VUCA時代、「生きる力」を育む、学びの本質とは?
「遊び」と「学び」の深い関係性【前編】

ラシク・インタビューvol.185

東京学芸大学教育インキュベーションセンター 教授 金子嘉宏さん

2020年は新型コロナウィルス感染症拡大で私たちの暮らしや働き方が大きく揺らぎました。時代はまさに予測不能、VUCA。ニューノーマルの名の下、2020年は子どもたちもまたオンライン学習やICTを活用した新しい学び方に出会い、新しい日常をつくりはじめています。
  
ところで、みなさんは「学習指導要領」という言葉を聞いたことがありますか?
  
学習指導要領は、各学校が教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準として学校教育法に基づき定められているもので、このしくみのおかけで私たちは日本のどの地域に住んでいても一定水準の教育が受けられます。時代の変化や社会の要請などに応じて学習指導要領は約10年ごとに改訂されており、2020年の改訂では「英語が教科になる」、「プログラミング教育が始まる」といった内容に注目が集まりました。VUCA時代を生きる上で求められる「生きる力」。こうした力を養うために、いま「問題解決型の学び」が重視されています。
  
今回、LAXICでは「これからの時代の学びの形」をテーマに、東京学芸大学教育インキュベーションセンター教授 金子嘉宏先生にお話を伺いました。
  
「新しい学び」の専門家である金子教授は、「遊び」「協働」をテーマとし、「学校がどう変わるか」ということを現場に入りながら実践的に研究していらっしゃいます。『Explayground』という活動では、ラボを作り、大人も子どもも関係なくプロジェクトに参加し、「遊びから生まれる学び」を社会実装しながら「公教育の場」「未来の学校」の姿を模索しています。
   
社会の要請とのずれを指摘されている日本の学校教育の課題点はどこに?
そして、これからの時代に子どもたちが必要な「学びの本質」とは?
前後編でお伝えします。

変化を求められている学校教育
背景には「基礎学力」と「問題解決型」のジレンマ

金子嘉宏先生

編集部:学習指導要領が約10年ぶりに改訂されましたね。変化の激しい時代に「生きる力」を育むためとのことかと思いますが、金子先生は従来の学校教育や学習指導要領についてどのようにお感じですか?

 

金子嘉宏さん(以下、敬称略。金子):その前に逆にちょっと聞いてみたいのですが、学習指導要領に「ゆとり」という言葉が出てきたのはいつごろからだと思いますか?

 

編集部:ゆとり教育といえば…… 1990年代のイメージですかね。

 

金子:学習指導要領で「ゆとりある充実した学校生活の実現」とうたわれたのは1977年〜78年の改訂です。日本では、長い間、膨大なカリキュラムを圧縮して教える「詰め込み教育」が行われてきましたが、学習時間を減らしてゆとりを持たせるため、学習指導要領も改訂されてきました。ちなみに、「詰め込み教育はダメだ!」という議論は実は70年も前からありました。それなのに日本の教育の根本は変わっていないのです。

 

編集部:そんなに前から……! アクティブ・ラーニングといった言葉もだいぶ浸透してきたとは思うのですが、やっぱり日本の教育の根っこには詰め込み教育がありそうですね…… なぜなのでしょうか?

 

金子:生きる力を養う上で問題解決型学習(Project Based Learning/PBL)(※1)が大事だと言われる一方で、従来の教育が得意としてきた基礎学力について、「誰が教えるのか」という問いが生じているからです。そもそも「基礎学力とは何か」というところから問い直さないといけないのですが……

(※1)知識の暗記などのような受動的な学習ではなく、自ら問題を発見し解決する能力を養うことを目的とした教育法のこと。

 

編集部:基礎学力は、国語や算数といった教科によって育成されるものだと思いますが、教科自体が増え続けていますよね。

 

金子:『未来の学校みんなで創ろう。プロジェクト(※2)』でも話題に上がるのですが、基礎学力=社会に出ていくために全員が身につけておいてほしい力と考えています。学校でテストをして、80点ですというのは、要するに、基礎学力が80点分しかついていないという状態です。

(※2)東京学芸大学が教員、企業と教育委員会がワンチームとなって、Society5.0に向けた新しい学校システム創りに挑戦していくプロジェクト。日本初の産官学連携の学校システム改革チーム。

「基礎学力自体を見直す」という観点も必要ですが、「基礎学力を100%身につけるためには、どうしたらいいのか」を考えたとき、経験的な学習も基礎学力を定着させることも両方、学校だけでやれというのには無理があるように思うのです。

