テレワーク(リモートワーク)の普及にともない、注目を集めているのがワーケーションです。働く場所やオンとオフのバランスを自分で決めることができ、自由度の高い働き方としてだけでなく、地域活性化の切り口として、政府や自治体が期待を寄せています。ラシクでもこれまで、実際に取り入れている個人や企業にインタビューを行い、ワーケーションの魅力を取り上げてきました。
この記事では、あらためてワーケーションとは何か、どのような事例があるのかをみていきましょう。なお実態把握に際しては、株式会社パーソル総合研究所が今年9月に発表した「ワーケーションに関する定量調査」の内容を参考にしています。
そもそもワーケーションとはどのような働き方?
ワーケーションとは、「Work」(働く)と「Vacation」(休暇)を組み合わせた造語です。旅行先で仕事と休暇のどちらも楽しむ姿を思い浮かべ、「自分がやるにはハードルが高いかも……」と感じる人もいるでしょう。まずは、定義をしっかりとつかんでいきましょう。
観光庁は、ワーケーションを「テレワーク等を活用し、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしつつ、自分の時間も過ごすこと」としています。
働く場所が「普段の職場や自宅とは異なる場所」であればいいわけですから、なにも遠くの観光地に行く必要はありません。近場のカフェでも車中でもいいわけです。そう考えると、ワーケーションが身近な働き方に感じられる気がしますね。
冒頭で紹介したパーソル総合研究所の調査結果によると、全国に住む20〜69歳の男女の就業者109,034人のうち、ワーケーション経験者は17.4%(18,972人)でした。数字だけを見ると少数派が選択する働き方に映りますが、観光庁の定義に当てはめると実数はもっと多い可能性があります。
ワーケーションには個人型とグループ型がある
ワーケーションには、個人で行う「個人型」とグループで行う「グループ型」の2つのタイプがあります。前出の調査で「ワーケーションの経験あり」と答えた17.4%のうち、個人型は67.6%に上りました。
ワーケーションの目的に基づき経験者を類型化すると、個人型は次の5つに分けられます。
「仕事・観光充実タイプ」(仕事と余暇のどちらも重視)
「息抜き集中タイプ」(リラックスしながら仕事に集中)
「他者奉仕タイプ」(家族旅行中の仕事)
「仕事侵食タイプ」(やるつもりのなかった旅行中の仕事)
「動機低めタイプ」(帰省中、用事前後の仕事)
一方でグループ型は、3タイプに分けられます。
「社内研修タイプ」(地域で社内研修を行う)
「オフサイトミーティングタイプ」(地方の会議室や自然の中で議論)
「地域堪能タイプ」(地域を味わったり、住民と交流)
調査結果によれば、ワーケーションの効果は実施中に「職務効力感」を感じられるかが重要だといいます。
職務効力感とは「ワーケーションで得た経験が仕事で生かせる」と思えることを指し、個人型、グループ型ともに、観光目的と比較してこの感覚を抱く人の割合は約2倍であることがわかります。
ワーケーションで自分らしい働き方をしている3つの事例
これまでラシクで紹介した事例をみながら、ワーケーションの可能性を考えてみましょう。
子育てとの両立、地方での副業に活用
・親子ワーケーションで、地域を盛り上げる
子育て中の女性が、仕事と子育てを両立する手段として「親子ワーケーション」事業を展開しています。普段は行かない場所に親子で滞在し、イベントに参加して地域住民と交流を持ったり、期間限定で現地の小学校に体験入学をしたりすることで、日常生活では得がたい体験ができます。環境と気分を変え、子どもとの思い出を築きながら、親は仕事に集中。地域にとっては、より多くの人に魅力や文化を知ってもらう機会を得られる利点があります。親子ワーケーションは親、子、地域にとって「三方よし」の取り組みだと語っています。
子どもも大人も、地域もうれしい親子ワーケーション
仕事と育児をトレードオフにしない、これからの働き方の選択肢
・地方移住の体験や地域活性化に貢献できる
