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2023.03.30 2024/02/09

「転倒」「腰痛」は近年増加傾向の労働災害!
「SAFE」に学ぶ安全アクションの推進事例

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「転倒」「腰痛」は近年増加傾向の労働災害! <br>「SAFE」に学ぶ安全アクションの推進事例

物価高に対する賃上げや根本的な最低賃金の値上げ、パワハラ、セクハラなどハラスメントの解消。これらソフト面の労働環境改善に注目が集まる一方で、労働災害を防ぎ、安心・安全に働くためのハード面の労働環境改善については、重要であるにもかかわらず、その注目度は比較すると高いとはいえない状況です。

背景としては、産業構造の変化などで労働災害の実態が変化する中で、”安心・安全”を担保する方法に、柔軟に取り組むことができていない企業・現場がまだ多いことが挙げられます。

この現状を変えるため、厚生労働省を中心に行われている取組について取材しました。

労働災害件数、第1位は「転倒」

「労働災害」と聞いて思い浮かぶのはどんなことでしょうか?

多くの方は、「機械に体の一部を挟まれる」「高所から転落する」「積荷が崩れてきて下敷きになる」といったことを思い浮かべるのではないでしょうか?

業種によってはそれらの事故がまだまだ多いですが、全体で見ると「転倒」が第1位で、死傷者の事故の型では2割強を占めています。また近年増加傾向にあるのが「動作の反動・無理な動作」です(※1)。定義的には、体の動き、不自然な姿勢、動作の反動に起因した “すじをちがえる、くじく、 ぎっくり腰”などの状態になることですが、多くはぎっくり腰など「腰痛」につながるものとして考えられます。

この2つの事例が増えている要因には、特定業種(社会福祉施設、陸上貨物運送)の増加や、従業員の高齢化などが考えられます。また、人手不足で熟練者からナレッジを受け継ぐことなく、未熟な労働者が作業を行っているという実情もあるようです。

(※1)参考 厚生労働省「労働者死傷病報告」による死傷災害発生状況(令和3年確定値) 職場のあんぜんサイト

厚生労働省が推進する「SAFE」

「転倒」や「腰痛」は日常生活でも起こりうる労働災害です。これらの労働災害が増加している背景には、上記で挙げた要因のほかにも従業員の安全を守るための視点の欠如など、多くの問題があります。

この問題を職場(事業者)や働く人だけでなく、顧客や家族、地域などを含めた社会問題と捉え、みんなで解決策を考え、労働災害を減らしていくために2022年に立ち上げられたのが「SAFE」です。

SAFEとは“従業員の幸せのための安全アクションを推進する”活動体の名称で、「Safer、Action、For、Employees」の頭文字を取ったものです。

「SAFE」活動の主軸は次の3つです。

1)コンソーシアム

活動の趣旨に賛同した企業・団体でコンソーシアムを形成、お互いの取組の共有や問題の協議、さらには労災防止・健康推進事業においての事業提携のマッチングなどをサポート

2)シンポジウム

加盟者以外でも参加できるシンポジウムを日本各地で開催

3)アワード

加盟者から応募された取組を表彰して共有・認知をあげるアワードを開催

アンバサダーを務めるタレントの土田晃之氏をはじめ、2022年に各地で行われたシンポジウムの登壇者にも、北京オリンピック銀メダリスト朝原宣治氏や、青山学院大学陸上部監督・原晋氏など著名なアスリートを起用し、社会の注目度を高めています。

取組を「見える化」
他社の事例から気づきと学びを

SAFEコンソーシアムアワードを授賞された団体の方々

労働災害の防止には、作業者にとどまらず、顧客、家族や地域も含め、みんながリスクに対する知識や感性を育むこと、事業者が彼らを巻き込み組織立った対策を講じることなど、社会一丸となった対策が必要です。優良な職場の取組を「見える化」し、それらの取組から気づきや学びを得ることを目指し、第1回目のアワードが2023年3月に行われました。

コンソーシアム加盟団体から応募された取組をエリアごとに審査し、ウェブでの一般投票を経て、4つのカテゴリーでゴールド賞、シルバー賞、ブロンズ賞(一部該当なし)が選出されました。各カテゴリーのゴールド賞をご紹介します。

<ウェルビーイング(安全衛生)部門*> *転倒災害防止、腰痛予防の取組以外

株式会社カインズ【KYT活動(危険予知トレーニング)による事故未然防止!】

ホームセンターチェーンを展開するカインズ。パート・アルバイトも含めると24,000人が働いています。店舗規模の差や、各人の出勤スケジュールの違いなどから、安全教育の徹底が難しく、課題となっていました。

