企業経営ワーママに夫婦連携プレーの真髄を見た! 分担という概念はなし。家事タスクを細かく分け「できる方ができる時にする」方式。
今回のラシク・インタビューは事業におけるデジタル活用を支援するコンサルティング会社である株式会社Nexalの上島千鶴さん。もともと会社を経営されていた上島さんは、産後直後も打ち合わせや講演で年に80回ほど出張に行っているそう!
私の中に浮かんだ素朴な疑問は「産前と変わらないそのアクティブさを保ちながら、どうやって育児と会社経営を両立しているのだろうか?」ということ。しかも、保育園の延長保育はほぼ利用せず、親族のサポートがある訳でもなく、別企業に勤務されている旦那様と夫婦2人で育児と仕事をまわしていると言うのです。その秘訣は、「分担」という概念はなく、時間や体力含めて「できる方ができる時に行う」という方式と、「100%は目指さなくてもOK」という暗黙のルールにあるようです。上島さん夫婦のやり方に、夫婦の連携プレーの真髄をみました。
40歳になる1ヶ月前に思わぬ妊娠・出産!すぐに社員に伝えて、つわりを乗り切った
宮崎2007年に起業されていますが、理由は?
上島さん(以下敬称略)新卒で大手IT系サービス業に入社しましたが、同期の中でも男性の方が優遇されている雰囲気がありました。中には昇進を後押ししてくれる役員もいましたが、女性同期の中ではまだ早いという横並び評価でした。その後、実績主義の外資系企業を数社経験しましたが、あるベンダーで売上全体の9割を創り出した経験が、今の独立に繋がっています。学生の頃から、いつかは起業したいと思っていましたので、キャリアや経験から、ちょうどよいタイミングで起業できたと思います。
起業されてから6年くらいでお子様をご出産されていますよね。時期は考えていたのでしょうか。
上島私が体質的に子どもを授かり難いこともあり、実は結婚当初から諦めていたのです。夫婦二人で仲良く楽しく暮らそうという人生設計です。よって互いに仕事と趣味に没頭するわけですね(笑)。結婚してから10年近くDINKSの状態で生活していました。お互いの年収など全く知らずに2人で気ままに過ごしていたのです。(笑)
でも、「できることなら40歳になるまでには1人は欲しいな」と密かな希望は抱いており、神社仏閣に行く際は、心の中で身勝手なお願いはしていました。ただ、計画的ではなかったので、本当に神様の気紛れか?神頼みのお陰か?と思う程、授かった時は自分自身が一番驚きました。出産したのは40歳になるちょうど1ヶ月前ですから(驚)
仕事には恵まれ、軌道に乗っている時期でしたので、そういう意味では良いタイミングだったかもしれませんね。「(子供)そろそろわたし、産まれてもいいですか?ずっと待ってたんですケド」みたいな(笑)
妊娠・出産にはそういう不思議なタイミングがあったりしますよね。会社経営をされていると、社員の方に「妊娠」を伝えるタイミングを考えると思うのですが、実際いつ伝えられましたか?
上島実は分かった瞬間にすぐ伝えました。社員は男性ばかりなので、伝えないと分からないだろうと思ったので。取引先であるパートナさんにも伝えました。「年齢のこともあるし、どうなるか分からないですが、とりあえず妊娠しました」と。みんな驚いていましたね(笑)。つわりの時期など、辛いときはソファで横にならざるを得ないときもあり、早めに伝えておいて良かったなと思います。また、起業後の妊娠・出産で良かった点は、仕事量を調整できたこと。時間のコントロールは一般サラリーマンだったら自由度が低く、難しかったと思います。よって臨月まで新幹線で出張に行き、都内はタクシーで移動したりして、ギリギリまで仕事していました。一つの悔いは、ソーシャルで「分娩ナウ」と言えなかったことくらいです(笑)。関係各所に心配かけてしまいますからね。。
産後2週間でテレビ会議での復帰初めて身体が想い通りにならない辛さを感じた
では出産後はどのくらいで仕事復帰されたのでしょうか。
上島プロジェクトのファシリテータとして業務を止めるわけにはいきませんから、産前産後の休みはほぼ皆無です。
産後2週間後にはテレビ会議などで、仕事には復帰していました。上だけスーツを羽織り、下はスウェットで、自分が話す以外の時は音をミュートにしていました(笑)。
産後2週間で復帰!体力的に辛かった時期はありませんでしたか?
上島産後3ヶ月くらいは正直辛かったです。子どもがなかなか寝なかったので、自分も毎日徹夜状態が続き、脳がほんとに働かなかった。頭含めて身体が母親になろうとするんですよね。今まで想像もつかないような経験でした。その時期、連載コラムを引き受けていたので、深く考えずに引き受けてしまったなあと少し反省しました(笑)。また、子どもが5ヶ月になるまでは母乳育児をするぞと決めていたのですが、出張時の移動中や会議が長引いた時など、胸が張ってそれは辛かったですね。
お子さんはその時期どうされていたのでしょうか。
上島2ヶ月までは家で仕事をしていたのですが、その後は普通に働くようになりました。すぐには保育園には入れなかったため(待機児童)、最初はベビーシッターさん頼みです。1週間かけて、5人ほど面接と1日ずつ試験運用をしました。幸いにも非常に良い方と巡り会えて、2ヶ月〜1歳まではベビーシッターの方にお願いし、それ以降は保育園に預けています。
お子さんが産まれてからも、精力的に活躍されていらっしゃいますが、仕事スタイルや時間に変化はあるのでしょうか。
上島仕事のスタイルは変わりませんが、仕事に没頭できる時間が限られているので、以前より時間管理は厳しくなりました。以前100の時間で120%の力を出していたとすると、今は70の限られた時間で170%の力を出さないと同じパフォーマンスは出ません。さすがに170%のパフォーマンスを出し続けるのは難しいため、ある程度は仕事量を押さえています。
夫婦間のルールは、時間や体力も含めて「やれる時にやれる人がやる」方式
講演など全国に行かれることが多いですよね?その際はどう乗り切っていらっしゃるのでしょうか。
上島今は保育園通いのため、日中は保育園、他は夫のみです。親兄弟は遠くに住んでいることと、私の両親は老々介護中なので頼ることはできません。出張は、以前はほとんどが泊まりでしたが、今は99%日帰りです。泊まりだと夫の負担が大きくなるので、終電でも帰れるなら帰って家事をしています。
旦那さんと2人だけで!アクティブに活動されるその様子は、なんらかのサポートがあるのかと思っていました。旦那さまに元々イクメンの要素があったとか?
