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2020.07.09 2023/02/15

長引くテレワーク、久々の出社、そして熱中症……
産業医に学ぶ、withコロナ時代の組織と個人のマネジメント

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長引くテレワーク、久々の出社、そして熱中症……<br>産業医に学ぶ、withコロナ時代の組織と個人のマネジメント

日常生活を徐々に取り戻しつつある中、ワーキングスタイルを模索している最中という方も多いと思います。引き続きの感染予防対策と熱中症対策の両立も求められ、まだまだ気が抜けませんよね。人によっては長引くテレワーク(もしくは出社)による健康障害やメンタル不調を感じるケースもあるかもしれません。

職場との関係性をうまくキープしながら、健康に自分らしく働き続けられるにはどうすればいいのでしょうか。今回は、環境面やメンタル面、フィジカル面のマネジメント方法について、フェミナス産業医事務所の石井りな先生にお話を伺いました。

テレワークがメインとなり、個人も組織もよりマネジメントが問われる時代に

フェミナス産業医事務所代表/産業医・精神科医 石井りな先生

編集部:緊急事態宣言後、先生のオフィスにはどのような相談が多く寄せられましたか?

 

石井りな先生(以下、敬称略。石井):まず、個人からのご相談で多かったのは、子どもと過ごしながらの在宅勤務に関するものでした。就業時間中に、どうやって子どもたちの学習やオンライン授業のフォローをするかや、夫婦ともに自宅で勤務しているときの衝突など…… 人によっては更年期とコロナが重なり「イライラマックスです」という相談もありました。

 

編集部:私も当事者として非常によくわかります。

 

石井:一方で、元々会社に行くのが心地よくなかった人や、集団の中で働くことに違和感を覚えていた人にとっては、良い兆候もあったようです。通勤時間がなくなり、自宅で自分のペースで仕事ができるようになったことで体調や気分が安定したという報告がありました。

 

編集部:なるほど、そうした良い兆候もあったのですね! では企業側からはどんな声がありましたか?

 

石井:「毎日オンラインでミーティングはできているし目立った問題はないけれど、社員の実際のメンタルはどうなんだろう……」といった不安の声が多く寄せられました。社員の顔が見えないからこそ生じる不安に対して、「どう対処することが医学的に正しいですか?」と。

 

編集部:今回は強制的なテレワークでしたから、組織としてのマネジメントも手探りでしたからね。

 

石井:たとえば、ミーティング時間を朝何時・夕方何時ときっちり決めた会社もありましたが、これだと社員の働き方の柔軟性が保たれないんですよね。「午前中は子どものオンライン授業に付き合わないといけない」、「子どもが寝てから深夜に落ち着いて仕事をしたい」と言った社員の希望に答えられないケースが生じてきたのです。他にも、「毎日の進捗で評価されるのは苦しいので、1週間単位で見て欲しい」という声も。男性の一人暮らしの場合では、会社のルールや時間を決めた方が良いケースもありますが、そういう意味では一律のマネジメントが通用しなくなったのです。ですので、とにかく「やりながら変えていきましょう」という状態でした。

 

編集部:多様な働き方にマネジメント側が合わせていかなければならない難しさがありますよね。具体的にはどのようなテレワーク支援があるのでしょうか?

 

石井:企業によってはオフィスの光熱費が浮いた分を社員に還元し、自宅の光熱費を1万円補助したり、自宅での作業環境を良くするため椅子やモニター、デバイス関係の補助をする動きがありました。また、社員の健康を守るためにバランスのいいお弁当をランチに届けたり、フィトットネスやヨガのオンラインセッションを定期的に行う企業も。産業医によるオンラインの健康相談の機会を設ける会社もありました。

 

編集部:すごい、これは手厚い! モチベーションにつながりますね!

これからは出社? それともテレワーク? 個人と企業とのそれぞれの思い

編集部:世の中の動きとしては、徐々に出社の方向へ向かっていますか?

 

石井:関わっている企業さんでいうと、出社率は6月で半々ぐらいです。またいつ制限がかかるか分かりませんし、会社内でいつ感染者が出るか分からないので、どこも警戒している状況です。人数規模が多い会社では、3チームの分散出社が理想ですが、今のところ2チーム制で運用しているところが多いです。チーム分けしておかないと、万が一、社内で感染者が出た時に部署内で全員が濃厚接触者になり得るリスクがあり、業務が滞ってしまいますから。

 

編集部:なるほど。それは曜日などで交代制…… ですか?

 

石井:曜日や週単位で決めている会社もありますが、原則在宅で、仕事内容で決めている会社もあります。曜日などで決めてしまうと、「在宅でもできる仕事なのに、当番だから行かないといけない」とか「出社した方がはかどるのに、今日は出社日じゃないから家でしなければならない」とったミスマッチが生まれます。

個人としては、出社日を仕事内容でフレキシブルに対応する方が働きやすいですが、企業側からすると曜日や週単位で分けた方が管理しやすいのです。一度にオフィスに入れる人数も決まっているので、いつ誰が出社するかが決まっている方が把握しやすいですから。

 

編集部:なるほど。では、今後の動きとしてはどうなるでしょうか?

