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2020.05.29 2023/05/20

イギリス人ワーママに学ぶ、仕事と育児の「非両立論」。 必要なのは、ポジティブにアンバランスを楽しみ、たおやかに受け流す力

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イギリス人ワーママに学ぶ、仕事と育児の「非両立論」。 必要なのは、ポジティブにアンバランスを楽しみ、たおやかに受け流す力

こんにちは! LAXIC編集長の鎌田薫です。
LAXICを通して多様な働き方の選択肢を発信していきたい、という想いでメディア運営に携わっています。そんな私が働き方について深く考えるきっかけになったのが、夫のロンドン駐在の帯同経験でした。

海外で暮らす中で、世界各国の働くママの自由な精神やワークスタイルにとても刺激を受けました。日本のワーママ事情をお話すると、「イギリスでもそんな時代があったから、こちらのほうが働き方はちょっと進んでいるのかもしれないね」とコメントをもらったこともありました。

『ちょっと進んでいる』って具体的にどんな部分……? その一例を探るべく、今回、ロンドンで働くイギリス人ワーママにインタビューを決行。協力していただいたVictoria Rennoldsonさんは、世界からロンドンに来る駐在員向けの英会話教室『Perfect Cuppa English』を運営しています。

社会が、企業がママの復職を応援する、イギリスの今

鎌田:日本では育休復帰後の仕事と子育ての比重に悩むママたちが多いです。イギリスのママたちはフレキシブルに働いているイメージがあるのですが、実際のところはどうなのでしょうか?

 

Victoria Rennoldsonさん(以下、敬省略。Victoria ):イギリスでは子どもを産んだ後にまた仕事に戻るということが会社から大いに期待されていて、事実、出産後にまったく仕事に戻らない人は今となっては珍しいです。恵まれていることに、仕事によっては復帰の仕方としてパートタイムや柔軟にリモートワークをする、という道も多々あるので、企業に復職はしやすい環境です。また、私のように出産を機にビジネスを始めたり学び直す女性もいます。ここロンドンではこのような出産によるキャリアチェンジを迎えた人のためのサポートグループや女性のネットワーキングミートアップなどを支援する機関がたくさんあります。

 

鎌田:企業勤めにしても、独立にしても、ママとなった女性が社会で活躍するための豊富なサポートがあるのですね。

 

Victoria:そうですね。もちろん、育児のために家庭に入って何年か経ってから仕事に戻ろうとする女性もいるのですが、そういった場合は復帰が難しいようです。仕事から長く離れるほど、自分に向いた仕事についたり、これまでの職歴と合う仕事を見つけたりすることが難しくなっています。

 

鎌田:それは日本と同じ状況ですね。それに対しての動きはあるのでしょうか?

 

Victoria:大企業では、長い離職のあとでも女性に職場復帰してもらおうとしていて、トレーニング、職業体験、メンタリングなど、多くの復職プログラムが用意されています。

 

鎌田:育児が理由で一度離職された方が対象の復職プログラムがある、と伺ったことがあります。大企業がそのような動きをしてくれることで、育児経験のある女性の復職を加速させそうですね。

子どもとの時間を大切に働きたい! これまでの経験を活かしながら大きくキャリアチェンジ!

鎌田:Victoriaさんは出産を機にキャリアチェンジをされたそうですね。これまでのキャリアと、『Perfect Cuppa English』の設立の経緯について教えていただけますか?

 

Victoria: 私は、もともと大企業向けのブランドマーケティングの会社で働いていたのですが、息子のオリバーの誕生をきっかけに思い切ってキャリアを変えることにしました。勤続12年目の2013年のことでした。仕事自体は楽しかったけれど、もっと自分で物ごとを決められる立場になりたくて。それに息子が生まれたこともあって、保育園に預ける前の朝や帰ってきてからの午後の子どもと過ごす時間を大切にしたく、時間を柔軟に使えるような仕事をしたかったのです。

 

鎌田:なるほど。そこで、まずどんなアクションを起こしましたか?