上島実は子どもが産まれてから、彼の方が180度変わったのです。元々インドア派で動かなかった人が、すごくアクティブになった。子育てには体力がいるからと、『肉体改造する!』と宣言して10キロ痩せたりね(笑)。元々「私は産むまでが一世一度の大仕事。頑張って産むからその後はよろしく!」と伝えていたのですが、ここまで変わると子どもの存在は大きいなと思います。今では、私よりテキパキ動いてます(笑)
夫婦での家事・育児分担の秘訣を教えて下さい
上島分担という概念は全くありません。時間や体力含めて“できる方が、できる時に、できる所まで行う”という方式です。また、“家事は細切れタスク”に分け、途中でストップしてしまってもOK、その時々でどちらかが続きをやればいいという風に考えています。また、精神的に負担がかからないよう『100%できなくてもOK』という暗黙のルールもあります。夫婦でgoogleカレンダーを共有し、保育園からの紙のお知らせはEvernoteでクラウド上にあげて、いつでも確認できるようにしています。
例えば・・・お迎えが夫担当の日、業務が長引いてお迎え時間に間に合わないと17時半に連絡があり、その日私も19時から打合せが入っていました。取りあえずスーツのまま客先から保育園に迎えに行き、自宅で途中までの夕食準備を行い18時半過ぎに彼が帰ってきてバトンタッチ、私はタクシーで次の打合せに向かう・・・という連携プレーです。仕事と同じで一つでもコミュニケーションロスがあると、うまく回りません。
では具体的に毎日のスケジュールについて教えて頂けますか?
上島さんのある日のスケジュール
6:30 起床、朝食
8:00 保育園に送る
9:00 出社・仕事開始
18:00 お迎え、夕食、お風呂、家事
21:30 子ども、就寝
22:00 仕事を再開
02:00 就寝
育児と家事と仕事の両立、時短を助けてくれるアイテムや方法はありますか?
上島一番のネックは自分の体力と、保育園お迎えのタイミングに仕事が切り上げられるかですね。その日の仕事は、なるべくその日中に終わらせるようにしています。夕方のアポが無い日は私がお迎えを担当し、夫がお迎えの日は、私は定例打ち合わせやアポイントなど外出を集中させるようにしています。また、朝は時間が無いため、保育園の準備は前日に行っておきます。うちの子は寝かしつけの際に、親が寝た(ふり)をしないと寝てくれないのですが、その時に自分も一緒に寝てしまうことがあります。そのため、子どものお風呂時には自分も入ってしまい、寝かしつける際には自分も寝る前提で準備をしています。
料理に関してはレトルトは使わないと決めたので、食材は全て土日に買い溜めし、葉物などはすぐに使えるよう基本調理をし、小分けにして冷凍保存します。肉や魚も1人分ずつ小分けで冷凍、すぐに調理できるようにしておきます。最初は面倒でしたが、慣れると楽です。ちなみに、お風呂は最後に入った方が洗っておく、というルールにしておくと時短に繋がります。
「働く」とは学ぶことであり、頼られること
上島さんにとって「働く」とは、どんなことですか?母親になって、「働く」意味は変わりましたか?
上島「働く」という意味は、子どもを持っても全く変わっていません。「働く」ということは、私にとっては学び続けることであり、お客さまの事業を深く理解するため常に勉強させてもらっています。逆にお客さまが知らない「自分が今まで培ってきたノウハウは全て共有していきたい」と考えており、そういう意味で「働く」ということは、人から頼られる事、人や企業に頼られて、結果的に社会に貢献することでもあります。
「若い時に産んでいたら余裕がなかったかもしれないけれど、仕事に恵まれていて気持ち的にも余裕があり、成長する子どもを見ていて楽しい」とおっしゃる上島さん。日々ハードに働いているにも関わらず、お子さんのことを優しく語るそのお姿に、ゆとりを持って子どもと接し、温かく見守っていることを随所に感じました。
プロフィール
上島 千鶴さん
株式会社Nexal 代表取締役
大手ITサービス系企業にて人事・営業・企画・事業開発部門を横断。外資系ITベンダー数社にてセールス&マーケティングを実践し2007年に独立。クライアントに中立的なアドバイザリー業務を提供するファシリテーション型コンサルティング会社、Nexalを設立し代表となる。多業種に渡る大手企業を中心に、数々の実践事例を持つ。ITpro Active(日経BP社)の人気連載「千鶴の一言!マーケターお悩み相談室」や、日経Bizgate(日本経済新聞社)「デジタルマーケティング最前線」の連載コラム、日本初の書籍「Web来訪者を顧客に育てるリードナーチャリング」(日経BPコ ンサルティング)など執筆多数。
文・インタビュー:宮﨑 晴美
ライター