テレワークのメンタル疲れは運動で予防できる!
からだを動かすのが苦手な人は「10分」から始めよう
テレワークが日常生活に浸透してきて、出社する回数が減った人は少なくないと思います。一方で、「ひとりで仕事をするのは寂しい……」「家で仕事をするようになってから、精神的な疲れが増した……」と悩む人はいませんか?
実は、コロナ禍のテレワークで、メンタル不調を訴える人が増えています。そして、メンタル不調を予防するための効果的な手立てとして、当コラムで挙げるのが「運動」です。運動は、人間のメンタルにどのような影響をもたらすのでしょうか。からだを動かすのが苦手な人向けの、運動を始めるハードルが少し下がる情報と併せて紹介します。
コロナ禍のテレワークで、メンタル不調を訴える人が増加
新型コロナウイルス感染症の流行は、それまで少しずつ進んでいたテレワークの広がりを、一気に加速させるきっかけとなりました。個人差はあれど、「職場までの移動時間がなくなった」「生活にゆとりを持てるようになった」など、テレワークは仕事や日常生活へのメリットを確かにもたらしています。
一方で、実は、テレワーク下でメンタルヘルス不調を起こす人も増えているんです。人事関連の情報を発信しているHR NOTEの記事によると、日本全国の人事担当者315名のうち、約6割がテレワーク導入後に従業員のメンタル不調が増えたことを実感していると分かっています。
(図の出典:Mental-Fit リサーチ(株式会社SEN))
(記事の出典:HR NOTE「テレワーク実施後の従業員のメンタルヘルスの状況に関する調査結果|Mental-Fit」)
さらに、2022年3月に厚生労働省が公表した「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」の中でも、コミュニケーション不足による孤独感や人間関係が構築できないことによる不安など、テレワーク下ではさまざまな要因がメンタルヘルス不調につながると記載されています。
ほかにも、家庭で過ごす時間が増えたことでそれまでのバランスが崩れたり、働く様子を上司に見てもらえないことで不当な評価への不安が募ったり、メンタル不調の要因は、一元的な判断が困難です。テレワーク下では「●●さん、最近元気がないね?」「少し顔色が悪いんじゃない?」というように、同僚が不調に気付いてくれることもありません。自分では知らぬ間に、からだにストレスがたまっているのです。
テレワークで仕事する機会が増えても良好な健康状態を保ち、高い生産性を発揮するには、日頃から自分自身でケアすることが大切です。
記憶力や認知機能の向上も!
運動がメンタルにもたらす効果とは?
テレワークをはじめとしたコロナ禍の就労でも、メンタルを安定させ、高いパフォーマンスを発揮するために効果的な方法のひとつが「運動」です。運動が健康に多くのメリットをもたらすことは広く知られていますが、集中力や記憶力の向上、メンタル強化をはじめとした、人間の内側にも好影響をもたらすとされています。
運動がもたらす仕事への好影響を、具体的にいくつか見ていきましょう。2017年に筑波大学より公表された研究成果として、「10分間の中強度運動が、人間の記憶力を高める」ことが世界で初めて明らかになっています。中強度運動とは、通常より心拍数が上がり、本人が「ややきつい」と感じるレベルの運動です。軽いジョギングや階段の上り下り、登山などがこれにあたります。からだを動かすのが苦手な人であっても、気軽に取り組めるレベルではないでしょうか。
(参考:国立大学法人筑波大学「短時間の運動で記憶力が高まる」)
さらに、2020年に公開された、運動がメンタルヘルスに与える効果についての論文では、「10分間の中強度~高強度の運動を週に1、2回するだけでも、認知機能やメンタル強化に役立つ」と示されています。高強度運動には、なわとびやランニング、水泳など、呼吸が乱れて「きつい」と感じるレベルの運動が該当します。きついとはいえ、求められる時間は10分間です。無理は禁物ですが、「10分間ならやれる!」と感じる人は多いのではないでしょうか。
(参考:Pub Med「Regular Moderate- to Vigorous-Intensity Physical Activity Rather Than Walking Is Associated with Enhanced Cognitive Functions and Mental Health in Young Adults」)
ほかにも、運動は集中力アップや直観力の活性化にもつながると言われています。いずれも、仕事において生産性を高める上で、重要な要素です。
「運動が苦手」と悩む人必見!
