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2020.10.23 2023/02/15

Withコロナ時代に改めて考えたい、「家族」とは?
不妊治療を経て、特別養子縁組で二人の子どもを授かったセキユリヲさんインタビュー

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Withコロナ時代に改めて考えたい、「家族」とは?<br>不妊治療を経て、特別養子縁組で二人の子どもを授かったセキユリヲさんインタビュー

今回のコロナ禍において働き方だけでなく、自分の生き方や家族のあり方について、改めて見つめ直した方も多いと思います。LAXICでは、来る11月15日の「家族の日」を前に、みなさんと家族について考える機会を設けたいと本インタビューを企画しました。

今回は「出産しない子育て」という方向から「家族とは……?」について考えてみたいと思うのですが、そのきっかけは、8月末に開催されたあるオンラインイベント(※1)でした。

このイベントでは、Z世代の有志数人で活動する団体「セルフパートナーシップBOOK」共同代表の冨樫真凜さんファシリテートのもと、特別養子縁組(※2)で2人の子どもを授かったデザイナー、セキユリヲさんのインタビューが行われました。

不妊治療や育児はLAXIC世代にとって親和性が高い話題ですが、「出産しない子育て」はあまり知られていない家族のカタチなのでは……!? そこで、今回改めてセキユリヲさんに不妊治療の体験、そして特別養子縁組で2人のお子さんを迎え入れた過程についてお話を伺いました。取材には冨樫真凜さんにも同席いただき、彼女が今後仕掛けていく「Baby Tech(ベビーテック)」を中心に、Z世代からみた家族観についてもお聞きしました。

(※1)オンラインイベント「出産しない子育て
(※2)さまざまな事情で生みの親が子どもを育てられない場合に、親子関係を解消し、新たに育ての親と親子関係を結ぶ公的な制度のこと

仕事に明け暮れた30代、不妊治療にもトライするが心身ともにストレスフルに

セキユリヲさん

編集部:まずはセキさんにお聞きします。不妊治療のご経験で感じられたこと、そして特別養子縁組について考えるに至った経緯について、改めてお聞かせいただけますか。

 

セキユリヲさん(以下、敬称略。セキ):私は子どもがすごく好きで「いずれ子どもと暮らしたい」と思っていたのですが、ありがたいことに仕事に恵まれ、30代は毎日めまぐるしく、ジェットコースターに乗っているような生活で…… 完全に仕事中心の生活でした。

 

編集部:私も出版業界にいたので…… わかります。

 

セキ:「いつか子どもを」という自分の気持ちをおざなりにしてしまったことは、今でも反省しているのですが、その時は仕事が最優先。気がついたら30代半ばが過ぎていました。夫とも、折に触れて話はしていましたが、不妊治療までは踏み出せず。そんな最中、2009年から1年間、夫とスウェーデンで暮らすことになりました。現地でカフェを営む女性に出会ったのですが、彼女は韓国人のお子さんを養子にし、育てた経験の持ち主でした。「今はストックホルムでニュースキャスターをしているのよ!」と、嬉しそうに子どもの話をしてくださって。そこで初めて「養子という選択もあるんだ!」と知りました。

 

編集部:なるほど。それで養子を考えたのですね?

 

セキ:いえ、帰国してからはまずは不妊治療をはじめました。1年ほど続けてみましたが…… 辛かったですね。

 

編集部:心身への負担は大きいですよね……

 

セキ:仕事との両立も大変でしたし、肉体的には特に。あとは1ヶ月ごとに審判がやってくる辛さと、オープンにできないしんどさもありましたね…… お金もかかりますし。でも、何よりも辛かったのは、自分の考え方と違うことをしている自分への違和感でした。

 

編集部:というと?

 

セキ:私自身、なるべく科学的な力に頼らず自然に生きていたいタイプなので。とはいえ、年齢が年齢だったので諦めた方がいいだろうな、という思いと、諦めきれない思いと。一方で、養子縁組で幸せな家族を築いたスウェーデンのスティーナさんの顔も思い浮かべて。迷いながら、モヤモヤと30代後半を過ごしていました。

日本で特別養子縁組をした家族を目の当たりにして……

編集部:スウェーデンの暮らしの中で、養子というキーワードに出会えたことが大きかったのでしょうね。日本では特別養子縁組の話題がサラッと出てくることはまだないですから。

 

セキ:そうなんです。もともと福祉のことは興味があり里親制度は知っていましたが、特別養子縁組は詳しく知りませんでした。表に出ていないだけで、特別養子縁組をされた方は日本でも多くいらっしゃるんですけどね…… 

 

編集部:さまざまな迷いと葛藤がありながら、決断された決め手は?

