テレワークや外出控えによる「コロナ太り」をなんとかしたい!
漢方医に聞く「ため込まない体づくり」の極意とは
「今日も一日、家から出なかった……」
在宅勤務をしていると、そういう日が稀ではありません。自宅内で過ごす時間が長くなると活動量が大幅に減り、ほぼ椅子に座りっぱなしなんて日も。当然、血流が悪くてむくみは取れず、脂肪も燃焼されずにため込むばかり…… 今、そんな「テレワーク太り」「コロナ太り」でお悩みの方が増えています。これから本格的な冬を迎えるにあたって、意識的に対策しないと“ため込み”に拍車がかかってしまう……
ということで、今回LAXICでは「ため込み対策」として漢方に注目し、漢方にまつわるあらゆる疑問について「たまきクリニック」の玉木優子院長に話を伺いました。テレワークによる新しい生活習慣ではどのように漢方の取り入れると良いのでしょうか。感染防止のため外出を控える方も多いと思いますので、在宅勤務以外の方も必読です!
コロナ太りの解消、まずは「意識的」に動くこと。そこに漢方をプラスしてみる
編集部:在宅勤務で座りっぱなしの状態が続いています。午後になると脚はパンパンにむくんでしまい、下半身や腰回りがとにかく気になるのですが、改めて「コロナ太り」の原因を教えていただけますか?
玉木優子院長(以下、敬称略。玉木):本来、人は歩くことによって足の筋肉が収縮し、ポンプ作用で血液が全身を駆け巡るのですが、通勤や外出が減ったことで歩く機会が減ると血流が悪くなります。その結果、リンパが澱み、体がむくんでしまいます。人は動いてエネルギーを消費するので、活動量が少ないといつもと同じ食生活では太ってしまうんですよね。ステイホームが始まって以来、そういうお悩みで来院される方が増えています。
編集部:まさにその状態です。エネルギーを消費していないのに、口さみしくてついお菓子などを食べてしまうんですよね。コロナ太りは漢方で解消できますか?
玉木:漢方だけに頼るのではなく、まずは「意識的に動く」ことが大切です。在宅ワークが多いと部屋着のままということもあるかもしれませんよね。着替えて外出することは体型キープの大事なモチベーションになりますし、外に出ない場合も、起きてから10分でもいいので体操をすると血の巡りは良くなります。運動不足だと思ったらまずは運動を試みて「いつもはこの方法で戻っているのにうまく戻らない、食べ物も変わっていないのに…」という場合に漢方薬を組み合わせてもらえたらと思います。
編集部:確かに、在宅ワークでオンライン会議ばかりだと上は仕事着に着替えても、下はスウェットだったりします…(苦笑)。運動などで改善を試みたけど、今回は戻らない……! というときに漢方を活用するのがいいんですね。
実際に増えている「コロナ太り」「コロナ不眠」「コロナうつ」
編集部:実際に先生のところに相談に来られる女性の中で、最も多いお悩みは何ですか?
玉木:まさに「コロナ太り」と「コロナ不眠」、そこから生じる「コロナうつ」。この3つのお悩みで来られる患者さんが、とにかく増えています。今までは問題なくこなしてこられた人が「いつもと違う……」と来院されます。
編集部:コロナ不眠も多いですよね。これまでのように仕事時間が決まっているときとは違いますから。
玉木:裁量労働制だと自分のこだわりでいつまでも仕事ができてしまいます。夜中まで仕事をしてしまう人は、ズルズルと仕事をして終わったタイミングで寝て…… と生活のリズムが崩れてしまう。本来であれば就寝中、深夜12時ぐらいに体の修復ホルモンが出るのですが、仕事をしていると修復されないまま朝を迎え、体も澱んだ状態でスタートします。常に疲れている状態なので、生活にメリハリがなく、不眠に陥りやすいです。老廃物の回収が悪くなると、だんだんむくみや脂肪も増え、便通も悪くなって、コロナ太りにもつながります。
編集部:まさに悪循環……! 私も子どもたちの学校休校時は夜中に仕事をしていたので、生活リズムの崩れから不眠になり、体調を壊しました。
玉木:ワーキングマザーは通常でもストレス過多なのに、学校が休みになった為ストレスが増し、食べられなくなる人と、食べてしまう人に分かれました。ストレスが過食にでるタイプだと、より一層、コロナ太りに拍車がかかってしまいます。体が重いと気持ちも重くなりますし、心と体に余裕がないと子どもにも家族にも優しくなれないですよね。またそのことで自分を責めて…… と悪循環しかありません。
編集部:生活リズムも運動も、とにかく意識的に整える事が大事ですね。
玉木:コロナを筆頭に、外的要因はコントロールできません。また、困難に直面したり変化を求められても、自分が元気じゃないとうまくやり過ごすことも難しいし、適応できませんよね。 家族に対しても何もできなくなってしまいます。
編集部:本当ですね。どうしても自分のことは後回しにしてしまいます。あと、仕事も「完璧にしたい!」と思ってしまうのですが、この意識も変えないといけないですね。
玉木:「完全燃焼したい!」というのが人間の脳から作り出される欲求なのですが、そうすると余力がなくなってしまうので、時にはやりたい仕事も抑えないといけない。不完全燃焼にも慣れていかないと。
編集部:不完全燃焼に慣れる…… これも体調管理には必要な意識付けですね。これから冬に向けて、特に注意した方が良いことはありますか?
