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2016.05.12 2023/05/31

ジェンダーや国籍を超え、スペシャリティ人材を集めた組織を創る。ある人事マンの挑戦

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ジェンダーや国籍を超え、スペシャリティ人材を集めた組織を創る。ある人事マンの挑戦

政府主導の女性活躍が叫ばれる昨今、ワーママを含む制約人材をどう扱ったらいいのか…、他のメンバーとの協業をどうすべきか…などマネジメント側の悩みをよく聞くことがあります。
そんな中、「優秀だけれどもなんらかの制約があって働いていない人を探してみたらママだった」とスペシャリティを持つママやグローバル人材を活かした組織を創っているのがIT企業では老舗となる株式会社HDEです。
HDEの中でグローバル人材やワーママの採用を率先して進め、多様な働き方を基盤とした組織作りを行っているのが人事部長である高橋実さん。
「優秀な人を採用し、活躍できる土壌を創るのが自分の仕事」とおっしゃる高橋さんに、ワーママ採用のきっかけから、育児期人材のマネジメント、リモートワークなどについて人事的側面を踏まえたお話を伺いました。

優秀だが、制約があって働いていない人が
たまたまママだっただけ

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宮﨑まずは御社の業務内容を簡単にお聞かせ頂けますか?

高橋さん(以下、敬称略 高橋)HDEは1996年に創業し、今年創業20年目を迎えており、IT企業としては老舗です。企業向けのクラウドセキュリティソリューションを展開しており、クラウドベースのメールセキュリティ分野では日本では導入企業の約75%のシェアを持つ企業です。

御社はワーママが活躍されているという印象がありますが、そのきっかけは?

高橋まず、3年前には60人だった社員数が、現在では100名を超え倍近くになり、拡大期にあります。
全社では1割ほど、バックオフィスでは1/3ほどのワーママに働いてもらっていますが、最初からワーママを意識していたわけではありません。

弊社のようなB to Bの企業の採用は知名度が低いのでなかなか難しいのですが、むしろ小さな拡大期の組織だからこそ「優秀な人材に入って来て欲しい」「人材に妥協はできない」のです。
そのような中で人材の質を落とさず優秀な採用をするのであれば、優秀だがなんらかの制約条件があって就職できないメンバーを、制約をはずし積極的に採用していくほうがいいと考えたのです。
その1カテゴリがスペシャリティを持ったワーママでした。弊社の事業は、クラウド環境を整えることで、ワークスタイルを変えていくものです。
会社に行かなくても労働環境が作れることが我々の事業の使命ですので、クライアントに環境を提供するだけではなく、自分たちの会社でもその環境を実現していくべきと考えています。
我々自身が制約条件のあるメンバーでも活躍できる土壌を作っていくべきと考えており、実際、フルリモートで働いてもらっているワーママもいます。

「優秀な人材を採用」するためのもう1つがグローバリゼーション採用です。採用条件で「日本語ができる」という条件を外したのです。
日本語ができるという条件を外すとマーケットは広がり、優秀な人材を採用しやすくなりました。
結果として、現在は社員の10%を超えるメンバーが外国人で、新卒社員の8割〜9割は台湾・インドネシア・ベトナム出身者の採用であり、社内でも10月から公用語を英語にすることになっています。

スペシャリティの高い人の1カテゴリがたまたまワーママだったと…。

高橋はい、ワーママが欲しいわけではなく、スペシャリティの高い人が欲しかったということです。
IT企業はドラスティックに変化していくことが多いので、スペシャリティを持ち環境変化に柔軟に対応できる人を探していました。
そんな中でハイスキルなワーママを紹介して頂ける株式会社Warisさんと出会い、2年半ほどの間で6人ほどご紹介頂いています。
弊社は仕事においては時間や場所ではなく、アウトプットができるかどうかだと考えており、上司の承認があればリモートできる環境を整えつつあります。
先ほど申し上げたフルリモートのママスタッフは、通勤時間に片道で1時間半かかってしまうので、その時間を仕事に費やして下さいとお願いして、フルリモートという形を取ることになりました。

本質として大切なのは「会社に貢献できること」
働き方や時間・場所はサブコンテンツにすぎない

宮﨑1人1人の希望に合わせて働き方を変えているのでしょうか?

