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2021.12.09 2023/05/31

「校則」だけと思うことなかれ。当たり前を問う
“ルールメイキング”は、これからの大人にこそ必須なスキルです。

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「校則」だけと思うことなかれ。当たり前を問う<br>“ルールメイキング”は、これからの大人にこそ必須なスキルです。

「ブラック校則」が話題になって以降、学校現場でルールや校則を見直し、作り直す動きが注目されています。そんな中、「みんなのルールメイキングプロジェクト」と題して、認定特定非営利活動法人カタリバ(以下、カタリバ)が生徒主体の校則を見直す活動のサポートを2019年からスタートしました。

いつ・誰がどの時代に決めたかわからないようなルールに縛られていることに疑問を感じた生徒たちや、この考えに賛同した学校が主体となって動き、カタリバが生徒や学校に対してサポートする本プロジェクト。経済産業省の「未来の教室」実証事業にもなっています。参加校は、最初は2校だけでしたが、3年目の現在は約30校まで増えています。

世界こどもの日である11月20日に、『学校の“当たり前”を問い直す 生徒と先生の挑戦』と題したオンラインイベントが開催されました。実際にルールメイキングに取り組んだ中高生の発表を中心に、株式会社NEWYOUTHの若新雄純さん、教育哲学者で熊本大学准教授の苫野一徳さん、経済産業省の浅野大介さん、カタリバ代表の今村久美さんのクロストークを交えた、聞き応えたっぷりな内容で、500人以上が参加。テーマに対する関心の高さがうかがい知れました。

 

LAXIC編集部もイベントに参加しましたが、「これは学校だけの話ではなく、今を生きる私たち大人の社会にも必要不可欠なスキルだ!」、と痛感。というのも、コロナをきっかけに時代の転換期とも言われるいま、校則だけではなく、会社や地域や家族の中、はたまた、自分の中の生き方や働き方、考え方に対して「これってどうしてだったっけ?」と、改めて問い直す機会が増えているからです。

 

そこで今回は、いち早くルールメイキングに取り組んだ中高生から得た学びをお伝えしたいと思います。

どうして今、“ルールメイキング力”が必要とされているのか

改めて、校則見直しをはじめとするルールメイキングが、なぜ、必要な時期に来ているのか。経済産業省の浅野大介さん曰く、「自由な働き方ができるようになってきたから」だそう。

これまでは、一つの会社に入って守られていました。逆に、会社に入って1つの働き方しかできなかった。これからはもっと自由になれるのです。自分がもっと働きやすく、生きやすくするには、人と交渉してみんなが納得いく環境を作ろうね、ということなのです。

そして実際に、いま自由な働き方へとシフトしている最中ですが、身の回りの契約や権利の問題が付随してきたときに「日本人は意外とボーッとしがち」とのこと。

イベントのようす

自分が力を発揮できるフィールドは誰かが整理してくれると思っているのですが、そんなことは絶対にない。子どもの頃からそういう経験がないのが影響していると思います。ですから、子どもの頃からそういった力を鍛えるには、校則は最高の題材になると思います。

確かに。自分が学生だったころを思い返しても、校則やルールに対して疑うも何も、「否応なしに従うもの」と教えられたもの…。与えられたフィールドに対する思考停止を打ち破れるかどうか。自分たちが生きやすい環境は、自分たちで揃えていく。自由になったからこその、新たなスキルが必要になるということなのです。

教育哲学者の苫野一徳さんは、学校の本質としてルールメイキングの必要性があると捉えています。

学校の本質は、市民社会の一番大事な土台です。自分たちの社会は自分たちで作るという土台にするには、みんなで学校を作り上げていくという経験を保証する必要があるのです。

社会の担い手である自由な市民を育てるのが学校の本質なら、ルールメイキングは当たり前に必要。さらに、ルールメイキングの主役は生徒だけではなく、先生も主役であることを強調していました。

先生にとっても働きやすい場づくりにもなるし、働き方改革にもつながります。生徒と一緒に、どんなルールがあれば、働きやすい学校になるのか。そのためのプロジェクトでもあるので、そこは先生もぜひ一緒に考えて欲しい。

先程の浅野さんの話とつながる部分がありますね。働き方も生き方も自由に選べる時代へと、今まさに同時進行中なので、ルールメイキング力が私たち大人にも必要なスキルということを思い知らされました。

ルールメイキングで重要な観点は「スタート」と「着地点」

校則見直しの取り組みは、まず、学校生活の中で「これってどうしてだっけ?」「いや、そもそもさ」という小さな疑問を持つことからスタートするのですが、そうしたマインドを持てるかどうかが大きなポイントです。加えて、疑問に思ったときに、それを素直に発信できる雰囲気があるかどうかという学校の環境面も大切になってきます。

 

これら条件がそろって初めてルールメイキングはスタートできるのですが、「○か×か」「正解か不正解か」を重んじてきた日本の教育現場がこうしたマインドを持つことはとてもハードルが高い。でも、誰かが始めないと、周囲の人も変わらない。だからこそ、カタリバのような伴走してくれるサポート的な存在や、一緒に取り組んでいく仲間たちが必要なのですね。

 

次に重要なのが着地点。校則の見直しというと、どうしても学校vs生徒という対立構造をイメージしがちですが、このプロジェクトは「対話」で解決するということを主軸に置いています。既存の校則やルールに対して、自分たちの望みを叶えるのが最終目的ではなく、生徒が主体となって先生や保護者などと対話を重ね「納得解」を探っていくのです。この流れも、これまでの教育現場ではなされてこなかったこと。

 

