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2022.08.05 2023/02/20

子どもも大人も、地域もうれしい親子ワーケーション
仕事と育児をトレードオフにしない、これからの働き方の選択肢

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子どもも大人も、地域もうれしい親子ワーケーション <br>仕事と育児をトレードオフにしない、これからの働き方の選択肢

コロナ禍に広がりを見せ、定着した感のある「ワーケーション」という言葉。実践してみたという方もいらっしゃるのでは?

今回お話をうかがった編集者・ライターの児玉真悠子(こだま・まゆこ)さんは、子どもと行く「親子ワーケーション」の実践者。さらには親子ワーケーションを企画する、株式会社ソトエを起業し、全国各地の自治体や民間事業者とともに、その普及に取り組んでいます。親子ワーケーションは、子どもにも親にも受け入れ先の地域にもメリットがある、「三方良し」だという児玉さん。「仕事と育児をトレードオフにしない働き方を」と話す背景には、自身が両立に悩んだ経験があるそうです。親子ワーケーションを始めたきっかけから、そのメリット、今後の展望までじっくりうかがいました。

「夏休みに子ども連れなら…」  尋ねてみて始まった親子ワーケーション

福岡県福津市のカフェにて。児玉さんがお仕事されている間、お子さんはお絵描きに没頭。/児玉さん提供

編集部:児玉さんが親子ワーケーションを始めたきっかけを教えてください。

 

児玉真悠子さん(以下、敬称略。児玉):私が初めて親子ワーケーションをしたのは、山口県萩市でした。所属している一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会に、萩市からワーケーション普及のためのパンフレットを作ってほしいという依頼があったのです。

市の職員さんは「10日以上の滞在を通して、暮らすように働き、萩市の魅力を体感してほしい」とお考えで。ただ私は当時、子どもが小1と小5。夫が多忙でほぼワンオペ状態でしたから、不在中の子どもの世話を夫に任せるわけにもいきませんでした。難しいかなと思いながらも、「夏休みに子ども連れなら行けるのですが」とダメ元で聞いてみたんです。

 

編集部:10日以上、家を空けるのは確かにためらいます。どんなご回答だったのですか?

 

児玉:「いいですよ、ぜひ来てください」と。受け入れてもらえたことが、なんだかすごくうれしくて。本当に充実した10日間だったんですよね。子どもの預け先をどう確保するかは課題だと実感したものの、こういう働き方がもっと広がればいいのにと思いました。

 

編集部:なるほど、それが初めて親子で行ったワーケーションだったんですね。

 

児玉:そうですね、これ以前は「ワーケーション」とは意識していなかったんですが、義理の実家がある奈良や兄の移住先の那須高原に長期滞在するときに、仕事をすることはありました。地方には、広々とした公園や公共施設が多いんですよね。子どもを遊ばせながら、ちょっとした休憩所でパソコンを開いたりして、結構働けるなという感覚は持っていました。萩市での経験を得て、子どもの見守り環境が整ったら、親子でワーケーションをしたい人はもっといるのではないかと思ったんです。

 

編集部:それで親子ワーケーションの推進に取り組まれるようになったのですね。

 

児玉:はい、最初に作ろうと思ったのは、親子ワーケーションのポータルサイトでした。でも、載せる情報がなくて…。親子ワーケーションの企画を作るところから必要だと気付き、旅行会社に勤めていたママ友に助けてもらいながら会社をつくったのです。親子ワーケーションは、地域にも大人にも子どもにもメリットがある「三方良し」だと考えています。

 

親子ワーケーション企画のポイントは、「地域のどこに光を当てるか」

新潟県糸魚川市の清耕園ファームにて。枝豆の収穫体験をした時の様子。/児玉さん提供

編集部:児玉さんは全国各地の親子ワーケーションの企画に関わられていますが、どのようにして案件を作っていくのですか?

 

児玉:たとえば新潟県糸魚川市様とは、親子ワーケーションプランの企画造成とモニター開催から、親子ワーケーションのパンフレット制作までご一緒させていただきました。始まりは、私たち家族が「移住や柔軟な働き方を体験できる市の施設」を利用したいと考え、市役所の方へコンタクトをとったことがご縁でした。「糸魚川市は図鑑好きの子が喜ぶ場所だと思います」とお話ししたことに興味を持ってくださって。

 

編集部:図鑑好き、ですか?

 

児玉:糸魚川は、ユネスコのジオパークに認定されていて、化石発掘や石拾いができるんです。図鑑好きの子にフィーチャーした親子ワーケーションプランがあったら、ニーズがあるんじゃないかなと。

 

編集部:それはおもしろそうですね!

