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2023.08.31 2023/11/07

「取るだけ育休」が課題!?
企業・個人へのデメリットと、男性育休推進のポイント

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「取るだけ育休」が課題!? <br>企業・個人へのデメリットと、男性育休推進のポイント

男性の育児休業(以下、育休)の取得が社会的に推進されている近年、その取得率は年々高まっています。一方で、夫が育休期間に育児をしない、あるいは休業期間が短くて十分に参加できない、「取るだけ育休」が課題になっていることはご存じでしょうか?

取るだけ育休は、企業と個人の双方にデメリットをもたらします。企業としては育休推進時に、個人としては育休取得前にできる準備をして、取るだけ育休を回避することが大切です。

当記事では、取るだけ育休の現状や企業・個人におよぼすデメリット、男性育休の推進に成功した事例を紹介します。

「取るだけ育休」とは? 男性育休のリアル

「取るだけ育休」の定義

取るだけ育休とは、「育児をする」という本来の目標を果たさない男性育休のことです。

夫本人に育児をする意識がない、あるいは、育休の期間があまりに短く、育児をしたい意思があっても十分に参加できない場合に使われます。なお、同義で「名ばかり育休」と呼ばれることもあります。

男性育休取得率に関するデータ

取るだけ育休の現状を整理するために、男性育休の取得状況について紹介します。

厚生労働省の調査によると、令和4年度の男性の育休取得率は17.13%で過去最大です。また、近年の取得率は下記のように推移しています。

令和元年度 令和2年度 令和3年度 令和4年度
7.48 12.65 13.97 17.13
厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」をもとに作成

 

取得率は右肩上がりで、数値が大きく向上しています。働き方に対する意識の変化や育児・介護休業法の改正などに伴い、男性育休の推進に力を入れる企業は間違いなく増えているといえるでしょう。

「取るだけ育休」に関するデータ

次に、取るだけ育休について、家族像に関する調査をしているコネヒト株式会社の公表データを紹介します。

同調査によると「育休中の男性が1日のうち家事・育児をした時間」について、「3時間以下」という回答が44.5%に上っています。2019年に行われた調査での「3時間以下」の割合は47.4%なので、3年間でほとんど変化がないことが分かります。


引用:コネヒト株式会社「【調査結果】男性版産休新設で取得率上昇が見込まれるも「とるだけ育休」の実態はほぼ改善せず

 

取るだけ育休が問題視されている現状を踏まえても、「取得率」という数字ばかりが注目され、「育休の中身」が伴っていないケースが多いことが見込まれます。

実際に、男性育休推進支援サービスを提供する、セントワークス株式会社の一ノ瀬幸生(いちのせ・さちお)さんは、過去ラシクのインタビュー(※)で下記のように話していました。

社会全体で見ると、性別による役割分担意識はまだまだ根深いです。男性育休の法律が整ってきても、意識自体が大きく変わっているとは言えないと思います。

(※)産後パパ育休も10月からスタート!いま理解しておきたい男性育休の必要性と土壌づくりのポイント

「夫が育児をする」という男性育休の本質的な目的を果たすには、ただ育休取得者を増やすだけでなく、企業・個人の双方が意識を変えることが大切なのです。

大企業と中小企業における課題感の違い

ここで認識しておかなければならないのが、男性育休の推進について、大企業と中小企業で課題感が異なることです。

大企業では、リソースの豊富さに加え、2023年4月から男性の育休取得率の公表が義務付けられたことにより、育休取得が進んでいる傾向にあります。

ただし、義務的な取り組みに終始しているケースがあり、取るだけ育休を回避できているかは別問題です。自社の現状を整理しながら、本質的な中身の改善に向けた取り組みが必要となります。

一方で中小企業では、リソースが限られていることなどから、育休推進で精一杯で、そもそも取るだけ育休について考えるどころではない企業も多いでしょう。

とはいえ、育休推進に伴って取るだけ育休を回避できるのが理想です。自社で可能なことから考えて、少しずつでも、取るだけ育休を食い止めていきましょう。

「取るだけ育休」が企業・個人におよぼすデメリット

取るだけ育休を回避するには、企業・個人双方へのデメリットを認識したうえで、課題感を持って対策することが大切です。そこで、企業・個人にどのようなデメリットがあるのか、いくつか紹介します。

「取るだけ育休」がおよぼす企業へのデメリット

従業員エンゲージメントの低下

企業側の制度設計が十分ではなくて育休期間があまりに短い場合、取得者は「本当は育児にもっと携わりたいのに……」という思いが転じて、それらが自社に対する信頼度や愛着度の低下につながります。中には、離職を検討する従業員も出てくるかもしれません。

採用力の低下

就職・転職の企業選びにおいて、男性の育休取得率に注目する求職者が増えてきています。取得率が高いだけで中身が伴っていない場合、その企業の取るだけ育休の実態を知ったら、間違いなく不満を覚えるでしょう。SNSや口コミなどで情報が広がる可能性もあり、採用力が低下することが考えられます。

