Z世代の早期離職に悩む企業が増加。
ミスコミュニケーションの背景にあるもの【前編】
働き方や生き方の多様化が進むいま、「転職」という選択肢は一般的なものとなりました。転職は、働き手目線ではキャリアアップの観点から、むしろポジティブに捉えられるようになっています。
一方、企業では若手人材の早期離職が大きな課題となっています。
相互理解の不足から生じる“もったいない離職”を食い止めるための打ち手が必要——こう話すのは、株式会社リクルートマネジメントソリューションズにて、新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事する武石美有紀(たけいし・みゆき)さんです。
「Z世代」と呼ばれる新人・若手側と、昭和平成を生きてきた育成者側のバックボーンを明確にしながら、両者が良い関係を構築しながら共創するためのヒントについてうかがいました。前後編でお届けします。
成長鈍化、メンタル不調……
最近は「もったいない離職」が増えている
編集部:上司と部下のコミュニケーションギャップは永遠の課題のような部分もありますが、武石さんからみて、新人・若手育成について、企業はどのようなお悩みを抱えていると思われますか?
武石美有紀さん(以下、敬称略。武石):まず、前提として、多くの企業・組織で人材育成が難しくなっていると感じています。みなさんとても一生懸命やっているけれど、この新人・若手育成についてはうまくいかないことが多く、困っているという状況ですね。
具体的なところでは「成長鈍化」「メンタル不調」「早期離職」の3つで、よく聞くお声としては「最近の若手から、やる気が感じられない」「言われたことはやってくれるが、それ以上のことはしない」といった主体性に関するものや、「もっとやりたいことを言ってくれれば支援できるのに」といった新人・若手の自己完結性に悩むもの。「大丈夫です」と言われるけど、どう見ても大丈夫そうじゃなくてモヤモヤする……といったお声をよく聞きます。
編集部:なるほど……。中でも特に深刻なのは、やはり離職でしょうか。
武石:そうですね。特に「早期離職」は近年増加傾向にあるので、多くの企業様に共通する課題です。新人・若手社員に期待して大切に育てたものの、ある日突然会社に来られなくなってしまった……といった事例もお聞きします。離職の要因はもちろんさまざまですが、弊社では「もったいない離職」と呼んでいる状態については特に懸念していまして、打ち手が必要だと感じています。
編集部:「もったいない離職」ですか……! 具体的にはどういった状態をさすのでしょうか。
武石:企業側が先んじて何か手を打っていれば、離職を防ぐことができたかもしれないし、新人・若手社員もこの環境でまだ頑張ることがあったよね、というような、双方にとって“もったいない”結果になる状態を弊社ではこう呼んでいます。
このような状態はなるべく避けたいところですが、今の時代は割とすぐに転職できてしまったり、次のステップに行きやすい環境でもあるので、企業の皆さんにとっては悩ましいですね。
VUCA環境での経験が積みにくく、自律への苦手意識がある新人・若手世代
編集部:「成長鈍化」「メンタル不調」「早期離職」などが起きやすい背景としてどのような要素が考えられるでしょうか?
武石:さまざまな要因がありますが、そのうちのひとつとして、まず社会システムの変化がもたらす「経験の変化」があると思います。弊社の調査(下表)では、新人・若手世代は、今の社会に必要な知識スキルを学生時代にあまり積むことができていないことが分かりました。
育成者側(グラフオレンジ色)と新人・若手側(グラフ緑色)の学生時代の経験に関する調査をしたところ、以下のような結果が浮き彫りになりました。
武石:「我慢」や「叱られる」といった項目での両者の経験の違いはコミュニケーションギャップにもつながりやすく、成長鈍化やメンタル不調、早期離職を誘発しかねないと感じています。
正解や将来の見通しが立ちにくい「VUCA」といわれる社会の中で、新人・若手世代に限らず、私たちは異質な人と協働していかないといけない状況にあります。自律的に動くことは最も重要だといわれていますが、調査では「施行」「自発」といった、自律的に動く要因になるようなアクションに苦手意識をもつ若手が多いことが分かりました。
編集部:となると、自律の力を高めるための、Z世代にフィットした育成方法が求められそうですね。
武石:時代に合った「ニューノーマルな新人育成」がキーになります。ただ、正直なところ、育成者側も多忙でなかなか丁寧に人材を育てる余裕がないというケースも多いようです。リモートで働く機会も増え、対面だけでなくオンラインでのコミュニケーションも当たり前になる中、これまでとは異なるアプローチも必要になってくると考えています。
情報社会で生まれ育ったZ世代ならではのスピード感が
上司世代とのコミュニケーションギャップのもとに……!?
