仕事と子育て・家事との両立、めまぐるしい毎日を過ごしていると、どうしても自分のことは後回しにしがち。毎月訪れる生理も「いつもと違うな」「ちょっとお腹が痛いな…」と感じても、やり過ごしたりしていませんか? 働く女性の健康増進調査(2018年度)によると、月経に関する異常症状がある人は50%で、それについて対処していない人が45%、月経の異常症状が出て4ヶ月以上経ってから受診した人が53%(日本医療政策機構のデータより抜粋)でした。ヘルスリテラシーが高い人の方が仕事のパフォーマンスも妊活の機会なども失わない……! と分かっていながら行動できていない人が多いようです。
かく言う私も同様で、二人目を出産してから月経過多になり、下腹部痛も辛くなる一方。貧血症状も出てきたので、ようやく重い腰を上げて受診したところ、子宮筋層が厚くなる”子宮腺筋症”と診断されました。自然治癒することはないので、ミレーナという黄体ホルモン放出子宮内システム(IUS)を導入することをお勧めされ…… そこで初めて病気だったと認識。不妊の原因にもなりますし、女性が長く健康で働き続けようと思うと、やはり生理を軽視せずに上手に付き合うことが重要なんだ、と痛感しました。もっと早くに受診していれば、もう少し違った対処もできたかもしれません。
そこで、改めて月経困難症について、愛育クリニック産婦人科副部長の鶴賀香弥先生にお話を伺いました。ご自身も3人のお子さんを育てるワーキングマザーで、仕事との両立や時間の取れない悩みにも寄り添ってくれるはず。今さら聞けない、月経困難症について、教えてもらいました。
月経困難症の原因とは? 「生理の量が多い」って、どのくらい?
編集部:まずは生理にまつわる症状について、教えてください。
鶴賀 香弥先生(以下、敬称略。鶴賀):月経随伴症状は大きく2種類に分けられ、月経前に起こるPMS(Premenstrual syndrome)やPMDD(Premenstrual dyspholic disorder)、月経中に起こる月経困難症の2種類に分けられています。さらに月経困難症には原因の有無によって機能性と器質性に分けられます。
月経前の症状
PMS 、PMDD(PMSより精神症状が特に強いもの)。
お腹や乳房の痛みのような体の症状から、イライラや憂鬱など精神的不調まで。
月経中の症状
月経困難症。強い下腹部痛や腰痛などの不快な症状や、吐き気・下痢など全身の症状。
- 機能性月経困難症:月経困難症の原因となる明らかな病気がないもの
- 器質性月経困難症…月経困難症の原因となる子宮内膜症や子宮腺筋症、子宮筋腫などがあるもの
機能性月経困難症の場合は月経中に子宮内膜から産出される子宮を収縮させる物質(プロスタグランジン)によって痛みを感じるので原因となる病気はありません。一方で、器質性月経困難症はホルモンの分泌異常や子宮関連の病気が原因となっているので、これらを正しく見分けるためには医師による診断が必要です。月経の量が多くなる過多月経を伴っている場合は、器質性月経困難症の場合が多いので、月経量が以前より増えている場合や、生理痛が増している場合は産婦人科で診てもらいましょう。
編集部:「体質的なもの」「我慢するもの」で放っておいてはいけないのですね。それにしても、自分の生理の量の増減というのは、意識していないとわかりにくいのですが、具体的な目安はありますか?
鶴賀:個人差があるので基本的には自分の過去の月経と比較してほしいのですが、目安として「ナプキンを1時間おきに替えている」「昼間に夜用ナプキンをつけている」「レバーみたいなドロッとした血の塊が2~3日間出る」という状態であれば、一度診察してもらいましょう。
自分のことを後回しにしているうちに、病気を見逃しているかも?
編集部:私も年々下腹部痛が増していて、出血も増えているのですが、出産を機に月経困難症になることはありますか?