 

編集部:まさに、学校の役割そのものが問い直されているのですね。

 

金子:学校の大まかな役割としては「学びの場」「非認知能力を磨く場」「リテラシーを身につける場」「社会的な認証を得る場」の4点が挙げられます。これらについては研究も議論もされてきたのですが、基礎学力や評価のあり方に関してはこれまであまり議論されてこなかったのです。まずは、そこを問い直す必要があります。

九九は誰が教える? 今こそ学校・塾・家庭の連携が問われている

編集部:小学校では今年度から英語教育やプログラミングなども導入され、アクティブ・ラーニングもスタートしましたね。

 

金子:学校の先生に言わせると「いつアクティブ・ラーニングをやるのですか」といった状況です。正直、時間がなくて、これをやると教科内容が終わらないのです。

だからといって課題を出せば子どもが大変になり、さらにその課題をチェックする先生自身も大変になる。一体、誰の何のためにやっているのだろう…… と。やることが増えるばかりで、減らすことをしていないので、どこかのタイミングで教科内容を見直さないといけません。

 

編集部:なるほど…… 教科内容の見直しと言っても、九九は覚えなければなりませんし、簡単なことではなさそうですよね。

 

金子:そうですね。ですから学校だけでなく、塾などの地域教育や家庭などの子どもたちを取り巻く環境全体で見直すタイミングなんだと思います。計画を立てる段階から学校、塾、家庭を連携しておく。だって、学校でも塾でも九九をやるのは無駄ですし、同じ先生の立場からしても、生徒がわかっていることを教えるのは苦痛ですから。

 

編集部:基礎学力を学校から外してしまう、という方法もあるのでしょうか?

 

金子:そういう議論も一部ありますが、「みんなで学んでいるからこそ学べる」という側面もありますのでそれだけが解決策だとは思いません。学校、塾、家庭はそれぞれ個別で何をするか計画を立て、そこではじめて「学校では何を学ぶのか」という議論になるのです。

求められているのは生きることを“面白くする”力
親は「~べき」に縛られず子どもを見守って

編集部:予測不能な時代に向けて問題解決型の学びが求められる理由はいくつかあると思いますが、一番の理由は何でしょうか?

 

金子:その前に「問題」の定義って、何だと思いますか?

 

編集部:困りごと…… でしょうか?

 

金子:問題というのは「現実」と、「あるべき姿・ありたい姿」とのギャップのことなんです。学問って、ギャップを埋める作業なんですね。分からないから分かりたい。だから学び・研究する。問題解決は学びの本質そのものなのです。となると、ギャップそのものを見つけられるかどうかがポイントになります。現実との差を埋めることがおもしろいと思えるかどうか。そこが大きな分かれ道になります。

たとえば、何か新しいスポーツを始めたとき、「できなくてやめちゃうタイプ」と「できないからこそ頑張るタイプ」という2つに分かれますね。後者はおもしろいと思える「本質」が理解できるので、ギャップがあったときに「何とかしよう」と思えるのです。

 

編集部:なるほど。ギャップに対して興味が湧くから学び、研究するのですね。

 

金子:そういう好奇心は、みんな初めは自然に持って生まれてきたわけですけどね。だから問題解決型の学びが必要なのです。おもしろさ自体を味わうものなので。

生きることを「自分でおもしろくする力」はとても大事だと思います。子ども自身が「世の中はおもしろさで溢れていて、自分でおもしろいことを作れるんだ!」って思えたら……?

 

編集部:それは、もう幸せですよね。親の役割が終わったと言っても過言ではないです。でも自我がなければ、ギャップ自体が発生しないのでは?

 

金子:そうなのです。自我も必要で、まさにSTEMに「ART」が加わってSTEAMになったことは非常に良かったと思います。自分がありたい姿を示す、発散的なアートタイプの思考というのは、物事を収束させていくエンジニアリングタイプからは出てこなかった発想なので。

 

編集部:でも、いろいろなタイプがあるのなら、全員が全員、ありたい姿を描ける訳ではないような……

 

金子:まさにその議論があります。最近、最も感じるのが “クリエイティブ圧力” (苦笑) 大半の人間はそんなにクリエイティブじゃないのに、「クリエイティブじゃないと生きている価値がない」みたいな雰囲気がありますよね。

あと「Society5.0(※3)を生き抜く」の「生き抜く」って…なんだろう、とかね。サバイブしないで生きていけるために人類は文明を築いてきたはずなのに、サバイブしないといけない社会なの……? って。

