今、地方企業に求められる「働きがい」とは?
人材獲得と地域活性化をつなげる組織づくりのヒント
少子高齢化が進み、生産年齢人口減少の一途をたどる日本において、企業における若くて優秀な人材確保は困難を極めています。特に地方企業にとっては、東京への人口流出が止まらない状況下で、人材不足の課題は深刻化するばかりです。
このように多くの企業が人材獲得の課題に直面する中、「魅力ある職場づくり」の一環として注目されているのが「働きがい」の向上です。SDGsの目標8(働きがいも経済成長も)としても掲げられているように、働きがいのある人間らしい仕事(ディーセントワーク)は、働き方の転換期を迎えている現在、ますます関心を集めています。
そんな中、2022年5月に「働きがいのある会社」に関する調査・分析を行うGreat Place to Work® Institute Japan(以下、GPTWジャパン)が、2022年版各地域における「働きがいのある会社」優秀企業を発表しました。このアワードでは、日本における「働きがいのある会社」認定企業の中から、東京を除く全国6地域の中で「働きがい」に優れた企業が選出されました。
オンラインで開催された発表会には、GPTWジャパン代表 荒川陽子氏と、まちビジネス事業家として活躍する一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事 木下斉氏のほか、2022年版 九州・沖縄地域における「働きがいのある会社」優秀企業に選出された、株式会社現場サポートの代表取締役社長 福留進一氏が登壇。地方企業に求められる組織づくりについて意見が交わされました。
コロナ禍で、以前よりも「地方で働くこと」が注目されている中、地域の働きがい向上にはどのようなヒントがあるのでしょうか。発表内容のエッセンスをレポートしていきます。
働きがいを「外」に求めざるを得ない地方の現実
日本全体が生産年齢人口減という課題を抱える中、地方では「東京への人口流出」という課題が依然重くのしかかっています。
この東京への人口流出について、「あらゆる年代で男性より女性が多い」と木下氏は話します。特に20~24歳の女性の流出が著しく、多くの若い女性たちにとって、「地方に働きたいと思える企業がない」という現実が浮き彫りになっています。彼女たちが地方よりも東京を選ぶ理由を、単純に「給料のよさ」と捉えてしまいがちですが、東京よりも経済成長率が高く、雇用環境が良い地域も存在します。
実際に、愛知県では若い女性たちの人口流出に危機感を感じ、「若年女性の東京圏転出入に関する意識調査」を実施。その調査結果から、地方企業が改善すべき興味深い課題が見えてきました。
調査では、地方に残る人と地方から出ていく人双方に、東京圏または愛知県の企業を選んだ理由をたずねています。地方に残る人(ずっと愛知型)では「自宅から通勤したかったから」が最も多い結果に。一方、地方から出ていく人(就職時流出型)では、「やりたい仕事があったから」が多数を占めています。さらに就職当時のキャリア形成の考え方に関しても、「ずっと愛知型」が「結婚・出産するまで働ければよかった」「こだわりがなかった」に回答が集まる一方、「就職時流出型」の多くが「キャリアアップ志向が強かった」「キャリアアップ志向は強くなかったが、結婚・出産後も働き続けたかった」と回答。
東京での就職を決めた「就職時流出型」の女性が求めたのは、やりたい仕事があり、なおかつキャリアアップができたり、結婚・出産後も働き続けられたりする環境。まさに「働きがいのある職場」であることが分かります。
旧態依然の経営風土が引き継がれ、女性が役職に就くことが難しかったり、思うようなキャリアップを望めなかったりするケースも少なくなく、愛知県のように雇用機会や給与条件に恵まれた地域であっても、働き世代が地元に定着しないという課題を抱えているのです。
人材獲得は地方活性化につながる重要ミッション
地方企業において、働きがいのある環境を充実させることは、「地域活性化の点においてもかなり重要なテーマ」であると木下氏は続けます。地方活性化に向けて、政府が移住定住促進政策を行う中、いまだ東京への人口流出が続く状況。その背景として考えられるのが「働き口」の問題です。「東京在住者の今後の移住に関する意向調査2018」によると、地方移住の不安要素として「働き口」に関する点を挙げる人が4割以上も占めています。
しかしこれは単に「就職先」を意味しているのではなく、「現代における働き口とは、報酬・条件・やりがい・キャリアなどトータル評価したもの」(木下氏)。つまり、ここでもやはり「働きがいのある環境づくり」が、地方移住やその先の地域活性化を推進するカギとなるわけです。
