変化することをいとわない、withコロナにおける新しい復職のカタチと働き方
オイシックス・ラ・大地株式会社にインタビュー
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの方が在宅勤務をはじめとするリモートでの働き方に切り替わりました。「新しい生活様式」が推奨される中、新しい働き方や企業側の人材活用のあり方が問われています。そのような中、いち早く時勢の変化に対応し、復職ママ社員が働きやすい環境を整えた企業があります。
今回訪ねたのは安心安全な農産品や加工食品、ミールキットなどの食品宅配を展開するオイシックス・ラ・大地株式会社です。女性社員が全体の66.5%を占める同社は、復職ママ社員への応援プログラムも豊富で、LAXICでも過去に「復職式」という復職ママ社員のお祝い行事について特集しました。今回、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、ママ社員の復職プログラムにも大きな変化があったようです。
皆さんもぜひこの事例を通して、withコロナ時代の復職や働き方について考えてみませんか?
※2018年の取材記事はこちら
復職を経て今感じること
編集部:まずはお二人のご経歴、産休・育休の取得時期、家族構成についてお聞かせください。
高尾さやかさん(以下、敬称略。高尾):私は2009年に入社し、まずは新規営業を担当する部署に配属されました。その後、雑貨の購買・調達やサービス開発などを経て、産休・育休に入りました。復帰後はLTV向上室に配属され、お客様からの改善要望を集約し、優れた顧客体験を生み出すための部署横断プロジェクトである「お客様満足度向上委員会」で働いています。
産休・育休については、当初、2019年2月から2020年4月まで取得する予定でしたが、コロナ禍の影響で育休を7月まで延長しました。夫と、1歳5ヶ月の娘と三人で暮らしています。
柴本沙恵さん(以下、敬称略。柴本):私は2004年に入社し、カスタマーサポートを3年間経験した後、人材企画を担当する現在の部署に異動し、社内研修や「ORDism(オーディズム)」と呼ばれる7つの行動規範の理念浸透に取り組んでいます。産休・育休後の復職社員に対する支援策である「復職支援プログラム」も担当しています。
産休・育休はこれまで2回取得しています。2011年に一人目を、2015年に二人目を出産し、ともに産休・育休を経て翌年に職場復帰をしました。夫と、9歳と5歳の二人の男の子と暮らしています。
編集部:柴本さんは1回目の職場復帰の際に大変苦労されたと伺いました。この経験がきっかけで社内の復職希望者を対象に復職支援の取り組みを開始されたとのことですが、どんなことが大変でしたか?
柴本:当時は産休・育休後に復帰している人はまだ、年に数名程度だったんです。また、東日本大震災の影響もあり、会社の動き方は大きく変わっていました。しかし、私は育休から復帰したてということもあり、自分だけが取り残されているのではという焦りや会社の変化のスピードについていけない歯痒さを感じていました。
復職すると誰でもどこかで壁にぶつかることはありますが、事前にその「壁」の存在を心得て壁に挑むのと、何も知らずに丸腰で挑むのとでは気持ち的にも全然違うと思います。復職社員自身が想定される「壁」を理解した状態で職場に戻って来られるよう、復職支援プログラムの推進を始めました。
編集部:御社では復職に向けたさまざまなプログラムがあるのですよね。
柴本:新年度の開始と共に復職する社員が多いのですが、年明けくらいから育休者同士の横のつながり作りや、会社の現状を把握できる場として「復職者ランチ会」を開いています。そして保育園が決まった人には、「こういう壁があるよ、こういう心構えでいるといいよ」ということを体得できる集合型研修を開催しています。また、新年度がスタートする復職時には、式典の形で「復職式」を実施し、祝辞や復職証書の授与を行っています。
編集部:高尾さんは育休中や職場復帰後に不安や戸惑いなどはなかったですか?
高尾:育休中は育児中心の生活を送っていたこともあり、会社のことは時々思い出すものの、程良い距離感を保てていたと思います。復帰後は先輩や同僚から「完璧じゃなくていいよ」と何度も言ってもらえたので、とても安心できました。また、社内研修やランチで話す機会があったママ社員たちとも思いを共有することができ、周囲の方々も同じように悩みながら職場に復帰されてきたんだなと思いました。現在は周囲の理解と協力に感謝しながら働いています。
編集部:職場復帰の時はこれまでの育児中心の生活から、新たに「仕事」が加わった生活に大きく変化します。悩みや漠然とした不安など、何かしら抱えている方がむしろ自然なのかもしれませんね。
新しい試み、オンライン復職プログラムとオンライン復職式
編集部:今年はコロナ禍の影響により、今まで行っていた復職前研修や復職式にも変化があったようですね。
柴本:今年は復職前研修を通信講座形式で実施しました。対象者は事前に送られてきた課題に自宅で取り組み、それに対してHR本部がフィードバックするという形です。復職式についても一人一人から一言言葉をもらうなど、相互にコミュニケーションを取る形にしました。
編集部:高尾さんは実際に通信講座で復職前研修を受講していかがでしたか?
