1. トップ
  2. 組織・チーム
  3. 【ライフネット生命 代表取締役会長 出口治明さん】 「男は仕事、女は家庭」の時代を生きた団塊世代の男性が、育児と両立できる会社を創った理由とは?
2016.11.09 2023/05/31

【ライフネット生命 代表取締役会長 出口治明さん】
「男は仕事、女は家庭」の時代を生きた団塊世代の男性が、育児と両立できる会社を創った理由とは?

FacebookTwitter
【ライフネット生命 代表取締役会長 出口治明さん】 <br>「男は仕事、女は家庭」の時代を生きた団塊世代の男性が、育児と両立できる会社を創った理由とは?

ライフネット生命のトップを務める出口治明さんは、1948年生まれ。働き盛りの頃は「モーレツ社員」「24時間戦えますか?」などのフレーズが行き交い、「男は仕事、女は家庭」という価値観が一番色濃かった時代でした。
ところがライフネット生命を創業すると、女性も男性も子育てを楽しみながら働ける環境を整えたのです。それもそのはず、ライネット生命の経営理念は「保険料を半分にして、安心して赤ちゃんを産み育てられる社会にしたい」。なぜ出口さんは、子育てを大切にする社会を目指しているのでしょうか?

男性の育児休業取得は当たり前! ライフとワークを両立できる制度&風土

子育て部の様子

子育て部の様子

LAXIC編集長 宮﨑(以下、宮﨑):御社には、仕事と育児を両立させやすい制度が揃っていると聞いています。

出口会長(以下、敬称略 出口):たくさんありますよ。たとえばフレックス制(コアタイム10:00〜15:00)を取り入れ、保育園に預けてからでも出社しやすくしました。それにともない、朝礼は10時30分スタートに変更。9時からだったら、参加できない人も出てきますからね。

宮﨑:確かに、出勤して朝礼が終わっていたら“取り残された感”がありますね。子育て中の社員を大切にしている理由をお教えください。

出口:ライフネット生命を立ち上げた理由は「保険料を半分にして、安心して赤ちゃんを産み育てられる社会にしたい」というものです。だから子育てをしている社員を大切にするのは当然の事です。従業員数は約140人ですが、毎年5~10人くらい子どもが生まれていますよ。もちろん、女性も男性も関係なく育児休業を取ることができます。

宮﨑:創業当時から制度は整っていたのですか?

出口:ライフネット生命はベンチャー企業なので、最初の頃は会社を軌道に載せるので精一杯で、制度としてはあまりたいしたものはありませんでした。でも、子育てをサポートしたいという風土は当時からありました。だから制度がなくても臨機応変に勤務時間などを調整していました。むしろ、大事なのは制度より風土ですね。育児休業や時短の制度があっても、使えない企業が多いという話も耳にします。

宮﨑:残業も少ないのですか?

出口:子育て中の社員は、男女問わず18時までに退社するなどしています。もちろん役職は関係ありません。男性の執行役員や女性の部長も同様です。
当社は自主的な社員の部活動がとても盛んですが、その中に「子育て部」というのがあります。みんなでお昼を食べながら、子どものおもちゃや服を譲り合ったりしているのですが、パパとママが集まると自然と子育ての悩みや心配事を話すようになる。「みんなが通る道なんだ」「うちの子だけじゃないんだ」とわかるだけで、気持ちが楽になりますよね。そんな場を、社員が自らつくり出しています。経営者として、とてもうれしいことです。

宮﨑:すばらしい環境ですね。 子どもがいない社員から不満が出るなんてことはありませんか?

出口:人間は、知らないものは愛せません。だから年に一度、家族を職場に連れてくる「ファミリーDAY」を開催しています。子ども、奥さん、旦那さんはもちろん、彼氏彼女でも同性のパートナーでもOK。誰もが、誰かに支えられて仕事をしています。会社の背景を知り、互いの理解を深めることを目的にしています。会社や仲間を知ってこそ、家族は社員をサポートできるのです。

長時間働くだけで経済成長する時代は終わった。
これからは「人・本・旅」をインストールして、アイディアで勝負!