 

セキ:不妊治療を続けながら、この状況から抜け出したい気持ちと、特別養子縁組という気持ちが両方あり。そのことを友人に話していたら「東京で特別養子縁組をした家族が友人にいるよ」と紹介してもらったんです。私もその方を存じ上げていて、連絡すると「おうちに遊びにきませんか?」と自宅に呼んでくださって。とても幸せそうなご家族を目の当たりにし、「実子も、養子縁組も同じように子育てできるんだなあ……」って。そこからは、すごいスピードで動き始めました。全国に15ぐらい斡旋団体があるのですが、私もその方と同じところにお願いしました。

 

編集部:素敵な出会いがつながったのですね。ちなみに斡旋団体では「3歳までは親元で育てるのが条件」と説明されたそうですが……?

 

セキ:そうですね。育て方については「赤ちゃんの間の一定期間」などのところもありますが、「3歳まで」と明記してあるのはその団体だけで。今では状況も変わり「保育園に入るくらいまで」となっています。

 

編集部:ハードルに感じつつも、「子ども主体で考える」団体のメッセージにも受け取れますね。

 

セキ:そうなんです! 実際、私も3歳まで育児に専念してよかったと思っています。

デリケートな“真実告知”も、信頼できるコミュニティと仲間がいるからこそシェアし合える

編集部:セキさんは2人のお子さんのお母さんですが、二人目を授かる時はどういうタイミングで?

 

セキ:先輩方がだんだん二人目、三人目…… となっていくと、兄弟いる方がいいなと。特に養子だから、この状況を分かち合える人がいたらいい。上の子が成長するにつれてその思いが強くなっていた頃に、団体の方から「二人目お考えですか?」とお話がありました。

 

編集部:お声かけがあるんですね。

 

セキ:私の所属している団体は交流が多い団体で、定期的に連絡やコミュニケーションがあります。団体側は常に育ての親を探していますね。

 

編集部:ちなみに、みなさんとはどんな交流が?

 

セキ:普段は集まって洋服のお下がりをあげたり…… そういう感じですが、最も大事なのは“真実告知”のことですね。子どもがある程度言葉がわかるようになったら、その子にわかるように状況を伝えています。家族によって違うので、今どんな状況かをシェアしています。

 

編集部:コミュニティがあるのは安心できますね!

 

セキ:そうですね、上の子は明るくて面白い子なのですが、真実告知の話をペラペラとお友達やそのお母さんにお話ししちゃうんです。うちはオープンにしているのでそれ自体は良いことと捉えているのですが、全然状況を知らない人に話しちゃうこともあって(苦笑) あと、生みのお母さんに会いたくなる時があるみたいです。彼女が1歳の時に団体を通じて会う機会があったのですが、その時の写真を見ながら「〇〇さんに会いたい」と。本人に記憶はないのですが……

 

編集部:それは、ちょっと複雑な心境ですね。子どものその素直な気持ちも大事にしてあげたいし、悩ましいところですね……

 

セキ:そうなんです。子どもの性格にもよるので、目の前の子どもをしっかり見て、理解度や性格に合わせて、こちらも真摯に向き合おうと思います。今はまだそこまで深刻ではないのでしょうが、5年後、10年後、思春期になってからはもう少し複雑な場面が出てくるかな、とも思います。でも、どんな家庭でも思春期にはいろんな壁にぶつかるのではないでしょうか。

当事者とつながることで、多様な生き方を知り人生を考えるきっかけに

冨樫真凜さん

編集部:冨樫さんはセルフパートナーシップBOOKの活動以外にも、「Baby」と「Technology」を融合させた「Baby Tech(ベビーテック)」という分野で事業を展開するために起業準備中ですよね。8月にセキさんと一緒に「出産しない子育て」のイベントを行うことになった背景はなんだったのでしょうか?

 

冨樫真凜さん(以下、敬称略。冨樫):いろんな家族のカタチを取材したいと思い、最初にお声掛けさせていただきました。特別養子縁組について制度は知っていましたが、当事者の声を聞くのは初めてでした。

 

編集部:8月のイベントはもちろん、今日この場で改めてセキさんのお話を聞いてみていかがでしたか?

 

冨樫:セキさんに出会い、特別養子縁組について「自分の選択肢にもあるな!」と思いました。ひとつの情報としてしか知らなかったときには特別養子縁組は私自身の人生のカードには並んでいませんでした。でも、当事者との距離が近ければ近いほど、自分ゴトとして捉えられるというか、自分の将来と重ね合わせて想像できました。

 

編集部:情報として知っているだけでなく、実際に当事者としてつながることは生き方につながる本当の学びになるんですね!

 

セキ:ハタチのころに特別養子縁組の存在を知っているのは強いですよね。ギリギリになって知るのではなく、若い頃から選択肢として持っているのがいい。

 

編集部:20歳の冨樫さんが子育て分野に興味をもったきっかけは何でしょうか?

