【リモートワーク応援企画!】リアルとは違う、心構えもコツがあった。「マザーハウス」山崎流・リモートワーク術【後編】
コロナショック以後、急速な勢いでデジタルシフトしているマザーハウス。代表取締役副社長の山崎大祐さんのリーダーシップの元、進められているのが、動画でブランドストーリーや商品を紹介する【ライブストア】、お家にいながらお店と同じような接客が受けられる【ストアチャット】、あとは各業界の挑戦者たちに話を聞き、社会変革を試みる動画配信版の【マザーハウスカレッジ】など…… これらをたった1カ月でスタートされたのです。
自粛要請により、全国の店舗を閉めざるを得ない状況にありながら、見事にオンライン上で顧客と繋がることにも成功。また、小売業では難しいとされるリモートワークに店舗スタッフも切り替えて、動画配信やリモート接客、社員研修…… と、全てオンライン上で取り組んでいるのです。
この驚くべきスピード感と、逆境を乗り越えるポジティブさの秘密を探るべく、山崎さんに是非お話を伺ってみたい! ということでリモート取材をお願いしました。どうしたら円滑にリモートワークが進む?リモートでのコミュニケーション上、気をつけた方がいいことは? 前後編でお楽しみください。
前編はこちら!
効率がよすぎるオンライン会議は、時にはゆるさも必要
編集部:山崎さん自身が心がけているリモート術はありますか?
山崎大祐代表取締役副社長(以下、敬称略。山崎):強いて言うなら…… ミーティングなどの時に、すぐには本題に入らないようにしています。インタビューにせよ、会議にせよ、リモートの場合、効率よく場が設定されているから、みんなすぐに本題に入ろうとしますよね。だから、最初に全然関係のない話や、何か自分が気づきになった話などをします。それはリアルだとコミュニケーションとして日常的にしている事だと思うのですが、リモートでもあえてやります。
編集部:そうですね。リアルだと世間話とか雑談から入りますが、リモートだとすぐ本題に入りがちですね。顔が全員均一に見えて、余白がない感じがします。
山崎:そうなんです。zoomってずっと誰かに見られている気がしますよね? これで1日、何本も、何本も、立て続けにミーティングすると本当に疲れますよ、心身に良くない。だから、大人数でzoom会議の時、僕は遠慮なく映像を切っています。姿勢を崩していても話についていけて、成果を上げられれば大丈夫なんですから、みなさんももっと緩めるところは緩めた方がいい。それができるのがリモートワークのいいところですよ!
編集部:確かに、一息つくタイミングも意識的に作らないと取れないですからね……
山崎:今までは移動しながらぼーっとしたり、カフェでお茶したりできていたのにそれが今は全くない。リモートになったことで、ガッチガチにzoomが組まれてしまう。だからこそ、自分でもゆるさをどう許容していくかが大事になると思います。
あとはツールですね。zoom、メール、LINE、電話とか、話す内容によって使い分けています。顔が見えない方が喋りやすい内容の時や、1対1で「本当はどうなの?」と話したいときは電話します。zoomで顔を合わせていると言いにくいこともあるじゃないですか。
編集部:あります! あえて全てzoomにしなくて良いって事ですね。
大人数のミーティングの場合はチャットと2層で盛り上げる
編集部:一方で、大人数の社員研修もzoomで開催されているお話がありましたが、その時はどんな工夫を?
山崎: 今、150人とつないで一斉に研修を行っています。これだけ大人数で、かつ、インタラクティブな会にするなら、場を上手く設計しなければなりません。意見も言えずに話を聞いてばかりだと集中が切れるので、事前に数人に「話が堅くなるだろうから、チャット盛り上げて」と声をかけています。誰かがチャットを使い出すと、みんなが気軽に発言できるので面白いですよ。
編集部:チャットが有効的に使えると、満足度が高いですよね!
山崎:アルバイトさんとか新卒の社員とか、挙手して何百人の前で質問するとなると、リアルだとなかなかできませんよね。でもチャットなら気軽に言えるので、すごく良くなりました。ブレイクルーム機能で小分けにしてディスカッションして、チャットでも議論があって、そこも全体で拾って…… すごくインタラクティブにできるんですよ。それに若手の子がすごく積極的に参加してくれています。いい意味でヒエラルキーを壊す機能はあるかもしれないですよ。
編集部:比較的若い社員が多い風土では、盛り上がりそうですが、リモート慣れしていない上司が話しながらチャットを拾ってとか…… 正直、難しそうです(苦笑) むしろ、ヒエラルキーがしっかりある会社の場合、リモート上ではどう動いていけばいいでしょうか?
山崎:会社である以上ヒエラルキーありますし、ヒエラルキーがなくなることが理想か? というとそうでもない。今回のような有事の時は、リーダーがスピード感持って決断していかなくてはならないので。ただ、これは戦いの論理ですが、強いものに対しては一人で戦っちゃだめです。何か、意見するなら同じレイヤー同士5人ぐらいでまとまって動くこと。そうすると僕らも動かざるを得なくなりますから。
編集部:なるほど。リアルもオンラインもそこは変わらないのですね。
山崎:今回のコロナショックはビジネス的な危機だけではなく、コミュニティの危機でもあります。そこに対して自分ならどう貢献できるかを考えてもいいかもしれない。他のメンバーの体調もメンタルも、画面上ではなかなか見えてこない。そういう時にこそ、人の気持ちに敏感な人はそこで力を発揮すればいいし、前向きに引っ張れる人はみんなを前向きに導けばいい。これもリモートだから起きることだと思います。
リモート、と言うよりは子どもがいる中で仕事をする大変さ
編集部:リモートワークによる大変さが、社員から垣間見えたりしますか?
