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2021.02.05 2023/05/31

シェアスクール、親子ワーケーション、EdTech
「新しい学び」=大人も子どもも一緒に問題解決すること【後編】

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シェアスクール、親子ワーケーション、EdTech<br>「新しい学び」=大人も子どもも一緒に問題解決すること【後編】

前編に引き続き、東京学芸大学教育インキュベーションセンター教授 金子嘉宏先生にお話を伺いました。テーマは「これからの時代の学びの形」。
  
「新しい学び」の専門家である金子教授は、「遊び」「協働」をテーマとし、「学校がどう変わるか」ということを現場に入りながら実践的に研究していらっしゃいます。『Explayground』という活動では、ラボを作り、大人も子どもも関係なくプロジェクトに参加し、「遊びから生まれる学び」を社会実装しながら「公教育の場」「未来の学校」の姿を模索しています。

後編は理想的な学校のあるべき姿や、親として、大人として、子どもの学びにどう関わっていくか、など、より実践的な視点から伺いました。近頃ワーママにも注目されている「ワーケーション」についてもお話いただきました!

前編はコチラ

開かれた学校の必要性。
放課後には大人と子どもと一緒に「問題解決」を

編集部:金子先生が考える「新しい学校教育」とは、どういったイメージですか?

 

金子嘉宏先生(以下、敬称略。金子):一言でいうと「学びの共有」です。学校というのは地域の共有財産なので、選挙の会場になったり、災害が起きれば避難所にもなります。そうした「場所」としては共有されていますが、「学び」の共有財産にはなってはいないんです。そこを解放して共有すればおもしろいんじゃないかな、と『シェアスクール構想』を提案しています。

 

編集部:シェアスクール…ですか?

 

金子:未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト(※1)』では、企業・外部人材とのコワーキングが可能な職員室として学校内にコワーキングスペースを配置しています。将来的に、親御さんが子どもと一緒に登校して、学校のコワーキングスペースで働いて、放課後は子どもと一緒にプロジェクトに参加したり、出たい授業に参加するという仕組みにできたらいいなと考えています。

(※1)東京学芸大学が教員、企業と教育委員会がワンチームとなって、Society5.0に向けた新しい学校システム創りに挑戦していくプロジェクト。日本初の産官学連携の学校システム改革チーム。

 

編集部:大人も一緒に学べるのはおもしろそうですね!

 

金子:こちらは『Explayground(※2)』の「GREEN TECH Engineer LAB」の話なのですが、附属小金井中の先生と相談して、中学生を活動に勧誘しまして、1年生25人が入部しました。相模原にフィールドがあり、間伐しないといけない木が膨大にあるので、彼らは週末、森で木を切りながら「未来の森との付き合い方」を考えています。つい先日も、「すのこが古いから作りたい」と自分たちで間伐した木を製材してもらい、製作して学校に納品していました。この活動は中学生にとっては部活のようなものだと思うのですが、ラボとしては大人も参加しており、大人も中学生も関係ない活動を行っています。年齢関係ない森林部みたいなものですね。

(※2)産官学民からなる多様な参加者によるプロジェクト活動。新しい公教育のモデルを形成している。

 

編集部:楽しそうなフィールドワークですし、とても実践的ですね。

 

金子:部活もスポーツや文化活動だけでなく、もう少し社会とつながった、問題解決に取り組む部活があってもいいんじゃないかと思います。『未来の学校』にはコクヨさんも入ってくれているので「椅子部作ろう」とか、博報堂さんも「コピーライト部作って、中学生だったらインターンにも来ていいよ」と言ってくれて、企業ともどんどんつながれます。大人にとっても越境学習(※3)は学びにもつながるので、郊外にシェアオフィスを作るより、学校内に作った方がいいと思います。

(※3)組織の枠を自発的に“越境”し、自ら学びの場を求めること。

 

編集部:成長もできて、社会貢献にもなるなんて。一石二鳥ですね!

