職場環境を左右する「無意識の思い込み」
管理職・人事が知っておきたいウィメンズ・ヘルス

ラシク・インタビューvol.203

産婦人科医 清水 なほみさん

令和2年の25歳〜44歳までの女性の就業率は77.4%と、社会進出は年々進み、管理職として活躍する女性も少しずつ増えてきました。しかし、その一方で、女性従業員の約4割の人が「女性特有の健康課題が原因で職場で何らかのことをあきらめた経験がある」と回答しています。

「HER-SELF(ハーセルフ)女性の健康プロジェクト」が行った人事担当者への調査によると、人事担当者の7割弱が、「女性従業員に対して女性の健康保持・増進をサポートできていない」と回答するなど、女性特有の健康について、企業における課題の解決にはまだまだ遠い状況であるといえます。

働く女性にとって悩みの種になりやすい女性特有の健康問題。「女性人材が会社を信頼し、働きやすい環境でやりがいをもって働けるようにするには、男女で区別のない相互理解が必要です」と話すのは、HER-SELF 女性の健康プロジェクトの理事で産婦人科医の清水なほみ先生。

今回は、そんな清水先生に、ウィメンズヘルスの視点から職場環境づくりに必要なことについて伺いました。

(※)就業をめぐる状況/内閣府男女共同参画局
(※)「働く女性の健康推進」に関する実態調査/経済産業省
(※)HER-SELF 女性の健康プロジェクト

相互理解の第一歩は、「無意識の思い込み」を自覚することから

産婦人科医 清水なほみ先生/オンラインで取材しました

編集部:清水先生は、日頃女性と接する機会が多いかと思います。職場で女性の健康保持・増進をサポートしていく上で、相互理解のためにどんなことが必要だとお考えですか?

 

清水なほみ先生(以下、敬称略。清水):本題の前に、まずは女性本人が「バイアス」を持っていることを自覚することが大切です。たとえば、生理痛一つ取ってみても、「女は生理痛があるから損だ」と思っている人は、「他の女性もそうだ」と思い込みがちです。実際には生理痛が重くない女性もいますよね。

 

編集部:確かに、同じ女性でも、体調は人それぞれ違いますよね…。

 

清水:私が診療で接するのは女性側なので、会社側の対応は実際どうなのか分かりませんし、患者様の声から推測されるものになります。つまり、「患者様の目線」というバイアスがかかっているということです。

建築系や自衛官など、男性カラーの強いお仕事では、女性特有の不調について女性本人から言い出しにくいと感じている方がいらしたり、妊活を考えていても内緒にしておきたいと考える方もいます。また、更年期症状についても「からかわれた」とお感じになる方もいらっしゃいます。診察していて私が感じるのは、そもそも女性本人が持っている“前提”が、そうした雰囲気を作ったり、相手の言葉を偏って受け止めているケースも多いということです。そういう意味でも、相互理解というよりも、自分のことを客観視して、バイアスを自覚するのが大事だと思います

 

編集部:無意識の思い込みというのは怖いですよね。お話を伺いながら自分にも多々あるな、と…。

 

清水:「生理痛がひどくて休めない」ではなく、「生理痛くらいで休んではいけない」という前提、思い込みが本人の中にあるということです。本人が受診をせずに「我慢しなきゃ!」と、自分の努力だけで何とかしても、結果的に何度も欠勤してしまえば、「ちゃんとメンテナンスしてください」と会社から言われてしまうのです。

 

編集部:なるほど…。自分を客観的に見るというのは大事なことですね。ところで、昨今、国も力を入れている女性活躍推進ですが、どうしても男性と女性、二項対立的に捉えがちになると感じています。たとえば、「女性は共感力が高いから聞き上手」とか、「女性は感情的な生き物だから気分にムラがある」とか。こういうものもバイアスがかかった見方ですよね。

 

清水:そうですね。「女性は感情的な生き物だ」という決めつけはもちろん、それが共通認識であると感じていることが正にバイアスです。男性でも感情的な人はいますし、女性で理性的な人もいます。自分を基準にしないこと。まずはこの意識がとても重要になってきます。

バイアスは、男女に関わらず、ほとんどの人が持っています。ただ、多様性の理解に意識を向けている人は、自分の中にあるバイアスに目を向けていますね。男性、女性に限らず、大前提として、お互いに「自分と相手は違う人間」だと思って接することが大切です

管理職が押さえておきたい健康管理の環境づくり

編集部:清水先生が考えるより良い会社の環境づくりのポイントはどこにあると思われますか?

