1. トップ
  2. 働き方・生き方
  3. 映画『マイライフ、ママライフ』に込めた想い働く女性のリアルな「今」を撮った平成生まれの映画監督と考える、これからの社会
2020.07.21 2023/05/20

映画『マイライフ、ママライフ』に込めた想い
働く女性のリアルな「今」を撮った平成生まれの映画監督と考える、これからの社会

FacebookTwitter
映画『マイライフ、ママライフ』に込めた想い<br>働く女性のリアルな「今」を撮った平成生まれの映画監督と考える、これからの社会

「誰もが活き活きと、夢や仕事、育児に向き合える社会にしたい!」――ひとりの若手映画監督の想いから、1本の映画が生まれました。『マイライフ、ママライフ』は、働く女性たちが社会のなかで直面するリアルな 「今」 を映し出す作品です。2019年のクラウドファウンディングを経て、いよいよ一般公開がはじまります。

同作は、子どもを持つことに勇気が持てない既婚女性、綾(あや)と、育児も家事もひとりでこなし、本当の夢を諦めて生きている二児の母親、沙織(さおり)の物語。異なる生き方を選択してきた同い年の2人ですが、『家族留学』を通して出会ったことでそれぞれの人生が大きく動き出します。2人が成長していく姿に元気と希望をもらえる同作は、働くママはもちろん、これからライフイベントを迎える方にもぜひ観ていただきたいです。

今回、LAXICでは同作の監督をつとめる亀山睦実さんと、『家族留学』を運営する株式会社manma代表 の新居日南恵さん、編集長の小山で鼎談を実施。 映画制作の舞台裏や、多様な人材が活躍できる社会づくりについて語り合いました。

■ 映画 『マイライフ、ママライフ』特報/予告編(YouTube)
■ 映画 『マイライフ、ママライフ』公式HP

平成生まれの若手監督が、女性の生き方を考える映画を制作した理由

ワンオペで2児の子育てと仕事に奮闘する沙織(鉢嶺 杏奈/写真右)と、ある秘密を抱えながら働く綾(尾花 貴絵/写真左)

編集部:『マイライフ、ママライフ』では、ワーママの苦悩や葛藤はもちろん、「子どもを産むか、産まないのか」の間で揺れる女性の気持ちがとてもリアルに描かれていますよね。亀山さんがママの当事者ではないお立場から妊娠・出産、子育てを題材に映画を撮ろうと思ったのはなぜですか?

 

映画監督 亀山睦実さん(以下、敬称略。亀山):以前から「女性を幸せにしたい」という軸が私の中にひとつあって、ものづくりの根本にもなっているんです。

この映画の主人公、沙織と綾はともに平成元年生まれの30歳なんですが、私もまさに元年生まれで、結婚・子育てというライフイベントが身近な年になりました。これまで私は若者の恋愛を題材にした作品を多く扱ってきたんですが、知人や友人含め、仕事とプライベートで悩みながら頑張る女性を見るうちに、「平成生まれによる、これからの女性の生き方を考える映画を作りたい」という想いが湧いてきたんです。

 

LAXIC編集長 小山佐知子(以下、敬称略。小山):私、映画の特報をはじめてYouTubeで観たとき、一人ひとりに問いかけるようなメッセージにハッとさせられたんです。働いている・いないにかかわらず、「私の人生って……?」とふと考える瞬間ってあるんですよね。だから『マイライフ、ママライフ』というタイトルはすごく素敵だなと思いましたし、亀山さんが当事者じゃない立場からここまでリアルに描けるのは本当にすごい! と感心したんです。

 

亀山:私自身は、これまで結婚や子どもを持つことは考えてこなかったのですが、このテーマはきっと今後の映画づくりの勉強にもなるだろうなと思ってチャレンジしました。実際に映画を撮る過程で、家庭内における女性の役割が昔とあまり変わっていないという現実を知ることができました。

 

編集部:役割というのは「女性は家を守るもの」みたいなことですよね? 映画の中でも、沙織は育児も家事もワンオペでこなし、本当にやりたいことを諦めて生きていましたね。

 

亀山はい。そういった変わっていない部分や社会課題を前にしたとき、平成生まれの私としては、「ミレニアル世代はこういう社会のあり方を問題だと思っているんだぞ!」みたいな意思表示をしたほうがいいと思ったんです。

世の中を変えることは上の世代がやること、みたいなイメージがどこかあるけど、本当は世代問わず、みんなで一緒になって変えていくのが一番いい。だけど若い世代の声ってなかなか大人には届きにくいじゃないですか。だから、伝えたいことを伝えるために映画という手段で表現してみようと。教育コンテンツじゃないですけれど、世代・性別関係なくいろんな人に観てもらうことによって気づいてもらう、考えてもらうという機会につながればいいなと思っています。

『家族留学』の体験で家族や子どもに対する見方ががらっと変わる

株式会社manma代表 新居日南恵さん(写真右)、『マイライフ、ママライフ』監督 亀山睦実さん(写真中央) 、LAXIC編集長 小山佐知子(写真左)

編集部:映画の中でDINKSの綾が体験するのが、実際に新居さんが運営されている『家族留学』でした。 学生や若手の社会人が共働き家庭の家に“留学”する、家庭版OBOG訪問ですが、キャリア教育の現場でも活用されていますよね。新居さんにも、社会の価値観を変えたいという想いがあったのでしょうか?