 

金子:もともと大学の始まりは、学びたい人が集まりそこに先生を呼んで来て、学びが始まったので、学校自体が街のキャンパスになれたら理想的です。

 

編集部:シェアスクールは子どもたちにとっても、価値観の多様な大人たちと関われるのが良いですね。

 

金子:そうなのです。今は先生でも親でもない、いわゆる「ナナメの関係(※4)」が作りにくい時代。この第三の大人の存在を、学校でどう位置付けていくかも大切なポイントだと思います。今後の子どもたちのキャリア形成につながりますから。

(※4)親でも教師でもない第三者と子どもとの新しい関係。文科省のHPでも学校は地域の人材を活用して「ナナメの関係」を推奨している。

今、岩手県山田町と提携して、現地の小学4年生とオンラインで問題解決型の学習を進めています。山田町の先生と話をしていると、大学進学という選択肢を考えていない保護者も多いらしく、親以外の価値観に早いうちから触れておくことも必要だな、と感じました。地方の子どもたちにとっては東京のビジネスマンなんて見たことがないですが、放課後、コピーライターとオンラインで繋がって…という経験をしていれば「これも仕事なんだ!」って思えますよね。子どもたちの選択肢を広げる意味でも、学校を開くことが大切になると思います。

今、注目のワーケーション。実は「子どもと一緒に問題解決」ができる?

 

編集部:リモートワークが進んだことで、親子ワーケーションも注目されていますが、ここでも、親子で問題解決型の学びが重要、と聞きました。一体どういうことでしょうか。

 

金子:親子ワーケーションで大切なのは、親子で一緒に夢中になる体験をすること。地元の子どもと関わりながら、その土地の課題を解決するとか、公園に新しい遊びを導入してみるとか「夢中になって何かを変えた」体験が親子できたら、とても良い学びになります。

仕事ではないので、責任がないところで問題解決の経験ができますし、もし成果が出なくても自分たちが成長することに重きを置いているので、思い切ったことができますよね。

 

編集部:リゾート地にPCを持って行って、仕事をするだけではないのですね。

 

金子:もちろん、いろいろなワーケーションスタイルがあっていいですし、休暇を楽しむのも必要です。しかし、せっかく時間をかけて何かを体験するなら、親子で「学び」につながる方が良いですよね。受け身のものだと思い出にはなっても何も生み出されませんから。

 

編集部:それを聞くと、より「親子ワーケーション」に行きたくなりましたが、学校があるのでなかなか長期で行けないのが実状です。

 

金子:そうなんです。親子一緒のワーケーションでは、親はリモートワークで自由に動けても、学齢期の子どもがいると学校があるので動けないのが難点ですね。

でも、もし近い将来、(前編でもお話ししました)「基礎学力」が学校・地域・家庭と個人の計画のもとにて個別化され、個人で紐付けされ評価システムも整ったら、日本各地、どこでも授業を受けられるようになりますよ。

 

編集部:リモート・ラーニングができるようになれば、居住地から一気に解放されますね……!

オンライン学習と個別最適化されるAIドリルって…… 実際どう?

 

編集部:ちなみに、オンライン学習やEdTechの有効性はどうお考えですか?

 

金子:GIGAスクール構想(※5)も当初、3年ぐらいかけて進めるはずが、コロナの影響が追い風となり、2021年度の1学期中には一人1台デバイスが配られるようになりました。ただ、EdTechを入れて個別最適化して…… これですべて解決! みたいに聞こえますけど、そんな簡単なことじゃない。効率的なので使わない手はないですが、それだけで解決はできない部分も大いにあります。

(※5)生徒一人1台端末と大容量の通信ネットワークを整備して、個別最適化された教育を全国で実現させる構想。

大学もほぼオンラインでしたが、学生のストレスはもちろん、教師側にも学びが伝わらないストレスが出てきています。どこをオンラインでやって、どこを対面でやるのか。まだまだ、判断が難しいです。

