3月8日は国連が定める「国際女性デー」。少しずつ春が近づく今日この頃、国際女性デーのシンボル、ミモザも見頃を迎えています。日本のジェンダーギャップ指数は0.650で146ヶ国中116位と依然低い状態ですが、女性の「働く」を取り巻く環境はどう変化してきているのでしょうか。
とりわけ「女性活躍推進」と聞くと、「大企業に限ったテーマ」と感じる方もいるかもしれません。しかし、昨年2022年4月からは、従業員数101人以上の中小企業にも女性活躍に関する現状把握や、行動計画などの情報開示が求められるようになり、もはや “他人事” ではいられなくなっています。女性人材が活躍できる職場づくりに向けて、中小企業はどう対応していけばいいのでしょうか。
今回は、関東地方の中小企業2社の人事担当者に、女性活躍についての課題や本音を取材。また、人材活用の専門家にアドバイスをうかがいました。
人事が吐露する、“ジョカツ”の本音と建前
関東地方に拠点を置くA社(社会福祉法人)とB社はそれぞれ従業員数100人程度の組織です。いずれも昨年の女性活躍推進法改正により、女性活躍の行動計画策定・公表の義務化対象となっています。女性活躍推進法の対象企業は、「採用者に占める女性比率」「管理職(課長以上、役員を除く)の女性比率」など複数の項目について現状を把握し、目標も含めた行動計画を策定。また、それらを社内周知するだけでなく、労働局への届け出や、厚生労働省のサイトや自社ホームページなどで外部公表もしなくてはなりません。A社の人事担当者はこう話します。
社内の機運が高まっていないこともあり、去年の春の段階では形式的な対応のみになりました。女性人材の採用人数や男性の育休取得目標などは記入しましたが、女性管理職比率については具体的な目標を立てていません。
A社は女性の管理職比率が1%と低く、役員にも女性はいません。運営する老人福祉施設で働く従業員には女性も多くいますが、現場の女性戦力はほとんどがパート社員。過去、とても優秀でやる気もある新卒の社員がいたそうですが、社内に具体的な人材育成プランがなかったこともあり、ハードワークの末に退職しています。人事担当者は女性活躍の難しさをにじませます。
彼女を知る現場の社員からは『会社がもっとサポートしてあげられていたら…』と惜しむ声が多かったです。一方で、役員は『やっぱり女性はすぐ辞めてしまう』と話していてシャップを感じます。そもそもこれまで男性だけで成り立ってきた、という実体験があることも、トップが女性活躍推進に前向きになれない理由のようです。
従業員数 108人
社員の男女比 7:3
管理職における女性割合 1%(役員は男性のみ)
社員の平均年齢 43歳
従業員数118人のB社も女性活躍推進は現在のところ、書類上の数値だけの対応になっているといいます。B社の人事担当者はこう話します。
弊社はWebサイトやカタログの制作などを手がけています。Webデザインは女性に人気の職種になってきたこともあり、ここ5年ほどで女性の応募が増えました。ママ人材も増えていますが、管理職となるとぐっと数字が減り、4%にとどまっています。10%を理想と掲げたときもありますが、制度先行で取り組み失敗した過去もあり、『女性活躍はコストをかけてまでやることではない』というのが経営陣の本音です。
時短勤務や在宅勤務など、働きやすい制度を導入しても、それが女性活躍に直結するかというと、そこはまた別の視点が必要になります。特に、子育て中の人材に対しては、育児と仕事の両立について理解を示しサポートをしつつも、管理職候補としてどう育てていくか悩むケースも。B社からも管理職抜てきの不安が聞こえてきます。
プレイヤーとして能力の高い女性人材はいます。管理職になってほしいのもやまやまですが、未就学児2人を育てる母親ということもあり、管理職への抜てきはまだためらっています。正直なところ、同じくらいの能力がある人材であれば男性を昇格させるというのが通例ではあります。
従業員数 118人
社員の男女比 6:4
管理職における女性割合 4%
社員の平均年齢 39歳
研修コストをかけるよりも、若いうちから仕事を任せて育てる
A社の「やっぱり女性はすぐ辞めてしまう」も、B社の「同じくらいの能力がある人材であれば男性を昇格させる」も、企業の本音としてよく聞く内容です。期待はしたいけれど、裏切られるのが怖いという不安も見え隠れし、女性人材の活用に悩む企業の姿が見えてきます。