 

株式会社manma代表 新居日南恵さん(以下、敬称略。新居):私の場合は、そうした社会に対する課題意識よりも、「家族」というテーマそのものに興味があったんです。家庭を持つことにどこか難しさを感じている人が多いように感じていたので、「ネガティブな気持ちを持っている人に対して、どうやったらポジティブな情報や良い事例を伝えられるんだろう」と考えて大学2年のときにmanmaを立ち上げました。

 

編集部:世の中にはいろんな家族の形がありますが、実際はその多様性に触れる機会はそうないですもんね。

 

新居:家庭を持つことが大変そうなのは分かっていて、「それを乗り越えたらどんな楽しさや幸せがあるの?」っていうことを知りたいのに、誰も教えてくれないんですよね。逆に「子どもが生まれて超楽しいよ」とか「結婚最高だよ」とか言うと引かれてしまったり。結婚とか出産・育児のリアルなところをポジティブに伝えていきたいんですよね。

 

小山:家庭を持ってみて分かったけど、大変さと幸せって表裏一体なんですよね(苦笑)

 

新居:映画の中で印象的だったのが、綾が家族留学を通して沙織の子どもと遊んでいるシーンでした。綾は“子ども慣れ”していないどころか、子どもを持つことに少なからずネガティブなイメージを持っている女性なんですが、その感じがとにかくリアルに描かれているんです。

 

小山:本当に! 私も一足先に試写会で映画を観させていただいたんですが、綾の表情はすごくよかったですね。実は、私も家族留学の受け入れ家庭で、これまで15名ほどの学生や若手社会人を受け入れてきたんですが、最初は綾と似た表情をする人も多いんですよ。普段子どもと接したことのない大人がいきなり天真爛漫な子どもに質問攻めにされたらこういう表情になるよねって、思いながら観ていました(笑)

 

新居:綾と沙織の子どものシーンは本当に微笑ましいですよね。最初はぎこちなく振舞っていたところから、徐々に「あれ? なんか可愛いかも!」って変化していく姿がすごく自然で。交流を深めていく中で子どもに対して持っていたイメージが変わっていくのは、実際の家族留学でもあることなんです。

 

小山:ちなみに、綾の雰囲気が何だか10年前の私にそっくりでびっくりしたんです(苦笑)

 

一同:そうなんですか!?

 

小山:彼女は仕事熱心で、後輩想いの姉御肌で基本的にクールなので、少なくとも母性的ではないですよね。私もまさにそうだったんです。でも、子どもが苦手だからといって母親に向かないとか、母親になっちゃいけないわけじゃないですよね? 当時、私は不妊治療中だったんですが、はじめて友人に話したとき、「子ども好きそうじゃないのに欲しいんだ~」って驚かれて…… こんな私が母になってもいいのだろうかとちょっと悩んだんですよ。

 

亀山:女性だからといって、なにがなんでも子どもが欲しいという人ばかりではないし、それも本来多様であっていい部分ですよね。子どもを持つ方法も、自分が産むという以外にもあるかもしれないですし。

 

新居:そうですね。そもそも、家族を持つことってどういうこと? みたいなイメージを若いうちから持っておくのは大事だと思います。

世代や性別を超え、新しい価値観を作っていける社会のために

編集部:沙織の夫が「子どものお迎えに行ってあげた」と話すシーンがありましたが、現実でもよく聞く台詞だなと思いました。

 

亀山:妻の家事と育児を“手伝ってあげてる感”がリアルでしたよね。本作は撮影現場でも女性スタッフが半数ほど活躍していたんですが、男性の視点をできるだけリアルに描こうと思いました。事前に実際のパパの意見や体験談を聞かせてもらいましたし、ミーティングや脚本の修正作業の際にも改めて男性の意見を織り交ぜました。

 

新居:「子育てや家事は女性の仕事」という性別役割意識は、世代関係なくあると思いますし、男性だけじゃなく女性側にもある気がします。

 

小山:専業主婦だった母親と自分を比べて落ち込んだという話はよく聞きますね。「母は毎晩手づくりの美味しいご飯を食べさせてくれたから自分もそうしなければいけない」などと “べき論” に囚われ過ぎてしまうのはつらいですよね。子どもやパートナーに対して必要以上に後ろめたさを感じたり、自分を追い詰めてしまうことにもなるので…。

 

亀山:映画を撮るにあたりたくさん取材をしましたが、「母親だからこうすべき」という価値観に自分を合わせようとして心が折れてしまったという話は確かによく聞きました。

 

編集部:そうした価値観の囚われも含めて、多様性のある社会にならないのは、みなさんなぜだと思いますか?