 

石井:原則出社を目指す、半々にする、自由に選べる、出社人数が減ったのでフロアを縮小する、逆に対人間距離の確保のため増床するなど取り組みは企業によって多様ですが、「感染リスクを抑えながら効率良い働き方を構築する」という目的はどの職場も共通しています。

ITベンチャー界隈では「テレワークがメイン」という話もありますが、全体的には 7月からは出社がベースという会社が大半になっています。エンゲージメントやマネジメントの側面から、出社を増やしていこうとしているところが多いですね。このままテレワークが続くと、仕事内容的に行かざるを得ない人たちと不公平感が出て、人間関係に衝突が起きるんじゃないか…… といった懸念出てきています。

しかし、今、東京都では感染者が再び増えており、7月の出社について各企業で見直しや話し合いが行われているところです。自粛と緩和を繰り返していくことが予想されるので、柔軟に切り替えられる体制を構築することが重要だと思います。

在宅勤務が続くことで睡眠の崩れやメンタルの不調は……?

編集部:一方で、長引くテレワークで心身の不調を訴えている人もいらっしゃると思います。和らげるにはどうすれば?

 

石井:何が具体的にしんどいかによるのですが、睡眠のリズムが崩れて身体が不調な場合、朝起きたら窓際に行くとか外に出るなどをして、太陽の光を浴び体内時計を整えるといいですね。睡眠はメンタルにすごく影響するので、とにかく睡眠の質を上げる、そして軽い運動をするのもお勧めです。孤独感や周囲についていけないメンタル不調の場合なら、家族や友人、同僚などとオンラインやチャットでつながれる機会を持つことも大事です。

 

編集部:ステイホーム中、とにかく一人になりたかったのですが…… これってメンタル不調でしょうか?

 

石井:働くお母さんは常に誰かのために動いていて疲弊しやすい状態にあります。その不調なのであれば、やはり一人の時間を意識的に持たなければなりません。30分でもいいから、一人になれる時間と空間を家族で話し合って持つことが重要です。

 

編集部:以前、LAXICで座談会をしたのですが、夜中に仕事をしている人も多く、断続睡眠になって疲れやすいという声がありました。

 

石井:本来、睡眠の質を高める意味では、睡眠時間はある程度まとまって取れた方が良いのですが、どうしても断続的になってしまうのであれば、お昼寝を30分ぐらいとるのがオススメです。夕食も糖質ばかりよりは、疲労回復を促すためにもタンパク質やアミノ酸を多く取り入れると、より睡眠の質が上がると言われています。睡眠の質をあげるには、最初の90分が重要と言われていて、寝入りがポイントです。スムーズに眠りに入るためには就寝90分前にお風呂に入り体を温めると、入眠する頃に深部体温が下がり眠気を誘うのでいいでしょう。

いよいよ夏本番、熱中症&感染症予防はどうすればいい?

編集部:もう、すでに蒸し暑い日が続いていますが、熱中症も危惧しながらの感染症対策となります。特に注意した方が良いことは何でしょうか?

 

石井:まずは基本的なことですが、睡眠をしっかりとること。個人差はありますが、6時間以上を目安にしてください。それと朝食をしっかり食べること。欠食すると脱水を起こしやすいので、熱中症になりやすいです。

LAXICの読者世代だと基礎疾患がある人は少ないかもしれませんが、糖尿病、高血圧など、持病がある方はしっかりとコントロールして、良いコンディションにしておくことも大切です。

編集部:朝食といっても、どのぐらいのレベルで考えれば?

 

石井:ある程度、毎日の朝食の中身は型を決めてしまうと摂取しやすくなります。糖質とタンパク質、それからビタミン類も少し加わえてもらうといいですね。食事の時は、知らず知らずらずのうちに水分と塩分も摂取できるので、必ず朝食は摂るようにしましょう。飲み物だけだと塩分が取れてないし、コーヒーや紅茶だけだと利尿作用で脱水を促すので、夏場は特に危険です。

 

編集部:少し不調だな、って思ったら病院へ行っても大丈夫でしょうか?

