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2016.01.12 2023/05/31

「多くの人が同じもやもやを抱えているならば、それを言語化していくのが私の役割」 2児の母となった中野円佳さんに聞く

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「多くの人が同じもやもやを抱えているならば、それを言語化していくのが私の役割」 2児の母となった中野円佳さんに聞く

『「育休世代」のジレンマ』を出版し、総合職女性が出産後に仕事に対して抱える悩みや葛藤を顕在化したことで、多くの女性たちの反響を呼び、瞬く間に話題となった女性活用ジャーナリストであり研究者の中野円佳さん。この度、第2子を出産されたとのことで、当事者として感じる思いや、働くママ世代の声を聞いて思うこと、そして中野さん自身の今後について伺いました。

2人目が産まれて、家族としてより一層連携できるように

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宮﨑2人目のお子さんが1ヶ月前に生まれたと言うことで、まずは感じることや思うことを

中野さん(以下 敬称略)1週間ごとに思うことは違うのですが、上の子もこんなに小さかったんだなあと改めて感じて、上の子に対して「こんなに大きく育ってくれてありがとう」という気持ちと、一緒の時間を改めて大切にしたいなと思いがあります。

私が下の子の世話をしていると、自然と夫が上の子を見てくれていることが多くて、夫自身が1人目の時よりも、より当事者意識を持って子育てしてくれていると言うか、家族として連携できているなあという感じが強くなりました。

1人目の産休・育休時は大学院に行かれていましたよね

中野妊娠中に受験をして、第1子は4月出産だったのですが、同時期に入学をしています。初めて子どもを置いて京都に行ったのが、生後2ヶ月の頃ですね。

そもそもなぜ京都の大学院に?

中野上野千鶴子さんが2012年4月から立命館の先端学術総合研究所というところで招聘教授として教えていらっしゃって、とりあえず受けてみようと思ったんですね。落ちたら悩む必要がないのだからと。出産直後に研究という形になるので、迷ったのですが、事務の人に相談したところ「先生によって対応は違うと思いますが、まずは門を叩いてみたらどうでしょう」と言われたのです。結果的にご配慮下さって、産休・育休中に学生になり、大学に行ける際に自分の発表を多く入れるというような形で両立することになりました。大学院過程は2年ですが、ほぼ論文を書き上げた状態で新聞社に復帰しました。それが子どもが1歳半の頃ですね。

女性活用における「当事者であり研究者」という立場に

宮﨑新聞社を辞めてからのこの1年間はかなり激動でしたよね。

中野辞めたのは2015年3月なんです。産休前は、平日はチェンジウェーブの会社員として、企業向けの研究アドバイザーとしてダイバーシティ系の案件を担当する傍ら、その他の時間を使って、ライティングや講演などの仕事をしていました。書きたい案件は沢山あったので、退職後3〜4ヶ月は発信フェーズという形で多くの媒体で書かせてもらい、かなり忙しく動いていましたね。テーマが時流に乗っていて、かつ皆さんが関心のあるテーマなので、この時期を大切にしたいという思いもありました。

女性の問題を語れる論客が少ないというか、働くママ世代の発信が限定的なので、その声を届ける役割を果たしたいと思っていました。当事者であり研究者でもあるという立場も重宝された気がします。

もともとこの分野を専門にしようと思っていたのですか?

中野私が第1子を妊娠した頃は、女性が働き続けるという問題に関しては、非正規社員が育休を取れないなどの問題などにフォーカスが当たっていて、正社員で総合職の恵まれた人たちは問題がないでしょ?というような考えが根強く、正社員ワーママたちの仕事の「質」までクローズアップされない傾向があったのです。

たしかに、中野さんの本で、もやもやを抱えているワーママ層の心理がようやくクローズアップされましたね。「育休世代のジレンマ」で一番反響が多かった層はどこでしょうか?

中野子どもを産んだことがある女性が圧倒的に多く、世代は育休世代より少し上の人からの共感も多かったですね。渦中にいる会社員女性からの反響が一番多かったです。その他には、既に会社を退職した女性が、「問題を掘り起こされてもやもやした」という感想もありました。

つっかかるような意見はあったんでしょうか?

中野「そんな悩みは贅沢」という意見はもっと来るかなと思っていたのですが、意外になかったです。ただ、夫が高収入の仕事をし続けることで、その悩みを抱くのはどうなんだろう?という意見や、夫が降りればいいじゃないかという意見はありましたね。私としては夫にそれを求められないところにジレンマがあるということもきちんと書いたつもりだったのですが。

「1つのレールしか見えない社会」を、出産を機に考え直せる

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宮﨑会社員ママで、マミートラックになっていたり、出世できないという悩みを抱いている人からの共感が一番強かったのかなと、中野さんが新聞社を辞められた時に「辞めたんだ」とショックを受ける人の多さを見て思っていました。

中野辞めたことに対しては「逃げた」「がっかり」という意見も頂きましたね。

あの一連のやり取りを見ていて、自分と同じ環境の人はどんな人を見てもいないはずなのに、未だに自分と同じようなロールモデルを欲している傾向があるのかな?と思ったのです。