鶴賀:出産後に月経量が増える多い病気の一つとしては子宮腺筋症があります。あとは、出産が原因というよりは、年齢が重ねることにより症状が出やすくなることもあると思います。私の印象としては、子どもを産む前は自分のための時間を確保しやすいので、辛い時は横になれるし、異変があったら通院するなど、すぐ対処できます。しかし、子どもがいると自分のための時間は取りにくいですよね。出産前から兆候があったとしても、さまざまな環境要因と時間がないことで、放っておくことでより症状が辛くなるのではないでしょうか。
編集部:特に子どもが小さいうちは、自分のことに構っていられませんでした。あと、妊娠・出産以外で産婦人科に行くことのハードルが高くて……
鶴賀:少なくとも年に1度はかかりつけの産婦人科に診てもらっておくと安心ですね。今は駅ビルの中にも婦人科のクリニック入っている場合もありますし、仕事帰りにちょっと立ち寄れるクリニックを探して、もっと気軽に受診できるといいですね。お住まいの自治体の子宮がん検診をきっかけにお近くのクリニックを利用するのもオススメです。
編集部:やはり年に1度は検診が必要なのですね。診察前に用意しておくものはありますか?
鶴賀:用意は必要ありません。できれば基礎体温表に測定した基礎体温と気になる症状をつけておいてもらうと、生理に関連する症状なのかどうか判断するのに参考になります。携帯のアプリでも構いませんし、基礎体温は毎日記録していなくてもいいですので試してみてください。自分の体を知る上でも大切です。とはいえ日々の忙しい中での基礎体温測定は大変です。少なくとも「いつ、どのぐらい痛いか」「いつ、どんな時にイライラしたか」などを教えてください。子どもに手を取られていて、自分の体の変化に気づけていないお母さんが多いので。
編集部:日常的に基礎体温…… やはり、自分を知る意味ではつけた方が良いのですね。
鶴賀:妊活の時だけでなく、できれば普段から記録することをオススメします。患者さんの中で、冷蔵庫に周期表をはってらっしゃる方がいました。ある日、「あ、だから今、ママはイライラしているんだね!」とお子さんが気づいてくれたそうです。家族内でも生理のことをオープンにしてシェアするのも、良いことかもしれませんね。
編集部:わぁ、それは新鮮な目線ですが、家族が客観視して理解してくれるのは助かりますね。そのためには夫や子どもたちにも生理のメカニズムを知っておいてもらう必要がありそうです。
鶴賀:そうですね。生理というのは「単に出血するだけではなく、からだ全体に影響がある」ということを共有しておくと、家族の理解も得やすいですね。
編集部:性教育の時にも生理のメカニズムや生理にまつわる病気やしんどさなどももっと詳しく教えてほしいですね。
月経困難症で日常的にできる対処法は? 妊活はどうすれば……!?
編集部:少しでも症状を軽くするために、日常生活でできることはありますか?
鶴賀:まずは規則正しい生活が第一です。十分な睡眠と定期的な運動も取り入れてください。あとは、日々の記録をつけること。基礎体温や体の症状だけでなく、イライラして家族にあたってしまった…… など、心の状態を記録し、自分を見つめることができます。あとは、少しの熱めのシャワーを浴びたり、アロマを焚いたりするなどして、自分がリラックスできる方法を見つけることもいいですね。
編集部:働いていることが月経困難症やPMSに影響することはありますか?
鶴賀:仕事のストレスや、仕事とプライベートの両立がうまくいっていないと影響するかもしれません。その一方で、働いていると仕事の達成感を感じられますし、外に出ることで気分転換にもなるので、よい面もありますよ。
編集部:実際にどんな治療法があるのでしょう?漢方なども使えますか?
