実は多い、二人目不妊。「いつかは欲しいな……」と漠然と思っている夫婦へ、産婦人科からのアドバイス
一人目の子どもは自然妊娠で授かり、「そろそろ二人目も欲しいいなあ」と思ってみたものの、なかなか妊娠しない…… もしかして二人目不妊? といった声をよく耳にします。一人目の育児で疲れてセックスレスだったり、2人暮らしだったころよりも回数自体が減っていたり、さまざまな要因があると思います。とはいえ、なかなか「不妊治療」までは踏み込めず、生理が来るたびに一人でモヤモヤ。そうこうしているうちに、どんどん妊孕力(妊娠する力)は下がってしまう…… こうした、二人目が思うようにできない時、まずどうすれば良いのでしょうか。ご自身も不妊治療の経験がある、愛育クリニック産婦人科 副部長の鶴賀香弥先生にお話を伺いました。
前回、鶴賀先生を取材した「月経困難症」についての記事はこちら
一人目はすんなりできたけど……
二人目不妊って何が原因?
編集部:一人目が自然妊娠でスムーズにできたのに、二人目がなかなか…… というお悩みが多いのですが、そもそも、二人目不妊はどうして起こるのでしょう?
鶴賀香弥先生(以下、敬称略。鶴賀):不妊症の分類は男性不妊、女性不妊をはじめ、いろいろありますが、原発不妊、続発不妊という分け方もあります。原発不妊は、通常の性生活がありながら、一度も妊娠したことがない場合。続発不妊は過去に1回でも妊娠・分娩したことのある女性が、その後、妊娠しない場合です。二人目不妊という言い方は続発不妊の範疇になります。
要因としてまず1番に考えられるのがやはり年齢です。男性の精子の状態も、女性の卵子の質も、加齢の影響を受けます。他には、子宮内膜症・子宮筋腫といった不妊症の原因となる女性の病気も年齢と共に進行している可能性があります。また、原因不明の卵管狭窄や卵管周囲の癒着(流産や出産などの影響や感染などでも起こりうる)、卒乳しても乳汁分泌ホルモンであるプロラクチンが高値にとどまってホルモン環境が整っていない(高プロラクチン血症)、妊娠を継続させる最も大切な黄体ホルモンが十分に分泌されない黄体機能不全(基礎体温で高温期が10日間未満をしめす)などが原因となっていることがよくあります。
編集部:なるほど。一度、妊娠・出産しているからといって、年齢を重ねているという時点で、安心していてはいけないのですね。
鶴賀:「自然妊娠を望むのであれば30歳台前半までに、できるだけ早く」、というのが一つの指標です。その後は何らかの不妊治療が必要になるかもしれない、ということは考えておいた方がいいでしょう。最近は、一人目の出産自体が30歳を超える方が多いので、二人目不妊も増加しているのです。
編集部:今でこそ「キャリアプランだけでなくライフプランを」という考え方も広まってきていますが、第二子以降も「自然妊娠したければ30歳台前半までに」という事実、もっと周知しておくべきことですよね……! どのタイミングで不妊相談に行けばいのでしょうか?
鶴賀:二人目の場合は、ご自身とパートナーの間でまずは『タイミング法』で取り組んでみてください。半年間妊娠しなければ、不妊治療をしている産婦人科に相談することをお勧めします。
編集部:最初から生殖医療専門のクリニックを訪れた方がいいのでしょうか?
鶴賀:もし1回目妊娠が自然妊娠であり、また、現在も30歳台前半であるのならば、一般の不妊治療のできるクリニックで診てもらってもいいと思います。ただ、なるべく早く二人目が欲しくて、いま35歳を超えているようでしたら、早めに生殖医療専門の施設を受診される方がいいでしょう。
そもそも、一人目出産後セックスレスなのですが……
編集部:育児にも仕事にも追われて、ホルモンバランスのせいなのか、なかなかセックスする気分になれない、という声もよく聞きます。一人目の時よりもセックスレスになりがちという場合はどう克服したらいいでしょうか?
鶴賀:授乳していると気分がのらないことはあるかもしれませんが、「二人目が欲しい」と考えている頃には、産後のホルモンバランスはかなり改善していると思います。もし、育児疲れでタイミングを失っているのでしたら、ご主人にも家事・育児の協力をお願いするのも大事なこと。何よりも、まずは「二人目どうする?」「子どものきょうだいどうする?」と、夫婦で話し合うことが大切です。もしかしたら、ご主人も「疲れてそうだったから、遠慮していた」という状況もあるかもしれませんよ。
編集部:そうですよね、二人目についてどう思っているのか、しっかり夫婦で話し合うことで、今後どの道を選んでいくのかが見えきますよね。コミュニケーション不足があるのだとしたら、まずはその解消からですね。
鶴賀:家族の人生のことなので、自然妊娠を望むにしても、まずは夫婦で話し合うこと。セックス自体の回数が減っていると、妊娠の機会が減ってしまいますから、不利な状況を作らないことです。もし、ご自身の中で、性交痛があるのであればリュープゼリーというセックスのための潤滑ゼリーを使うという方法もあります。妊活も不妊治療も、早く始めるに越したことはありませんから!
不妊治療を始めるなら、子連れで通院はできるの?
