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2023.07.04 2024/02/15

地方とつながる新しい働き方
今、注目されている「マルチワーク」とは?

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地方とつながる新しい働き方 <br>今、注目されている「マルチワーク」とは?

地方において「マルチワーク」と呼ばれる働き方が注目を集めています。

働き方改革やテレワークの浸透などにより、働くスタイルの多様化が進んでいる近年。「地方で仕事がしたい」「好きな土地で働きたい」と、新しい働き方を模索する人が増えてきましたね。

そこで当記事では、マルチワークの概要やメリット・デメリットについて、マルチワーカーの事例を交えて紹介します。

※「副業」を通して地方に関わる方法について、下記の記事で紹介しています
首都圏で働きながら地方副業! 移住も視野に地域と関わる方法

そもそもマルチワークってどんな働き方?

マルチワークとは「複数の仕事に同時に取り組む働き方」のことで、日本語では多くの場合「多業」と訳されます。ただし下記のように、季節ごとの仕事に従事することを強調して使われる場合もあります。

季節ごとの仕事に従事するイメージ
1~3月 4~8月 9~12月
食品加工業 農業 観光業(旅館スタッフやスキー場スタッフ)

また、参考までに、国土交通省では2006年の調査において(※)、マルチワークを下記のように定めています。

「多業」とは、1つの“仕事”のみに従事するのではなく、同時に複数の仕事に携わる働き方を指すものとしました。また、収入を得ることを目的として働いているものだけではなく、収入を伴わない“ボランティアやNPOの活動など”も含めて“仕事”と定義しています。

(※)引用:国土交通省「NPO活動を含む「多業」(マルチワーク)と「近居」の実態等に関する調査結果について

「マルチワーク」と聞くと、最近になって生まれた働き方だと認識する人もいるでしょう。しかし、とりわけ地方においては季節に左右されやすい産業が多く、たとえば「兼業農家」のように、ほかの仕事を兼ねることが珍しくありませんでした。マルチワークは、そのような働き方を今風の用語に置き換えたものといえそうです。

副業・複業・パラレルワークとの違い

マルチワークと似た言葉として、「副業」「複業」「パラレルワーク」があります。それぞれの言葉の意味を下表にまとめています。

マルチワーク 副業 複業 パラレルワーク
複数の仕事に同時に取り組むこと。 本業以外の仕事のこと。 本業が複数あること。 複業を英語で表した用語で、意味は同じ。

「同時に複数の仕事をする」という根本的な意味合いは、いずれも同じだと考えられます。

特に「複業」については、マルチワークの訳として表記されるケースもあり、明確な使い分けはされていないようです。あえて区別するなら、やはりマルチワークは「地方」「季節ごとの仕事に従事」といった意味合いが濃い用語だといえるでしょう。

この記事では、「地方」に焦点を当てながらマルチワークについて考えていきます。

地方でマルチワークが注目されている背景

地方でマルチワークが注目されている背景には、令和2年6月に施行された「地域人口の急減に対処するための特定地域づくり事業の推進に関する法律(人口急減地域特定地域づくり推進法)」の存在があります。

同法の施行に伴い、人口急減に悩む自治体で「特定地域づくり事業協同組合」を設立し、国の助成を受けながらマルチワークを推進できるしくみが整いました。

これまで地方は、人手が足りなかったり給与水準が低かったりして雇用環境が安定せず、それらが人口流出につながるという悪循環に陥ってきました。

この事業協同組合の役割は、地方が抱える課題を解決することです。移住者を募って、その人々を正職員として雇用したうえで自治体内の事業者に派遣することで、地域社会や地域経済の担い手として育みます。加えて、「人手が足りない繁農期にだけスポットで働く」というように、地域内に新たな雇用機会を生み出すのです。

令和5年6月1日現在、同制度を利用して立ち上げられた団体は、全国87組合に上ります。令和2年の法律施行に先だって認定されたのが全国5組合ですから、3年間で82組合の増加です。マルチワークへの注目度が年々高まっていることが分かります。

マルチワークで自分らしい働き方を実現させた3つの事例

地方でマルチワークを実践している3人のケースを紹介します。

 

  • 山形県西置賜郡小国町 マルチワーカーAさん(愛媛県出身)

愛媛県出身のAさんは、知人の出身地である小国町に興味を持ち、現地ツアーを経て移住しました。現在は、「おぐにマルチワーク事業協同組合」の職員という立場で半導体部品関連の工場に週3日勤務しながら、ほかの日はWebライターの活動をしています。将来的にWebライターとしての独立を見据えていて、講座にも通っているそうです。

温暖な愛媛県から雪深い小国町への移住でしたが、おぐにマルチワーク事業協同組合から、雪かきの仕方をはじめとした生活サポートを受けながら、現地での暮らしを楽しんでいます。

https://laxic.me/2023/07/vol-235

  • 島根県隠岐郡海士町 マルチワーカーBさん(東京都出身)

