産業医に聞く「大人の発達障害」
働く人と人事・上司・同僚が知っておきたいこと【前編】

ラシク・インタビューvol.210

フェミナス産業医事務所 代表産業医 石井 りなさん

診断自体が難しいとされている「大人の発達障害」。
認知が広がり始めてきた中で、職場環境でのトラブルや課題が表面化してきているといいます。

学生時代は何の問題もなく過ごせていても、いざ仕事となるとミスを連発してトラブルになったり、「本人の努力不足」と思われ職場環境が悪くなったり…。一方で、職種や環境が自分の特性と合っていて、才能を開花させている方がいるのも事実。

また、診断を受けている方だけでなく、本人もはっきりとした自覚がないままなんとなく「働きづらい」と感じてきた、いわゆるグレーゾーンのケースもあります。「発達障害」でひとくくりにされてはいるものの、個人差やグラデーションがあるので、対応も千差万別。そんな中、上司や同僚などもどう向き合えばいいのか、正しい知識がなければ混乱してしまうのも無理ありません。

そこで、日ごろから企業や就労者から相談を受けているフェミナス産業医事務所代表・石井りな先生に、産業医として職域でどんな相談が多いのか、企業として向き合うべき課題はどこにあるのか、お話を伺います。

石井先生の前回記事はこちら

認知の高まりにより、職場での相談が増加中
当事者や企業から届く声とは

フェミナス産業医事務所代表/産業医・精神科医 石井りな先生

編集部:大人の発達障害に対する認知が広まっていますが、働く現場での相談は増えていますか?

 

石井りな先生(以下、敬称略。石井):大人になってから発達障害を疑われるケースはそもそも診断が難しく、いわゆる「グレーゾーン」の方が大半です。受診した医療機関によって診断が異なったりすることもしばしばで、どちらが正解で、どちらがが誤診というものではなく、どちらもその時々の見立ては正しく、その時々で異なる診断がなされること自体がまさに「グレーゾーン」を表しているといえます。

 
そのような中でも、なぜ大人の発達障害の診断が増えたかというと、社会への認知が広がったことも大きいですが、 2013年にアメリカ精神医学会が19年ぶりに診断基準を改訂し、新しい診断基準「DSM-5(※)」を発表したことにも起因しています。

 
「神経発達障害群」という疾患グループ名が新たに提唱され、発達障害に関する概念がまとめられたとともに、症状発現時期も変更されました。たとえば、以前は、ADHDは「7歳より前」だった症状発現時期が「12歳より前」に変更され、さらには17歳以上の場合の診断基準も設けられました。その結果、幼少期から特性はありつつも目立たなかったけれど、成人してから症状が目立つようになったケースなど、診断基準に当てはまるケースが以前よりも増え、成人してからも比較的診断されやすくなりました。

 
職域の場でも診断書を受け取る機会が増え、どのように対応すればよいか産業医に相談が来るようになってきました。

 

編集部:大人にも起こり得ることが分かってきたのですね。

 

石井:あと、2018年に障害者雇用促進法も改正され、法定雇用率の算定対象に発達障害を含む精神障害者も定義づけられ、支援策も増えました。企業としても辞められてしまうより、うまく職場に適応できる環境を用意して継続して働いてもらいたい。そんな思いから、積極的に対応していこうという姿勢になっていると感じます。

 

編集部:企業側からの相談はどういった内容が多いですか?

 

石井:本当に個人差が多いのでケースバイケースですが…。職場環境下でわかりやすい例としてあげると以下の通りです。

 

  • ADHD(注意欠如・多動症)の場合……ミスが多い。会議中落ち着かない。集中力が続かない。
  • ASD(自閉症スペクトラム症、アスペルガー症候群)の場合……周囲とコミュニケーションが取れない、自分の殻に閉じこもりがち、自分から報告できない。

 

職場で目立ちやすいという意味では、相談によく上がるのがADHDタイプ。また、プレイヤーとしては良かったけれど、管理職になったときに部下のマネジメントができないという方はASDタイプの場合もありますし、ADHDとASD両方の特性を持った方もいらっしゃいます。

 

編集部:個人、つまり悩みを抱える当事者からの相談もありますか?

