ワーママはつながりの中から元気になれる 博報堂リーママプロジェクト
ワーママの話はとかく理想論になりがち。でも、「どうにかなる!」「もっとダメでいい!」「ホコリでは死なない」などリアル、かつ元気になれる言葉が綴られている本が、博報堂リーママプロジェクトがランチケーションなどの活動を元にまとめた「リーママたちへ 働くママを元気にする30のコトバ」(角川書店)だ。「ワーママたちはつながりの中から元気になれる!」と、自らの経験を元に様々な活動を行う博報堂リーママプロジェクトの4人の皆様に、ママでありながら働くことのメリットや心をラクにする考え方などを伺いました。
ワーママはつながりの中から元気になれる
左から 村田さん、田中さん、森さん、高橋さん
宮﨑リーママプロジェクト発足のきっかけは?
田中さん(以下、敬称略 田中)弊社ではキャリアデザイン研修というものが年代別に組まれているのですが、宿泊を伴った研修のため、30代のママ層がほとんど参加できなかったんです。そこで別途、受講できなかった人を集めて、宿泊を伴わない研修が開催されました。
レゴブロックを使って過去・現在・未来を自由に創作し、理想とする未来を阻む自分のバリアを探りながら、やりたいことを成し遂げるために何が必要なのか、「自分の人生視点」と「組織・会社視点」を重ね合わせながらキャリアをデザインするというプログラムだったのですが、多くのママ社員がそのオブジェに「子ども」を入れていたんです。自分の未来を考える上で、子どもという存在を常に意識する一方で、ママたちはそれぞれキャリアをどうしたらいいのか悩んでいたわけです。その研修で初めて「ママである自分」と「仕事人としての自分」を踏まえた上で、語り合うことができたのです。その2つの役割をシンクロさせて堂々と話せる場があることは「とても気持ちがいい!」ということが分かり、参加していた4人のママ全員、モヤモヤと悩んでいたことがスッキリ晴れました。
そうした経験から、ママはつながりの中から元気になれる。自分たちの言葉でシェアしていくことで、モチベーションをアップできると実感しました。また、ママ同志目標を持って話し合い、共有するものを作ることは社会的ニーズがあると感じました。
自分たちの経験を元に具体的にアクションを起こして行きたいよね…と、社内のアイデア応募型の自主活動研修制度に応募して、2012年に博報堂の企業内大学「HAKUHODO UNIV.」の活動としてリーママプロジェクトがスタートしました。
高橋さん(以下、敬称略 高橋)まずは企業対企業という形で50社くらいとランチケーションを行った後、1人でも参加したいというニーズにお応えできるオープン型ランチケーションやイベントへと変化し、これまで10回以上開催しています。
他企業でワーママを対象にした研修型ランチケーションも行っていますね。それらの活動がメディアに取り上げられ、京都府や東京都など、男女共同参画社会を目指す行政からお声がかかるようになり、各種の研修などを行っています。
リーママプロジェクトは現在、様々な研修・イベントを開催されていますが、参加者に伝えたいことは?
高橋私自身が出産し、仕事と育児を両立しはじめたばかりの頃は社内でママ同志がつながっておらず、相談できる仲間がいなくて孤軍奮闘の日々でした。だからこそ、ワーママ同士がつながり、話をするだけで元気になること、悩みを笑って吹き飛ばせる!ということを伝えていきたいし、救ってあげたいと思っています。働き方で悩んでいる人には、まずはつながることを経験し味わってから、選択をしてほしいです。
森さん(以下 敬称略 森)私は3人の子どもがいるのですが、やはり働き方で悩んでいました。ちょうど仕事で村田(後で登場するリーママプロジェクトメンバーの村田さん)とやり取りする機会があり、話を聞かせてほしいと相談したところ、リーママの定例会に誘ってもらったのが参加のきっかけです。初めは見学のつもりだったのですが、霧が晴れたように悩みが吹き飛んだのです。みんな同じように悩みながら、モチベーションをもって子育てもそれなりに両立している。私ももう少し頑張ってみようと思えました。リーママプロジェクトの活動の中で、外部の人ともコミュニケーションをとることが増えましたが、やっぱり悩んでいる人がいる。そんな人をひとりでも救えたらなと思います。
リーママメンバー初の管理職、お母さんは管理職に向いている
宮﨑村田さんはリーママプロジェクトメンバーで初めて管理職になったとのことですが、打診されたときに戸惑いはありましたか?
村田さん(以下 敬称略 村田)もちろん、ありましたよ。当時、在宅勤務のような制度を利用しようかなと検討していた時期でしたし、まだ子どもが小さいので残業をして席について部下を見ていくことはできません。ただ、自分がそれを断ってしまうと、これからママで管理職候補の女性が出たときの道を阻むことになると考え、引き受けました。
実際、管理職になってどうですか?