「取るだけ育休」がおよぼす個人へのデメリット

パフォーマンスの低下

育休復帰後、育児に参加できない不満・不安や自社に対するネガティブな思いから、日々の仕事に集中できなくなる人もいるはずです。結果として、業務のパフォーマンスに悪影響をおよぼしかねません。

夫婦関係の悪化

夫が家にいるだけの状況に対して、「協力してほしい」「育児をしないなら仕事に行ってほしい」など妻は不安を募らせるでしょう。食事や洗濯など、逆に産後間もない妻の方に、家事の負担が増えるケースもあり、結果として夫婦関係が悪化する可能性があります。

「取るだけ育休」の対策 企業・個人ができる準備とは?

では、取るだけ育休の対策をするために、どのような準備ができるのでしょうか。求められる準備について、企業・個人双方の観点から紹介します。

企業ができる準備

トップによる意思表明

企業のトップが、男性育休を推進する意思を表明して、対象者が休みやすい雰囲気をつくりましょう。企業としての方針を明確にすることで、一人ひとりに育休取得者をサポートする意識も生まれやすくなります。

対象者に対する育休や育児についての理解促進

育休を取得する予定がある、または取得可能性のある従業員に対して、企業が理解促進をサポートすることも必要です。専門家を招いてセミナーや研修会を開く、eラーニングといった教材を使うなどの方法があります。

余裕を持って業務引き継ぎができる体制を整える

育休取得者の業務は、その期間、ほかの誰かが担うことになります。「お客様とのつながりがなくなるのではないか……」「プロジェクトが停滞するのではないか……」と、育休中に不安を抱える人は少なくありません。集中して育児に取り組めるよう、業務引き継ぎをスムーズに進めるためのフローやルールを決めておくといいでしょう。

個人ができる準備

パートナーについての理解

出産後のパートナーに起きる「からだの変化」について理解しておくことが大切です。

前出の一ノ瀬さんによると、出産時、お腹の中で20~30cmの胎盤がはがれ落ちて筋肉がむき出しになり、回復するまでは基本的に1ヵ月の安静が必要であるといいます。

パートナーのからだの変化を知ることで、「夫が妻を支える重要性」について根本的な理解ができます。

夫婦での話し合い

夫が育休中の過ごし方を具体的にイメージできるよう、夫婦それぞれの役割について、前もって話し合っておくことも大切です。これにより、いざ休んだときに「何をしたらいいか分からない」という事態を防止できます。

男性育休の推進に成功した企業の事例

取るだけ育休を回避するための取り組みについて、イメージをより深めていきましょう。男性育休の推進に成功した2つの事例を、厚生労働省による「イクメン企業アワード」受賞企業の中から紹介します。

株式会社コーソル

業種:情報通信業 従業員数:127人(受賞当時)
【主な取り組み内容】

  • 育休を取得した男性従業員による座談会を実施して、その内容を社内報で共有
  • 育休を取得した男性従業員による、社内向け育休セミナーを実施
  • 年に1回、社長および人事担当者と1対1で面談

【成果】
平成27年度に16.7%だった男性の育休取得率が、平成30年度には62.5%まで改善されました。育休取得者の生の声を聞く機会が増え、育休取得のハードルが下がったことが大きく影響しているようです(※1)。

株式会社技研製作所

業種:製造業 従業員数:453人(受賞当時)
【主な取り組み内容】

  • 女性従業員主体のプロジェクトチーム「ポジティブ・アクションプロジェクト」による男性育休の取得推進
  • プロジェクトメンバーが中心になって、育休取得者とその上司に対して説明会を実施
  • 企業として「技研グループは健康経営と男性育休取得を推進する」と宣言

【成果】
2008年度から2018年度にかけては男性従業員の育休取得率が0%でしたが、2019年度には30%まで改善されました。同年度の平均育休取得日数も110. 2日と長く、従業員から「育児に専念できた」と喜びの声が上がっているようです(※2)。

(※1)出典:厚生労働省「イクメン企業アワード2019 受賞企業の取組事例集
(※2)出典:厚生労働省「イクメン企業アワード2020 受賞企業の取組事例集

まとめ

社会的に男性育休が推進されていますが、現状では、まだまだ模索中の企業が多いと思います。「男性育休を推進したい」と頭では分かっていても、制度を敷くので精一杯で、その中身に目を向けることができていない企業は、少なくないでしょう。

とはいえ、「育児に参加する」という本質が抜けている育休は、結果的に企業・個人に悪影響をおよぼす可能性があります。まずは自社にできることを見つけて、少しずつでも、取るだけ育休の回避に向けた取り組みを進めてみましょう。

企画・編集/小山 佐知子

ライター

紺野天地

ライター、文筆家

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