忙しいワーママでも諦めないで!
わが子をグローバル社会で活躍する人に育てるコツ【後編】
バイリンガル育児を経験した2人のママへのインタビュー、後編をお届けします!
英語講師の浜家有文子さんと、ギフテッド(Gifted)教育で有名なサンフランシスコの難関校に娘を合格させた筒井美華子さん。前編では「英語はあくまでもコミュニケーションツール」、「グローバルに社会では言語だけじゃなくコミュニケーションスキルも大事」というお話を聞かせていただきました。
後編では、お二人の子育てとバイリンガル教育の経験から感じたことを中心にお届けします。英語だけでなく、日本人として大切にしたい道徳観の養い方など、多様性の時代、そしてグローバル化社会を生きる子どもたちにしてあげたい教育について伺いました!
*前編はこちら
非英語ネイティブの日本人の女の子がギフテッドの難関校に合格!
編集部:筒井さんの娘さんは、サンフランシスコでも難関とされるギフテッド(Gifted)教育校に合格され、現在通学中とのことですが、まずはギフテッド教育について教えていただけますか?
筒井美華子さん(以下、敬称略。 筒井):“ギフテッド” は、「天から才能を授かった人」 という意味で、IQ130以上を持つ人のことをいいます。たとえば、マーク・ザッカーバーグ、ビル・ゲイツなどは“ギフテッド”とされていて、海外では広く知られています。ギフテッド教育は、アメリカなどで国家の支援も受けているようです。
編集部:最近、日本でもギフテッド教育を取り入れる学校がちらほら出てきていますが、日本で育った子どもがサンフランシスコの難関校に入学したというのはすごいことだと思います。娘さんは幼いころから英語に親しんできたとのことですが、7歳で渡米する前からすでに英語がペラペラだったのでしょうか?
筒井:いえ、そんなことはありません。当時、娘はフォニックスで絵本が読める状態でしたが、決してネイティブ並に話せるわけではありませんでした。それに彼女は私の意向で小学校受験を経験したので、幼稚園のときは受験対策が中心でしたから。娘は一度国立の小学校に入学したのですが、入学してすぐに夫のアメリカ転勤が決まって…… その後永住が決まったので、そこからアメリカでの教育について考えはじめました。
編集部:なるほど、一度日本で小学校に入ってからギフテッド教育校の受験を考えたんですね!
筒井:英語がネイティブ並ではない子どもが合格したというのは珍しかったようです。あとは、両親が日本人というのも我が家だけだったようで、これはちょっとした売りでしたね(笑) 多様性を大切にしている学校なので。
編集部:IQテストはどんなものなのですか?
筒井: 「WISC4」 という知能試験で、日本では聞くところによると発達外来などで受けるもののようです。娘の学校ではスコア130が足切りラインだったそうで、娘は平均スコアが135でした。(この試験の最高スコアは150)毎年ギフテッドの子ども約130名ほどが受験をしますが、その中から25名が入学できました。
編集部:たった25名! ますますすごい……
筒井:合格基準が何だったかは分かりませんが、娘はエッセイを4つ書いたり、1日体験授業を一つ上の学年の子に付いたりしてとにかく頑張っていました。「何としてもこの学校に入りたい!」という強い気持ちが伝わったのが一番の理由だと私は思っています。テストでは、学校に合うかどうかを360度見られていました。
協調性を大切に、できない部分を伸ばそうとする日本の教育
自主性を大切に、できる部分をより高めようとするアメリカの教育
編集部:浜家さんは前編の中で 『海外では英語が出来るという前提で、「あなたは何がしたいの?」「何ができるの?」 が求められます。』とおっしゃっていましたが、これからのグローバル社会を生きる上では言語以外にも大切なことも多々ありそうですね。
浜家 有文子さん(以下、敬称略。浜家):少なくともコミュニケーションにおいて、日本人特有の 「察してほしい」 とか 「察してくれるだろう」 という感覚は外国で通用しません。 自分の意見を持ち発信する力は大事ですね。 子どものときから自主性はとても尊重されます。
筒井:ものすごく驚いたんですが、ギフテッド教育では、授業中に何をしていてもいいみたいで…… 実際に、授業中にずっとメールをしている子がいたり、うちの娘は折り紙をやっていたり。日本ならありえないですよね(苦笑)
編集部:授業中にメール? 折り紙!?