地方移住に興味はあるけど、実際に移り住むことには抵抗がある。そんなとき、ワーケーションを活用すれば、首都圏に居住しながら自分が好きな場所で期間限定の生活をし、仕事をすることが可能です。また、北海道出身で東京に住んでいる人が、ワーケーションを通じて地元の活動に関わるといったこともできます。地域の人との継続的なつながりを持てたり、仕事や自身のキャリアに新たな視点が生まれたりするのは、大きなメリットです。
「社員の生産性が上がった」企業が進める事例
・北海道と沖縄県の2拠点でワーケーションの実証実験を実施
クレジットカード会社向けの決済システム開発を手がける会社が、2022年に「実証実験」を行いました。同社はもともとリモートワークを導入していたものの、「都内のオフィスと自宅を往復する生活では、リフレッシュの機会を持つのが難しい」と判断し、ワーケーションを試みました。場所は、北海道函館市にある自社事業所と沖縄県宮古島というリゾート地の2パターンを選択。いずれも東京本社とは距離があるものの、普段からリモート環境での勤務に慣れていたため、仕事に支障はなかったとのこと。結果は、参加者の7割以上が「自然や解放感によって休暇と仕事の両立ができて、生産性が向上した」と回答しました。社員からは「出身地に近い場所でやってほしい」との要望も上がっているそうです。
システム開発企業の「対照的」なワーケーション2つの例
どこで?どうやって?
ワーケーションの効果は、明確な動機を持つことで高まる
では、ワーケーションに取り組む際に心がけることはあるのでしょうか。
前掲の図にて、個人型を目的別に分けた5つのタイプをご紹介しましたが、各タイプをワーケーションへの積極度別にみると、「仕事・観光充実タイプ」と「息抜き集中タイプ」では高く、「動機低めタイプ」と「仕事侵食タイプ」では低いことがわかります。
このことは、調査対象者の自由回答からもうかがえます。
「リフレッシュと現地の友人たちに会うことを目的に行き、会食をしたり観光をしたりしながら、仕事のアイデアも温めていた」(女性30代、その他サービス業)
「仕事を仕上げる目標を達成するために環境を変えて行うが、同時にその疲れもとる目的で温泉に入ったり美味しいものを食べたりした」(男性30代、教育・学習支援業)
仕事と余暇のどちらに重きを置くかという点で異なるものの、「なぜワーケーションをするのか」が明確です。
一方で「動機低めタイプ」や「仕事侵食タイプ」では、
「帰省に合わせ温泉旅館に宿泊していたが、資料作成および会議に参加することになった」(男性50代、製造業)
といった回答が寄せられました。仕事をすることは想定外で、仕方なくやったという状況がみてとれます。
ワーケーションの中身は個人によってさまざまなので一概にはいえませんが、実際に行った人には「仕事における前向きな意識・行動の変化や、ワーク・エンゲイジメントが高まる傾向」がみられます。こうした効果を最大限に引き出すためには、「明確な動機」つまり「目的を持つ」ことが大切だと調査結果には明記されています。
ワーケーションでは、仕事と余暇をバランス良く組み合わせる必要はなく、自分に合った配分や目的に基づいて働き方を決めることができます。場所と気分を変えて思い切り仕事に打ち込んでもいいし、地域を盛り上げる活動に注力して、合間に少しだけ仕事をするスタイルでもいい。自分の働き方を主体的にデザインする働き方といえます。
まとめ
「ワーケーション=観光地で旅行と仕事をする」と捉え、オンとオフの両立に難しさを感じていた人は、定義を知り心理的な壁が低くなったのではないでしょうか。事例でご紹介した方も義実家に長期滞在した際、仕事をすることがありました。でも当時、それをワーケーションと意識をしていなかったと話しています。意外と「自分もやっていたな」と感じる人もいるかもしれません。
とはいえ、まだまだ「自由な働き方」と聞いて、真っ先にワーケーションを思い浮かべる人は少ないのが実情です。もちろん、より効果的にワーケーションを行うために目的を持つことは重要ですが、まずは気軽にやってみるくらいの気持ちで臨んでみてはいかがでしょうか。
【参考】
パーソル総合研究所「ワーケーションに関する定量調査」
観光庁「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー」
ライター