編集部:新人・若手世代は自律的なアクションに苦手意識を持つ割合が高いとのことでしたが、高校生くらいからスマートフォンが身近だったデジタルネイティブとして、IT環境の影響は大きそうです。
武石:Z世代は、1990年代後半から2012年ころに生まれた世代を指しますが、まさにIT化の真っただ中で育ったこともあり、彼らはとにかく多くの情報に接して生きてきました。特にこの世代は、自分から情報をつかみに行かなくても「レコメンド」という形で最適な情報が勝手に届くことに慣れています。SpotifyやYouTube、Netflixなどはまさにそうですよね。なので「探しに行く」という経験が少ないのかもしれません。
編集部:確かに……。「選ぼう」と思って動かなくても、情報の波の中で常に情報に触れている感じですよね。
武石:常にさまざまな情報が身近にあるので、良い意味では「選べる環境」ですが、一方で見方を変えると「選ばざるを得ない環境」ともいえるんですよね。すべてを受け止めていたらいっぱいいっぱいでパンクしてしまうので、処理できる範囲内で選ばざるを得ない状況にもなってきているのだと思います。
だから何かを選択をする、となったときに自分の中での意味というか、どんな価値があるかということがキーになります。育成者世代からは「若手は我慢が足りない」などと言われることもしばしばありますが、彼らは彼らで「合わないものをやってるよりも、さっさと合うものを取り入れたほうがいい」という価値観で行動しているだけなんですよね。
常に多くの情報に接触している彼らだからこそ、さまざまなものを見ながら自分に合うものを早期にマッチングさせていく術はとても長けているのです。
編集部:両者の間ではスピード感にもだいぶ違いがあるように思います。
武石:育成者世代は往々にして「やりながら納得していく」という感覚がありますが、新人・若手世代は「納得してからやる」「納得しないとやらない」。上司世代からすると「なんで分かりもしないのに仕事の目的とかを聞かれるんだろう?」「やってみないと分からないよね」と感じて「いいからまずやってみてよ」と伝えてしまうこともありますが、新人・若手世代からすると意味や価値を感じられないことに費やす時間はもったいないわけで、この辺にも両者のギャップが見えます。しかし、お互いに相手を困らせようとしているわけではなく“当たり前”が違っているだけなんですよね。
鍛え合うより「助け合う」
まずはZ世代を正しく知ることから
編集部:お聞きしていると、育成者側はまず新人・若手、つまりZ世代について「きちんと知る」ことが大事なんだなと感じます。
武石:まさに研修でも、まずは「Z世代を知る」ということから始めているんです。最初に策をお伝えしてしまうと、必ずと言っていいほど「いやいや、そんなことは分かってるんだけどね……」となってしまいます。
研修ではZ世代を知るためのワークショップとして、みなさんで意見交換するんですが、これがものすごく盛り上がるんです(笑) 育成者側が自分たちに共通する価値観(たとえば「周囲を引っ張るリーダーシップが良い」や「お互いに鍛え合う環境が良い」)を基準に新人若手に向き合ってしまうと、若手の言動にものすごい違和感を覚えてしまいます。
「なんで?」「信じられない」といった反応はコミュニケーションギャップを誘発してしまいますし「やる気がない」と判断し評価してしまいかねません。
編集部:そういうことの積み重ねが離職を招きそうですし、難しい問題ですね……
武石:Z世代は「鍛え合う」よりも「助け合う」ですし、一人ひとりに対して丁寧に指導したり、個性を尊重するといった価値観を持つ割合が高いです。研修では「今の新人・若手は日本人とフランス人ほど文化圏が違います」と伝えることもあるくらい“違い”について認めることがまず重要になります。
そのうえで、「新人・若手側の良さを引き出すなど“生かす”という視点を加えていきましょう」とお伝えしています。
※後編に続きます
編集/小山 佐知子
新人・若手世代に対してだけではなく、どんな相手についても「相手をきちんと知る」ということが大事ですね。色眼鏡で見たり、自分の価値観で決めつけたりしないよう、日頃から意識するだけでも違うのではないでしょうか。
後編では、育成者側と新人・若手側のギャップを埋めて、最適なアクションに替えるために必要な具体的な取り組みをお伝えします。
プロフィール
武石 美有紀 さん
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
2016年、株式会社リクルートキャリア(現株式会社リクルート)入社。企業の採用領域の課題解決支援や、社内の新人研修の企画・研修講師業務に携わる。現在は、株式会社リクルートマネジメントソリューションズにて、主に新人・若手社員向けのトレーニングサービスの企画・開発に従事。
ライター