玉木:冷えてくると代謝が悪くなり、一層むくんでしまうので、意識しておかないと溜め込んで太ってしまいます。自分の体と心に耳を傾けるには良いタイミングですね。
ドラッグストアで買える漢方薬との違いは?サプリメントを飲んでいる場合は?
編集部:漢方薬の取り入れ方ですが、今、ドラッグストアでも手軽に買えるようになっていますが、それでも良いのですか?
玉木:患者さんの体質を見ながら処方するのが漢方薬の基本です。冷え症や胃腸が弱い人だと、薬によっては強すぎることもあります。クリニックで処方される漢方薬は保険適用されるので(※)、初診料を考えてもクリニックで処方してもらった方が断然コストがかからない場合が多いです。「風邪のひき始めだから葛根湯(カッコントウ)を飲みたい」など、一度試して自分に合ったものをピンポイントで使う場合は市販のものでも良いと思いますが、今回のような肥満症や慢性的な症状の改善での場合のように長い期間飲むものは、ドラッグストアで買い続けるのは経済的に大変かなと思います。
(※)医療機関によっては、保険適用されない(自由診療)場合があります。事前に医療機関へお問い合わせください。
編集部:漢方薬は効果が出るのに時間がかかるイメージですが、即効性が期待できる漢方薬もあるんでしょうか?
玉木:小青竜湯(ショウセイリュウトウ)は鼻水が出て来たときに効きますし、五苓散(ゴレイサン)は二日酔いのとき、葛根湯は風邪のとき…… など、比較的早く効果が出る処方もあります。漢方の考え方には「上薬」=長期間服用できる生薬、「中薬」=体が衰え補う必要があるときに必要な生薬、「下薬」=病気を治す強い効果を持つ生薬で、長くは服用しないもの、という3つに分類されています。時には、目的に合わせて、2~3種類飲み合わせることもあるんですよ。
編集部:そうなんですね!? 通常、服用する際は食前や食間と言われていますが、その場合はどうやって飲むんですか?
玉木:そもそも漢方薬は生薬の集まりなので、違う漢方薬を勝手に混ぜてしまうと違う薬になってしまう場合があります。顆粒自体を混ぜて飲むのではなく、一つ一つの服用する時間をずらして飲んでもらいます。基本的にはお腹に何も入っていない状態のところに漢方薬が入り、胃の粘膜で吸収されて効果が出てくるのですが、胃腸の悪い方は、食後の服用をすすめられる場合もありますので、医師や薬剤師の指示に従ってください。
編集部:ダイエット目的で脂肪を燃焼させるサプリメントを飲んでいる場合は? 両方摂取しても良いのでしょうか?
玉木:サプリメントも漢方薬も「飲み方」がありますので、専門医に相談することをおすすめします。当院では初診の際に問診で今飲んでいるお薬やサプリなどをお聞きし、診察では口の中とお腹と脈を診て、体質にあう漢方薬を処方しています。
生薬煎じ薬との違いは? 子どもも漢方薬って飲めるの?
編集部:漢方薬局などでは実際の生薬を煎じて調合するところがありますが、医療機関で処方される漢方薬とはどう違うのですか?
玉木:まず保険適用かそうでないかの違いで、コストが大幅に違います。あとは、生薬を煮立てて、その時間もゆっくり味わいたい…… という方にはオススメですが、時間のないワーママには少し難しいかもしれませんね。エキス製剤は、工場で同じように生薬を煎じて製造されています。また個包装され携帯しやすいなど利便性があります。
編集部:ちなみに、漢方薬は子どもも飲めるんでしょうか?
玉木:お子さんにも処方していますよ。夜泣きやかんしゃくといった「疳の虫」と呼ばれる症状には漢方薬がいいんです。「母子同服」と言って、親子で一緒に飲んだりする場合もあります。あと「症状が慢性化しているな」というときに漢方薬に置き換えるのもオススメですよ。あまりにも子どもが飲むことを嫌がる場合はやめたほうがいいですが、飲み方を工夫すれば0歳から飲めますから。いずれにしても、クリニックでは問診票の内容を見ながら患者さんの体質の予測を立てます。そして、診察時には口腔内や腹部、脈などを総合的に診て、体質にあう漢方薬を処方しています。
編集部:なるほど……! 症状一つとっても医療機関を受診することで、自分に一番適した漢方薬を服用することができるんですね。体調を崩しやすいこの時期。漢方薬を飲みたいときは自分で判断せず、まずは専門医に相談してみようと思います。今日はコロナ太りから漢方薬にまつわる素朴な疑問までわかりやすく教えていただき、ありがとうございました!
コロナ禍では働き方や生活スタイルが変わっただけでなく、私たちの意識も変えていかないと健康維持が難しくなってしまうんですね…… まずは日常的に運動を取り入れ、食事も見直し、さらに不調が出る場合は漢方を取り入れたいと思います。また、漢方に対して、勝手なイメージを持ってしまっているところもあり、より一層、正しい知識が必要なことがわかりました。手に入ってしまうからといって店頭で手軽に買うのではなく、専門医に相談することが何よりも健康への近道ですね。
プロフィール
玉木 優子さん
たまきクリニック 院長
東京都自由が丘のたまきクリニック院長。日本内科学会所属、日本東洋医学会等専門医。
企業や老人ホーム等の学校医・園医・各種産業医
漢方や気功を積極的に取り入れ、西洋医学と東洋医学を融合させた統合医療を行い、
子どもから高齢者まで患者一人一人に合ったオーダーメイドの医療を得意とする。
文・インタビュー:飯田 りえ
ライター