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2016.02.02 2023/05/31

新卒1年目で妊娠・出産 経営者の視点で働き、やがて社長になったワーママ

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新卒1年目で妊娠・出産 経営者の視点で働き、やがて社長になったワーママ

当時まだベンチャー企業だった株式会社ネクストに新卒入社し、1年目で妊娠・出産。不安や焦りを乗り越え「ママであることを活かしたキャリアを積む」と決意し、7年の時短勤務を経て、一昨年、同社の100%子会社として株式会社LifullFaMを設立。代表取締役を務める秋庭麻衣さん。子育てと仕事の両立、そしてキャリアの大半を時短勤務で過ごしながらステップアップし続けてきた秋庭さんの働きかたや考え方についてお話を伺いました。

想定外の妊娠を経て「ママであることを活かしたキャリアを積む」と決意

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宮﨑最近では「若いうちに産んで、ワーママとしてキャリアを積む」という形も少しずつ増えてきましたが、秋庭さんが出産された頃には、そういうロールモデルはあまりなかったですよね。ワーママ気運も今ほどではなかったので、試行錯誤して道を造ったという感じでしょうか?

秋庭さん(以下 敬称略)そうですね。当時はワーキングマザーという言葉すらなかったですね。いま就活している学生さんたちは「子どもを産んだ後も働きたいんです」と言いますが、当時の私はそんなことは一切考えていませんでした。

秋庭さんご自身は、どんな学生だったんですか?

秋庭学生時代から、バリバリのベンチャー志向で、社会の課題を解決するような仕事がしたい、と思っていました。当時ネクストは30人くらいの規模で、私は新卒の一期生として入社をしました。

妊娠が分かったのは就職して一年目ですよね。

秋庭まったく計画的ではなかったですし、びっくりしたというのが本音です。
それまでは20代は寝ないで働いて、30代に起業、子どもを産むとしても、それまでに自分の市場価値をつけてから、とぼんやり考えていました。妊娠が分かり、ぼんやりと考えていたプランがガラガラと崩れていった感じです。でも感情として産みたいという気持ちもありました。就職してまだ1年も経っていないので、育休がとれるのか、辞めざるを得ないのかという不安もあり、正直かなり悩みました。

会社にはいつ頃、どう妊娠を伝えたのですか?

秋庭実はなかなか話せず、一人で思い悩んでいました。
伝えたのは妊娠3~4ヶ月の頃、新卒採用サイトのインタビューに出ることになったのがきっかけでした。当時の人事に「実は妊娠しているので、サイトが公開される頃には会社にいないかもしれません」と打ち明けたんです。すると「おめでとう」とまず祝福してもらえて、そして「30~40人のベンチャー企業では育休や産休がないと思われがちだから、子どもを妊娠しても働いている人がいることを見せられるのは、逆にいいよ」と言われました。

そのとき「そういう考え方があるんだ」と気づいたんです。早い時期の妊娠・出産は「キャリアにとってマイナスになる」とばかり思っていたけれど、それを逆にプラスにすることができる。「早めに子どもを産んで、ママであることを活かしたキャリアを築いていけばいいんじゃないか」と決意をしました。

同期と自分を比べたりはしませんでしたか?

秋庭内定者時代から辛いことも含めて一緒に乗り越えてきたのに、同期の中で私だけが先に、1年足らずで一回休みという状況は、正直後ろめたい気持ちがありました。

それと同時に、寂しさや焦りもすごくありました。育休中も同期が成長する姿は見えますし、復帰してからも役職にあがるのは同期の方が早いし、悔しい思いはありましたね。

子育てしながら働ける会社にしたい!

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宮﨑新卒1年目は営業職として働かれていたということですが、育休を1年間取得後も営業に復帰されたのですか?

秋庭復帰の際に人事に移っています。
子育てをしてみると子どもがめちゃくちゃかわいくて、あまり離れたくないという想いもあり、また、まだ誰も子育てしながら働いたことがなかった会社でとても忙しく、本当に子育てと仕事が両立できるのかすごく不安でした。
でも、私が不安に思うということは、今後子育てしながらネクストで働く女性のみんなが不安に思うだろうし、もちろん自分のためにも、子育てしながら働ける会社にしていきたい、と思ったので人事部門に希望を出しました。

復帰後は時短勤務を長く続けられたんですよね。

秋庭そうです。当時の弊社の制度では時短は3歳までだったんですが、復帰後、小学校卒業まで時短がとれるように制度を変えました。その後7年間ずっと、子どもが小学校2年の頃に管理職になるまで時短勤務をしていましたね。

時短のときは9~16時、小学校に入ってからは9~17時、管理職になってから9~18時で勤務していますね。子会社の社長になった今のほうが時間は自由になるので、早めに帰ることもあります。

ワーママの人で、育休明けに今までと違う部署になり「私がしたいのはこれではない」と思う人も多いような気がしますが、その点はどう思いますか?