高尾:通信講座で開催してもらえたのは良かったですね。みなさんが書いたワークシートをじっくり読んで、さらに記録として残しておけるのも良かったです。あとは、赤ちゃんを預けて会場まで移動する手間がなく、自分のタイミングで受講できたのも通信講座オンラインならではだと感じました。
柴本:オフラインでやっていた時は、式典らしく祝辞や復職証書の授与などがあったので、思えば少し格式張った雰囲気だったかもしれません。その点、オンラインだとみなさん自宅から参加できることもあり、適度に緊張が軽減されてリラックスして参加いただけたのではないでしょうか。初のオンライン実施ということで、双方向の対話を意識的に設計したことで、皆さんに発言いただいて、復帰に向けての気持ちを新たにするコミュニケーションの場にもなりました。
編集部:オンライン形式でのプログラム実施は今年が初めてでしたが、何か気づきはありましたか?
柴本:今年実施した復職プログラムのオンライン化は、今後の社内コミュニケーションについて考えるきっかけになりました。会社と社員との間で意識的に言葉にしてコミュニケーションを取っていく必要があると実感したのは大きな気づきですね!
社員は仲間、進化し続ける組織とは
編集部:復職プログラムだけではなく、働き方も大きく変わっていますね。
柴本:弊社では、早朝、昼間、夜など細切れで時間を区切って1日の稼働時間を確保するリモートワークやスーパー時差出勤、オフィス出社時とリモート勤務時で勤務時間が変更できる制度などがあります。スーパー時差出勤は本制度としてあり、ほかの制度はまだトライアル中です。
高尾:私は現在9時から16時の時短勤務中です。また、リモートワークをする日とオフィスに出社する日で勤務時間を変えられる制度を利用して、リモートワークの日は9時から16時半にしました。
柴本:出社時と在宅時の勤務時間変更については、緊急事態宣言が発令された際、弊社の業務体制もリモートワークが主体になりました。その際に社員から「リモート勤務時は、通勤時間が無くなるため、仕事ができる時間が増えるので、勤務時間を延ばしたい」という声が上がり、会社としてその声に応えるために社内調整を行い、7月からトライアルとして実施中です。
編集部:社員の声が迅速に反映されているのですね! 「現状を変えてほしい」と社員から声が上がっても、実際にはなかなか対策を講じられない会社が少なくない中、すごいことだと思います。
柴本:社員の声が経営層に届きやすい風土ではあると思います。弊社は一般のお客様向けの事業をやっており、常にお客様の声を聞いて商品や売り場を改善しています。行動規範の中にも「お客さまを裏切れ」とありますが、これは「お客さまの期待を超え、いい意味で、お客さまを裏切れ」という意味です。私たちバックオフィス部門にとっては社員がお客様であり、この行動規範は時には社員にもあてはめることができると思っています。
編集部:社員の声に耳を傾けて対応できる柔軟性こそが進化する企業の必要条件と言えますね。働き方の多様化が急速に進む中、今後はこの変化を捉えつつ、企業としてどう進化していきたいと思っていますか?
柴本:業務においては既にオンラインが主体となりつつあり、オンラインには良い面があることは会社としても認識しています。一方、社員同士のコミュニケーションが希薄になる、復職して戻ってきても周囲に聞ける人がいないなど、コミュニケーションの取りづらさがあるのも事実です。また、企業風土や理念もオンラインのみでは体感してもらうのが難しいと感じています。今後は、これらの課題に取り組みながら今まで作ってきたカルチャーをうまくオンラインでも広げていきたいと思います。
また、復職者を受け入れる風土や復職者がこれまでと変わりなく働ける土壌は出来上がったので、次のステップとしては復職した人たちが活躍できる仕組みを考えたいと思っています。今年度も育休中取得者が多数いて、その中に男性も3名います。男女問わず、育休が取得できて、復職後も生き生きと働いてもらえる職場環境を実現したいです。
編集部:男性の育休取得者が複数いるということは、育休が取りやすく、働きやすい会社であることがわかります。また、復職社員が働きやすい環境は、実は他の全ての社員が働きやすい会社だと思います。新型コロナウイルス対応を機に社会で多様な働き方が浸透するといいですね。
柴本さん、高尾さん、今日はありがとうございました!
新型コロナウイルスの拡大はいまだ収束の兆しがなく、家庭や企業、学校などで課題は尽きません。しかし、ピンチをチャンスと捉えて迅速に変化している事例があることもわかりました。個人だけではなく、企業も過去のやり方を変えながら変化しています。
私たちもこうした例を参考に従来の良さに新たな変化を上手く取り入れながら、柔軟に変化するための一歩を踏み出すことができたら、毎日がより過ごしやすくなると思います。
プロフィール
柴本沙恵さん
オイシックス・ラ・大地株式会社 HR本部 成長推進室
HR本部人材企画室成長サポートセクション。 2004年オイシックス株式会社(当時)に中途入社。カスタマーサポートを経て、人材企画室に配属。研修設計や行動規範浸透等、成長サポートに関する取り組みに従事。在職中に2回育児休暇を取得した経験を活かし、復職支援にも取り組む。
高尾さやかさん
オイシックス・ラ・大地株式会社 大地を守る会宅配事業本部 LTV 向上室
大地を守る会宅配事業本部 LTV向上室。2009年株式会社大地を守る会(当時)に新卒入社。お客様からの改善要望を集約し、優れた顧客体験を生み出すための専任部署である「お客様満足度向上委員会」の事務局長として、LTV(Life Time Value/顧客生涯価値)向上に取り組む。
文・インタビュー:永見 薫
ライター