1. トップ
  2. 働き方・生き方
  3. 育休中の学びにムーブメントを起こした勉強会『育休プチMBA®』あれから7年、ワーママの働き方はどう変わった?
2021.07.29 2023/02/15

育休中の学びにムーブメントを起こした勉強会『育休プチMBA®』
あれから7年、ワーママの働き方はどう変わった?

FacebookTwitter
育休中の学びにムーブメントを起こした勉強会『育休プチMBA®』<br>あれから7年、ワーママの働き方はどう変わった?

産後の仕事復帰さえ難しかった時代に比べ、ここ数年は“働きやすさ”が重視される多様な社会に変化を遂げてきました。出産後も仕事を続ける女性はもはやスタンダードになりつつあります。とはいえ、家庭と仕事の両立、仕事のやりがい、キャリアアップといった面でワーキングマザーの実情はどのように変化しているのでしょうか?

今回LAXICでは、育休中ママパパ向けスキルアップ講座の先駆け的存在である『育休プチMBA®』を立ち上げた株式会社ワークシフト研究所 CEO 代表取締役社長の小早川優子さんを取材。2014年の立ち上げ当初と比べたワーキングマザーたちの変化や、企業の実情について伺いました。さらに復職ママ向けに開発した話題のアプリ『piam.(ピアム)』についても開発の裏側をお話しいただきました。

“働きやすさ”が整備されるなかで新たな葛藤も!?
働く母親たちの次なる課題

小早川優子さん

編集部:『育休プチMBA®』をスタートされて、今年で8年目を迎えられるのですね。LAXICでも以前取材をさせていただき、非常に反響がありました!今回小早川さんにまずお伺いしたかったのが、働く母親たちや彼女たちを取り巻く環境が現在どのように変化しているかという点です。『育休プチMBA®』の7年間を通して、小早川さんからはどのように見えていますか?

 

小早川優子さん(以下、敬称略。小早川):やはり確実に変化していると感じています。子どもを産んだ後に復職してキャリアも求めるという女性が以前に比べ増えており、なおかつ社会での理解が進んでいるように思います。復職に関するトラブルも減少傾向にあり、復職時期や配属先についても以前に比べ復職者の要望が通るようになりました。いわゆるマミートラックに行かなくていいということが起きていると思います。

 

編集部:ようやく社会も変化してきたということですね!

 

小早川:そうですね。ただ一方で、育休復職者を“活躍させる”というところまでは至っていないと感じています

 

編集部:というのは?

 

小早川:育休復職者、そしてその方たちのキャリア、ひいては会社の発展のために必要なのは、“働きやすさ”だけでなく復職した女性たちが活躍できる環境です。「早く帰っていいよ」というばかりではなく、彼女たちにとってチャレンジングな仕事を渡すということもしていかなければいけない。その代わりしっかり成果として評価するということが重要になってくるかと思います。

 

編集部:名ばかりの女性活躍ではなく、本来の意味で女性たちが力を発揮できる環境を作るということですね。やはり企業側も、いかに上手く人材を活用していくかが課題になるかと思います。その点、企業は今後どのようなことが求められていくのでしょうか?

 

小早川:ひと言で言うなら、ダイバーシティ・マネジメント(※)ができることですね。日本は「同質性社会」における成功体験が強いため、排他的で多様性を認めない社会構造があります。しかし今後はさまざまな立場の人が対等に意見を交わし、“議論できる環境”を作ることが非常に重要になってきます。それぞれの多様性を認めた上で、立場を超えて活躍できる環境が求められるため、働く母親たちにとっても追い風になると考えています。

(※)個人や集団間に存在するさまざまな違い(多様性)を競争優位の源泉として活かすために文化や制度、プログラムプラクティスなどの組織全体を変革しようとする動きのこと

まだまだ残る両立の壁 母親自身と社会が持つ根本原因とは?

勉強会のようす(対面時)

編集部:今回小早川さんのお話しを伺うなかで、子育てしながら働きやすい社会に変化しているんだなとあらためて実感しています。ただ、これまで女性たちが抱えてきた両立の壁については解消されつつあると感じられていますか?

 

小早川:いえ、『育休プチMBA®』の7年間を通しても、両立の悩みは解消されていないと感じています。

 

編集部:やはりそうなのですね。ちなみに小早川さんから見て、母親たちが両立の壁を感じてしまう根本的な原因とは何だとお考えですか?

