのころはみんな同じだから、自分ができるようになったら今度は次の人を支えてあげればいいと思うんです。与えてもらったものを与えてくれた人に同じ時間軸で返すという構造ではなく、時間と対象は必ずずれるものなんです。だから「今はちゃんと受け取るべきときなんだよ」と、メンバーには伝え、支え合いの大切さを定期的に発信するようにしています。

「時間」と「場所」の制限を解決し、働く女性たちの裾野を広げたい

今回オンラインで取材しました

編集部これまでの業務を通してうれしかった成果やエピソードがあれば、ぜひ教えてください。

石川お客様の組織図の中にワカルクを入れてくださったことですね。組織の一部として、その部分を任せてもらっている自信と信頼が芽生えますし、やはり組織の一員として見ていただけるのはすごくうれしいです。

編集部多様な働き方を求める人が増える中で、御社の存在は新たなキャリアの築き方を提示してくれるようです。今年で創業3周年を迎え、今後はどのような展開をお考えですか?

石川今は新しいメンバーが定期的に入社し、人数も増えてきているので、組織の土台づくりをもっと強化していきたいですね。みんなが迷わず、気持ちよく業務を進められるようなしくみづくりに今は注力したいと思っています。

もう少し長期的な視点で言うと、リモートワークという働き方がまだ浸透していない地方においても、ワカルクの取り組みを広げていけたらと思っています。先日とある地方を訪れた際、リモートワークの存在自体が知られていないことを実感したんですね。どういうものなのかよく分からないし、自分にできるのかさえも分からないから、働くことに対してゼロかイチかの選択しかできず、結果として「働かない」という選択をしている方たちが結構いらっしゃるようでした。

今年度、「ライフワークバランス」「テレワーク」の文脈でいくつかアワードも受賞させていただきました。私たちの取り組みを知ってもらうことで、まずは働くことを当たり前に選べる環境をつくっていきたいというのが一点。さらにもう一歩進んだところで、彼女たちのキャリアに対するチャレンジの回数を増やしたり、自分の市場価値を高められたりするチャンスを提供していきたいと思っています。

ライフイベントによって、働く時間が限られたり、キャリアのアクセルを緩めざるを得なかったりすることは、そのときたまたま引き受けなければいけない事情にすぎず、その人に「能力がない」とか、「だからできない」ということとイコールでつながっていくわけではないという、当たり前のことに気づかされた今回の取材。「長時間労働できる」から安心して仕事を任せられるのではなく、働き方に事情があったとしても、個人の能力を生かし、業務効率を高められるような環境づくりこそが必要なのです。そのためには上から声をかけ、下からは声を上げ、より人間らしい支え合いが求められるように感じました。つまりオンラインで生産性を求める一方で、多少非効率であっても血の通ったやりとりが、業務の効率性を支えるのかもしれません。

プロフィール

石川沙絵子さん

株式会社ワカルク 代表取締役CEO

明治大学法学部卒業後、株式会社クイックに入社。求人広告の法人営業、及び営業企画業務に従事。その後、採用コンサルティングのベンチャーに転職、人材面から幅広く経営支援を行う。
2020年株式会社ワカルクを設立。スタートアップから上場企業まで、全国のクライアントを対象に、経理・労務などの守りの業務だけでなく、営業やマーケティングなどの攻めの業務、プロジェクトマネジメントまで幅広くサポート。1男2女の母。

ライター

倉沢れい

ライター

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