リモートワークの浸透とともに、「場所を選ばない働き方」が広がってきました。総務省が令和4年11月15日に公表した移住相談に関する調査結果によると、令和3年度における全国の移住相談受付件数は、過去最多となる約324,000件(※1)。仕事をするなら都会で、という考え方は薄れ、地方への移住を考える人も増えているようです。
けれど、いきなり地方へ移住するのは、ハードルが高い。まずは都市部で働きながら、地方との接点をつくれたらと考えている人は多いのではないでしょうか。
そこで今回は、地方との具体的な関わり方や仕事探しの方法、地方とつながる利点についてご紹介します。
(※1)総務省「令和3年度における移住相談に関する調査結果(移住相談窓口等における相談受付件数等)」
仕事をしながら地方と関わるには?
仕事をベースにした地方との関わり方は多様化していて、いくつかの方法があります。自分の目的やライフスタイルに合わせて、関わり方を選択するといいでしょう。
・ワーケーションで地方を訪れる
・サテライトオフィスの活用
副業やプロボノとして関わる
代表的なのが、副業として地方の仕事に関わる、あるいはプロボノとして地方との関係を築く方法です。リモートワークで都市部にいながら仕事に取り組む場合と、1ヵ月に数回程度その地域に足を運び、現地で仕事をする場合があります。
ちなみにプロボノとは、ラテン語で「公共善のために」という意味を持ち、職業上の専門性を生かして社会貢献活動に取り組むことです。基本的に金銭による報酬はありませんが、活動経費などが支給される場合があります。
最近は、「地方副業」「ふるさと副業」「副業Uターン・Iターン」といった言葉を、さまざまなところで見聞きするようになりました。これらの新たな働き方は、国や自治体でも推進されており、活動費の一部を補助する公的制度もあります。
ワーケーションで地方を訪れる
リモートワークが推奨されている企業で働く人は、好きな地域でワーケーションをする方法があります。ワーケーションとは、「Work(仕事)」と「Vavation(休暇)」を組み合わせた造語で、その土地に一定期間身を置いて仕事をしながら、レジャーや地域の人との交流を楽しむことができます。
サテライトオフィスの活用
地方にサテライトオフィスを持つ企業で勤務しているのであれば、積極的に活用してみるのもいいでしょう。サテライトオフィスについては、地方への設置を国が後押ししているので(※2)、今後も増加する可能性は高いといえます。
(※2)総務省「おためしサテライトオフィス」
副業・プロボノとして地方と関わる場合の仕事の探し方
副業あるいはプロボノとして地方と関わる場合、気になるのが仕事の探し方です。その地域で自分ができる仕事、自分がしたいと思う仕事を探すには、どのような方法があるのかについて紹介します。
・移住関連のイベント、相談会
・SNS
・その地域に住む、あるいはその地域の企業に勤める知人からの紹介
地方副業マッチングサイト
自治体や地方企業のプロジェクトに副業として関わることができるマッチングサイトは増加傾向にあり、今回紹介する中では最もメジャーな仕事探しの方法です。都道府県あるいは地方単位で求人がまとめられたサイトが多いので、あらかじめ希望するエリアを絞っておくといいでしょう。
地方副業のマッチングサイトには、集約された案件の中から自分で応募先を探す「プラットフォーム型」と、アドバイザーに希望を伝えて適した案件を探してもらう「エージェント型」の2種類があります。
筆者は現在、首都圏に住みながらフリーランスとして働いており、実際に、仕事で地方と関わる方法を模索している最中です。そこで今回、全国の求人を取り扱っているサイトをいくつか使ってみました。
まず利用してみたのは、「ふるさと兼業」です。副業あるいはプロボノとして参画できる事業を、全国の自治体からプロジェクト単位で検索できるので、「自分のスキルや経験」をベースにして仕事を探すことができました。企業と人材のつなぎ役として「地域パートナー」が適宜フォローしてくれるので、地方と初めて関わる人でも安心できそうです。
オンラインで地方と関わりたい人にとって便利だと感じたサイトが「JOINS」。リモートワーク求人の取り扱いに特化しており、首都圏にいても物理的な障害を気にせず仕事を探せます。企業と求職者の間にできやすい心の壁をなくすための「心理的安全プログラム」も用意されていて、地方とスムーズに関係を築きたい人に合っていると思いました。