さらに地方における働きがいのある企業の存在は、「地域の未来を支える人材を、ダムのように地元にプールしてくれる機能」(木下氏)にもなるのだそう。働きがいに関する評価の高い企業が増えれば、良い人材がどんどん集まり、地域内でプールされる人材が増えることにもつながる。そして地域内の企業でスキルを身につけた人材が、また別の地域内の企業に転職をして活躍するなど、産業クラスターとして、地域の中で複数の企業が連帯となって地域の産業を強くしていくことも可能だというのです。
埋まる地域格差 「地方企業の中では良いほう」は時代遅れに
先述の通り、地方が抱える人材獲得の課題は東京に比べて深刻である一方、「地方と東京」の差(地方と東京における商圏や情報のひらき)は、インターネットの普及などによって徐々に埋まりつつあります。
本イベントのトークセッションにおいても、「東京の企業と地方企業とのギャップ」をテーマに意見が交わされました。
鹿児島に拠点を置く現場サポートの代表取締役社長 福留氏は「地方と東京のギャップは全く感じない」としたうえで、むしろ東京にいる必要はないとまで言い切ります。全国の顧客ともオンラインで商談を行い、業務に支障を感じていないと話します。
人材採用にあたっても、昨今はリモートワークの浸透により、地方にいながら東京の企業のもとで働くことが可能な時代。逆に東京にいながら地方の案件を受注することもできるため、フルリモート勤務で募集をかければ全国から応募が集まる状況だといいます。そのため、これらの動きを鑑みても「地方企業としては良い企業だ」と言われて満足しているようでは駄目だと福留氏は強調します。さらに今後は「全国で戦えるような会社」にならなければ、企業として継続していくのは難しいとまで感じているそうです。
しかし、地方と東京とのギャップが徐々に埋まりつつある一方で、学習機会に関しては、地方の方が少ないことは否めないといいます。そのため、現場サポートでは、キャリアアップに欠かせない「チャレンジ体験」に重きを置いています。
「やはり体験を通していかないとキャリアアップはできません。弊社でもチャレンジをどれだけ与えられるかという点を非常に重要に捉え、実はかなり気を使っています。チャレンジをさせて、結果として社員が成長していく——そういう循環でなければならない。確かに地方は東京に比べて学習機会は少ないですが、チャレンジという点でいえば、弊社は引けをとらないのではと思っています(福留氏)」。
一方、木下氏も地方と東京で情報格差がフラットになっている現状を踏まえ、「地方企業の経営者だから東京の経営者よりも情報が手薄という状況がどんどんなくなっている。トップの方の姿勢次第」と話します。
地方企業であろうと東京の企業であろうと関係なく、多くの若者たちはインターネットを通して企業を見定め、新卒でも中途でも応募が来る時代に変化しているのだそう。そのため経営者が時代の変化や多様性に対応し、内実の伴った適切な発信を行うことが、若くて優秀な人材獲得につながっていくといいます。
若者が働きがいを実感しながら地域に定着するには?
最後に、若者が地域に根付き、イキイキ働いてもらうために地方企業が意識すべきことについても言及されていました。
今回のアワードでは、「働きがいのある」認定企業のうち、東京と地方それぞれに所在地のある企業を比較。そこで見えてきたのは、東京以外にある認定企業の方が、社員が「自分の会社は地域貢献している」と実感しているという傾向でした。
注目したいのは、昨今の若い求職者は、職業の選択の軸を「社会課題の解決」におく傾向にあるということ。いかにその企業が地域社会や環境問題などに貢献しているかを、非常に重視している人が増えているといいます。
これらのことを踏まえると、「働きがい」と「地域貢献」は切り離せない要素ともいえます。社員が地域に貢献していると実感できることは、ある意味で仕事のやりがいや誇り、自尊心、モチベーションにもつながるもの。働きがいを感じながら若者が地域に根付いていくことにも結びついていくのではないでしょうか。
実際に、社員の地域社会への貢献をバックアップしているという現場サポートでは、勤務時間中の社会貢献活動を認めており、勤務時間外の活動では報酬をもらうケースもあるのだそう。
「弊社では地域と広くつながることを大切にしています。これらは社員にとっての教育機会だからです。地域の課題にはビジネス的要素も多く、いろんなご縁があったり、そこからまたビジネスが生まれたりすることもあるので、広く地域につながることをむしろ推奨しています(福留氏)」。
若者を中心に、就業の意識はどんどんアップデートされています。地方と東京における働き場所や情報のギャップも埋まりつつある中で、若者が地方企業を選ぶポイントとは、キャリアアップを妨げない環境があることや、地域貢献度ともいえそうです。まさに、働きやすさとやりがいを両立した働きがいのある職場づくりこそが、今の地方企業に求められることといえるでしょう。
ライター/倉沢れい
ライター