 

児玉:地域外の人間だからこそ気が付く、地域の良さがあると思います。これもある意味、編集者の仕事ですね。地域のどこに光を当てるか、ですから。

糸魚川市のフォッサマグナミュージアムにて。念願の化石発掘を体験!/児玉さん提供

 

編集部:本当にそうですね。光の当て方で地域の見え方が変わってきます。「親子ワーケーションに適している地域」にはなにか特徴があるのでしょうか?

 

児玉:交通の便も良く観光名所が知られている地域は、あえて親子ワーケーションにフォーカスした企画を作る必要性を感じないかもしれません。反対に、必ずしも有名な観光地ではないけれど、自然、名産、受け継がれる文化など、その地域の当たり前が思わぬ資源となる。そんな場所は親子ワーケーションをフックにすることで、人を呼び込めるのではないかと思っています。

栃木県那珂川町様からは、フリーランス協会にワーケーション企画のご依頼をいただきました。私はまだ起業を考えていないころでしたが「親子だったら呼べるんじゃないですか」と言ったんですね。笹舟作り、陶芸やそば打ちといった企画を盛り込んだプランを親子向けに打ち出したら、すぐに満員に。フリーランス協会では、那珂川町様と2年に渡って企画をご一緒しましたが、その後は那珂川町様が単体で運営しています。

 

編集部:受け入れ地域側が「親子で来てほしい」と思ってくださるのはうれしいですね。

 

児玉:実は地域の子どもたちも喜んでくれました。糸魚川の「地元の小学校に通える親子ワーケーション」は、現地の小学校に毎学期、1週間体験入学できるプランなのですが、今年度は昨年度とは別の小学校が受け入れてくださったんです。小学校の子どもたちが「うちの学校にも新しい友達に来てほしい」と声を上げてくれたそうで、先生方がその想いをくみ、実現できたと聞き、胸が熱くなりました。

 

編集部:親子ワーケーションは、地方に旅する親子にとって刺激的なだけでなく、受け入れ地域の子どもたちにとっても刺激になっているんですね。意外な視点でした!

 

育児と仕事、両立に悩んだ中で親子ワーケーションに見た可能性

ワーケーション仲間と訪れた新潟県南魚沼市の古民家ホテル「龍言」にて。共有スペースでリモートワーク中の児玉さん。/児玉さん提供

編集部:ワーケーションは、働き方にもメリットがあると思います。児玉さん自身、育児と仕事の両立に課題を感じていたとのことですが?

 

児玉:私は元々、出版社に勤めていたんです。子どもを産んでからも復帰して編集者を続けていたものの、組織で働き続けることの難しさも実感しました。キャリアアップまでは望めなくても、キャリアキープはしたい。そんな気持ちでフリーランスになりました。

 

編集部:会社員のままではキャリアキープが難しいと感じたのですね。

 

児玉:「編集部のお荷物なのかな…」と自己肯定感がすごく下がってしまって。「仕事が趣味」のような人が多い業界ですからね。私だってそうでした。でも、子どもはかわいいし、熱を出したら家で看病してあげたい。今振り返れば、もっと夫に頼めばよかった、とも思うんですけど。

復帰した2010年は、男性が朝、保育園に送るだけで「協力的」と言われていた時代でしたから、自分自身も「看病は私がやるもの」と思い込んでしまっていたのかもしれません。「女性が活躍する時代」と言われるじゃないですか。私自身も媒体を通して発信してきました。それなのに、実際に両立に直面してみたら「なんてことだ!」と。3年くらいもやもやしていました。

 

編集部:すごくリアルです…。

 

児玉:ちょうど、社会派ブロガーのちきりんさんが「日本で子どもを育てるのは無理ゲーだ」と言われていたころです。本当に限界技なのかしらと思いながら、家事代行をお願いするなどして試行錯誤していたんです。でもあるときから、私は「本を作ること」よりも、「育児と仕事を両立しやすい世の中は実現可能なのかを知りたい」と、共働きや柔軟な働き方をテーマにしたいと思い、フリーになったんですね。

 

編集部:両立しやすい世の中、見えてきましたか。

 

児玉:私にとってひとつの転機になったのが、男性育休の推進をしている天野妙(あまの・たえ)さんと知り合ったことでした。天野さん、小室淑恵(こむろ・よしえ)さんによる書籍『男性の育休 家族・企業・経済はこう変わる』の企画に携わったことで、男性育休の義務化を推進するプロジェクトを直近で見ることができ、自分は育児のスタートダッシュがダメだったことに気付いたのです。