 

石井:ご本人の場合、悩んでいるけれど、どの病院に行ったらいいか分からず予約も取りづらい、そういった入口からのご相談を受けることもあります。また、診断されても会社には言いにくいので、まずは産業医に相談するケースもありますね。

 
一方で、認知が広まったことで、周囲や上司、人事側が疑って、本人が希望していない面談が設定されるケースもあります。「早期発見・早期対応」が良いとされているので、良かれと思ってなのでしょうが、中には、ご本人が「病気疑いのレッテルを貼られた」と、不快に感じてしまうこともあります。

 

編集部:相談したことについて、会社に報告しなければならないのですか?

 

石井:報告義務はありません。ただ、実際に職務上で困り事が出ていて、本人の努力だけではどうにもならず周りの理解や協力が必要なとき、自分の状況を何も話さないで「理解してください」と配慮を求めるのは難しいです。人事や上司、本人の納得いくところで情報を開示をしながら、産業医として「こういう特性あるので、こういう配慮があると、職務上適応しやすいです」と伝えています。

(※)DSM-5:アメリカ精神医学会が出版している精神疾患の診断基準・診断分類。
「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」の頭文字をとってDSMとする。5とは第5版という意味。

発達障害=生活障害。まずは本人の話を聞くことが解決への道

石井りな先生/オンラインで取材しました

編集部:では情報が開示されたとき、周囲はどう配慮すればいいのでしょうか?

 

石井:そもそも、非常に個別差があるので、「診断名=解決策」とはなりません。発達障害の診断基準は「生活上、この場面でこのぐらい困っている」という生活上の障害で診断されます。それに対しては、本人から丁寧にヒアリングすることが一番の近道です。

 
生活史から話を聞いていくことは、そのまま配慮や支援策につながっていきます。本人が抱えている課題を、解決しやすいもの・解決しにくいものに分け、困り度合いと取り組みやすさを考えながら優先順位を決め、会社とご本人に取り組んでいく内容と順番を提案していきます。

 

編集部:一律ではない、個別での対応が必要なのですね。

 

石井:まずは一人で解決しやすいものから工夫します。忘れ物を減らすために必ずメモをする、集中するための時間を決める、タスクを書き出して優先順位や緊急度を考え、処理するタイミングをスケジューリングするなど、個人でできることは取り組みやすいので、本人に意識して実践してもらい一ヶ月後に面談。こうしてPDCAを回していきます。

 

編集部:周囲の人ができる工夫やサポートについてはいかがでしょうか?

 

石井:たとえば音声での指示が理解しにくい場合は、テキストで明確に指示を出してもらうとか。「うまくやってね」など曖昧な指示を出さないで、誤解のないよう具体的な指示を出してもらう。

 
突発的な事象への対応が苦手な場合には、可能な限りあらかじめ想定されている予定や仕事が振られるタイミングなどを上司や同僚から本人に共有してもらうなど。こういった工夫は発達障害の方に限らず、他の人にとっても働きやすくなる工夫ですし、職場全体の改善にもつながります。

 

編集部:環境を整えるというのは、こういうことなのですね。

 

石井:発達障害というのは適応できる環境があれば、問題を最小化できますし、何の問題もなく活躍することもできます。芸能関係の人やクリエイター、起業家や社長職に発達障害が多いというのも、その人の特性に環境が合っていて、能力を発揮できているからなのです。


後編に続きます

「発達障害=生活障害」と聞いて、非常に納得できたお話でした。企業で勤めていることで、自由に環境が整えられない状況にあるなら、そこはやはり周囲の理解なしには働きやすさにはつながらないので、協力し合える体制が必要ですね。

石井 りなさんプロフィール
千葉大学医学部卒。総合病院にて内科・外科・救命救急を研修。その後、精神科専門病院・メンタルクリニック、リワーク機関にて精神科医として、軽度から重度、休職〜復職まで研鑽を積む。並行して認知行動療法、集団精神療法、力動的精神療法について習得。2010年から産業医として活動。2016年心身双方から働く人のケアを行う九段下駅前ココクリニックに参画。心身双方からアプローチできる医師・産業医であるよう心がけている。現在は、精神科医としてだけでなく、衛生学、労働環境、人事、労働法務にも精通した産業医として、社員一人ひとりの仕事状況に合わせたアドバイスを行う。2022年4月より発達障害専門病院の臨床医としても勤務予定。
HP:フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:飯田りえ

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