 

清水:会社側、管理職側が休みやすい風土を作ることだと思います。今はコロナ禍で休みやすくなってきましたが、「このくらいの風邪で休んではいけない」という意識は、特に日本人には根強くあります。本来、体調不良の際は男女関係なく休むべきです。プラスして、女性にはそこに、周期的に現れる生理の不調というのがありますからね。いずれにせよ、体調不良を我慢して仕事をしてもパフォーマンスは上がらないので、「我慢を美徳としない」という認識は管理職の方だけでなく、あらゆる人に必要だと感じます

 

編集部:休みやすい環境づくりに向け、一人ひとりが心がけておきたいことはどのようなことでしょう?

 

清水:最も重要なことは、日頃のコミュニケーションと関係づくりだと思います。管理職は、部下が体調不良で辛いときに「帰ります」と言いやすい環境をどれだけ整えられているか考えてみてください。そして社員の方たちは、体調不良の際に無理せず「今日は帰ります」「在宅勤務にします」と言える環境かどうかを考えてみてください。相手の具合が悪そうな時に「大丈夫?」と言い合えるような環境を普段から整えておくのが大事ですね。

 

編集部:一朝一夕ではなく、普段の関係づくりですね。

 

清水:日頃から、「相手のことをどう捉えているか」は全てのベースになります。同じことを同じような立場の上司から言われた際、一方は「気遣ってくれた」と感じ、もう一方は「パワハラだ、セクハラだ」と感じることは普通にあります。ですから、それを「その時のやり取り」だけを切り取ってどうにかしようとしても難しいのです。

 

編集部:そのような環境をうまく作っていくために有効なアプローチの方法などはありますか?

 

清水:社内の環境づくりとして、まず個人対個人の問題にするのではなく、社内または部署内のスタンスとして、公に「女性の健康に関してこのような考え方です」ということを周知したり、「困ったことがあればここに相談してください」という窓口を設けておくという方法が有効です

個人対個人にした場合、「大丈夫です」という答えで終わってしまう懸念がありますし、いくら話しやすい関係性だったとしても、女性側から女性特有の体調不良を男性には言いづらいといった声もあります。医療の現場ですら、「男性医師には言えなかった」という女性の患者さんもいらっしゃいます。会社全体の方針として仕組みを作ることで、不調がある時にその不調を言いやすい環境を作ることができます。

リモートワークで社員の顔色が分からない、と感じたら

編集部:日頃のコミュニケーションが重要なのは理解できましたが、男性管理職の中には、「女性社員の体調不良の際にどう声掛けしたらいいのかわからない」、という声もあります。

 

清水:これは生理やPMSなど女性特有の体調不良に限りませんが、そもそも何によって具合が悪いのかまで聞く必要はありません。「体調悪い?」「具合悪いなら病院に行ったらどう?」と伝えるだけにとどめるだけでいいのです。生理周期や女性のホルモンバランスのことに詳しくなくても、「公の場で月経のことや更年期の話題を出さない」という意識があればそれでいいです。管理職の方は、日頃から「不調があったら我慢せずに休んでいいんだよ」ということを伝えておくといいでしょう。細かい管理は逆効果になることも覚えておくといいですね

 

編集部:あえて体調不良の詳細は「聞かない」ということで「言いやすい」「休みやすい」環境ができてくるということですね。最近はリモートワークが多く、直接社員同士が顔を合わせる機会が少ないので、部下の顔色の変化や体調不良の兆候に気付きにくいという管理職も多いそうですが、解決策はありますか?