秋庭会社にいれば意に沿わない配属って必ずあるじゃないですか。そこで「何で私がここなの?」と思うのか、その仕事におもしろみを感じて少しでも成果を出すのか、結果的には後者の方がその人が得られるものは多い気がします。

人事に入った当初は新卒採用を担当し、その後、育成や労務系まで一通りやったんですが、とても面白く勉強になりました。

家族のサポートは少なかったけれど、会社の仲間が助けてくれた

宮﨑新卒採用の仕事は、時間的にも子育てと両立するのが難しいのかな?というイメージがありますが、育児のサポートはあったのですか?

秋庭時短で働いていた当時は、母も働いていたので、預けたことはほとんどなかったです。父がときどき見ていてくれることもありましたが、子どもが4~5歳の頃に亡くなり、預けていた保育園には延長保育もなく、パートナーとも子どもが1年生の時に離婚、こう考えると子どもの保育環境は、厳しかったですね。

新卒採用は、地方出張や土日のイベントがあることが多いため、両立が難しい職種なのかもしれませんが、出張は他のメンバーが担当してくれたり、土日のイベントには「子どもも連れてくれば?」とすぐに言ってくれるなど、会社の環境と一緒に働く仲間に恵まれていて、とても感謝しています。セミナーで私が講演している間は裏でメンバーが子どもと遊んでくれたりもしましたね。新卒者内定懇親会にも、何度か子どもを連れていきました。だから新卒採用者には、うちの子を知っている人が多いんですよ。

会社全体で子育てしようという雰囲気があるんでしょうか?

秋庭世間でもイクメンが最近すごく増えていますが、うちの会社は男性の育休取得率が直近では50%、部署によっては100%、期間も多くの社員が1ヶ月、長い人は3ヶ月ほど取得しています。

役職者が自ら育休をとることも珍しくないので、ネクストでは男性の育休取得を周りも理解し、すんなりと受け入れる文化が根付いてきています。取得した後も普通に復帰しています。

その育休文化は秋庭さんが先駆者ですね。

秋庭私が派手に声を上げて、それを社長が後押ししてくれたことで「ネクストがそういう文化になるんだ」とみんなが認識してくれて、いつの間にかそれが当たり前になったという感じですね。

経営層の視点で自分を見ると働き方が変わってくる

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宮﨑時短勤務を長く続けて、管理職になったというのがすごいなあと思うのですが、管理職になったのは、いつごろですか?

秋庭3年前に人事の管理職になりました。
ネクストでは半年ごとに能力と成果で評価されます。その結果、高い業績には賞与で報い、昇格は能力と人格で決定されます。特に時短だからというのは関係ないです。ただ一般的に時短で成果や能力をあげていくのはなかなか難しいという現実はあります。

時短で成果を上げるのは、相当タイムマネジメントを厳しくしないとできませんよね。

秋庭それまでは「いくらでも徹夜すればいいや」だったものが、毎日締め切りが迫ってくる怖さを感じているので、1分、2分でも大事にしていました。

いかに短い時間で成果をだすかということを、常に考えて動いています。成果に直結しないことはなるべくしないようにしましたし、逆にうまく成果につなげるために、周りの人をどう巻き込んでいくかを常に考えていました。それは今でも染みついていますね。
社内でやっていくためには「自分はこれをやりたいんです」ばかりでなく、会社のことを考えて、「会社が今どういうフェーズにあって何を求められているか」「今の自分は何で会社に一番貢献できるだろう」と考えて動くことがすごく大事です。そしてそこが結局、成果を出せるポイントにもなるかと思うんです。

ワーママ向けの情報発信でジレンマを感じるのが、ある会社の新しい取り組みを紹介すると、それがワーママの権利のように主張する人もいることなんです。私たちはそういう人を増やしたいわけではなく、秋庭さんのように、自分の置かれた立場をきちんと把握して、やれることをやる人を増やしたい、という思いがあります。