筒井:ギフテッドの子どもはマルチタスクができる子が多くて、授業を受けながら他のこともやっているんです。
編集部:協調性を重んじる日本の教育ではちょっと考えられないですね。
浜家:そもそも協調性があるかないかはアメリカでは全く関係ないです(苦笑)
筒井:人と比べてどうかというものさし自体がないからか、娘の学校では「成績表」もないんです。「WISC4」というIQテストは、先ほどもちらっとお話したように日本では発達外来などで受けることが多いもので、たとえば、クラスの中でやんちゃだったり、自分の世界に浸っていたりする子が受けるテストだと聞いています。
浜家:日本は相対評価なので、「個性がありすぎる」とか、「周りと比べてどこが足りない」と判断されるとこうしたテストを受けるんですよね。低い部分を周りと同じレベルまで伸ばそうとするのが協調性を大切にする日本の教育。これに対してアメリカは、凸凹している部分も含めてその人の個性だと考えます。
筒井:「低いところをどう伸ばそう」、ではなく、「伸びているところをもっと伸ばそう」という考え方。ギフテッドの子どもはマルチタスクな子が多いみたいで、授業中は全員バランスボールに乗っているという学校やクラスもあるんですよ。みんな揺れながら授業受けているんです。落ち着きがないですね(笑)
編集部:え!? バランスボールですか?
浜家:よく考えてみたら子どもってじっとしているほうが不自然じゃない? って思うんです。じっとしてないのが子どもなのに、未就学児の段階から 「一列に並んだらはみ出しちゃだめ」 なんて言うのっておかしくない? 子どもなんて動いているのが普通っていうか…… 逆に、見た目はじーっとしているけど全然聞いてない子も絶対いると思うのよね。そっちの方が問題じゃないかなって私は思うなぁ。
編集部:確かに。見た目だけちゃんとしてる風なのって、大人のエゴじゃない? って思います。
浜家:私の一番下の子も、実はちょっと落ち着きがないので、IQテストを受けさせたんですよ。そしたらやっぱり明らかにワーキングメモリーが少なくて。「こういう風にやってください」 と先生に言われたことが忠実にできないんです。でも、私は全く心配していなくて。だって、その辺、大人になればある程度自然にできるようになる部分だと思うので。
筒井:今の段階でワーキングメモリーが少なくても、それは彼の個性ですからね。
浜家:息子は立体で物事を見る能力がとても高いんです。だからドローンの操縦やゲームがすごく上手で(笑) 超が付くほどのゲーマーだし、そんな自分に彼は自信を持っています。だから親として、そこは伸ばしてあげたいなと思います。
編集部:思わず 「ゲームなんて……」 と否定したくなる親心も出てきそうですが、強みを認めるって大事ですね!
浜家:逆に、彼は漢字がすごく苦手で、特に漢字を見て写すという作業はたまらなく苦痛みたいなんです。彼なりに努力はしているんですが、この間、ついに追試を受けることになったんです。でも、その追試が訳あって他の子どもたちがお楽しみ会をしている片隅でやる羽目になったらしく。私、これはさすがに違うと思ったので先生にお話したんです。 「できない」 にフォーカスしすぎて自尊心が傷つくのは嫌だなと思ったので。
筒井:日本の先生ってすごく頑張っているじゃないですか。長時間労働っていいますし…… 先生もかわいそうだなって思うときがあるんですよね。「こうあるべき」みたいな価値観に縛られていたり、詰め込まれているのは子どもだけじゃなくて先生も一緒なのかも。
浜家:日本も外国人の子どもや異文化の背景をもった子どもが増えたときに、「こうあるべき」という理由なき価値観は通じなくなります。 文化的な良さや伝統はしっかり残しつつ、意味のない校則とか固定観念は省いていったほうがいいなと思います。
多様性の時代、グローバル社会で生きるということ。
日本人としての誇りを持ちつつ、広い視野で生きてほしい。
編集部:教育の考え方以外にも、アメリカと日本の違いを感じることはありますか?
筒井:“当たり前”の感覚なんかは全然違いますね。たとえば、「清潔観念」とか「食」とか。 娘がこの間学校で飲み物を廊下にこぼしてしまったときに自分で拭いたらしいんですが、それを周りの人たちが「すごい!」って褒めたらしいんですよ……
編集部:え? どういうことですか?