 

Victoria:英語を教える仕事をしようと思い、一般英語とビジネス英語、両方の英語の教え方ついて学びました。ビジネス英語については、これまでの会社での経験を活かすこともできるのではと考えました。実はこの期間中に二人目の子ども、娘のゾーイを授かりました。育児と両立しながら起業の準備をし、2015年に『Perfect Cuppa English』を設立しました。

 

鎌田:『Perfect Cuppa English』の特徴を教えてください。

 

Victoria:ロンドンに駐在する方たちや他国の専門家に、英語と英国文化を学べるコースをオーダーメードで提供しています。一人一人の個性に合ったコースを提案し、日々の生活やビジネスに役立つ英国の文化への理解を深めてもらいながら、スピーキングとリスニング両方に自信をつけられるようにしています。駐在員の奥様やパートナーといった個人向けと企業向けのどちらでも対応しています。初めのうちは私1人だけでなんとかしていましたが、今ではトレーナーが 8人に。ロンドンの中なら好きな場所で好きなときにコースを受けることができます。生徒はさまざまな国籍の方がいて、ブラジル人、フランス人など。日本人コミュニティから近いロンドン北西部に本社オフィスがあるので、日本人の生徒さんもたくさんいらっしゃいますよ。

仕事・子育て・家族のマネジメント。3つの役割を同時進行させるイギリス人ワーママの1日

鎌田:お子さんが2人いらっしゃる中、英会話スクールの講師だけでなく経営もされているのですね。多忙な毎日かと思いますが、1日のスケジュールを教えていただけますか?

 

Victoria:子どもたちは今7歳と5歳で、どちらも小学校に通っています(イギリスでは小学校は4歳から)。通常の学校がある日は、私は朝6時20分に起き、子どもたちが6時45分に起きる前にその日の準備をします。それから夫のクリスを含めみんなで一緒に朝食をとり、子どもたちは制服を着て、クリスは7時45分ごろに出勤します。

私と子どもたちが出発するのは8時30分。それまでは時間があるので、宿題をしたり、朗読を聞いてあげたり。学校に送っていくのは私が週に4日でクリスは木曜日の1日。だから木曜日には仕事を早く始めることができます。

 

鎌田:朝学校に行く前に朗読の時間があるなんて!

 

Victoria:子どもたちを学校に連れていったあと、私はすぐに仕事に向かいます。講師としての仕事以外のほとんどの時間は、新しい生徒候補に会ったり、マーケティングに取り組んだり、トレーナーとミーティングをしたり、そのほか経営に関することを行ったりしています。オフィスにはいないことが多く、だいたいロンドン中心部か在宅で仕事をしていることが多いです。

 

鎌田:リモートで仕事をされることが多いのですね。毎日何時まで仕事をされているのですか? イギリスは子どもの送り迎えが必要ですが、ご自身でされているのですか?

 

Victoria:はい、私が迎えにいっています。子どもたちを迎えるのが午後3時30分。仕事モードをオフに切り替えて、ここからは子どもたちとの時間を楽しみます。ときどき放課後のアクティヴィティをしたり、お友だちとプレイデートをしたり。夕食時やシャワー、本の読み聞かせ、寝かしつけ。こういった時間は本当に幸せです。子どもたちから自分が必要とされていることを感じられるし、また彼らがどんな状態で、どんなことを感じているのかを知ることもできるひとときです。

 

鎌田:オンオフの切り替えがしっかりできていて素敵です!

 

Victoria:クリスが帰ってくるのが午後7時から8時。彼と寝かしつけを交代してから、自宅にある私の小さなオフィスで仕事に戻ります。午後10時くらいまで働いたら、スイッチをオフにして、11時にはベッドに。月曜から木曜はこんな感じですが、金曜日から日曜日までは仕事から離れるようにしていますが、これはなかなか努力が必要。どうしても忙しいときは、土曜日や日曜日のランチタイムにメールを返信したりはしていますね。

 

鎌田:パパが寝かしつけの時間帯に帰ってきてくれるのは嬉しいですね! 日本ではその時間帯に帰ってこれるパパはまだ少数派です。

 

Victoria:もちろん、お互い、遅くまで仕事しなければいけない日もありますよ。そういうときによく自分に言い聞かせるんです。「私の役割は仕事1つだけじゃなくて、3つもある」ということを…… 自分の仕事と同じくらい子どもたちの世話をしていて、そのうえ家族の生活のマネジメント (服を買う、洗濯、家族の用事の予約など)もしている。これらは予想以上に時間がかかってしまいます。抱えている役割が3つもあるということに気付いてからは、イライラせず、時間の無駄遣いをすることもなくなり、私がした選択をもっとポジティブに捉えることができるようになりました。私にとって時間は線で区切れる概念ではなく、ゴムのように柔軟性のあるものなのです。

仕事、家庭の前にまずは私を大事にすること。それが仕事と家庭のバランスにつながる

鎌田:日本では子どもが生まれると家事分担、ということが度々話題に上がるのですが、Victoriaさんご夫婦は家事分担をどのように考えていらっしゃいますか?