 

小早川:実は当事者の思い込みが強く影響していると考えています。「なんでこんなに不安で、できないんだろう」という壁は本人の思い込みにあり、「ここまでやらなきゃいけない」と思い込んでいるからこそ苦しくなってしまいますよね。

 

編集部:夫にヘルプを求めづらい、シッターさんを頼んだと言ったら義理両親にどう思われるだろう、というお悩みはLAXIC読者からもよく聞きます。

 

小早川:「夫に言ってもどうせやってくれない」とか、外注することに罪悪感を感じてしまう、上司にプライベートのことを相談しづらいということも実は思い込みに過ぎないわけです。夫への伝え方を変えてみることや、罪悪感を手放してみることで良い方向へ変えられるかもしれません。あとは自信がないことと意欲がないことを混同している方が多く、復帰したてで自信がないことを仕事に意欲的ではないと周囲に誤解されてしまう、ということがあります。そこは分けて考えましょうと勉強会を通じてお話ししています。

 

編集部:当事者自身が抱える思い込みなどが足かせになってしまう面もありますよね。とはいえ、これほどまでに女性たちが両立することに苦しみを感じてしまったり、活躍できる環境がなかなか整備されなかったりという背景にはどんな要因が考えられるのでしょうか?

 

小早川:個別の事情はさまざまありますが、最終的には「ジェンダーバイアス」に行き着くように思います。

 

編集部:要するに「女性らしさ」、「男性らしさ」という男女の役割に対する固定観念や「こうあるべき」という性別による偏見が深く関係しているということですね。

 

小早川:はい、おっしゃる通りです。ただジェンダーバイアスに関しては正直、完全なる脱却はやはり難しい側面があります。ジェンダーバイアスとはある程度誰のなかにも存在するものという前提で、お互いにコミュニケーションを図ることが重要になるかと思います。

 

編集部:それにはお互いの多様性を認め合うという作業が必要になりますよね。まさにダイバーシティ・マネジメントが求められる社会を実感します。ちなみに組織内での課題以外にも、夫婦の家事育児の分担に関して問題を抱えている方は多いように感じています。この点についてはどのようにお考えですか?

 

小早川:夫婦の家事育児の分担に関しては、男女の考え方の違いというより実は年代の考え方の方に乖離があると感じています。弊社でもさまざまな企業様と従業員アンケートなどを実施した結果、37歳前後で考え方の違いが見られています。

37歳より上の世代にとっては、戦隊ものシリーズで男の子の中に女の子1人だけがピンク役として出てくる話が主流でした。それより下の世代は『美少女戦士セーラームーン』の影響が大きく、さまざまな女の子たちが自分たちの力で戦う姿を見ています。中学校で家庭科が男女必修になったのも1993年からですから、世代間でも意識の差が出てきています。

 

編集部:そういった意味では意思決定層の上の世代が意識を変えていくことが非常に重要ということですね。

復職ママを応援するアプリ『piam.(ピアム)』を開発した本当の理由

『piam.』利用後アンケート結果

編集部:ところで御社では、育休からの復職をサポートしてくれるアプリ『piam.(ピアム)』を開発されたそうですね。開発にあたってどのような経緯があったのでしょうか?

 

小早川:結論から申し上げると、優秀な育休者たちが両立の壁を乗り越え、キャリアアップしていくことを支援したいという想いがアプリ開発のきっかけです。

今後女性たちが活躍できる社会を実現するためには、リーダー層がより多様化していくことが求められます。リーダー層を多様化するためには優秀な育休者がどんどんキャリアアップしていくことが非常に重要なポイントになると考えています。

 

編集部:確かにその通りですよね。

 

小早川:彼女たちが復職後も前向きな気持ちでキャリアを積んでいくためにも、両立の不安を取り除くようなマインドセットを広めていくようなツールが必要だと考え、アプリ開発に至りました。

 

編集部:先日実証実験が終了したとのことでしたが、何か気付きなどはありましたか?

 

小早川:はい、使用前後それぞれ100名弱の方にアンケートにお答えいただいたのですが、非常に手応えを感じる結果が得られました。

育休の方に絞ったアンケートではあるのですが、「あなたの不安度は10段階のうち何段階ですか?」という質問に対して、10名いた不安度10の方がアプリ使用後にはゼロになっていたんです。

 

編集部:これは大きいですね!

 

小早川:そうなんです。同時に注目しているのが、「当てはまる」、「やや当てはまる」という回答で多かった項目のなかで「孤独感が減少した」という方が67%いらっしゃったことです。予想以上に孤独感に効果があると感じる結果となりました。

 

編集部:確かに子育て中の孤独感は、多くの母親たちが直面する悩みでもありますよね。

 

小早川:産後うつの問題はさまざま取り沙汰されていますが、孤独感が高まるとうつになりやすい傾向にあります。孤独感が減少することでうつ防止にもなるため、『piam.』はさまざまな面で、復職ママたちにとって重要な役割を果たしてくれると期待しています。

まずは自分の強みに気付いてあげることが何より大切!