編集部:やっぱり「二人目が欲しい!」となった場合、タイミング法で半年できなければクリニックへ、というお話でしたね。
鶴賀:通常、不妊の定義は「通常の性行為を持っていても1年間妊娠しない状態」です。二人目不妊の場合は治療を開始しても、子どもが熱を出すなど、治療を続けようとしてもさまざまなトラブルで中断されることが予測されますので、二人目が欲しいと思ってから半年トライしても妊娠に至らなければ、早めに受診をすると考えておいた方がいいですね。
編集部:通院するとき、子どもは一緒に連れて行ってもいいのでしょうか?
鶴賀:多くの病院はキッズスペースを備えていますからお子さんと一緒に通院すること自体は可能でしょう。ただ、不妊クリニックは週末や祝日も診察しているところも多いので、実際にはご主人にお子さんを預けて通院する方が多いようです。あとは、病院にもよりますが、ほかの患者さん、特に一人もお子さんのいない方に配慮している病院もあるので、子連れで通院可能かどうか、事前に確認するといいでしょう。いざ、治療が始まると「子どもに気を取られて、治療に集中できない!」という声も聞くので、ご自身のためにも、落ち着いた環境で治療できるのが良いかもしれませんね。
編集部:一口に不妊治療と言っても、「今日は血液検査だけ」「今日は人工授精」などとかかる時間も内容も全く違うでしょうから、内容に応じて判断するのも良さそうですね。ところで、もし病院が合わないなと感じた場合は、どうしたらいいのでしょうか?
鶴賀:かかられている病院で相談できるのが一番だとは思いますが、転院も一つの選択肢でしょうね。不妊治療は治療方針も考え方も病院によって違うことがあります。年齢によっても方針は違いますが、たとえば配偶者間人工授精は何回までトライするのか、とか、体外受精のための採卵を自然周期でするか、あるいは排卵誘発剤を使用するのか、胚移植を自然周期でするのか、ホルモン剤を使った人工周期でするのか、採卵時麻酔薬を用いるかなどです。ご自身の体や考え方に合う・合わないというのはあると思いますので、その病院での治療方針が合わないと感じたら転院して、気分を新たに再スタートするのもいいかもしれません。そのためにももらった検査結果は手元に保存しておいた方がいいですよ。
コロナで一時は自粛していたと思うのですが、もう再開していますか?
編集部:一時はコロナの影響もあって、不妊治療もストップしていたと思いますが、今、病院側は治療の再開をしているのでしょうか?
鶴賀:日本生殖医学会は、4月の段階では「延期ができる不妊治療については考慮してください」と延期を提案していましたが、その後、緊急事態宣言が解除されてからは、5月18日に治療再開の声明が出されました(新たな採卵や胚移植などの治療制限も外しています)。第二波といわれる現在も、(胚移植を含めて)不妊治療の制限は一切していませんが、三密を避けるという意味でも、施設の考えに任せています。なお、不妊専門クリニック勤務の医師に聞きますと、患者さんの中には、自己判断で通院を中止している方もいらっしゃるそうです。コロナ感染対策なのか不妊治療か、迷うところはあると思いますが、自己判断せず、担当医とご夫婦でしっかり相談してから進めましょう。
編集部:迷うところでもありますが、二人目不妊ともなると時間との勝負ですし…… まずは相談ですね。
鶴賀:一方で、コロナによって不妊治療を延期した方に向けて、助成金を受ける年齢も緩和されています。2020年に限り対象年齢が、治療期間初日の妻の年齢が「43歳未満」だったのが「44歳未満」に引き上げられているので、こういった情報も各自治体のHPに記載があります(※)ので、情報を得て前向きに捉えましょう。
(※)参考/東京都 東京都福祉保健局:東京都特定不妊治療費助成の概要
編集部:緩和されたのはありがたいですね! 今だからこそ、できることもありそうです。
鶴賀:そうなのです。不妊治療のベースとなるのは、まずは自分の体調を整えること。妊娠してからがスタートなので、規則正しい生活を心がけて、体重や血圧にも気をつけましょう。妊娠前から葉酸サプリメントを飲むのもオススメですよ。
編集部:なるほど! 今日は大切なお話を、ありがとうございました。
そもそも、二人目は自然妊娠が不利だったなんて……! どうしても一人目がすんなりできたご夫婦には「二人目不妊」ということが脳裏に浮かびにくいかもしれませんが、まずは夫婦で話し合って、漠然と思っていたことをクリアにしていくことから始めましょう。そして、「二人目を作ろう!」と決めたなら、とにかく妊活を。半年間、妊娠がなければ、クリニックの先生に相談して…… と、一歩ずつ、行動していくことが大事です。コロナのこともあって、余計に悩んでしまうかもしれませんが、一人で悩まず、まずは夫婦で相談を。
プロフィール
鶴賀 香弥さん
愛育クリニック産婦人科 副部長
社会福祉法人恩賜財団愛育会総合母子保健センター愛育クリニック産婦人科副部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本周産期・新生児医学会周産期(母体・胎児)専門医・指導医
日々様々なことがあり、心穏やかではないこともありますが、今だけしかできない3人の子供の育児と仕事を楽しく両立して過ごしたいです。
文・インタビュー:飯田 りえ
ライター