鶴賀:当帰芍薬散や加味逍遙散などの漢方薬は、痛みを緩和したり、気持ちを落ち着かせる時に使われます。その他の治療法としては月経困難症にはホルモン療法(低用量卵胞ホルモン・黄体ホルモン配合薬=低用量ピルと同じ成分のもので以下、低用量ピルと呼びます)や、黄体ホルモン製剤、黄体ホルモン放出子宮内システム(LNG-IUS、ミレーナ®)が有効です。LNG-IUSは黄体ホルモンを子宮内に持続的に放出するので子宮内膜の増殖を抑えてこれを薄くし、月経量を減少させて生理痛も軽くすることができます。一度子宮内に入れると、そのまま5年間は効果が続きます。
編集部:ミレーナ®は「避妊リング」と同様のものですよね? 避妊効果がありますが、もし妊活を考えていたらどうすればいいのでしょうか?
鶴賀:妊活をするタイミングにIUSを抜けば良いですよ。ピルも同じく、飲むのをやめると妊活できます。そういった相談も受診していればできるので、将来的に妊娠を考えている人は早く相談に行かれることをオススメします。
編集部:PMSにはどんなお薬が効果的ですか?
鶴賀:PMSには低用量ピルがおすすめです。PMDDの場合にも低用量ピルは有効ですが、それでも心の症状があまり軽くならなければ、カウンセリングを行ったり心療内科をご紹介することもあります。
女性も、男性も、生理に対する知識を正しくアップデート!
編集部:ここ数年で、生理についても非常にオープンになったと思います。言葉を出すことさえタブーとされていた時代から、社会的な認識もかわってきたのでしょうか?
鶴賀:生理バッジがニュースでも話題になりましたね。生理休暇が取得できる会社も増えてきたことですし、理解は深まっていると思います。今回のコロナ禍を機に働き方がもっと柔軟になれば、生理休暇にしなくてもリモートワークで対応できる場合もあるかもしれません。
編集部:とはいえ「生理休暇を取りたい」と言いにくい雰囲気の会社もまだまだ多いと思います。 女性の上司の場合でも「私の時代は我慢してきた」とか……
鶴賀:そうですね。そういう場合は「月経困難症と診断され、婦人科に通院しています」とはっきり伝えておくことも大事です。かかりつけの婦人科で診断書をもらえば、生理休暇も取得しやすくなると思いますよ。あと、ピルをはじめ治療法もどんどん良くなっているので、ためらわずに治療を試してほしいです。
編集部:自分の中でも「ピルは太る」「副作用がある」とか…… 過去の情報やイメージからアップデートされていないことに気がつきました。
鶴賀:今は低用量のピルがあるので体重への影響は少ないです。日々、医学は進歩していますので、痛みやイライラを我慢して過ごすよりは、医学の力を利用した方が断然いいですね。ただ、血栓症の心配や前兆のある片頭痛がある人などは飲めない場合もあるので、必ず病院で処方してもらいましょう。また禁煙も大切です。
編集部:自分の体を知った上で、とにかくかかりつけの産婦人科に定期的にかかることですね! 貴重なお話ありがとうございました。
10代の頃から付き合っている生理ですが、年齢を重ねると同時に、体も症状も少しずつ変化してきている事への自覚が足りていませんでした。相談できるかかりつけのクリニックを見つけて、定期的に診察&相談することが何よりも大切ですね。「痛みや辛さを我慢しない」「自分の体の状態を知る、そして労わる」この気持ちに正直に動くことが人生100年時代、長く、楽しく輝き続けるために必要なマインドなのだと思いました。
プロフィール
鶴賀 香弥さん
愛育クリニック産婦人科 副部長
社会福祉法人恩賜財団愛育会総合母子保健センター愛育クリニック産婦人科副部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医
日本周産期・新生児医学会周産期(母体・胎児)専門医・指導医
日々様々なことがあり、心穏やかではないこともありますが、今だけしかできない3人の子供の育児と仕事を楽しく両立して過ごしたいです。
文・インタビュー:飯田 りえ
ライター