「Loino」は、単発案件のほかに、3ヵ月~1年単位で携わることのできる案件の取り扱いも豊富で、特定の地方と中期的に関わりたい人にも向いています。求人ページでは、待遇や業務内容だけでなく、「募集する背景」「一緒にこんな未来を目指したい」などの課題や展望も確認できました。「企業の思いに共感したうえで応募したい」と考えている人にとってもよさそうですね。
移住関連のイベント、相談会
地域の人の声を直接聞き、地方のリアルな様子を肌で感じたい人は、移住関連のイベントに参加する方法があります。オンラインで開催されているセミナーも増えているので、仕事終わりや休日に気軽に参加してみてもいいでしょう。
「ふるさと回帰支援センター」のように全国のイベント情報が集約されているサイトや、都道府県ごとに情報がまとめられたポータルサイトがあるので、イベントを探す際に活用すると便利です。筆者の出身地である山形県を例に挙げると、「山形県移住交流ポータルサイト やまがた暮らし情報館」というサイトに、移住に関するセミナーや相談会などのイベント情報が掲載されています。
SNS
他の方法と比べてややハードルが高いものの、InstagramやTwitter、FacebookなどのSNS上で、気になった地方企業やコミュニティにメッセージを送り、直接営業する方法もあります。思いが伝わるメッセージを送れば印象に残りやすく、企業側はあなたのSNSのプロフィールや投稿内容から人となりが判断できます。
その地域に住む、あるいはその地域の企業に勤める知人からの紹介
興味のある地域に住んでいる知人や、その地域の企業に勤める知人から、副業・プロボノとして関わることができる機会を紹介してもらうのも、方法のひとつです。企業側は、信頼できる人物からの紹介であれば安心できますし、求人掲載などのプロセスが発生しない分、採用コストを抑えることが可能です。
地方で働く魅力について
本人へのメリットと地域へのメリット
地方に関わることは、働く本人にも、地域にもさまざまな影響をもたらします。
【本人にとってのメリット】
・地域の人との継続的なつながりができる
・日々の仕事や自身のキャリアに新たな視点が生まれる
・自分の好きな土地に貢献できる
自然や産業、文化、工芸など、有形・無形を問わず、その地域ならではの資源に触れ、自らの知見を深める機会になります。地元の方々との結びつきができ、愛着がわいたり、心がほっとしたり、自分にとっての特別な地が見つかるかもしれません。
忘れてはならないのが、本業だけでは得られない経験ができること。そのなかで身に付けた知識や技術をもとに視野を広げて、キャリアの選択肢を増やすことも可能です。都市部にいながらでも、思い入れのある地域や憧れのある地域の力になれるため、日々の充実度も高まります。
【地域にとってのメリット】
・地域経済の活性化につながる
・都市部に偏っているスキルを活用できる
地域への影響としてまず確実にいえるのが、定住や観光ではなく、地域と多様な形で関わる「関係人口」が増えることです。地域と関わるなかで、居住への強い思いが芽生えたら、本格的な移住を検討する人も出てくるはずです。
デジタル分野をはじめ、高い専門性を持った人材は、これまでインフラが整備されている都市部に集中しやすい傾向にありました。そのように専門性やノウハウを持った人材が地域に関わることで、地方企業の課題解決や新たな事業展開にもつながります。
「自分の思い」をベースに行動してみることが大切
地方との関わり方を探る際に大切なのは、「この地域に関わりたい」「この地域の力になりたい」という好奇心や思いです。地域外の人間を受け入れてくれないのではないか、と不安な人もいるかもしれませんが、地元の方々は基本的に「外」から来る人を受け入れたいと思っています。
むしろ、都市部で働くあなただからこそ提供できるスキルや知見が、地域の産業を盛り上げるための起爆剤になるかもしれません。もし地方での副業やプロボノに興味があるのであれば、重く考えすぎず、まずは気軽にアプローチしてみるといいかもしれませんね。
【参考】
ふるさと兼業
JOINS
Loino
ふるさと回帰支援センター
山形県移住交流ポータルサイト やまがた暮らし情報館
ライター/紺野天地 編集/木村志帆 藤島美香子
ライター