 

編集部:AIドリルは実際どうですか? Qubena(キュビナ)(※6)みたいな存在が「基礎学力」を担ってくれるとばかり思っていましたが……

(※6)人工知能型のタブレット教材で教科学習と探求学習を両立する上で、基礎学力の向上と教員への負担軽減が期待され全国で導入事例が相次いでいる。

 

金子:やはり伴走してくれるメンターがいないと、AIドリルだけでは解決しないと思います。というのも、どんどん最適化されてしまうと、できていない問題ばかりでてくる。これは、子どもにとっては苦痛でしかないですよ(苦笑) 見てあげる人は必要なので、シェアスクールで誰か大人を捕まえて「今日はラボ活動をやめて算数教えて」と使い分けできれば良いですが。

 

編集部:そうですね…… それは大人でも嫌になります(苦笑)

 

金子:「基礎学力」においても、学びが最適化される必要があるのかも難しいところです。15分で期末テストで100点取れるということよりも、気が付いたら3時間、虫を観察していたということのほうに「学びの本質」はあると思うのです。「学びの量」があるので効率化しなくてはいけない。でもそれは「学びの本質」ではないので、学校の中でもジレンマがあると思います。

大人は「新しい学び」に対してどう関わればいい?

編集部:最終的に、親である私たちは「新しい学び」に対してどう向き合えばいいでしょうか?

 

金子:まずは一緒に思いっきり遊ぶことじゃないでしょうか。もしくは、本人が興味のあること、遊びに対して応援してあげる。そして、探究の仕方や研究の仕方を大人としてサポートする。これから学校の先生も、そういったアドバイザー的な存在になっていくと思います。

 

編集部:子ども自身が自分のやりたいこと、興味があることがみつからないときはどうすれば?

 

金子:その場合は、大人が夢中になっている姿を見せればいいと思います。宇宙について夢中に語れる人、歴史のおもしろさを語れる人が「歴史って(宇宙って)こんなにおもしろいんだよ!」と熱量高く話してくれたら、授業も絶対おもしろくなるはず。

ですから、親も自分が大好きなこと・興味があることについて「これってすごいんだよ!」と語る姿を子どもに見せるのが良いですよ。それには、親自身も自分が夢中になれること、好きなことをもっと追求しておくことが大切になりますし、身近な大人が楽しそうに探究していれば、子どもも「世の中は自分でどんどんおもしろくできるんだ!」と自然と思えますから。

 

編集部:なるほど! まずはおもしろがれる大人に自分がなればいいのですね。遊びを通して、自分が変われたら学びにつながりますしね。金子先生、本日は大変勉強になるお話をありがとうございました。

後編ではより先進的な学びのお話を伺うことができました。ワーケーションにしても親子で問題解決型の学びができたり、シェアスクールで大人も子どもと一緒に学べたり。「学ぶ」ということが家の近くの学校でできるなら、より身近で、より断続的に続けられそうですね。学びのハードルが一気に下がって、大人も子どもも、楽しく学び続けられる社会(先生が言う「学校が街のキャンパス」)になれればとても理想的。そのためにも、子どもだけに学びを求めず、自分も夢中になれることを探求し続けたいな、と思いました。

プロフィール

金子嘉宏さん

東京学芸大学教育インキュベーションセンター 教授

金子嘉宏(かねこよしひろ)/東京学芸大学教育インキュベーションセンター教授。1969年生まれ。東京大学卒。専門分野は社会心理学、教育支援協働学。一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構事務局長、一般社団法人STEAM Japan理事、NPO法人東京学芸大こども未来研究所理事を兼任。こども、教育関連の企業に勤めながら、「遊び」についての産学共同研究を数多く実践。現職にて、企業と大学、学校をつなぐ協働の推進、新しい「学びの場」の研究開発、普及に取り組んでいる。

文・インタビュー:飯田りえ

ライター

飯田りえ

ライター

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