 

冨樫:留学中にベビーシッターを経験し、国内外で多くのお母さん見てきました。アメリカとニュージーランドで感じたのが、お母さんたちは母親である前に一人の人間であるということですね。日本ではどうしてもお母さんであることが第一になってしまうと思うのですが、海外では社会全体が個人を尊重していて、お母さん自身、仕事や自分の時間を大事にしていたのが印象的でした。

 

編集部:確かに、日本は母親になる=何かを捨てるみたいな覚悟を持たなければみたいな風潮がありますよね。

 

冨樫:そうですね。私の場合は、10代の留学体験が、「育児を安全に、もっと楽にしていきたい」という起業の使命感につながりました。

固定観念を捨てて自分らしく生きていくために

編集部:冨樫さんは、さまざまな角度から育児や家族を捉えて、行動に起こそうとしていますよね。海外で印象に残っていることはありますか?

 

冨樫:ニュージーランドの留学中にホームステイ先の慶事でおじいちゃんの70歳のお誕生日会に参加したんですが、家族に加え、ご近所さんや仲の良い友人たちも集まっていたのが印象的でした。日本なら親族でお祝いするようなことが、外国では心の距離が近しい人たちがファミリーとして参加していて。

 

編集部:たしかに日本にはない感覚ですね。

 

冨樫:結婚に関しても同様で、日本だと籍を入れることが責任感ある行動と思われがちですが、籍を入れる・入れないとか形式の問題ではなく「自分たちがどうしたいか」ということが大事だ、ということを教えてもらいました。

 

セキ:形式に囚われていると、絶対どこかで違和感を覚えることになりますよね。

 

冨樫:そうなんです! 子育てやパートナーシップについても、日本では「20代後半で付き合う人は、もう結婚前提だよね」と結婚があたかもゴールとして語られているなと感じています。自分たちのマイルストーンに結婚や出産は必ずセットされていて、勝手にテンプレートを用意されている気がするんです。だからそこから外れると「どうしたの?」って思われる…… 「結婚するもしないも、それはそれでありだよね」というテンションでなかなか話せないんです。

 

編集部:なるほど! そうした疑問や実体験が今の活動に生きているんですね。

冨樫:「〜あるべき」みたいな固定観念は自分たちも無意識に持っていて、再生産していることってあると思うんです。だからこそ、「常識を疑う」じゃないですが、モヤッとした人から声を上げていくことが大事だと思って活動しています。モヤっとするようなことを次の世代に語り継ぐのはやめにしたいので。

 

編集部:お二人とも、本日はありがとうございました! 最後に、セキさんにとって家族とは何か? お聞かせいただけますか?

 

セキ:実は別の取材でも同じ問いをいただいたのですが、うちの子どもは「一緒に住むことだよ」って言っていて「あ、そうだね」って思いました。血の繋がりとかではなく、毎日、同じ釜の飯を食べて眠って、同じ歌を歌って…。暮らしの全部を一緒に過ごすことが家族。わが子ながら「うまい!」って思いました。日々の暮らしを大切にしていきたいです。

 

編集部:素敵ですね。私たち大人も、子どもに教えられて親になっていくのですね。セキさん、冨樫さん本当にありがとうございました!

初めて当事者の方のお話を聞けて、特別養子縁組の解像度がぐっと上がりました。知らないことだらけでしたが、何よりも「暮らし全部を共にすること、それが家族なんだ」という言葉がとてもシンプルにスッと伝わりました。今回の話には出てきませんでしたが、お二人目はダウン症のお子さんを授かっていらっしゃいます。お仕事やプライベートで障がいのある方々と関わりがあったセキさんは、戸惑いや心配することはなく、むしろ優しさや柔らかさを知っているから積極的に受け入れたかった、とイベントでおっしゃっていました。セキさんがものすごく大きく構えられていらっしゃるのが、非常に伝わるお話ですが、何よりもまずは「知ること」がとにかく大事なのだと感じました。なかなか、語られることのなかった特別養子縁組ですが、これだけでなく家族のカタチはいろいろ自由に選択できる。また、多様なカタチをみんなが認め合える社会を目指したいですね。

プロフィール

セキユリヲさん

雑貨ブランドsalvia(サルビア)代表/デザイナー

グラフィックとテキスタイルのデザイナー。古きよき日本の伝統文化に学びながら、今の暮らしによりそう生活雑貨づくりをすすめる「サルビア」を始めて20年。自然の美しさを表現したパターンデザインをはじめ、雑誌「かぞくのじかん」など雑誌や書籍、プロダクトデザインの仕事多数。2009年より一年間スウェーデンでテキスタイル制作を学び、帰国後は東京・蔵前のアトリエで織物のワークショップなどをひらく。「月イチ蔵前マップ」「渋谷子育てMAP」などマップのデザインをしながらまちづくりを考える取り組みも。特別養子縁組で5歳と3歳の子どもを育てながら、2020年夏より「新しい家族のカタチ」を広げる活動をスタート。

冨樫真凜さん

起業家/セルフパートナーシップBOOK共同代表

1999年生まれ、20歳。N高等学校一期生。セルフパートナーシップBOOK共同代表。「育児の社会化」を目標に、技術の力で育児を安全に楽にできるBaby Tech分野で活動中。現在は子どもの寝かしつけに関するサービスを開発中。赤ちゃんが大好き。

文・インタビュー:飯田 りえ

ライター

飯田りえ

ライター

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