村田去年の4月から管理職になったのですが、深夜まで仕事をするということは絶対できないし、睡眠時間が6時間を切ると翌日の集中力にも響いてくるので、定時に帰るということを貫いています。仕事をしている時間の長さではなく、効率だと思っているので、勤務時間はかなり集中して業務をしていますね。
それに、宿題をやる気のない子どもに、どういう言葉をかけたらモチベーションを上げられるのか?ということを考えると、部下の育成と一緒だなと思うことがあります。そう考えると、お母さんは管理職に向いているのではないでしょうか。
村田さんはワーママとして働いてから何年くらいで管理職に?
村田1人目を2006年に、2人目を2011年に出産しているので、ワーママ歴としてはちょうど10年です。ワーママになって9年ほどで管理職になったわけですね。
弊社の勤務時間は9時30分〜17時30分なのですが、上の子が小学校に上がるタイミングで、「鍵っ子にしてしまうのは嫌だな」と思い、一度勤務を見直しました。朝の子どもたちの支度や送迎を夫に任せ、帰りのお迎えと夕食は私。上司に「残業はできないので、出社時刻を早めたい」と相談し、毎日定時には退社をしていました。ただ、時短は使わずずっとフルタイムで働いています。
男性の長時間労働を批判する一方で、女性側は家事・育児にものすごく時間をかけている
ランチケーションの様子
宮﨑通常業務だけでも多忙ななか、さらにはリーママプロジェクトの活動をするその原動力はなんですか?
村田上司ともよく話すことがあるのですが、リーママプロジェクトは仕事にもとても生きています。私は法務でマネジメントの経験しかないので、現場のことが分かるようで分かってない部分があるんですね。ただ、何もないところからコンテンツを作り、広く知らせて売るという流れを見ることによって、より現場のことが分かってきた部分がありますね。
ママになってからは、優先順位を付けてやっていますが、さらに机の上をきちんと整理したりすると仕事時間はかなり短縮できるんですよ。できることからやり、できないことは切り捨てています。家事については、掃除をまず切り捨て、食事は手抜きになりますが、まあ子どもたちがおいしいと言ってくれればいいかと(笑)。効率を考えるようになる。今までのムダな残業は何だったんだろう?と思うことがあります。
田中なんでもオーバースペックなところはあると思います。先日、東京都生活文化局と共に実施した「笑顔で働き続けたいママへの応援プログラム」で、詩人で社会学者の水無田気流さんがいろんなデータを出して下さったのですが、皆さん“男性が長時間労働”だと思っていますが、女性側は家事・育児にものすごく時間をかけているんですよ。日本人の気質として、ついついやり過ぎてしまうのもあるのかもしれません。仕事も家事・育児もどちらも「できるところ」だけをやることでもっと削ぎ落とすことはできるんだと思います。
森ここ数年で家事・育児時間は伸びているというデータもあるようです。研修の参加者からは、キャラ弁作成に時間がかかる等、「SNSでのリア充感」がそれに拍車をかけているのかもなんて意見もありましたね。
高橋良妻賢母の呪縛というのもあると思うんです。社会人として・妻として・母としても、それぞれ100%を求めてしまって、できないならやめようと思ってしまう。リーママに入ると、みんな同じことに悩んでいて、100%じゃなくて60%でもいいのでは?を気がつき、楽になります。
村田私達が専業主婦を選択していないということは、悩みながらもそれなりに両立した生活を楽しんでいるんだと思います。うちは、義父母にすごく協力してもらっているのですが、義父母が「こんな風に孫たちと頻繁に関わらせてもらってありがとう」と言ってくれるんです。こちらもありがたく、義父母も喜んでくれるという関係は、働きながら子育てをするという選択をしているからこそ生まれているわけです。だからこそ、もうだめだ!と思う人でも、やり方があるかもしれないことを伝えていきたいです。「助けて」と言うと、助けてくれる友人や知人、地元のネットワークなんかが生まれるんですよ。助け合いだったり、地元に根ざしていったり。それは老後になった時も役に立っていくと思います。
高橋先ほどの、リーママプロジェクトをやるモチベーションという意味で言うと、自分の娘が将来大きくなったときに、今まさに自分が感じている両立の大変さを味わわせたくないという思いで活動している人もいます。息子には自立できるように、ですね。
母としてのロールモデルも示していきたいとおっしゃっていましたが、具体的にどういうことですか?