int63_1

宮﨑:出口さんは、高度経済成長を支えた世代で、当時はワークライフバランスなんて言葉はなく、遅くまで働くことが美徳と見なされるような時代だったと思います。そんな時代を経て、「子育てのしやすさ」を追求されるようになったのはなぜなのでしょうか。

出口:僕は本と旅ぐらいしか趣味がないのですが、あらゆるジャンルの本を読み漁ったり歴史を学んだりしているうちに、「人間は何のために生きるのか」という、根本的な疑問が湧いてきました。それを突き詰めていくうちに、生物は95%のエネルギーを次世代育成のために使っていることがわかったのです。「仕事とデートのどちらが大事なんだ?」なんて聞くオジサンがたまにはいるらしいのですが、考えるまでもなくデートが大事に決まっている。
それに、新しい命が生まれるのは理屈抜きでうれしいものです。たとえばお正月の親戚の集まりで、10年間赤ちゃんが生まれなかったら寂しくありませんか? もちろん、「産めよ増やせよ」を推奨しているわけではありません。生むか生まないかは100%個人の自由です。でも、生みたいのに生めない社会は明らかにおかしい。

宮﨑:子育てには男性の協力が不可欠ですが、出口さんはイクメンだったのですか?

出口:実はほとんど妻に任せきりでした。でも当時は、それが時代にマッチしていたのです。戦後の日本は、工場主導で復興を果たそうと考えていました。工場は24時間稼働させたほうが生産性が上がるから、力と体力で勝る男性が有利。男性が長時間労働をして女性が家庭を担う性分業がいちばん効率的でした。妻が「メシ、風呂、寝る」を一所懸命ケアしてくれ、おかげで仕事に集中できました。
そんな仕事一筋の生活でも、バブル崩壊までの平均成長率は年間7%。10年で所得が倍になる計算ですから、一心不乱に働く価値がありました。

宮﨑:今は、働いても働いても給料が上がらない時代になりました。

出口:時代が変わったのに、働き方が変わらないのが大問題。次のような興味深いデータがあります。日本人の1年間の労働時間は2000時間、長期休暇は1週間。一方、フランスやドイツの労働時間は1400時間、長期休暇は1ヶ月。でも経済成長率は日本がここ数年の平均では0.5%、ドイツやフランスが1.5%です。どちらの働き方がいいですか?

宮﨑:もちろん、ドイツやフランスですね。

出口:たとえば、出版社に2人の編集者がいたとします。Aさんは8時から22時までデスクにかじりついているけど、担当する本が全く売れない。一方Bさんは10時にのんびり出社して、仕事を抜け出してスタバに行ったり18時に帰社して飲みに行ったり。でもベストセラーを年間3~4冊は出せる。どちらが評価されるべきでしょうか?

宮﨑:もちろん、Bさんですね。

出口:でも、これまでの日本の社会はAさんを評価してきたのです。なぜなら工場はその場にいなければ生産ラインが止まるので仕事にならず、「職場にいる=仕事をする」だったからです。
でも今は、状況が違います。工場はどんどん新興国へ移転し、アイディアで勝負するサービス産業中心の時代になりました。職場にいるだけでなく、Bさんのようにスタバや飲み屋で色々なものを見たり人に会ったりして、刺激を受けなければならない。そうしないと、アイディアが出てこない。
僕は「人、本、旅」の生活が大事だといつも言っています。さまざまな価値観に触れることで、視野が広がるからです。子育ても、今までとまったく違う経験をする大きなチャンス。そこで得たものは、必ずビジネス上でもプラスになります。

声を上げれば社会は変わる。
投票に行こう。「保育園落ちた日本死ね!」ブログを思い出そう。

宮﨑:出口さんのような経営者ばかりなら、日本はもっと良い国になると思います。なぜ、非効率的な長時間労働が幅を利かせているのでしょうか?

出口:リーダーたちが過去の成功体験を忘れられないからです。長時間働くことや、「メシ、風呂、寝る」が与えられて当然の世界で成果を上げて偉くなってきたオジサンたちが制度を守っている。実は男女雇用機会均等法の施行以降、女性の正社員の実数は減ってパートやアルバイトばかりが増えています。当然ですね。男性のように2000時間も働きながら家庭のことをすべてやるなんて、ごく一部のスーパーレディーにしかできませんから。女性を男性の土俵に乗せるのではなく、働き方を根本的に変える必要があります。

宮﨑:ぜひ変えたいです。変えなければ働くママは壊れてしまうくらいです。でもどうすればいいのでしょうか?

