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2019.06.10 2023/02/15

退職してもキャリアは続く! 喪失感を抱く駐妻たちへ
~第1回・元駐妻向けキャリア支援プロジェクト【後編】(イベントレポート)

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退職してもキャリアは続く! 喪失感を抱く駐妻たちへ<br> ~第1回・元駐妻向けキャリア支援プロジェクト【後編】(イベントレポート)

ラシクとHimemama共催により開催された、駐妻経験者のためのキャリア支援プロジェクト。

参加者だけでなく、運営メンバーにも“元駐妻”が加わっており、集まったみなさんは同じ境遇の者同士分かり合えることがたくさんあるようです! 全3回のプログラムのうち、第1回目の様子をレポートしています。

前編はコチラ

「仕事を辞めた=キャリアストップ」ではない!

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ワークショップで参加者のみなさんに存分に思いの丈を吐き出していただいた後は、そのモヤモヤした感情を整理するべく、キャリアコンサルタントの小橋友美さんからキャリアにまつわるお話がありました。

小橋さんはラシクでコラムを執筆しており、ママのキャリア支援にも力を入れていらっしゃいます。

 

まず小橋さんが紹介してくださったのが、アメリカのキャリア研究家D.E.スーパー博士が発表した「ライフ・キャリア・レインボー」という考え方です。

1980年代に掲げられたものですが、人生100年時代の働き方が問われている今、ワークとライフを融合したキャリア理論として再注目されています。

これによれば、キャリアというのは単に仕事のことだけを指すわけでないそう。キャリアとは「家庭人」「労働者」「学生」等、人生のステージによって移り変わる様々な役割の組み合わせのことであり、生涯続いていくものだというのです。

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「仕事は辞めても、家庭人というキャリアは続いています。人生の一時期、子育てに専念しても学び直してもいいじゃない、それも含めてすべてがあなたのキャリアだよ、ということをスーパー博士が初めて提唱したんです。

この考え方でいくとキャリアアップもキャリアダウンも存在せず、みなさんが生きている時間そのものがキャリアというわけです。

キャリア=仕事のことだけだと思っていると、仕事を辞めた途端に自分自身も終わったような感じがしてしまうかもしれません。でも、仕事をしていない人がキャリアを重ねていないというわけではないのです。

みなさんのキャリアは今も続いていますし、これからも続きます」と小橋さんは言います。

 

加えてご紹介いただいたのは、アメリカのクランボルツ教授が提唱した「計画的偶発性理論」。

これは、「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的な出来事で決まる」という見方で、偶然を受け入れよう、むしろ偶然を活かすために前向きに行動しよう! という理論です。

元々「いずれ仕事を辞めて駐妻になろう!」と考えていた人はそう多くはないでしょう。退職も、駐妻になることも、“予期せぬ出来事”だったという方が大半だと思いますし、そこに戸惑いと感じるのも無理はありません。

 

でも、小橋さんは言います。

「キャリアというのは自分が予定した通りに積み重ねるからハッピーというわけではないかもしれません。現実は仕事も家庭も予定していないことだらけのはず。

だから、思い通りにいかなかったから私は失敗した、間違った、と思わなくて大丈夫! まずひとつ、今日から考えてほしいのは“私のキャリアは終わった”わけではない、ということです

 

仕事を辞めたからといって、キャリアもストップしたわけではない。とても励みになる言葉です!

 

喪失感の正体はアイデンティティ・クライシス

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さらに小橋さんは続けます。

「仕事=キャリアだけではない、ということには既に気が付いていた方もいらっしゃるかもしれません。

それでも、駐在帯同を経て帰国した今、喪失感やモヤモヤしたものを抱えているからこそ、今日ここにみなさん来てくださっているんだと思います。

実は女性が子育て、ましてや駐妻になって帰ってきたときに、どうして苦しむのかについては研究が進んでいない部分で、先行研究がありません。

でも、私がキャリアコンサルタントとして様々な方のお話を聞く中で感じるのは“アイデンティティの問題”なのではないかということです

 

人は誰でも、環境や役割が変われば「自分は何者なのか?」と悩むもので、これをアイデンティティ・クライシスと言うそう。

一般的には若者に多くみられる傾向とされていますが、誰だって環境や求められる役割が変われば軸が揺らぎ、アイデンティティ・クライシスに陥る可能性があるそうです。

 

そして海外生活が終わり帰国した元駐妻たちが、喪失感やモヤモヤを覚えるのは「日本に戻ったのに働いていないから」ではなく、「アイデンティティ・クライシス真っ最中だから」なのだそう

「帰国して環境も変わるし、駐在員の妻という立場でもなくなって、アイデンティティ・クライシス、つまり『もう以前の自分じゃなくなった』と感じるから、新たな『軸』が欲しくなるんですよね。単に仕事をしていないからモヤモヤするんじゃないんです」と小橋さんは説明してくださいました。

 

前編でレポートしたワークショップで参加者の多くが共感した「帰国後、軸が定まらない」という発言は、まさにアイデンティティ・クライシス状態だから、ということだったのですね。

ひとり鬱々と思い悩んでいたことを、こうして解説してもらえるとスッキリしますし、原因がわかればなんだか対処もできそうな気がしてきます!