秋庭産休・育休などの制度を、子育て層を守るためとか、少子化対策と思っている人もいますが、会社の経営層からみると、そこが主眼ではない。経営層の最終ゴールは会社の利益で、ひとり一人の社員がパフォーマンスを最大に発揮できるよう、安心して働けるように用意しているんですよね。そういうことをはっきり認識して動くかどうかが「この人を応援したい」と周りが思ってくれるかの分かれ目ですよね。
「この制度使ってあたりまえででしょう、私子どもが何人もいて大変だし」という態度では誰も応援してくれません。

そうですね。以前取材で出会った人で、新卒で入社1年目で妊娠された方が「マネジメント目線で考えると私って、本当に使い物にならないんです」と悩んでいらっしゃいました。秋庭さんだったら彼女にどんなアドバイスをしますか?

秋庭その方の「新卒同然で時短で、自分は使いものにならないな」という思いはすごくよくわかります。でも、それを認識していることがすごく大事だと思います。
私が経営視点を持つようになったのもそこでした。同期への劣等感や、自分を育ててくれた上司への思いから、まずは会社の動きをとらえよう、会社が何を求めているのか、そこに対して自分は何が出来るか、と考え始めたところに繋がっています。
「経営視点を持つ」ことは難しいことではなく、単に周りの人のためにどうしたらいいか考えるだけだと思うんです。隣の人は何をしてほしいだろうか。上司は何をしてほしいだろうか。社長は何をしてほしいだろうか。そう考えることで自然と会社全体を見る目を養えると思います。

秋庭さんは、出産してから今まで、ずっと仕事を楽しめていますか?

秋庭めちゃくちゃ楽しいです。そこは本当に周りに感謝しています。

日々を切り取れば、4時に毎日タイムリミットあるなか、仕事量は多く終わらなくて、残業したくてもできない。「お迎えに遅れます」と保育園に電話したり、「すいません、すいません」ってあちこちに謝って「何でこんなにがんばっているのに、周りに謝らなきゃいけないんだろう」と辛かったこともありました。でも、それを上回る達成感と充実感を仕事では味わっているし、子どもからはかけがえのない幸せをもらっているので、それを思うとすごく楽しいと思います。

ママとパパの柔らかいコミュニケーションを応援するアプリ

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宮﨑2014年10月に子会社の社長に就任されたんですね。起業までの経緯を教えてください

秋庭今回の事業を社内起業のプランとして出したのが4年前でした。そこで最優秀賞をいただいたんですね。すぐに事業化するつもりだったのですが、その年に会社がはじめての減収減益を出してしまったのと、ちょうど人事でマネージャーにならないかという話もあったので、考え直し「自分が会社のためにできることは、マネージャーになって人事で貢献することかな」と、いったん保留しました。

流れが変わって会社が新規事業を出していこうという方針になったのと、人事でも後輩が育ってきたので、昨年、株式会社Lifull FaMの代表取締役に就任させてもらいました。

満を持してスタートしたんですね。現在の会社の業務を簡単に教えてください。

秋庭パパとママのコミュニケーションアプリとパパとママのためのポータルサイト「Lifull FaM」を運営しています。

アプリはパパとママの連絡帳のようなイメージで、メッセージの交換と写真の共有、スケジュールの共有ができるものです。

子育てはママが一人で抱えがちで、さらに仕事をしながら保護者会と予防接種と……と、スケジューリングまで全部一人でやらなきゃいけなくて大変です。それをもうちょっとうまくパパにシェアできるといいな、という自分の反省から生まれています。パパにシェアがうまくできているママに聞くと、人前でほめるとか、一度家事分担をしたら二度と口をださないとか、結構色々考えながらやっているんですが……

みんながみんな、そんな風に戦略的にはできないですよね。

秋庭私もそうだったんですが、特に育休復帰後は一杯一杯で、うまく言葉で夫を乗せるどころではなく「私に気を遣ってよ」という感じになってしまって、やがて「もうやってくれないからいいや」とあきらめてしまう。

それを毎日使うツールでどうにかできないかな、と思ったんです。

たとえばメッセージの交換でも、事務的な連絡ではなく、スタンプや定型文を使うことで「お願い」とか柔らかく伝えるようにとか、スケジュールも「どうせ私がやるんだからいいや」じゃなくて、保護者会とか予防接種とか、パパが行かない予定でも共有できるようにしておく。そうすると、たとえばパパが「今日予防接種どうだった?」と聞いてくれて「すっごい泣いて大変だった」となる。そんな会話が成り立つだけでもママの負担感は違うので、そういう情報共有と柔らかいコミュニケーションが、あまり気を遣わないでも出来る仕組みをアプリで作りたいなと思っています。

まさに実体験からですね。「柔らかい言い方」などは実体験がなければ出てきませんよね。

秋庭そうなんですよ。イラッとして優しく言えなくても、スタンプ押すだけならできる(笑)。

働くことは周囲を楽にすること。そう考え行動すると評価が自分に返ってくる

宮﨑子育てが仕事に活きていることはありますか?