出口:良い国をつくるには良いリーダーが絶対に必要です。それを選ぶには、投票しかありません。投票率が低いと、当選できるのは組織票や後援会がある人のみ。結果、2世3世の議員が増える。実は先進国で2世3世の議員が1割を超えているのは日本だけです。4~5割と、約半分。ほとんど世襲制です。民間の感覚だとおかしいですよね? 彼らは思い切ったことをやらないから、社会がどんどん硬直化するのです。

宮﨑:「投票してもどうせ何も変わらない」という若い世代の声も聞きますが、それについてはどうお考えですか?

出口:投票率が上がれば、社会は必ず変わります。現在の低い投票率の下でも、ここ何年かで与党は自民党→民主党(現・民進党)→自民党と、180度ずつ変わっている。ちょっと風が吹けば社会は変わるのだから、若い世代がこぞって投票すればどうなるのかを想像してみてください。

宮﨑:投票率の低さは、意見や主張を好まない日本人の気質が影響しているのでしょうか?

出口:いやいや。先人たちは、命がけで社会に異を唱えてきました。たとえば室町時代の「二条河原の落首」を知っていますか? 京都の二城河原に掲示された、政府への不満や風刺のことです。現在の意見広告のようなものですね。見つかって斬られるリスクを背負いながらも、世に訴えかけた気骨のある人物がいたのです。こうした先人たちの積み重ねがあり、私たちは言論の自由を手に入れました。特に今は、個人が簡単に発信できるツールを持っています。何かわかりますよね?

宮﨑:インターネットですね。

出口:そう。お金をかけず命の危険もなく、自由に意見を言える。そんな恵まれた時代に生きているのだから、ブログでもフェイスブックでも何でもいいから、声を上げることが大切です。
代表的なのは匿名ブログの「保育園落ちた日本死ね!」ですね。ネットの声が国を動かし、保育士の待遇改善が実現しました。
このブログを書いた人も、まさかこんなことになるとは思っていなかったはずです。でもなんらかの歯車がかみ合えば、一気に莫大な力になる。「どうせダメ」と思わず、発信し続けることが大切です。

宮﨑:最後に、働くママたちにメッセージをお願いします。

出口:時代が変われば、働き方も生き方も変わる。これは当たり前です。「女性が家庭で育児をするのが日本の伝統」なんて言うオジサンたちがいますが、長い歴史を見れば専業主婦のほうがむしろイレギュラーです。原始時代、狩猟採集をしている間は群れの中で子どもを交代で見ていたし、文明が進んでからも親戚や地域で育てる集団養育が普通でした。だから保育園に預けることに罪悪感を覚える必要は全くありません。少子化が進み労働力が減る中、男女ともに働き手と次世代育成の両方をやらなければ社会が回らない。働きやすく生きやすい時代をつくるためには、女性にしわ寄せが集中する社会システムに疑問を持ち、長時間労働を是正するためにどんどん声を上げていってください。

宮﨑:ありがとうございました!

出口さんは無類の本好きとしても有名です。次から次へと飛び出す豊富な知識と柔軟な発想は本当に興味深く、取材を忘れて聴き入ってしまうほど。「人、本、旅」が大事とおっしゃる通り、人に会い、本を読み、旅をして、見識を広げてこられたんだろうなと思いました。
忙しいワーママも、旅は無理でも「人」と「本」ならすぐできると思いませんか? ママ友以外とランチをしたり新しいジャンルの本を手に取ったりと、ちょっとした行動で何か気づきを得られるかもしれません。

プロフィール

出口 治明さん

ライフネット生命保険保険株式会社 代表取締役会長 

1948年三重県生まれ。京都大学法学部を卒業後、1972年に日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長などを経て同社を退職し、2008年にライフネット生命保険を開業。13年6月より現職。著書に『働く君に伝えたい「お金」の教養』(ポプラ社)、『世界一子どもを育てやすい国にしよう』(ウェッジ)など多数

文・インタビュー:宮﨑晴美(インタビュー)・平田志帆(文)

ライター

ラシク 編集部


この記事をシェアする

FacebookTwitter