「女性管理職比率が高い職場のほうが、全社的に“働きがい”のスコアも高い」と話すのは、「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place to Work ® Institute Japan(以下、GPTWジャパン)の荒川陽子(あらかわ・ようこ)代表です。中小企業が女性活躍推進を行う上で意識したほうがいい点について以下のように話します。
男女関係なく若いうちからきちんと仕事を任せてほしいです。女性についてはライフイベントがある前にスキルを身につけることが大事。特に地方だと結婚を考える年齢も比較的早いので、20代中盤で結婚し出産をと考えてる場合、その手前でさまざまな経験を積んで強みを実感できるようにしておくことが重要です。
性別によって明らかな仕事上の役割分担を設ける会社は以前より減ってきてはいるものの、意識のうえではつい気を遣ってしまう部分もあります。荒川代表は、それらを「要らぬ配慮」としたうえで、こうアドバイスします。
女性活躍というと研修やしくみから整えがちですが、OJTで仕事を覚えて伸ばしていくことを考えると、特別な研修よりも、日頃の仕事で自信を付けさせるほうが大事です。「この仕事は女性には無理なのでは」と決めつけず、話し合いながら業務を組み立ててみてほしいですね。たとえば転勤が伴うような仕事の場合、良かれと思ってアサインしなかったとして、上司側は「気遣い」だと思っても、女性社員側はそう受け取らないこともあります。そこにアンコンシャスバイアスがかかっていないか、客観視することも重要です。
A社、B社のように、企業側が女性は定着しない・管理職を任せるのは不安だとする一方で、女性人材側は「この会社にいても特別な仕事ができない」と諦めの判断をしていた可能性も考えられます。管理職として活躍していきたい人材への声がけについて、荒川代表からは以下のアドバイスをもらいました。
女性はライフとキャリアの間でモヤモヤすることがとても多いので、「そういうものだ」としたうえでアプローチするといいのではないでしょうか。管理職への打診についても、女性には“3回打診”がいいですね。1回目は尻込みすることが多いので、2度3度と話をしてみることでモヤモヤを整理しながら前向きに検討しやすくなります。
上司と部下の信頼関係が根付く職場環境づくりを
GPTWジャパンが今年3月に発表した2023年版 日本における「働きがいのある会社」女性ランキングでは、職場全体の働きがい(働きやすさとやりがい)のスコアが高いほど、女性管理職比率も高いことが分かりました。荒川代表が話すように性別に関わらず、若いうちから仕事を任せて自信を持たせることが社員の働きがいとなり、より責任と裁量の大きい仕事へのチャレンジにつながっていくのでしょう。
荒川代表によると、このデータの裏側には職場におけるコミュニケーションの質の良さもあるといいます。
ランクインしている企業は圧倒的に上司部下の信頼関係が高いという特徴があります。働きがいのスコアが高く、女性管理職の比率も高い企業は日常業務の中で信頼関係を構築しているケースが多いので、新しいことにチャレンジしやすいなど、ポジティブで活発な風土が定着しています。
最後に、中小企業が女性活躍推進を行ううえで大切にしたい風土づくりについてアドバイスをもらいました。
チームで仕事ができる体制を整えることも重要です。子育て中の社員がいる場合は、突発事項に対応できるよう柔軟なしくみを導入しておくといいですね。“お互い様文化”をつくりながら、自社なりのやり方を見つけ、一人ひとりが活躍できるような仕事の任せ方を模索していってほしいです。
さまざまな事例をもとに、自社なりのスタイル構築を
今回は、A社とB社への取材をもとに、各社が抱える課題について、専門家からのアドバイスをお伝えしました。荒川代表も「自社なりのやり方がきっとあるはず」と話すように、自社の事業や風土、価値観や課題に応じた取り組み方のスタイルを見つけていけるといいですね。性別に関係なく、社員がやりがいを持って働ける職場は『全員活躍職場』として良いサイクルを生み続けるのだろうと感じています。
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