キャリアブランクを乗り越えるコツ。
大人力 × 人生経験で「大人ポテンシャル人財」を目指そう!
育児や介護、病気療養、はたまた家族の転勤帯同など、離職を余儀なくされる場面は多々あります。終身雇用の時代ではなくなりつつあるとはいえ、実際にキャリアが中断すると「ブランクを経て、また働けるのだろうか?」という不安が頭をよぎるものです。かくいう私もその一人。夫の海外駐在帯同のため退職し、ブランクを経験しました。退職する前も、海外で生活している最中も、帰国後のキャリアのイメージがつかず悶々としたものです。
最近、復職不安を抱える私たちにピッタリな言葉に出会いました。その名も、「大人ポテンシャル人財」。ブランク経験者が目指したいキャリアの道筋について、「大人ポテンシャル」というキーワードを元に考えてみたいと思います。
ブランク経験者が目指すべきは、大人ポテンシャルな採用枠!
「大人ポテンシャル」という言葉を聞いたのは、株式会社ミライフ代表取締役・佐藤雄佑さんと、元・駐在妻(以下、駐妻)で現在株式会社ミライフに勤務する堀加奈子さんによるトークイベント(※)でのことでした。
「日本ではそれなりに働いてきたつもりだけど、駐妻になったら海外での慣れない生活、育児、家事に追われる日々で、仕事に活かせるような特筆すべきスキルなんて何もない…」。そんな“駐妻あるある”なお悩みを耳にした佐藤さんがふと、口にしたのです。
それって、大人ポテンシャル人財ですね。
大人ポテンシャル!? 佐藤さんによると「話しながら思いついた造語」とのことでしたが、なんてインパクトのある言葉なのでしょう。さすが、「未来志向型キャリアデザイン」をコンセプトに人材紹介を手がける佐藤さん。モヤモヤを抱える私に希望を持たせてくれました。
みなさんも、「ポテンシャル採用」という言葉はきっと聞いたことがあると思います。潜在能力を重視し、教育や実践を経て成長する可能性が見込まれる人材を採用することを指し、主に新卒や第二新卒採用がそれにあたります。
一方、転職市場は即戦力採用・経験者採用などと呼ばれ、採用後は最低限の研修のみで実践に入れる人材の獲得を目指すものです。
当然のことながら、私たちは新卒や第二新卒ではありません。それなりに社会経験があるとはいえ、ブランクがあるので即戦力とみなしてもらえない、いわば宙ぶらりんの立ち位置にあるわけです。復職の上で立ちはだかる第一の壁はまさにこの立ち位置なんですよね。
でも、逆にいえば、ブランクがあるだけで社会人経験はあり、最低限のスキル、組織内での立ち振る舞いや折衝能力など、私たちには身につけた「大人力」があります。ブランクの期間だって、仕事こそしていなくても、海外生活で培った環境変化に適応するスキルや人生経験がたくさんあるはず。それを武器に、未経験分野でも活躍できる可能性を秘めている… それが「大人ポテンシャル」なのです。
今は無理だけど、いつかまた働きたい。そんな私たちの道筋は、この大人ポテンシャルにあるのではないでしょうか。
(※)「駐妻は『大人ポテンシャル人財』」 主催:キャリア支援・人材紹介サービスCAREER MARK(キャリアマーク)
大人ポテンシャル人財ってどんな人?