 

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「帰国後のモヤモヤは『仕事が見つかれば解決する!』と思っていると、打開するのは難しいと思います。

現に、日本に帰ってきて転職サイトを眺めてみてもピンとこなかった方、たくさんいらっしゃるのではないでしょうか?」

 

小橋さんの問いかけに、来場者のみなさんが大きく頷きます。

 

「職務内容や待遇面というより、『この仕事して何になるんだろう?』という気持ちになった方も多いでしょう。それは仕方がないのです。

せっかく駐妻になったんだから、海外生活や駐妻体験が役に立つ仕事をしなきゃ、なんとかスキルにつなげなきゃ、とその気持ちばかりになってしまうと、自分らしさやアイデンティティが満たされることはないのです

 

駐在帯同経験の活かし方がわからない、とはこのプロジェクトの参加理由としても多くみられた言葉です。でも、そればかりに囚われてしまうと前には進めないようで……

「アイデンティティ・クライシスを打開するためには、『私ってこんな人間』『こんな自分なら幸せ』ということを、知るステップが必要です。

駐妻として海外経験をして、そして帰国して。新しくなった自分のアイデンティティを知るために何をすればいいかと言うと、まずはこうやって同じ境遇の人たちと集まって、気持ちをシェアしながら、あるいは違いを知りながら、会って話すこと。そうすることで段々自分自身がはっきりしてきます。その上で、どんな仕事をしようかな? と考えるといいでしょう。

そのときの大事なキーワードは、もうみなさんから出てきていますよね。『仕事も家庭も大切にする』『自分を活かす』です

 

小橋さんがキーワードとして挙げてくださった、この「仕事も家庭も大切にする」「自分を活かす」言葉。

実は、前編でご紹介したワークショップの中でも、度々参加者のみなさんが「自分の理想の生き方」として語っていたことなのです。

仕事を探す上でまず大切にすべきなのは「駐在帯同の経験を活かすこと」ではなく、あくまでも自分の理想の生き方を体現できるかどうか、なのですね。

 

講義の最後に、小橋さんはこうエールをくださいました。

「自分のアイデンティティが“駐在帯同中”のままだと、仕事を始めてもまた喪失感を感じるだけ。『駐妻時代に得た経験を役立てたい』と思うこともあるかもしれません。

そんなときは『どんな仕事なら役に立つか』ではなく『どう活かして仕事するか』という視点が大事です。

自分自身でアイデンティティを知り、次の私へキャリアをシフトさせていくスキルをこの全3回のセミナーで身につけてきましょう!」

 

駐在帯同を経て「いろいろな顔を持てるようになった」

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グループワーク、小橋さんの講義を経て、“キャリアにまつわる思いの棚卸し”を図ったプロジェクト第1回目。参加者のみなさんに感想を伺いました。

 

「小橋さんのお話を聞いて、もしかしたら今の自分はこれまでで一番バランスのいい生き方ができているのかもしれないと思いました

パートだけど仕事があって、子どものPTA、自分の習い事、それからちょっとだけ妻(笑)、いろんな自分の顔を持って日々暮らせていることには満足できているのかなと。

海外ではあくまで帯同家族だったので、駐在員の妻、子どもの母、という顔しかなかったので……

こういう、いろんな顔を持つことが、ライフ・キャリア・レインボーとつながっているのかな? と思いました

 

「駐在帯同する前は仕事だけの人生しか知らなかったけど、駐妻になったおかげでそうじゃない生き方を知れたのはよかったです。

今は仕事と、自分のやりたいことと、育児と、ちょっと妻と(笑) 以前よりいろんなことができるようになった気がしてきました

 

みなさん、抱えているモヤモヤの原因に納得できた様子。言語化し整理できるだけでも随分楽になるものですね。

全3回開催されるこのプロジェクト、続く2回目では参加者の「キャリアの棚卸し」「強みの発見」を、3回目では働きたいママを応援する企業とコラボして「新しい働き方」へシフトするためのプログラムを予定しています。

 

開催後はラシクでレポートします。お楽しみに!

 

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第1回前編はコチラ
第2回レポートはコチラ
第3回レポートはコチラ
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取材協力/小橋友美、鎌田薫

ライター

高野萌奈

編集・ライター

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