秋庭コミュニケーション能力ですね。
辛抱強く分かりやすく話すというところは、本当に子育てで鍛えられました。子どもはもちろん、子育てをすることで、ママ友や地域の人など、仕事関係以外の人と話す機会ができます。それがコミュニケーション能力とか人を巻き込む能力に活きていると思います。

それから、精神的にすごく安定したというのもあります。営業をやっていたときは成績によって気持ちが落ち込むことが多々あったんですが、子育て中は仕事でどんなに失敗しても、子どもがいたら否応なしに動かないといけない。うちの子はおしゃべりが好きで、子どもの話を聞いていると、仕事であったイヤなことも忘れてしまうというのが、子育てしていて良かったことですね。

逆に、仕事が子育てにプラスになっているのはどんなところでしょうか?

秋庭子どもに仕事やキャリアの話が出来るところですね。
子どもにはなるべく仕事の話をするようにしています。離れている時間が長いので、ママが誰のためにどんな仕事をしているかを知っていることが、子どもの安心感につながるだろうし、彼女が将来直面するキャリアにとっても、いい影響があると思って。
将来「仕事したくな~い」ではなく「すごく仕事をしたい!」と思ってもらえるじゃないかなと考えています。

今後のキャリアプランは?

秋庭この会社を大きくすることですね。早く出産したからこそ、このタイミングで会社を興せた。会社が大きくなるにはそれなりの時間がかかるので、これから本腰を入れて仕事できるのが助かるなと思っています。

これからも「子育てと仕事を両立できる社会にしたい」という目標は変わりませんが、いざ事業をスタートして気づいたのが、ひとつを変えたからといって全部がうまくいくわけではない、ということです。

私たちは今、ママとパパとのチームワークをよくする事業をしていますが、問題はそこだけではありません。外部リソース、保育環境がないという人もいるし、会社の制度がないという人もいるし、そもそも仕事がないという人もいて、それぞれにいろんな課題がある。
自分がやっていくのか、どこかと手を組むかはともかく、子育てと仕事とを両立していくなかで直面するあらゆる課題の解決に向けて取り組んでいきたいと思っています。

ライフワークですね。

秋庭そうですね。育休中から今までずっと目標は変わらず、自分がすごく不満だった、だから変えたい、という思いです。

最後に、秋庭さんにとって「働く」とは、どういうことですか?

秋庭語源の通り傍(はた)を楽にすることだと思っています。
子育てをしながら働くのは大変なので「自分が自分が」となりがちですが、働くのは周りを楽にすることだから、自分よりも周りが先、どう自分が周りを楽にすることができるかを考えて動くと、それが結果、自分の評価に返ってくると思っています。

どうもありがとうございました。

経営視点を持つのは難しいことではなく、会社にどう思われているか、相手目線を持つこと、という秋庭さん。その発想の基本には「自分より相手が先」という軸がありました。

自分の都合を押しつけるのではなく、相手を優先することで自分も評価される。そんな好循環をおこす働き方が、多くのワーママを楽にする鍵なのかもしれません。

プロフィール

秋庭 麻衣さん

株式会社Lifull FaM 代表取締役

株式会社ネクストに新卒で入社し、不動産・住宅情報サイト『HOME'S』の営業を経験。
社内第1号となる産休・育休を取得するが、育児をしながら働くには会社のサポート体制が不足していると感じ、経営陣に自ら新たな施策を提案し、社内制度を立案。
育休から復帰後は、時短勤務を続けながら人事部で新卒採用や人材育成を担当し、管理職としてメンバーのマネジメントを経験。
仕事と子育ての両立で直面する問題を解決したい、という強い想いから2014年10月にネクストから100%出資を受けて「株式会社Lifull FaM」を設立。社長としてサービスの立ち上げを行う。1児の母。

文・インタビュー:宮﨑 晴美・曽田 照子

ライター

ラシク 編集部


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