 

亀山:あくまで個人的な考えであって、言い方はものすごく悪いですけど、“おじさんの壁”を越えられないというのはありますね。職場もそうですし、結局世の中を管理しているというか。動かしている人たちにおじさんが多すぎるんですよね……

 

新居:それは間違いないですね。行政に関していえば、私自身、少子化対策の検討会に入ることが多いんですが、男女比こそ半々くらいですが、年齢層は40歳オーバーがほとんどです。今回、少子化対策大綱というとても大事な方針を示すものがあるんですが、そのメンバーの平均年齢は55歳なんです…… こういう場で国のお金の使い方が決まっていくのに、当事者である人たちがその話し合いに入れていないというのは大きな危機感を感じます。

 

亀山:社会を動かしているおじさんたちの輪の中に、女性たちも含めどれだけ若い世代が入っていけるかで今後の社会のあり方が変わると思います。

 

編集部:小山さんは企業に対して女性活躍推進の支援をされてきましたが、どう思いますか?

 

小山:会社の風土や制度を変える前に、そこにいる人たちが心を開き聞く耳をもって目線を合わせるのが大事だと思います。「自分たちはこうだった」みたいなことが軸になっていくと若い世代は発言ができないので、「若い世代VS上の世代」にならない形で建設的な議論ができればいいですよね。

 

亀山:悪はこの世にいないと思うんですよね。正義の逆はまた別の正義なので。それは夫婦も一緒で、この映画の中でも沙織の夫がいわゆる「ダメ夫」的な振る舞いをしてしまうのには理由があるはずなんですよね。お互いの目線が少しズレているだけというか。それぞれの理想を上手くすり合わせることが出来さえすれば、現状は改善されると思います。

 

編集部:どうしたらそのすり合わせを上手くやっていけるのでしょうか?

 

亀山:とにかくいろいろな人の話を聞くことじゃないかなと思います。そしてさまざまな人の人生を見ることを止めないということですね。でも能動的に情報を得るのって疲れる作業なので、それをポジティブにやっていくには人と関わることを楽しいと思ってもらうしかない気がします。

 

新居:確かにそうですね。たとえば50代と20代だと職場くらいでしか出会わないから、どうしても上下関係ができちゃう。でも職場以外の色々な経路でクロスの世代が出会っていくみたいなところも、もしかしたら1つ大事なのかなと思いました。そしたらお互いに人として見え方は変わってくるし、フラットに話し合える場になるというか。

 

編集部:亀山さん、新居さん、本日はありがとうございました。

取材にあたり、『マイライフ、ママライフ』の試写を拝見したのですが、冒頭からエンディングまでまさに泣きっぱなしでした。共感の枠を超えて、「これって私じゃん!」と自らの姿を投影してしまいました。この映画を観た多くの女性が改めて自分の感情と向き合い、いい意味で心の中の毒抜きができるのではないでしょうか。女性の働きづらさの根底にあるものは、決して個人レベルでは解決できないものだからこそ、多くの人に本作を見てもらうことで、今の社会のあり方を考え、これこそ同じテーブルについてみんなで話し合っていけたらいいなと思いました。

プロフィール

亀山 睦実さん

映画監督、映像ディレクター

1989年生まれ、東京都葛飾区出身。
日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業後、2016年にクリエイティブチーム・ノアドに入社。映画、SNSドラマ、広告、テレビ、2.5次元舞台のマッピング映像演出など、幅広いメディアでの企画・演出・脚本等を担当する。
主な映画・ドラマ作品は『ゆきおんなの夏』、『追いかけてキス』、『マイライフ、ママライフ』、『12ヶ月のカイ』など。

新居 日南恵さん

株式会社manma 代表取締役

1994年生まれ。
2014年に「manma」を設立。2015年1月より学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデルに出会う体験プログラム「家族留学」を開始。”家族をひろげ、一人一人を幸せに。”をコンセプトに、家族を取り巻くより良い環境づくりに取り組む。内閣府・総務省・文部科学省 有識者委員 / 日本国政府主催WAW!(国際女性会議)アドバイザー / 「Forbes JAPAN WOMEN AWARD2017」ルーキー賞 /

文・インタビュー:倉沢 れい

ライター

倉沢れい

ライター

この記事をシェアする

FacebookTwitter