 

清水:プライベートと仕事の時間の境目が見えづらいリモートワークの難しさから、不眠の症状に悩まされる方もいらっしゃいます。あとは、これまでは職場に出向いていた夫が在宅勤務で毎日家にいることで息苦しさを感じる方も。「自分の空間がなくなって辛い」という理由から体の不調を訴えて受診された方もいらっしゃいました。

 

編集部:それこそ、日頃の家庭環境にもよるところもありそうですね…。

 

清水:リモートワークについては一長一短な印象です。「在宅勤務だと、体調不良のときは家で寝ていられるので楽です」という方もいらっしゃるので。管理職側が1対1で「調子はどう?」と聞きづらいのであれば、人事の方から「みなさんの体調を定期的に伺います」と伝え、組織的に体調不良を言い出しやすくする工夫が必要ではないでしょうか。

自分視点での “ジャッジ” を外す

編集部:管理職は男性だけではない時代、女性管理職と女性部下の関係性もさまざまですよね。

 

清水:女性同士だから理解しやすい、と思われる反面、女性同士だからこそ理解してもらえなかったときのショックは大きいとも言えます。以前来院された患者様で、こんな親子がいらっしゃいました。10代から月経痛がひどく寝込んでしまう娘さんを連れて来られたお母さまなんですが、「私は生理痛も生理不順も経験したことがなくて、全然分からないんですよね」とおっしゃっていて、娘さんの辛さを理解できていなかったのです。

 

編集部:親子でも理解に差があるのであれば、社員同士では相互理解を得られないこともありそうですよね…。

 

清水:「私の時代はこうだった」とおっしゃる女性管理職の中には、自分が我慢してきた歴史を持つ人が多いと感じます。「自分が男性社会の中で頑張ってきた」「〇〇くらいで休んだりしなかった」ということがある場合にそうなりやすいです。なので、聞き手側は、そうした体験談に関しては参考程度に聞くぐらいが良いかと思います。

 

編集部:自分が「私の時代はこうだった」とならないようにするために、持っておいた方が良いという意識というのはありますか?

 

清水:冒頭にもお話した通り、「私とあなたは違う人」と俯瞰することです。「自分を基準にしない」という意識が大切です。「ありのままを受け止める」とか、「多様性を受け止める」とよく耳にしますが、それらは全て「ジャッジしないこと」なんですね。

 

編集部:「ジャッジしない」と言いますと?

 

清水:「これが正解」「こうすべき」という意識は、すべてジャッジになるんです。それを手放しましょうということです。「母親だから子どもが熱を出したら保育園のお迎えに行かないといけない」とか、「男性だからバリバリ仕事すべき」というジャッジに気づき、手放すこと。活き活きとしたほうが良いのは女性だけでなく男女ともに大切なことです。そこに気づくと女性だけでなく男性も働きやすくなり、長時間労働や健康を害するような働き方をよしとする風潮も変化していくと思います。

 

編集部:自分のことを振り返って俯瞰してみることが大事なのですね。

 

清水:何かイラっとしたり、モヤっとした時は、それが自分の内側の何を映し出した鏡なのかを見ると解決することもあると思います。それが満たされると相手を認めやすくなってきます。

 

編集部:自分自身にも心当たりがあることが多い内容でした。清水先生、本日はありがとうございました!

女性の健康に関わるには、自分の考えの奥にある潜在意識についてまずは知ることという内容をお教えいただいた今回の取材。私自身、自分の行動を見つめ直すことが、相手への思いやりに繋がり、相手のことを考えることで、認識の差を埋められ、フラットに近い相互理解への道が拓いていくような感覚を覚えました。つい自分自身の体験談から話をしてしまいがちですが、その価値観も当然生きてきた中でみんな違います。そんな中、清水先生のおっしゃっていた「私とあなたは違う人」という認識を持つことは、どのような対人場面においても円滑に進めることのできる有効な方法だと私自身痛感しました。私も少しずつですが、自分の中のバイアスを減らしていけるよう、日常のあらゆるシーンで「一度立ち止まって考えてみる」を実践していきたいと思います。

清水 なほみさんプロフィール
産婦人科医
HER-SELF 女性の健康プロジェクト理事
ポートサイド女性総合クリニック ビバリータ 院長

通常の婦人科診療のみならず、最新の脳科学×心理学×医学を統合的に駆使した診療を行う婦人科医。中学時代のいじめや研修医時代のうつ経験から、「病は気から」を科学的に解明するための研鑽を積む。何気ない会話の中で患者に気付きを与え、片頭痛やイライラをあっさり「忘れさせる」診療には定評がある。

(※) 「HER-SELF女性の健康プロジェクト」とは、女性個人と働く環境を整える企業の双方へのアプローチで、健康と経済に貢献するプロジェクトです。
HP:ポートサイド女性総合クリニック

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文・インタビュー:山口 忠成

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