高橋雇用契約としての就業規則はもちろんありますが、規則を超えた部分は可能な限りフレキシビリティを持たせるようにしています。
ワーママといっても、自身のライフスタイルで守りたいポイントは人によって全然違います。
ある人が守りたい基準は「9時には一緒にお風呂に入ること」だけれども、「それでは遅すぎる」という人もいる。なので、の人なりの基準に合わせながら、仕事の成果をどれだけ出したいかの希望を聞きつつ、労働時間・場所・給料などを掛け合わせて決めていくようにしています。

「制度やルールをなぜ作らなければいけないか」というと、管理という側面で考えているから、管理がしやすいから、と考えるケースが多いと感じます。
弊社にはグローバルメンバーもいますから、規定に抵触しない範囲内で柔軟性をいかに持たせるかは常に考えるようにしています。
会社と社員の雇用契約というのは、会社に対して貢献できて、アウトプットを出せればOKなんですよね。
本質的に大切なのはアウトプットを出せることであり、「働き方・時間・場所」はサブコンテンツに過ぎません。
今話題の副業についても、「アウトプットをきちんと出していればこだわるべき点ではない」と僕は考えています。

ワーママなど時間的制約がある人との仕事については「業務をどの程度お願いするか」という切り出しや細分化が大切かと思いますが、どのようにされていますか?

高橋お願いする業務については、試行錯誤しながら手探りで進めているところもありますね。
例えば以前「採用業務全般」を任せた時に、ワーママ自身が頑張り過ぎて難しかった経験があります。
「採用業務」というと、遅い時間の対応や休日の業務もありますからね。
だからこそ採用・人事労務面の業務は細分化してお願いするように心がけていますね。
また、求めるアウトプットレベルについては、入社前にしっかりと話をし、「本人が何をやりたいか」についてもかなり聞くようにしています。

時間、場所にこだわらない働き方を進めていくと、リアルなコミュニケーションは減ることが多いです。
だからこそ、メール・SNS・SkypeなどのITツールを徹底的に駆使し、コミュニケーションの手段は問わずに、仕事のスピード感をあげていくようにしています。
また業務の軸ではないところでもできる限りコミュニケーションするようにしていますね。

育児期人材のマネジメントにおいて大切なことがあるとすれば何でしょうか?

高橋育児期はやはり時間に制限があるので、状況は常にウオッチし、まめにアドバイスするようにしています。
マネージャーとしては、言っていいのか悩むケースは多いと思いますが、私自身はアドバイスを恐れないようにしています。
1つの作業をやるにしても、時間制約があるワーママは効率的にする必要があります。
だからこそ、仕事の整理や投げかけも含め、効率的なスタイルという点での視点は与え続けていくべきだと思っています。

時間的制限がある人材を活用する時に議論になる点の1つは「評価制度」だと思うのですが、例えば「業務時間以外に自宅で働いた」「業務時間内で効率的に勤務した」などのケースはどのように対応されていますか?

高橋評価については試行錯誤中ではありますが、時間とロケーションにこだわらないと言っている以上は、業務時間内・外でアウトプットを度外視して「頑張りました」だけというのは排除していかなければいけないと思っています。
あくまでアウトプットレベルや期待するレベルに対して評価をしていますね。
弊社では目標管理を3ヶ月単位でしているので、「期待値以上に頑張ったか、そうでないか」の評価ですね。
日常的にはタスク確認・進捗確認をするなどして、アウトプットに関するコミュニケーションは多くするようにしています。

つまずいてしまうワーママはどんな人?

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宮﨑リモートワークに向く人と向かない人はいますか?

高橋リアルコミュニケーションが好きな人で、そうしないと仕事が進まない、相手の顔を見ないと仕事ができない人は向かないのではないかと考えています。
上司が席を離れている時などは、ITツールなどを活用してコミュニケーションしてくれれば効率的に進むはずですが、どうしても顔を見合わせて話をしたがる人もいます。割とそういう人は多いですね。

時間的制限があっても仕事をうまくやれる人とつまずいてしまう人はどんな違いが?