(※3)IOTやAI、ビッグデータなど活用して経済と社会課題を解決を目指す社会。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会

 

編集部:確かに「こうあらねば」みたいなものはありますよね。圧力というか、ハラスメントかもしれないですね…

 

金子:「自立してなくてはいけない」とか「人に頼ってはいけない」、「すべてを自分で選択しなくてはならない」とかもそうですね。べき、ねば、に自分たちがどんどん縛られている気がします。それよりも、子どもは「なんとかなるよ、うちの子は大丈夫」って思って緩やかに育てた方がいいと僕は思います。

 

「遊び」が「学び」に変わる瞬間=自分が変われたとき

編集部:先生はよく「遊びの中から学びが生まれる」とおっしゃいますが、遊びから学びに変わる瞬間がよく分からなくて…… 我が子を見ていて「遊んでばかりいて大丈夫?」って思ってしまいます(苦笑) 遊びと学びの境目はどこにあるのでしょうか?

 

金子:「遊び」というのは先ほど出てきました、「問題解決」と同じ作業で「ギャップを埋めること」です。まさに「何でできないんだろう」と考えながら次を考える。遊び自体は無目的で、自分から変わろうなんて思って遊んでいる人はいないですよね(笑) でも、遊んでいるうちに「自分が変われたら」それは「学び」なのです。よく言われるのが「桜を見ても、見方が変われば学びになる」と。

 

編集部:遊びを通じて、変われたかどうかなのですね!

 

金子:たとえば、「坂を登る車を作ろう」というのは「遊び」なんだけど、問題解決していくうちに、探究したり、発見したり、友達と協働したり、「学び」がたくさん詰まっている。ただ、教育ということを考えるとある程度軌道を作りながら「学び」を支援するということになるのですが、あまり軌道をつけすぎると学び自体がおもしろくなくなってしまう。ただ遊んでいるだけに見えているときに、今、学んだなという部分を見取ってあげることが大切でしょうか。

 

編集部:やはり、それは学校で担ってもらう方がいいと思います。

 

金子:ただ、「問題解決型」の学びをしようとすると、ギャップを見つけるためにはある程度の「基礎学力」がないとギャップが見つけられないのです。研究分野においても一から研究していくよりは、先人の肩に乗りながら研究を進めていきますよね。ある程度の土台を身につける作業は必要なのです。

 

編集部:結局、その壁にぶち当たるのですね……

 

金子:学習指導要領に載っている学習内容は改訂されますが、実はほとんど変わっていないのです。何かの教科をズバッと外していいのか、というと、誰もその答えを持っていない。そもそも、学習指導要領の内容が「基礎学力」なのかというエビデンスもどこにもないのです。どこかで「えいや!」と減らしていいんじゃないの、と僕は思うのですが……

 

編集部:良い解決策はないのでしょうか?

 

金子:「全員18歳までに基礎学力を確実につけて大学に行こう」というのはもはや難しいと思います。だから、その枠組みを取っ払ってしまって、何歳になっても小学校、中学校にいてもいい、「シェアスクール」という発想はそこから来ています。

 

編集部:シェアスクール……! また新しい学びのスタイルですね。後編も引き続きよろしくお願いいたします。

「これからの時代問題解決型・探求型の学びはいい」となんとなく知っていても、「学びの本質」まで理解していなかったので、改めて伺えて理解が深まりました。遊びと学びの境界線が知れたことで、より一層クリアに。なおさら「主体的な遊びでないと変われない」ということもはっきりしましたね。

後半は金子先生が実装していらっしゃる新しい教育の取り組みについて、気になるEdTech(eラーニング)や親子で学べるワーケーションについても伺いました。

金子嘉宏さんプロフィール
金子嘉宏(かねこよしひろ)/東京学芸大学教育インキュベーションセンター教授。1969年生まれ。東京大学卒。専門分野は社会心理学、教育支援協働学。一般社団法人東京学芸大Explayground推進機構事務局長、一般社団法人STEAM Japan理事、NPO法人東京学芸大こども未来研究所理事を兼任。こども、教育関連の企業に勤めながら、「遊び」についての産学共同研究を数多く実践。現職にて、企業と大学、学校をつなぐ協働の推進、新しい「学びの場」の研究開発、普及に取り組んでいる。
HP:東京学芸大学

ワーママを、楽しく。LAXIC

文・インタビュー:飯田りえ

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