では、具体的にどういう人が大人ポテンシャルな人財とみなされるのでしょうか。数々の駐妻のキャリア支援を実施してきたCAREER MARKに、「この方は大人ポテンシャル人財だ!」と感じる事例をお伺いしてみました。
Aさん
・大学卒業後、大手教育系企業にて6年間勤務し、マルチタスクの環境下で外部スタッフのマネジメントを行う。
・ロンドンに3年駐在帯同。帯同中に現地コミュニティで英語を用い積極的に交流を広げ、イベントの企画運営を行う。
・帰国後はジャーナリスト事務所にアシスタントとしてパートタイムで復職。
<ここが大人ポテンシャル!>
大手企業で体系的に教育されたことで培われた社会力があり、マルチタスク可能。積極的に自ら世界を開拓していく意欲・コミュニケーション力がある。この仕事に興味があり、やりたいという前向きな姿勢が評価できる。
Bさん
・大学卒業後大手銀行に総合職入社。5年間の勤務のうちに支店にて法人営業担当として融資業務、企画部門にて法人向けプロダクツの企画・営業を経験する。
・東南アジアに3年半駐在帯同。英語を学ぶ。
・帰国後は外資系シンクタンクにフルタイム勤務で復職。
<ここが大人ポテンシャル!>
金融機関ならではの着実な事務遂行力と、帯同中に英語力を培った成長意欲がアンラーニングスキル(既存の知識や経験を手放し、再構築できるスキル)があると思わせる。
Cさん
・大学卒業後、外資系メーカーにて消費者リサーチ・マーケティングに約7年間従事し、北東アジアでのブランド構築に携わる。
・イギリスとオランダに計7年間駐在帯同。世界各国で様々な人々とその価値観に出会う。海外では日常茶飯事のトラブル(家の設備や車の故障、旅行先でのトラブルなど)に対処してきた。
・帰国後はIT企業の会社秘書、また新規事業のプロジェクトリーダーとしてパートタイムで復職。
<ここが大人ポテンシャル!>
ダイバーシティな環境下での仕事経験。海外生活で身につけた変化受容力、柔軟性、くじけない粘り強さがある。
Dさん
・大学卒業後、大手人材紹介企業に入社し、新卒採用支援業務を担当。その後コンサルティング会社を経て法律事務所にて弁護士秘書として勤務。
・シカゴに2年駐在帯同中、自ら就労ビザを取得し、現地法律事務所にて語学力を活かした幅広い業務を手がける。
・帰国後、英語教育系企業にフルタイムの業務委託で復職。後に正社員となる。
<ここが大人ポテンシャル!>
フロントからバックオフィスまで網羅的に手掛けた経験。就労ビザを取得し、現地就労を実現させた目的達成力と行動力。自ら仕事を取りに行く前向きな姿勢。
みなさん、職務経歴や勤務年数はバラバラですね。トークイベントに登壇した佐藤さんは言います。
ブランクの有無に関わらず、会社が変われば環境が変わるわけで、どんな人でも全く同じ仕事ができるわけではないですよね。そういう意味で完全なる即戦力ってないと思うんです。前職の働きぶりが、“次の仕事でも再現性がありそう”と想像できるかどうかが大事ですね。
なるほど、「この仕事でも活躍してくれそう」、「エネルギーをもって取り組んでくれそう」、など仕事のこなし方が目に浮かぶかどうかが、大人ポテンシャル採用においては何より重要といえそうです。
駐妻の強みって? 駐在帯同中でもできること
先ほどご紹介した大人ポテンシャル人財の事例と、トークイベントにて経営者である佐藤さんと、佐藤さんの元で働く元・駐妻の堀さんの話を聞きながら、「大人ポテンシャル」に共通する3つの特徴が見えてきました。
まずは、佐藤さんも明確におっしゃっていた変化対応力。
今は変化の時代。企業も事業がどんどん変わり、職種や仕事内容も変わっていきますよね。そうすると、柔軟で変化対応力が高い人こそが、能力があるということになると思いませんか。駐妻の皆様は、常識が通用しない海外での暮らしを余儀なくされて、いやでも変化しなければならなかったはず。
慣れない海外暮らしでがむしゃらに生きてきた“だけ”と思いがちですが、そこで生きていけた経験こそが柔軟性の証だったとは。希望が持てますね!