 

Victoria:クリスと結婚したとき、お互い平等な関係でいようと確認したので、家事の分担も平等にしました。

 

鎌田:平等な関係でいよう、とあえて確認されたことに驚きです。イギリスでは男性も子どもの頃から積極的に家事に参加しているそうですが、そのように育っていくなかで男女平等でいよう、というのが当たり前の価値観になっているのかもしれませんね。

 

Victoria:そうですね。お互いできることを担当しています。私は洗濯、食洗機での食器洗い、買い物をして、クリスは料理と食後のお皿洗いを担当。私は料理が好きではないのですが、クリスはプロのシェフなので、彼に料理をしてもらえるのが最も都合がよいです。週によりますが、時間があるときは週末にたくさん料理を作って冷凍しておいてくれるので、私は温めるだけ。これは本当に助かります。掃除は2人で分担を。掃除だけが唯一二人とも好きな家事です。

 

鎌田:ここからは仕事と家庭のバランスについてお聞きしますが、こちらも日本の働くママは悩むことが多いのですが、Victoriaさんはバランスを取るために何か工夫をしていることはありますか?

 

Victoria:自分を大事にしています。自分にとっての理想的なバランスについて、よく考えてみることではないでしょうか。これは個人によって違うものなので、その答えがどういうものであっても、正しいとか間違っているということはありません。

それと、そのバランスが変わる時があるかもしれない、ということです。たとえば私の場合、子どもたちが赤ちゃんの頃のほうが私がしっかり見ているべきだと思っていたのですが、実際のところは今学校にいっている今のほうがより物理的にも精神的にも子どもたちは私の注意・関心を必要としています。

 

鎌田:子どもの成長に応じて、そのときそのときの状況次第でバランスを見極めていく必要があるのですね。

 

Victoria:人生のあらゆる部分をコントロールできるような完璧な方法はおそらくないでしょう。最高にうまくいっていると感じる日もあれば、何もかもうまくいかないし、家族の用事を優先しなければならない日もあります。そういうときはなりゆきに任せること。うまくいかない日は気にせず受け流して、翌日から新しいエネルギーでやり直せばいいのです。

 

鎌田:気にせず受け流す、そう決めることができれば気持ちが軽くなりますね。

 

Victoria:それと、睡眠と運動はとても大切です。とくに睡眠。私もいつも十分な睡眠がとれているわけではないのですが、不足すれば疲れやすく不機嫌にもなって、家族にはよくないし、仕事にも響きます。疲労して、病気になり失速してしまうことがないように自分自身をもっと大切にしようと心がけています。また、気持ちのスイッチをオフにすることもそう。やるべき仕事は常に湧き出てきます。けれどどこかでしっかり線を引いて、「今日はもう充分」と自分に言ってあげることを意識しています。

 

鎌田:「今日はもう十分!」と自分にOKを出してあげると気持ちよく1日を終えられそうですね。今日は貴重なお話ありがとうございました!

Victoriaさんにインタビューをさせてもらう前に、日本の働き方を知っている、ロンドンで働く日本人ワーママ数名にお話をうかがってみました。みなさん口を揃えておっしゃっていたのが、『家事分担』という意識はなくてどちらかできるほうがやればいい、という意識であるということでした。また、10年程前からリモートワークが導入されはじめ、今となってはそれが当たり前になっているという働く環境がパパの家事や育児への参加率を高めているそうです。日本では新型コロナウィルスの影響でいっきにリモートワークが進みましたが、もしかしたらこれが近い将来共働き家族の働き方に変革をもたらすのかもしれません。今回初めての英語インタビューとなりました。サポートをしてくれたロンドン在住松田東子さん、ありがとうございました!

プロフィール

Victoria Rennoldsonさん

ロンドン在住 Perfect Cuppa English代表

12年間アメリカ・イギリス企業向けマーケティングに従事したのち、個人向け英会話レッスンを提供するPerfect Cuppa English®を設立。
イギリス文化・英語に関する執筆、講演多数。現代語学士。CELTA (外国人英語学習者向け英語教師資格)/Cert IBET (国際ビジネス英語教師資格)保有。

文・インタビュー:鎌田薫/英語インタビューサポート:ロンドン在住 松田東子

ライター

鎌田薫

ライター

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