山崎:新卒の子達は考え方も真っ白なので、すんなりオンライン研修にも入っていけて楽しんでくれています。リモートの大変さは、圧倒的に子育てしている人たちの大変さですよ。ここまで子どもの大変さがわかっていなかった。今回、いい意味で、そこの理解が深まると思いますよ。会議にならないじゃないですか、新しい気づきになりましたね。
編集部:そうなんです……! 仕事にならないんです……!
山崎:仕事ができる優秀なスタッフを見ていても、思うように仕事が進まず本当に辛そうで。ポジティブに捉えるならば、”寛容さ”が世の中に広がるかもしれません。日本って良くも悪くも仕事とプライベートをきっちり分けていましたから。そんな事、言っていられなくなった(苦笑)
編集部:勝手にzoomとか入ってきちゃったりしますから……(涙)
山崎:そうそう(笑) 先日も研修中に子どもがzoomに入ってきて、歌を歌い出したんです。それを僕が拾って「なんの歌? どんな感じ?」と、150人の前で子どもに話してもらって…… こう言う事をあえてやっています。女性の多い職場なので、同じ環境下のスタッフが多く、みんな同じ悩みを抱えています。でも子どもが参加しても許容してくれる仲間がいると思えたら、心理的安心感につながりますよね。そこもリモートの良さかもしれません。コミュニケーション術と言うよりは、ファシリテーション術ですが。
編集部:みなさん、ホッとするでしょうね。場もなごみますし。
山崎:僕らが思っている以上に、子どもってよくわかっているし、賢いですね。子どもたちにとっても親が働く姿を見ることができて良い機会だと思いますよ。
こんな時ほど…… 間違いなく新しいことにチャレンジすべき!
編集部:以前、マザーハウスカレッジの動画の中で「人は連続性の中で生きている。そしてさまざまな役割がある中、今は断絶してしまっている。そんな時こそ、今はアクション起こすチャンス」とのお話がありましたが、具体的にはどんな行動を?
山崎:今は結果よりも、行動が評価される時期です。もし、何か自分の中で温めていたことがあるなら、絶対にチャレンジしたほうがいい。僕も今回、一人でYoutubeをやり始めましたが、見事にミスってますが、全然気にしていません。そんな小さな失敗なんて誰も気にしてないし、むしろ新しいことに挑戦している事を応援してくれています。以前からYoutubeもやりたかったのですが、色々言い訳して挑戦してこなかった。今は失うものがないから、チャレンジするしかないと思って始めました。
あとは、誰に関わりたいとか、何をしていきたいかを明確にするのが大事です。子どもや家族は連続性の中にあるので、それ以外で考えてください。自分の枠の外のことに、どれだけ興味が持てるかどうか、が大切なのです。どんなに忙しくても「この人たちはサポートしよう」とか団体があるなら、少額でもいいからお金を出して関わりを作ることです。今、みんなが困っています。応援する意味でも、新しいことに一つ関わってみると、それが次の自分の支えになりますから。
人の命に触れる事態=生きている喜びを感じとれる時期
編集部:こんなに世界が一変すると思いもしませんでした。
山崎:これからもっと想像のつかないことが、世界ではたくさん起きますよ。僕たちの拠点は11カ国あるので、毎年、さまざまな事件が起こっています。去年スリランカで大規模テロが起きて、工場が止まりました。香港でも大規模デモが続いたことで店も休業しましたし、バングラデシュ、ネパールでも毎年のように何かが起こっている。日本は自然災害には見舞われていますが、それ以外で考えると、平和だったのかもしれません。
編集部:人為的なテロや大規模なデモなどは経験ないです。
山崎:ミラノの人に言わせると「日本人はどうしてロックダウンに対して、そんなにも孤独感を感じるのかがわからない」のだそうです。要は、一人に慣れてないのでしょうね。世界を見るとさまざまなことが頻繁に起こっているので、グローバルな耐性みたいなのがあるのかもしれません。
編集部:自由を奪われる耐性は…… そうですね。ないかもしれませんね。
山崎:ヨーロッパや途上国で仕事をしていると、良くも悪くも、人の命の価値に触れる機会が多くあります。生きている喜びを知る機会でもあるのです。人はやっぱりしんどい思いをしないと感じられない。「生きているだけで儲けもん」このことを実感する時期だ、ということをしっかり認識して、次なる幸せな時期が来ることを願いましょう。止まない雨はないですから!
編集部:本当ですね!今回はお忙しい中、遅くまでありがとうございました。
どうしても「リモート疲れ」「コロナ疲れ」と後ろ向きに捉えてしまいがちですが、リモートだからこその良さやアイデアにあふれていましたね。そして、この自粛ムードが漂う中、「今こそ心に留めていた気になること・新しいことに挑戦するしかない!」と言い切って、山崎さんご自身も挑戦し続けていらっしゃる、この姿に本当に勇気をもらいました。この状況下で自分なりに工夫し、理想に向かってどう乗り越えるか。これによってウィズコロナ、アフターコロナの世界が全く変わってくるのではないでしょうか。もちろん今は転換期。疲れますしストレスも溜まります。そこは一緒に発散しながら、吐き出しながら頑張りましょう!
プロフィール
山崎大祐さん
株式会社マザーハウス 代表取締役副社長
1980年東京生まれ。慶應義塾大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。03年3月大学卒業後、ゴールドマン・サックス証券にエコノミストとして入社。創業前から関わってきた株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、07年に取締役副社長に就任。19年から代表取締役副社長に。他にも(株)Que社外取締役、日本ブラインドサッカー協会外部理事、TBS朝の情報番組グッとラック!の金曜レギュラーコメンテーターを務める。
文・インタビュー:飯田りえ
ライター