6週間後には、運動に熱中しているかも
運動が仕事に良い影響を与えると聞いても、「からだを動かすのが苦手だからしたくない……」「どうせ続かない……」と感じる人もいますよね。そこで、運動を始めるハードルが少し下がる情報を、オックスフォード大学の心理学者であるケリー・マクゴニガル氏の書籍『スタンフォード式 人生を変える運動の科学(2020)』(※)より、いくつか紹介したいと思います。ケリー・マクゴニガル氏は、世界的に注目されている人気学者で、本書は、運動に関する知見がまとめられている書籍です。
ひとつめに紹介したいのは、「週4回の運動を6週間継続すると、どのような人でも自然と運動好きになる可能性がある」こと。これは、運動によって脳内化学物質の分泌が定期的に続くと、脳の中の幸福感や心地よさをつかさどる「報酬系」という分野に変化をもたらすからだそうです。ずっと運動嫌いだった人でも、6週間続ければ好きになるかもしれないというのは、驚きですね。まずは、「6週間」をひとつの目安として、軽い気持ちで始めてみてもよいかもしれません。
「運動を始めるきっかけ」に焦点を当てて、もう少し深掘りしましょう。運動に対して苦手意識を持つ背景には、「学校で体育の成績が低かった」といった過去の出来事や、「運動をしていても楽しいと思えない」といった感情的な問題など、さまざまな要因があります。書籍内では、このような「運動嫌い」の人でも、「始める運動や場所、タイミングによっては根本から運動好きになる場合があり、大切なのは、最初の一歩を踏み出してみることだ」と述べられています。
現に、「スポーツは女子がやるものではない」「自分は太っているし、スポーツなんて無理」と思い続けていた女性が、50代半ばからマラソンを始め、熱中し、85回のハーフマラソンを含む200回以上のマラソン大会で完走したそうです。
ちなみに、運動を始めたいものの、ひとりでは心細いし、どのようにして始めたらよいのか分からないという人もいるでしょう。そんな人は、まず自分が勤めている企業内に、興味のある運動サークルがないかを調べてみてください。また、各地域で活動している社会人サークルに足を運んでみるのもおすすめです。多くのサークルでは体験入部ができるので、自分に合っているか、楽しく活動できそうかを確認した上で、検討してもよいでしょう。
(※)参考文献:ケリー・マクゴニガル著、神崎朗子訳『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』大和書房(2020)
まずは「無理のない範囲で」始めてみよう
最後に、運動を気持ちよく続ける上で押さえておくとよいポイントを紹介します。運動後に疲れて仕事に集中できなくなる状況を避けるためにも効果的ですよ。
まず大切なのは、急に強度の高い運動から始めないことです。運動習慣のない人は、筋肉量が少なく、体力もない場合が多いので、突然の高強度運動はけがや過度の疲労につながります。特に、運動経験のある人こそ要注意です。「運動できる自分」のイメージが頭の中に残っているので、実際の動きとの間にズレが生じやすくなります。
自分のペースで取り組み始めることも大切にしましょう。周囲と比較すると、「自分のタイムが遅い……」などと、できない部分に目がいきやすくなります。周囲と比べたり、無理に頑張ったりする必要はなく、あくまで基準とするのは「今の自分」です。まずは、自分自身の成長や、気持ちよくからだを動かす過程を楽しんでくださいね。
季節はちょうど秋。涼しいいまの季節は、運動を始めるのにピッタリです。心に余裕を持ってマイペースに運動を楽しむことができれば、仕事にも良い影響が生まれるはずです。
ライター/ 紺野天地
ライター