もうひとつ、佐藤さんはヒントをくださいました。それが“なんとかなるさ”力。
“私なんかこれしかできない”と思ってるより、“やったことないけどなんとかなるかな”って思ってる方が、毎日刺激があるし働いていて楽しいんじゃないかな。幸福度も高いと思う。なんとかなるさ力、はポテンシャルそのものだと思います。
現に「一緒に働く元駐妻の堀さんも、前例のない仕事でもなんでも、快く受けてくれる」と言います。
堀さんは「言葉だけでなく社会の仕組みそのものが違う海外での暮らしに比べたら、日本で何か新しいことを任されるのは全然苦ではありません」とにこやかに語ります。
確かに一度海外暮らしを経験すると、行政手続も日常生活もすべて日本語で済む、というだけで感動もの…! “なんとかなるさ”力、是非武器にしていきたいですね。
そんな堀さん、前職は大企業の正社員として働いていたそう。今は2人のお子さんの育児を第一に、フルタイムではない在宅ワークというフレキシブルな働き方をしています。イベント出席者から「復職の際、“大企業の正社員”ではない道への不安はありませんでしたか?」という質問を投げかけられ、こう回答していました。
子育てを優先していて、子どもの生活を変えてまでフルタイムで働くという決断はできませんでした。また、離職期間が長いので復職が難しい自覚もありました。そんなときに佐藤からうちの会社でやってみないかと声をかけられ、それに貢献したいという気持ちが何より強かったんです。会社の規模や業務内容が前職と違うことは全然気にならず、せっかく機会を得られたので是非やってみたいという気持ちでした。
思えば、駐在帯同をしたのも海外で生活してみるチャンスだから、という方も多いのでは? 海外生活でも、その土地の言葉を学んだり、観光用ではなく現地の方々用のマーケットに行ってみたり、“せっかくなら”と何度も一歩踏み出す出来事があったはず。チャンスの神様には前髪しかないと言いますが、とっさに前髪をつかめる機動力も大人ポテンシャル人財の特徴といえそうです。
変化対応力、なんとかなるさ力、チャンスをつかむ行動力。これらはすべて、仕事をしていなくても経験できることです。駐在帯同中も、着々と大人ポテンシャルポイントを高めていきたいですね!
ブランクではなく人生経験! まずは一歩を踏み出してみよう
イベントの最後に、登壇者の佐藤さんと堀さんより、また働きたいと願う駐妻の皆様へエールをいただきました。
実はブランクという言葉はあまり好きではないんですよね、今まで散々話をしておいてなんですが(笑) 自分自身も育休とって半年仕事休んでるんです。でもそれはブランクなのか? 人生経験としてはめちゃくちゃよかったと思っています。例えば大手企業で働くと異動していろんな仕事を経験していきますが、それはブランクではないですよね。育休や駐在帯同だって同じこと。人生経験や人としての幅が広がるのであれば、いいと思います。また、未経験なことも一度やってしまえば経験者と言えます。前職と同じというのにこだわらず、経験を積みにいくと考えて踏み出してみてはどうでしょうか。(佐藤さん)
ブランクやいろんな理由で一歩踏み出しにくいのであれば、最初からベストを求めるのではなく、ベターなところでスモールステップからはじめてみるのがいいのではないかなと思います。一歩進められれば、模索しながら間口を広げていくことができます。条件ではなく、自分が何を求めて働きたいと思っているのか?を振り返りながら、探してみるといいのではないかと思います。(堀さん)
離職期間が長いほど、経験者枠・即戦力枠では見てもらえない。残念ながらそれは事実です。でも、私たち自身がそれを必要以上にネガティブに捉える必要はないのかもしれません。一度仕事を離れたからこそ、ライフステージの変化に合わせ、育児と仕事のバランスを見つめ直した働き方にシフトできるのも、ブランク経験者の特権ともいえます。
キャリアブランクと卑下するのではなく、大人ポテンシャルがあると言い換えるところから、まずはスタートしてみたい! そう思えるトークイベントでした。
文/高野 萌奈
ライター