そこで、既存のデジタルツール「Forms」を利用し、個々のスケジュールに合わせて、スマホ型端末で危険予知トレーニングを出題、解答できるようにしました。カスタマイズも簡単なので、前月の労働災害を題材にするなど、毎月実施し、継続的な教育へとつなげられています。

授賞式では「従業員が安全であれば、お客様も安全」とコメント。安全推進室メンバーの努力が実っての受賞となりました。

<転倒災害防止部門>
社会医療法人ペガサス【ペガサス100人100回 起立着座訓練の実施!!】

病院・看護学校などを運営する社会医療法人と、姉妹法人で保育園や特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人から構成される、ペガサスグループでの取組。

きっかけはグループ内で起きた転倒災害。予防には効率的な筋力増強が必要とし、医師、理学療法士、作業療法士からなる検討チームを発足。具体的な方策を検討した結果、グループの職員100名による「起立着座訓練の動画」を作成しました。

登場するのは医師、看護師、看護学生、リハビリスタッフ、保育士、検査技師と多種多様(院長まで!)。医療・介護・保育ともに専門職が多く、長期的に勤務してもらうためにも職員の健康が重要として、「声かけだけでは実施は困難。毎日同じ時間に、顔なじみの人が登場して実施することで、意識づけができる」と実践中。実際に現場でも「楽しく続けられる」と好評なのだとか。

<腰痛予防部門>
SOMPOケア株式会社【ご入居者の残存能力の活用により介護職の腰痛予防・負担軽減へ~リハビリ専門職によるアセスメントがポイント~】

全国400ヵ所以上で、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅を運営するSOMPOケアでは、介護職の方々の腰痛が大きな問題でした。職業病ともいえる腰痛を緩和・予防するため、注目したのが被介護者の“残存能力”(たとえば、立ち上がることが困難なほど足の筋力が低下していても、手すりをつかめばお尻を少し上げられるくらいの筋力は残っているといったもの)です。入居者それぞれに能力評価を実施し、自立支援も考慮して残存能力の活用と、介護職への負担軽減の観点から介助方法を提案しています。

職員全員が個々の入居者の能力を把握することで、移乗介助が楽になったという現場からの声もあるとか。入居者からも、以前より動作がスムーズになったと、うれしい評価も聞こえているそうです。

<企業等間連携部門>
ミズノ株式会社【(株)ベルク様との労働災害防止に向けた取組】

コンソーシアムの役割のひとつでもある、企業連携のサポートに関わる部門。スポーツ関連商品で100年以上の歴史を持つミズノが取り組んだのは、”ワークシューズ”の開発。スポーツシューズ製造で培った技術を活用し、5年の歳月を費やしたといいます。

そのワークシューズを導入したのは食品スーパーマーケットチェーンの「ベルク」。青果・グロサリー部門の職員2500名へ貸与するシューズとして、ミズノとの取組を始めました。結果、「疲れにくい」と履き心地の評価も高く、台車の巻き込みや転倒事故も、昨年比で78%減少しました。ミズノは今後もワークシューズ領域での社会貢献を進めていくそうです。

<特別賞>
特定⾮営利活動法⼈FC.ISE-SHIMA【地元サッカークラブを活⽤した啓発活動〜伊勢労働基準監督署様との連携〜】

転倒・腰痛防止のため、地元のサッカークラブが地域の労働監督署と連携してストレッチ動画を配信したり、ホームでの試合を「転倒災害防止デー」として開催したりと、地元との関わりの強いクラブならではの啓蒙活動が評価され、特別賞が贈られました。

労働災害は社会問題。まずは知ることから始めて

トークセッションの様子

アワードでは、プレゼンテーターとして授賞式に参加したアンバサダーの土田さんも長年腰痛に悩まされているそうで、「(番組の)ひな壇では信じられないくらい長時間座らされることもある」とコメント。実際、長時間座って作業するオフィスワーカーにも腰痛持ちは多いことでしょう。

労働災害というと、体を使った職場での事故をイメージしますが、厚生労働省が推進するように、あらゆる職場で、家庭で、地域で対策・防止をする必要があります。そのためには、まずはどのような災害があり、どのような取組で防止されているのか知ることが重要です。

ゴールド賞以外の取組(※2)についてもぜひご覧いただければと思います。

※2)参 厚生労働省「アワード」SAFEコンソーシアムポータルサイト

ライター

大倉奈津子

ライター/プランナー/エディター

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