出社回帰による働き方の過渡期に考えたい
「ハイブリッドワーク」という選択肢
コロナ禍で定着したテレワーク。オンラインミーティングが一般化されたこともあり、デバイスとネット環境があれば、時間や場所を選ばずに働けるようになりました。
しかし、新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類感染症に移行したことに伴い、企業がリモートワーク廃止を打ち出すケースが増加。子育てと仕事を両立する人たちを中心に、困惑の声が上がっています。
2023年3月に株式会社識学が実施した『働き方の変化に関する調査』では、フルリモートの形態を取っている企業は15%であり、大半がフル出社、もしくは出社とリモートワークの両立をする「ハイブリッドワーク」を実践していることが明らかになりました。
コロナ禍が収束に向かったことで、多くの企業がリモートワークから出社回帰に動いており、まさに「働き方の過渡期」とも言える現在。経営者側と働く側のそれぞれの視点をもとに、ハイブリッドワークの可能性にせまっていきます。
出社回帰の増加の裏で、転職市場が活発化
経営者側と働く側、それぞれの本音
まずは、働き方が再び変化しつつある今、出社回帰に傾く経営者側の意向を見ていきましょう。
株式会社識学の『働き方の変化に関する調査』によると、「出社の方が良い」「出社とリモートワークのハイブリッド型が良い」を合わせて考えた場合、約7割の経営者は社員の出社を望んでいることが分かりました。
では、なぜ経営者は出社を重視するのでしょうか?
【出社の方が良い】
・互いに顔を見てコミュニケーションを取った方が作業効率が良い。(59歳男性、経営者)
・リモートワークはすぐに相談できないため無理がある。(51歳男性、役員)
・定例的な業務についてはリモートでも運用可能だが、プラスαの業務創出はリモートでは生まれない。(59歳男性、役員)
引用:株式会社識学(2023年3月)「働き方の変化に関する調査」 Q10. 【経営者・役員】Q9で回答した理由をお答えください。
出社を重視する主な理由は、コミュニケーションの円滑化。経営者側は、作業効率や成果の最大化のために、物理的な距離が近くなることでコミュニケーション量が増加するであろうオフィス出社に、大きな価値を見出していることが見てとれます。
一方で、働く側の本音はどうでしょうか?
実は現在、多くの企業が出社回帰する裏側で、働き手の転職活動が活発になっているというデータがあります。
2023年6月にXTalent株式会社が実施した『ワーキングペアレンツの転職意識調査2023』によると、2022年から転職者や転職志望者が大幅に増加しているという結果が。
同レポートの調査サマリーによると、ワーキングペアレンツの約半数は出社回帰に対して反対意見を持っていることも明らかになりました。
・出社回帰に対し、48.7%が「全面的に反対」一方的な制度変更は反発を呼ぶ。
・2022年以降、出社回帰が起因となる転職検討者は急増。売り手市場が到来
・この4年間でリモートワーク制度の有無は企業選びで最も重視する項目に。
引用:XTalent株式会社(2023年6月)『ワーキングペアレンツの転職意識調査2023』
このように、経営者側は出社することに意味を感じ、実際に出社回帰をしている一方で、家庭やプライベートとの両立を求められる働く側は、出社回帰に対して少なからず不満を抱いていることが分かります。
リモートワークが可能にする、「両立」のある働き方と生き方
では、働く側はなぜ出社回帰に反対意見を持っているのでしょうか。
コロナ禍で一般化したリモートワークについて、働く側がどのような価値を感じているのかを見ていきます。
まずは、新型コロナウイルスのまん延から3年が経った今、私たちの生活や働き方に変化はあったのでしょうか?