中野私は当事者であり分析者でもあるので、既にその点では他の女性たちと別のジレンマを持ってしまっていると思います。自分の名前で発信しはじめた段階で他の当事者とは共感できない点が出ているはずなのですが、当初は当事者である私を見て「私たちの代表でいてね」と期待されているような面があった気がします。でもそういう人たちに対して「私と同じようになってね」というのも少し違いますし、自分がどうだったという当事者としての内容よりも、あくまでもママたちの話や企業側の話を聞く、ということを地道に続けて発信し続けてはいきたいなとは思っています。

一方で、「私と同じようになってね」と言えないと言いながらも、会社はどうして変わってくれないんだろうと思っているのだったら、一歩踏み出してみてもいいのではないかと思います。

正社員が守られているゆえに抜け出しにくいということもあるし、一回出ちゃうと戻れないんじゃないか?という怖さもあると思います。「転職エージェントを使う」という形になるとなかなか条件に合った職が見つからなくてハードルが高くなったりするのですが、業務委託という形もあるかもしれませんし、もう少し気楽に考えてもいいのではないかと思っています。

私自身は新聞社を辞めて、自分がいた会社自体を中から変えることは諦めた面もありますが、自分の名前で生きていく覚悟や戦略のようなものは、会社員であっても必要なスキルだし、逆に会社員が会社に守られているからこそ、会社に任せざるを得ないという、そのための危うさもあると思います。

「ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」(ダイヤモンド社)という本にもありますが、自分のネットワークの中でくっついたり離れたりしながら働くことは、今後必要なのかなあと。

1つのレールしか見えない社会、大学から就活を経て会社に入り、1つの競争社会で上がっていくしか道がないというような従来型の形を、出産を機に考え直せるチャンスが女性にはあると思っています。

いろんな層からのもやもやを聞くことが多いですよね。

中野あちこちで同じような悩みを抱えていて、同じような動きがあるなのならばそれを言語化していくのが私の役割だとは思っています。

自分が関わることによって、ワーママたちにどんな影響があるといいなと思っていますか?

中野本を書いた時点では、とにかく言語化すること、問題を顕在化することを第1フェーズと考えていました。第2フェーズでは、その問題に対して、解を考えていきたいと思っています。つなぎ役というか、当事者はこう考えているんだよということを、人事や経営者に伝えていきたいと思っています。

働きたいと思っている専業主婦層についてはどう思いますか?

中野日本は全体として高学歴にもかかわらず働いていない人が多くて、能力もある人が社会で活躍したいのにできないという構造はもったいないとは思いますね。チェンジウェーブには6年〜10年専業主婦をしていたという人がいるんですよね。一緒に仕事をしていて、ブランクは全く感じていません。その前に何をしていたか、ということと、リハビリ期間があればブランクがあっても乗り越えていけるとは思います。能力もあって意欲もある人がちゃんと仕事ができる社会にはしていきたいですよね。

妊娠・出産・仕事に関しては
半年くらいのスパンで、今後について考える

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宮﨑第2子を出産されて、今後のことをどう考えていらっしゃいますか?

中野4月にチェンジウェーブに職場復帰予定なのですが、それまでは子育てしながらインプットの期間に充てたいと思っています。復帰後は、上の子との時間や、取材やインプットの時間、そして大学院生活とそれぞれある程度の時間を確保しながらバランスを取っていければと。子どもの状況も変りますし、夫の仕事の場所や時間も変わる可能性があるので、様々な選択肢は常に考えていますね。

前回の育休の時は、フローチャートのようにいろんな選択肢を考えていたんですよね。ノートを見返してみると、ものすごく考えていたなあと。シェリル・サンドバーグさんの「LEAN IN」にも短いスパンで今後のことを考えるといいと書いてありましたが、妊娠・出産に関しては3〜5年スパンだとイメージがつきにくく、子どもの状況も変っていくので、様々な選択肢を考えた上で、半年スパンくらいで決めていくといいと思います。考えておけば、状況が変った時も臨機応変に対応ができますよね。まずは「考えておくこと」が大切かなと思います。

研究者でありながら当事者である立場から、多くのワーママ層からのもやもやを聞くことが多い中野さん。「多くの人が、同じもやもやを抱えているのならば、それを言語化していくのが私の役割」とおっしゃっています。中野さんがどんどん問題を顕在化してくれるならば、私たちは顕在化された問題を踏まえて、他力本願になるだけでなく、自分たちでできる解を少しずつ考えていく必要があるのではないでしょうか。個人の小さな一歩は、社会の大きなうねりに繋がるかもしれない、と思っています。

プロフィール

中野 円佳さん

女性活用ジャーナリスト/研究者

1984年生まれ。東京大学教育学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。金融機関を中心とする大手企業の財務や経営、厚生労働政策などの取材を担当。育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科に通い、同研究科に提出した修士論文をもとに2014年9月、『「育休世代」のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)を出版。15年4月よりチェンジウェーブに参画。東京大学大学院教育学研究科博士課程在籍。

文・インタビュー:宮﨑 晴美

ライター

ラシク 編集部


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