 

石井:今はどこの病院も感染対策を万全にしていますし、リアルタイムで混雑状況を配信したり、完全予約制にして分散させたり、三密にならないよう工夫しています。必要以上に恐れず、特に持病のある方は我慢せず、受診しましょう。

 

編集部:これまで外出自粛していたので、体が暑さに慣れていないのですがどうすればいいでしょうか。

 

石井:暑さになれる意味では、早朝の散歩や軽い運動など取り入れるといいですね。まずは15分程度で良いので、軽く汗ばむ程度で慣らしましょう。

 

編集部:正直、マスクが暑くて熱中症になりそうです。マスクも飛沫予防というよりは、マナーとしての意味合いが大きくなっている気がします。

 

石井:流石に屋内では外しにくいですが、屋外で人と人の距離が2m以上保てればマスクを外してもらっても構いません。人ごみを避けてマスクなしで移動するのがいいと思います。ちなみに日傘をさしていると人との距離が保ちやすいですし、熱中症予防にもなるのでオススメです。あとは小まめな水分補給ですね。

 

編集部:これからは食中毒も気になる季節です……

 

石井:テイクアウトが流行っていますが食中毒には気を付けてください。これも予防方法の基本は手洗いと食品の管理ですね。あとくり返しになりますが、自分の免疫力を維持するためには睡眠が大事ですね。

Withコロナは自分らしい働き方を見つけ、企業にも提案すること

編集部:石井さんが考えるWithコロナ時代の働き方とは?

 

石井:まず前提として、以前の生活に戻ることをゴールにはしない方がいいと思います。正直、まだどうなるかわかりませんし、ワクチンの目処が立ったとしても、今の感染予防をメインとした生活を手放していいものか。それよりも型にはめず、新しい暮らし方、新しい働き方をそれぞれ見つけて行くことが大切だと思います。

産業医としては職場と働く人とのミスマッチをなくすことが仕事。自分なりのビジョンがあれば産業医としてもアドバイスしやすいので、「自分はこういうスタイルが働きやすい」「自分はこういう生活をしていきたい」というのをどんどん見つけ、生活に取り入れていって欲しいです。

 

編集部:転職の機会などでも、企業側にそういう提案はして良いのでしょうか?

 

石井:新卒だと、まだ分からないかもしれませんが、中途採用の場面ではもっと提案して、話し合うべきですね。企業側も「在宅を利用可能な条件や、在宅の普及率、仕事の内容によって融通が効くのか」など明確に伝えていく必要があると思います。今までは企業側もアピールのみで、具体的な指標はあまりありませんでしたから。

 

編集部:ワークとライフ、どちらも大事にするには、まずはお互いが価値観やどうしたいかを言語化することが大事ですよね。ところで、石井先生は三人の男の子のママでいらっしゃいますが、休校期間中を振り返っていかがですか?

 

石井:我が家もやっと学校が始まったので、正直、ホッとしています。まだ在宅に慣れていない頃は、次男のストレスが溜まってきて、荒れた時期がありました。その時に子どものケアガイドラインが目に止まったのですが、そこには「親子で1対1の時間を取りましょう」と記してありまして。

 

編集部:お子さんが3人いると現実なかなか1人にべったりとはいかないですよね?

 

石井:それでも、工夫して1対1の時間を作りました。我が家では「ママタイム」と呼んでいて、夜の8時半~9時は次男の時間、9時半~10時は長男の時間にしました。まとまった時間を確保したことで、次第に次男も落ち着いてきましたし、「急ぎじゃなければママタイムでやろうね」と、集中して仕事もできるようになりました。ママタイムは、読者のみなさんにもオススメですよ!

 

編集部:とても素敵な時間ですね。それにしても、先生も同じ状況の中、工夫されていたのですね…… 今日いただいたアドバイスを元に、元気に夏を乗り切りたいと思います! ありがとうございました。

日頃から産業医として活躍していらっしゃる石井先生だけあって、企業と個人の両視点でお話しいただけました。何よりもフィジカルの不調がメンタルの不調にもつながるので、夏に向けて良い睡眠と食事で免疫力を高め、あとは手洗いを中心とした感染予防対策と、こまめな水分補給と適度な運動を中心とした熱中症対策で、心身ともに不調を起こさないように対策していきたいと思います。具体的なアドバイスで、実践しやすいと思いますので、ぜひ皆さんも取り入れてみてください。

プロフィール

石井 りなさん

フェミナス産業医事務所 代表産業医

千葉大学医学部卒。総合病院にて内科・外科・救命救急を研修。その後、精神科専門病院・メンタルクリニック、リワーク機関にて精神科医として、軽度から重度、休職〜復職まで研鑽を積む。並行して認知行動療法、集団精神療法、力動的精神療法について習得。2010年から産業医として活動。2016年心身双方から働く人のケアを行う九段下駅前ココクリニックに参画。心身双方からアプローチできる医師・産業医であるよう心がけている。大学院では衛生学の他、作業環境の評価や産業保健法務についても習得。現在は、精神科医としてだけでなく、衛生学、労働環境、人事、労働法務にも精通した産業医として、社員一人ひとりの仕事状況に合わせたアドバイスを行っている。 日経ウーマノミクス・プロジェクト個人サポーター。メディア執筆多数。小学6年生、3年生、1歳の男児3人の母でもある。

文・インタビュー:飯田りえ

ライター

飯田りえ

ライター

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