子どもが生まれてすぐは、女性も子育て初心者です。何も分からない中、スキルを上げていくんですよね。私は里帰り出産をしたのですが、その間、夫は子育てスキルゼロのまま。だから、自宅に帰った後、私と夫との間に上下関係が生まれてしまった。もし夫も育休をとって子育てに向き合い、2人で同じレベルからスタートできていたら、あんなに両立で苦労することはなかったかもしれない、と思いました。アルバイトのオープニングスタッフのような、対等な関係が築けていたと思うんです。

 

編集部:両立を可能にするためのパートナーシップづくりは、育児のスタート地点から始まっているのですね。

 

児玉:未就学期の男性育休によって、両立問題は解決するのではないかと腹落ちしたんです。ずっと抱いていた夫への怨念がようやく溶けました(笑)。そして就学期以降、子どもの興味・関心が格段に広がる時期がやってきます。共働きをしながら、子どもの好奇心を応援できる方法として、親子ワーケーションは有効です。働き方の常識を大きく変えていくことにつながるのではないかと考えています。

 

編集部:なるほど、就学期の子どもたちを育てる親にとって、親子ワーケーションは、育児も仕事もあきらめないための処方箋のひとつになりそうです。

 

今こそ、親子ワーケーションのポータルサイトを作りたい

児玉真悠子さん / オンラインで取材しました

編集部:ちなみに「旅先で仕事するなんて嫌だ」という声はありませんか?

 

児玉:完全に休みたい人は休めばいいと思います。ただ、有休取得が義務化されるほど、休みを取りにくいのが日本の実情ですよね。業務が属人的で代わりがいなかったり、休みにくい風土だったり、いろんな理由があると思います。ワーケーションで「居住地から10日間離れて、仕事しながらもリフレッシュできた」ような経験は、長い目で見た時に、長期休暇が取りやすい社会につながっていくのではないでしょうか。また、人生の豊かさは格段に上がると思っています。

 

編集部:働き方や休み方の選択肢に変化が生まれていくのかもしれませんね。育児中の場合は、子どもの成長を支えるというミッションも加わって。

 

児玉:仕事と育児がトレードオフでない関係をつくりたいですね。「子どもが学童を渋るので退職した」といった話も聞きますし、小4以降は学童がないので、長期休暇の過ごし方に頭を悩ませる方も多いです。親子ワーケーションを通じて、仕事を続けながら、子どもの好奇心を育んでいくことができたらと思っています。

 

編集部:勤め先がワーケーションという働き方を普通に受け入れてくれるようになるといいですね。最後に、児玉さんが今後取り組みたいことを教えてください。

 

児玉:親子ワーケーションのポータルサイトを作りたいと思っています。自治体、民間事業者など、さまざまな方が親子ワーケーションを企画するようになってきました。企画者が自分で情報掲載できる形式にしていきたいです。

 

編集部:起業時点で考えていたポータルサイト作りにいよいよ取り組まれるのですね!子ども、大人、地域それぞれにメリットのある「三方良し」であることも伝われば、一層親子ワーケーションが広まりそうです。楽しみにしています。

わが家の娘は4歳。幼稚園に通わせながら預かり保育をフル活用して、私と夫は仕事をしています。他の多くのお友だちのように「もっと夏休みらしい夏休み」を過ごさせてやるべきなんだろうか…と考えないわけでもありません。今回お話をうかがってハッとしたのは、成長するに従って興味・関心の幅が広がっていくということ。わが家はきっとまだまだこれから。子どもの好奇心も、私と夫のキャリアも、親子ワーケーションを取り入れながら追い求めていきたいです。

プロフィール

児玉 真悠子さん

株式会社ソトエ代表取締役/親子deワーケーション主宰

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・ フリーランス協会 地方創生チーム&フリパラ編集部、一般社団法人日本ワーケーション協会公認ワーケーションコンシェルジュ。ビジネス系出版社を経て、2014年にフリーランスの編集&ライターとして独立。各自治体の発信業務に関わる中で、「地域・大人・子ども」にとって三方良しの親子ワーケーションの可能性を感じ、株式会社ソトエを創業。現在、「親子deワーケーション」の企画・運営・発信事業を通じて、仕事と子育てをどちらも大事にできる暮らし方を普及すべく邁進中。

文・インタビュー:近藤 圭子

ライター

近藤圭子

ライター

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