海士町は、日本海に浮かぶ人口2,200人ほど(2023年6月現在)の離島。東京都出身のBさんは、大学卒業後にSEとして会社勤めをしていましたが、体を動かす仕事がしたいと転職を決意しました。しかし、「ひとつの会社でずっと働く」という働き方に以前から違和感を覚えていて、転職活動が行き詰まったそうです。

そんななか、求人サイトで「海士町複業協同組合」の求人を見つけて興味を持ち、オンライン訪問会や面談を経て採用が決まりました。水産加工会社や森林組合、宿泊・観光施設などで、離島の資源を生かした仕事に従事しているようです。

  • 山梨県南巨摩郡早川町 マルチワーカーCさん(山梨県甲府市出身)

同県甲府市に住んでいたCさんは、将来的に長く住む土地を探しているなかで、「早川地域づくり事業協同組合」の派遣事業について知りました。

働き始めた令和4年5月から、温泉旅館や森林組合、農場で1~3ヵ月おきに仕事に従事。山の動物と毎日のように出くわすような自然豊かな環境に、難しさはあるものの、自分らしく生きていることを実感しているようです。また、刈払機の免許を取得するなど、スキルの幅も広げています。

マルチワークのメリット・デメリット

マルチワークを自分のキャリアや人生において有意義なものにするためには、メリット・デメリットの両方を踏まえて、実施を検討することが大切です。メリット・デメリットと、その対策についてまとめてみました。

マルチワークのメリット

その地方特有の事業に携わることができる

地方には、その土地の資源を生かした事業や、古くから続いてきた伝統的な産業があります。そういった地域ならではの仕事に携わるなかで、新たな知見を得たり、価値観を広げたりすることができます。特に興味関心を持てる事業が見つかれば、担い手として後世に伝える存在になれるかもしれません。

キャリアの幅が広がる

複数の仕事に取り組むなかで、「自分はこんな仕事が好きなんだ」「自分はこういう仕事に興味があるんだ」と明らかになっていく場合があります。逆に言うと、マルチワークを始める時点で興味のある仕事が明確になっていなくても大丈夫です。マルチワークに取り組むなかで、少しずつキャリアの幅が広がっていくのです。

自分らしい生き方が実現できる

好きな土地で生活するなかで、生き方そのものが自分の理想に近づきます。山々が連なる町で山菜採りやアウトドアを楽しんだり、美しい海に囲まれた離島でのびのびと暮らしたり。ライフスタイルに合った地域を選ぶことが、自分らしい生き方を実現するための鍵となります。

マルチワークのデメリット

現地での人間関係の不安

新しい土地に行く以上、人間関係をいちから構築しなければなりません。地方は都市部と比べて横のつながりが強い傾向にありますし、地域ごとのしきたりもあるなど、人間関係に不安を覚える人は少なくないはずです。

各自治体の事業協同組合が人間関係の構築をサポートしてくれる場合もあります。不安に思うときは、早めに相談しておくことがおすすめです。

自分に合う地域を探すのが大変

国内には独自の魅力を持った地方がたくさんあるので、人によっては、自分の希望に合う地域を探すのが難しいかもしれません。移住スカウトサービス『SMOUT』や移住マッチングサービス『ピタマチ』のような、全国のマルチワーク情報を発信しているサイトを活用するのも一手です。

スケジュール管理が大変になりやすい

複数の仕事に取り組むので、同時に仕事を増やすとスケジュールが煩雑化しやすくなります。「ひとつの仕事に慣れてから空いた時間でほかの仕事を始める」「地域での仕事は週2~3日にして、それ以外は個人の活動をする」など、余裕を持つための工夫を心がけましょう。

【参考】
特定地域づくり事業協同組合制度
おぐにマルチワーク事業協同組合
海士町複業協同組合
早川地域づくり事業協同組合
SMOUT
ピタマチ

まとめ

これまで、あくまで「複数の仕事をすること」という意味合いだった「複業」は、「マルチワーク」と名を新たにして、移住も兼ねたより多角的な働き方を指すようになりました。

特定地域づくり事業協同組合が全国で増え続けている傾向を踏まえると、地方におけるマルチワークの推進は、今後ますます加速すると考えられます。地域にとっても、自分らしい働き方を模索している個人にとっても、「マルチワーク」は可能性を広げる選択肢になるでしょう。

自治体によっては、マルチワークを検討している人向けの説明会やツアーなども開催しています。「気になる地域がある」「関わってみたい仕事がある」あるいは「マルチワークに興味がある」といった人は、まずは説明会やツアーなどで地方の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。

ライター

紺野天地

ライター、文筆家

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