編集部:LAXICの読者アンケートでも約半数が「キャリアチェンジに前向き」と答えており、働き方やキャリアへの意識が高まっていることを感じています。そんな彼女たちが今後両立の壁に苦しまず、前向きに仕事をするためにアドバイスをお願いします!

 

小早川:まずお伝えしたいのは、日本の女性たちは世界的に見ても非常に優秀だということです!だからとにかく自信を持って欲しいですね。私自身、長年外資系企業で働いてきましたが、さまざまな国の方と働くなかで日本人女性の優秀さというものをつくづく感じてきました。

 

編集部:すごく心強いお言葉です!ちなみに日本人女性たちは具体的にどのようなスキルに長けているのでしょうか?

 

小早川:読解スキルや共感スキルといったコミュニケーションスキルが非常に高いと思います。相手の話をきちんと聞いて、理解する力に長けているんです。例えば海外のやりとりでは、「青い丸いものを10個ください」と言った時、初回に届くのが「青い丸くない四角いものが3個来る」という感じなんです(笑)。海外だとこのようなやりとりが数回続くなか、丸くて青いもの10個を1回でちゃんと送ってくるのは日本人の女性がピカイチです。

 

編集部:なるほど。とはいえ、できて当たり前だと思うからこそ、自分の強みに気付いてあげられないという点があるかもしれませんね。

 

小早川:そうなんですよね。自分自身の強みに気付くためにも強みを生かせる場所を選ぶことが非常に重要なんです。キャリア理論の面からも言われることですが、キャリアとは自分がどれだけ高いスキルを持っていても、それを認めてくれる場所でないと意味がありません。結局マッチングが大事だということです。

 

編集部:逆に子育てしながら働くということを強みに変えることもできるということですよね。

 

小早川:はい、その通りです。「短時間しか働けない」という条件を含め、自分が持っているものを最大限に強みにできる環境を探すという方が効率的なはずです。

 

編集部:なるほど!ある意味、逆転の発想を持つということですね。では最後に日々、仕事と子育てに奮闘する働く母親たちにメッセージをお願いします。

 

小早川:とにかく皆さんはとても優秀だということをまずは知ってほしい!優秀だからこそできることがたくさんあると思うので、恐れずそのままのあなた自身で進んでいってほしいと思います。

 

編集部:心に響きます!とても深いお話しをありがとうございました。

今回小早川さんへの取材を通して、無意識に気づかされたことがありました。それは私自身が子どもを産んで以来、キャリアに対する恐れみたいなものを必要以上に感じていたことです。「子どもがいるから」「私以外に家のことをやれる人はいないから」、そんな強い思い込みによって、“両立”の枠を超えて活躍できる人材になることを心のどこかでずっと諦めていたように思います。でもきっとそうじゃない!ちょっとの勇気と自信を身に付けることで、自分自身が作った枠を飛び越えることができるはず。それに現実をどう受け止め、次の一歩を決めるかは私次第!だからこそ、自分の内にある当たり前を強みに変え、これからのキャリア人生を歩んでいきたいと勇気を授けてもらうような取材となりました。

プロフィール

小早川優子さん

株式会社ワークシフト研究所 CEO 代表取締役社長

慶應義塾大学大学院経営管理研究科経営学修士/米国コロンビアビジネススクール留学(MBA)。慶應義塾大学ビジネス スクールケースメソッド教授法研究普及室認定ケースメソッド・インストラクター。
GEキャピタルにて役員秘書、事業企画部(M&A)、Goldman Sachs Japan にてアジア副会長直属のリサーチ担当として勤務後、MBA取得。アメリカン・エキスプレスでは幹部候補社員として全社プロジェクト、経営企画室、マーケティングでリーダーを経験。2社で社内ウィメンズネットワーク、D&Iコミッティの立ち上げに携わる。第二子出産後の2012年に独立(2015年に法人化)。ダイバーシティ・マネジメントやリーダーシップ開発、交渉術のコンサルタント、セミナー講師として一部上場企業からベンチャー企業、官公庁、地方自治体まで年間100回以上登壇し、5年連続満足度99%のビジネスプログラムを提供。名古屋商科大学大学院女性リーダープログラム評価委員。人事向け、女性向けメディアでの記事連載、書籍監修なども行う。3児の母。

文・インタビュー:倉沢 れい

ライター

倉沢れい

ライター

この記事をシェアする

FacebookTwitter