近年、「探究型学習」に注目が集まっていますが、こうした「自分の身の回りにある課題を発見し、合意形成や意思決定をしていく」プロセスは、まさに探究的な学びと言えるのではないでしょうか。先生たちも答えのない問いに対して生徒と一緒に取り組んでいく、その姿も非常に素晴らしいと思いました。

中高生の実例から学ぶ「試しにやってみる」「反対の意見を聞く」「コストを超える意義」

イベントのようす

実際にルールメイキングを実践している3人の中高生ルールメイカーからの報告がありました。その報告に対して若新雄純さんより大人たちへの学び解説がありましたが、それがまさに秀逸でした。

 

大垣市立東中学校の小寺陽香さんは靴下の色や長さまで決められているところに疑問を持ち、ルールメイキングを開始。「安心・安全に学校生活ができるか」を基準に、全校生徒や家族、地域からも意見を聞いて、試験的に実施してみる期間を設けました。その結果、靴下の色や長さ、帽子の着用、髪を結ぶ位置について校則を変更することができたそう。

まずは試しにやってみる、「試験的実施」ができたことが本当に素晴らしいと思います。「話し合ってから試そう」ではなく「試しに話し合ってみよう」からの発想だと、身近なところから進めていけますから。

まずはやってみる、試してみる。そこで不都合があればやり方を変えればいい。こういった身軽さ、フレキシブルさに抵抗を持たなく取り組めるのって非常に大事なマインドですが、いつしかできなくなっている自分がいました…。

次に、千葉県立姉崎高校の生徒会長をしている田畑ののはさんは、スカートの長さなど友人の実体験からプロジェクトに取り組むことに。校則変更に反対する先生の意見を聞きに行くと、反対する背景には「生徒たちが社会に出たときのために」「地域からの印象も大切にしたい」などの真意があったそう。そこで地域や企業の人に意見も聞きに行き、その影響や印象に対してヒアリング。とにかく様々な意見をもつ先生たちとの対話を重ねたそう。

どう戦うか、どう説得するかではなく、反対の人にその根拠を聞きに行く、どうして自分と考えが違うのかを聞きに行ってみる行動って大人でもなかなかできていない。多様化していると言いながら、多様化した中で○か×かを競い合って、ケンカしている大人が多いので。

自分と意見が違う人との向かい方、これは非常に難しいところです…。「考え方が違う」とシャットアウトしてしまってはどんどん溝は深まるばかりなので、そこはコミュニケーションや対話を通して「交流する」ということが重要なのですね。

 

最後は高校生メンバーで参加している千葉県立成田国際高校の藤田崇都くん。「男子のむさ苦しい長髪の禁止」という校則に対して意見書を出したところ、先生から「前例がないし、コストがかかりすぎて、現実味がない」と校則を変えにくい構造が発覚したそうです。しかし、対話を重ねる中で可能性を感じ始め、自分がやりたいことの本質的な目的を見出すことができたようです。

大人たちは時間や手間、お金がかかることに対してすぐに「コスト」を計算してしまいますが彼は、そのコストを超える「意義」を自分で見つけた。このことが素晴らしいですね。従来の答えのある学びは先生に意義が与えられていますが、答えのない探究的学びは、意義を自分で見つけていかなければならないのです。

と若新さん。確かに我々大人は日常の中でもすぐにコスト換算してしまいますね…。子育てにおいても、自分のコストと子どもにとってのコストは違うはずなのに、大人はそれを押し付けてしまいがち。学校や家庭の中でこそ失敗が許される環境なので、「大変かもしれないけど、やってみれば?」と子どもの背中を押せる存在になりたいものです。それにしてもハッとさせられることばかりで、自分の凝り固まった考え方を思い知らされたセッションでした。

「自分たちのルールは自分たちで決める」そのための大事な指標

最後に、ルールメイキングを進めていく上で大切にしたい指針「ルールメイキング宣言」が発表されました。監修者である苫野さんと、社会人サポーター、中高生たちの委員会が中心になり議論を重ね、3つの原則と9カ条の項目にまとめられています。

【校則・ルールの制定や見直しを進めるうえで前提にしたい3つの原則】

  1. 一人ひとりの尊厳を大切に。
  2. そもそも何のための学校かを最上位に。
  3. 学校は校則を公開し、その制定・改廃への生徒の参画を保障する

 

【校則・ルールの規定や見直しを進めるうえで大切にしたい9カ条】

  1. 一人ひとりが安心して居られ、声に意味を傾け合える環境づくり
  2. 疑問をもった「私」から始める
  3. 「なぜ、この校則・ルールが存在するのか」を確認する
  4. 固定観念にとらわれない
  5. 目的にかなう手段(校則・ルール)を論理的に提案する
  6. 論点を明確にして、対話でみんなの納得解を作る
  7. 関係者が取り組みを見えるようにする
  8. できた校則は公開する
  9. 一度つくった校則・ルールを見直し続ける

 

これらは憲法、教育基本法、子どもの権利条約にそれぞれ基づいて作られているので、そこも非常に安心感があります。ルールというのはどうしても「自由を奪うもの」「誰かからあてがわれるもの」というイメージでしたが、本来は「自分たちの自由を得るためのもの」という視点を改めて教えられました。

どうしても「学校の中の話でしょ」と思ってしまいがちですが、今回のイベントを通じて民主的な社会を作る上で大原則を、改めて自分たちの生活と地続きで見直すことができました。自分たちで生きやすい社会は、自分たちで作る。この発想を自分たちが取り戻すために、ルールや固定観念に縛られている私たち大人こそが、この指針に立ちかえりたいと思いました。まずは子どもたちと一緒に、自分の身の回りの当たり前から疑問を持つ、そして口にする、このことをはじめていきたいです。

ライター

飯田りえ

ライター

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