全体を通して、コロナ禍を経て何かしらの変化があったという回答が大半。健康面の改善や、家庭やプライベートとの両立の実現など良好な変化があったことが分かり、リモートワークを実践している人の方が、数値が高い傾向にありました。
また、リモートワーク実践者が挙げるリモートワークのメリットとしては「通勤の負担がなくなる」がトップに。
通勤時間については、平成28年に総務省統計局が実施した「社会生活基本調査」によると、当時の日本人の平均往復通勤時間は1時間19分だったことが分かっています(※)。つまり、単純にリモートワークによって時間に余裕が生まれることでメリットを感じているとうかがえます。
これによって、プライベートや家庭との両立がしやすくなったともいえるでしょう。
さらに、子育てをしながら働く人たちは、リモートワークの方が仕事のパフォーマンスも向上する傾向にあることも。業種によるものの、リモートワークというスタイルに恩恵を感じている働き手は少なくないことが分かります。
このようにリモートワークは、健康面やライフイベントとの両立など、働く側にとって多様な働き方や生き方を実現できる選択肢のひとつと捉えられているようです。
(※)総務省統計局『平成28年社会基本調査』47都道府県ランキング
出社とリモートワーク
それぞれの良さを生かした「ハイブリッドワーク」という選択肢
ただし、リモートワークには解決するべき課題もあります。
経営者側の意見でもある「コミュニケーション問題」は、真っ先に挙げられるでしょう。仕事の成果には一定のコミュニケーションが不可欠です。その点、フルリモートに比べてオフィスで直接顔を合わせる方がコミュニケーションの密度が高くなることは必然であり、進行や管理マネジメントなどの観点から、リモートワークには種々の工夫や制度面の整備が必要といえるでしょう。
また、セキュリティ面での課題が挙げられます。自宅やコワーキングスペースでリモートワークをする際、重要な機密情報が第三者に漏えいしてしまうリスクもないとは言いきれません。
さらに働く側は、環境変化がないことによってプライベートと仕事のメリハリをつけられない、生産性に関わるケースもあると考えられます。
しかし、これらの点を鑑みつつも、経営者にとってはリモートワークによる通勤費用やオフィスコストなどの「コスト削減」をメリットに感じていることが分かりました。また、働き方はできるだけバリエーションに富んでいた方が、人材確保や離職率改善につながる、という見方もあるようです。
これまで述べてきたように、経営者側と働く側、どちらの視点においても出社とリモートワークにおけるメリット・デメリットは存在し、明確なひとつの解はないことが分かります。
そこで現在、双方のメリットを掛け合わせ、出社とリモートワークを両立する「ハイブリッドワーク」という働き方が注目されています。このワークスタイルでは、企業業績を低下することなく社員の働き方を最適化できることが期待されています。
働き方の過渡期である今、経営者側と働く側に求められること
2023年現在、ハイブリッドワークを実践する企業が増加しています。
出社回帰が進むなか、それぞれのメリットを生かした働き方を実践している企業は6割にも上ります。
ハイブリッドワークに肯定的な企業の経営者からは、以下のような声が。
【出社とリモートワークのハイブリッド型が良い】
・今後、出産や育児、介護など様々な生活環境の変化に対応できるから。(59歳男性、役員)
・集まった方が効率いいが、働き方はできるだけバリエーションに富んだ方がいい。(50歳男性、役員)
引用:株式会社識学(2023年3月)「働き方の変化に関する調査」 Q10.「Q9. 【経営者・役員】あなたの会社において、出社とリモートワークどちらが良いと考えていますか。」に対する回答理由
さらに、コロナ禍前後では、企業選びにおいて「リモートワーク制度の有無」がもっとも重視されるようになっている現状もあります。
以上からも、企業側は今後、社員の柔軟な働き方を許容する動きが求められるといえるかもしれません。
働き方の過渡期にある現在。働く側は、子育てや介護、病気罹患など、さまざまなライフスタイルやライフステージがあり、そのときどきに最適なワークスタイルを常に模索しています。
コロナ禍が収束してきた今こそ、企業側と働く側の双方でポストコロナ社会の働き方に向けた議論が必要になってきているのではないでしょうか。
【参考】
【働き方の変化に関する調査】今の働き方、リモートワーク&出社のハイブリッド型が6割にのぼる(PR TIMES)
出社回帰で30〜40代マネジメント層の転職希望者が急増。企業の中核を担う人材が、いま求める働き方とは?【ワーキングペアレンツの転職動向調査2023】(XTalent株式会社)
ライター