筒井:アメリカでは、汚れているものはクリーニングの人が拭いてくれるので、ごみも自分で片付けるとかあんまりないんです。
あとは、お母さんが作ってくれたお弁当は残さずきれいに食べる、とか。お母さんが作ったといっても、アメリカでは大体パックするだけとかなんで、食べても食べなくても「ポイ!」なんです。
浜家:「食」に関する部分は特に違うよね。
筒井:これって、どちらが良いとか悪いとかじゃないと思うんです。でも、私は日本人として、やっぱりこぼしたものは拭きたいし、心を込めて作った料理は「いただきます」って言って食べたいんですよ。こういう道徳的な部分は、日本のインターナショナルスクールもそうですし、もちろんアメリカの学校でも習ったり社会生活では身につけられないところ。だからこそ、私は家庭の中で道徳や日本人としての感性をしっかり身につけてほしいなって思うんです。
浜家:多様性の中に生きるからこそ、自分たちの文化は大切にしたいですよね。だからこそ、やっぱり小さいときから自分を持つことって大事だと思います。
筒井:カリフォルニアは特に多人種ですしね。多様性がすごい。お母さんが2人いるとか、兄弟全員人種が違うとか、養子縁組とか、当たり前ですし。娘の学年には、この間まで女の子だったけど、夏休み明けて登校したときには男の子になっていたという子もいました。こうしたケースってこれからの時代はアメリカだけじゃなく世界のどこに住んでいても遭遇することだと思うんです。
浜家:私も学生時代はクラスに足がない子が普通にいたし、宗教上お肉食べられない子もいたし。特別扱いされているわけじゃなくて、いろんな人が共存しているのが日本とは違うところだなと思いました。
筒井:社会が多様だからこそ、子どものうちは各家庭での教育がやっぱり大事だと思っていて。たとえば、我が家では「好き嫌いしないで何でも食べる」というルールを設けています。友だちが遊びに来て、その子は宗教上の理由で食べられないかもしれないし、他の子は平気で残すかもしれない。だから正直モヤモヤする部分はあるんです。正解がないから。でも、「よそはよそ、うちはうち」で教育しています。
編集部:貴重なお話ありがとうございました! では最後に、お二人から読者へのアドバイスやメッセージをお願いします!
浜家:アドバイスとしては、「完璧をめざさないで」ってことかな。日本人は特に英語ができないことをコンプレックスに感じている人も多いですが、できなくたって全然いいんですよ。でもやらないと上達はしないから、不完全でもいいからやってみるほうがいい。英語教育に限らず子育ては本当予測不能なことばかりでママも人間だから怒って泣くときもありますよね。Nobody is Perfect! です。
筒井:私はやっぱりお母さんが輝いていることかなぁ。お母さんが好きなことをしていればそれが一番家族にも伝わるというか、家族もハッピーだと思うんです。人によってそれが仕事だったり趣味だったり、もちろん子育てだったりいろいろだと思うので、人と比べることなく自分のものさしで好きなことを精一杯やったらいいと思います。
浜家:子どもは必ず親を見ていますからね!
「将来、AIなどテクノロジー技術の進歩で失われる職業がある」、「外国人雇用の増加で、グローバルに対応できないと国内であっても生きていけない」などと聞く機会が増えました。親としては「どんな世の中でも対応できる、グローバルに活躍できる子にしたい!」と思うのは当然ですよね。今回のお二人のお話を聞き、改めて「グローバル=流暢な英語」ではないことを学びました。生きる力は、母国語の習得なども含め、私たちの毎日の生活で養われるもの。忙しくても、今できることを一つずつ…。焦らなくて大丈夫!そんな元気をいただきました。
プロフィール
浜家有文子(はまや ゆうこ)さん
英語コーチ/子ども英語講師
発音矯正トレーナー/キッズヨガインストラクター/テレビ・ラジオ ナレーター/イベント司会
幼少期にアメリカとオーストリアに11年間滞在。大学在学中に受けた テレビ朝日 ”CNN Headline” のオーディションがきっかけで、卒業後は同番組のキャスターとしてデビュー。日本語と英語で原稿を書き、生放送でニュースを伝える。また様々な海外アーティストのインタビューや海外レポートを経験。NHK”ビジネスワールド”などの語学番組も担当。J-Wave ラジオでは バイリンガルでいくつもの番組をナビゲート。結婚出産と共に活動休止し3人の子供をバイリンガルに育てることを通して、英語を教える楽しさを実感し 子供英会話教室を開設。10年以上 小学生から高校生まで英語を教え、2017年からは”Glowbal English”と題して大人も対象にした英語のティーチングとコーチングを開始。
筒井美華子(つつい みかこ)さん
ひめままサンフランシスコ・ベイエリア代表
Moisteane Beauty System License取得 美容アドバイザー
20歳で初海外、アルゼンチンブエノスアイレス大学、経済学部へ1年間交換留学。帰国後は幼少期から憧れていた客室乗務員の道へ。日系航空会社の国際線担当として9年間勤めた後、夫の大学院留学のため退社しシカゴへ渡米。娘が6ヶ月のときに日本へ帰国。英語を日常に取り入れながらも小学校受験を決め、国立小へ合格後、夫の赴任に伴い2015年よりサンフランシスコへ。2019年、アメリカ教育省が選ぶ優秀校に過去3度選ばれたGifted教育校へ娘が合格。
ライター