田中特に東京という環境にいると、お受験や習い事など「しなければいけない気がするもの」が多くあり、何でもかんでも母親がお膳立てしなければならないと思い込んでしまうところがあります。でも、そこまで無理しなくても子どもは自分で育つのかもしれません。
キャリアとしてのモデルでなく、良妻賢母に代わる母としての新しい歩み方、自立した母の歩み方を見せていけるといいなあと思います。
村田夫婦としての、さらには祖父母含めた家族のロールモデルになりますよね。
副業やリーママ活動は仕事との相乗効果があり、国の成長に繋がっている
リーママプロジェクトが定期的に行うイベントにて
宮﨑リーママプロジェクトの本は、理想論でなく本音で語られているところが魅力で、育休復帰する前に読んでもらいたい本だなと思いました。
田中ランチケーションで語られた言葉を時系列でまとめているんですけどね。そこからいろいろな糧言葉(※)が出て来ています。
※糧言葉=リーママプロジェクトのランチケーションなどで生まれた「ママを元気にするちょっとした一言」のこと
復帰前って、すでに疲れていますよね。育休といっても休みではなく家で働いている。そして、自分が家事をやるんだという暗黙のルールみたいなものを感じるんです。これに仕事が加わるとどうなるんだろうという不安はみんな持っていますよね。
村田法務の業務領域でも、ワークライフバランスは最近頻繁に取り上げられるテーマです。私はたまたま仕事をしていたら母になり、辞めていないからここにいるのですが、それでもお声がかかってみなさんの前で話をするというのは不思議ではありますね。
今の時代の流れをみると、ママを含め、副業など「何かをしながら仕事をする」という風に変わってきていると感じます。副業やリーママ活動は仕事との相乗効果があり、国の成長につながっていると思います。
育休から復帰してくるママは不安を抱えています。どう接することによってモチベーションをあげて使うのか、やはり上司にかかってきます。
イクボスという動きができてきたことは、希望ですよね。
村田不安もありながら活躍したい、できるという思いを抱えて復帰してくるママは、上司がかける言葉やマネジメントによってうまく走ることができる。それを上司がしっかりとわかっていれば、もったいない使い方にならないと思います。限られた時間の中で成果をあげるためにどういった使い方をすればいいのかを学ばないと変わっていかないのです。
高橋娘さんがワーママになったことで、子育てと両立しながら働くことを理解してくれる上司も増えているようですね。
「ほどほどに」は、良妻賢母を目指して過度に頑張りすぎないという意味。決して仕事の手を抜こうと思ってはいない
宮﨑みなさんの心に残っている救われた糧言葉はありますか?
森ファザーリングジャパンの安藤さんがワークライフバランスについておっしゃっていた言葉なのですが、「バランスを取ろうとするから崩れるんだ。リュックサックにすべて詰め込めば安定するじゃないか」と。それを聞いて、今までは考えすぎていたんだなと思いました。
最後に皆さんに伝えたいことを!
田中国が一億総活躍社会を目指しているいま、ママたちが「ほどほど頑張ろう」と言っているのは決して仕事の手を抜こうと思っているのではありません。家事育児もすべて含まれており、良妻賢母を目指して過度に頑張ることをしないという意味です。そういった生活スタイルを目指していきたいなと思います。
仕事も育児もリーママプロジェクトも!パワフルに活動される4人の皆さんでも、相談する人がいなかった時は孤立奮闘して悩んだ時期もあるとのこと。誰だって悩んでいるのです。だからこそ、まずはつながることからはじめてみましょう。そして辛い時は、是非リーママプロジェクトさんの「糧言葉」にふれてみて下さい。きっと元気になれる言葉があるはずです。
プロフィール
田中 和子さん、村田 佳與子さん、森 真奈さん、高橋 志保さん
博報堂リーママプロジェクト
田中 和子(長男10歳、長女8歳、次男4歳)
営業職を経て、新規事業開発・提携事業推進などを担いながら3度の出産を経験。現在ファシリテーターとして企業向けワークショップや女性活躍向けの研修を遂行。好きな糧ことば「母がイキイキとしていることが、子どものために一番大切」。
村田 佳與子(長男10歳、次男4歳)
入社以来ずっと法務室。関西勤務のときに結婚し、そのまま単身赴任。帰京後2006年に長男、2011年に次男を出産。好きな糧ことばは「掃除は月1回!」と「あなたたちのことは全面的にサポートするわよ!」という義母の言葉。
森 真奈
博報堂DYメディアパートナーズにて、テレビ局や新聞社を担当。3度目の復帰で管理部門へ。現場目線と母ちゃん目線でメディア担当を支える立場に。糧ことば「母乳以外は俺が勝っている」旦那の力強い言葉に心身ともに支えられている。
高橋 志保(長男6歳、長女2歳)
メディアマーケティング、ビジネス開発職などを経て、現在博報堂広報室にて主に海外向けの広報活動を担っている。2度の長期入院を経て、2009年長男出産、2014年長女出産。好きな糧ことば「子どもの数だけ夢がみられる」。
文・インタビュー:宮﨑 晴美
ライター