高橋SNS・メールなどの文字コミュニケ−ションが上手だと、割とうまくいくんですよね。
文字コミュニケーションはリアルな場面よりも「正しく情報を伝え理解する」ことが必要です。
またSNSなどのITツールは、仕事のスピード感をあげていくのにも役立ちます。制約条件があるからこそ効率的にコミュニケーションをとっていくことを重要に考えるとうまくいくと思います。

また時短で仕事をしなければいけませんから、仕事に対するセルフコントロールはかなり大切です。
時間制約がある中で仕事をするためには、優先順位をつけ、フレキシブルに仕事を進めていくことが必要です。
ゴールラインをきちんと決めず、ダラダラ仕事をやってしまう人には向きませんね。

産休復帰してつまずくタイプの人に多いのは、子どもを産む前は時間を使い残業ありきで仕事をしていた人なのではないかと思います。
気合いと根性で仕事をするスタイルの人はかなり苦しむのではないでしょうか。
そういう人は、自分自身の働き方のスタイルを劇的に変えていかなければいけないのですが、スタイルを変えることができずに負のループに入ってしまう人がいます。

ジェンダーや国籍問わず、活躍できない制約条件は取り払うべき

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宮﨑グローバル人材やワーママと一緒に働いてきて、多様な人と働く上で最も大切なことはなんでしょうか。

高橋自分と違う人がいることを認めること、だと思いますね。
文化や仕事時間など、いろんな制約があることを会社として受け入れていますので、どんな環境の人でも「差別をしない」ようにしています。
だからこそ社員の中で「正社員」「派遣」という区別はせず、「この人は給料もらっているから」とか「時間が短いから」などというコメントが出ないように気をつけています。
契約の内容や時間ではなく、たまたまそのポジションを自ら選んでいるだけなのです。
だからこそ、与えられた仕事に対して成果が出せるならば、多様性を全て認めていこうと思っています。

会社組織である以上、ゴールや本質は1つで、「会社が上に向かっていくために、人組織を最大限に活用する」というだけなんですよ。
だからこそ、活躍できない制約条件は取り払ってあげた方がいいですし、ルールを押し付けてしまうことで活躍できない場合もあります。

最近は政府が「女性活躍社会を推進しているから」というような二次的理由で女性活躍を推進している企業が多い中で、高橋さんのお話は「優秀な人を採用したいと思ったらたまたまワーママだった」「優秀な人に活躍して欲しいから、制約を外している」と、シンプルで筋が通っているなと感じます。

高橋そうですね。「女性活躍を推進している会社ですね」と言われると違和感を感じることがあります。
女性活躍推進法が試行され、管理職の何パーセントを女性に…言われていますが、数値目標は何の意味もないなと思っています。
ジェンダーや国籍問わず、活躍してもらって本人が幸せならいいと思っているんです。

僕は人事として、アウトプットができるかどうかはかなり注意して見ていますし、向いていないと思ったら「他に行った方が」なんてことも言ったりしています。

実は本質というのはシンプルになればなるほど、人間にとって辛いこともあり、時間とか場所とか本質でないところに逃げ道を作りたくなるんですよね。
会社にきちんと来ているから…、規定の時間で就労しているから…などは、ある意味「逃げ道」になりうることがある。
そういう意味では弊社は厳しいこともたくさんあると思うんです。
だからこそ、会社の中で「本質」を追求することを一緒にしていきたいかどうか、を大切にしますし、決断してくれた人には、活躍できる土壌をしっかり作っていってあげたいと思いますね。

ワーママでもそれぞれに守りたい基準が違う、つまずきがちなワーママ、リモートに向く人・向かない人についてなど、多くのワーママときめ細やかに向き合ってきた高橋さんだからこそ分かる話だなあと感じました。「自分と違う人を認めること」という言葉は、ダイバーシティが叫ばれる今、忘れてはいけないテーマですね。ワーママとひとくくりに言っても、やはりみんな違います。

プロフィール

高橋 実さん

株式会社HDE 人事部長

1968年生まれ。株式会社ジェーシービー、NTTファイナンス株式会社、トヨタファイナンス株式会社でクレジットカード事業新規事業企画推進や営業に携わった後、人事のフィールドに。2013年より現職。HDEは創業20年のITベンチャーだが、第二創業期ともいえる事業急拡大フェーズにあり、変化する組織の人事業務全般を統括しながら、多様な働き方を基盤とした組織作りを行っている。

文・インタビュー:宮﨑 晴美

ライター

ラシク 編集部


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