2018年に厚生労働省がモデル就業規則(※1)を改定し「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」との文言が追加されたことで、副業解禁の波が押し寄せました。これにより、特に新たな働き手層であるZ世代の働き方や副業に対する捉え方が従来とは異なってきています。今回はZ世代と副業に関する調査結果をもとに、彼らが副業にどのような価値を見出し、どのような視点で働き方を考えているのかに迫るとともに、企業側のメリットについても考察します。
Z世代にとっての「副業」とは?
最近では副業のことを「複業」「パラレルキャリア」と呼ぶ人も増えています。その呼び名から、副業とは“複数の仕事を同時に行うキャリア形成の仕方”、とも読み取れます。まずは、今の時代における副業の捉え方について、調査結果を元に見ていきます。
副業する理由は「収入」だけではない
定期的にZ世代調査を行っている株式会社MERYが実施した働き方に関する調査(※2)によれば、Z世代の14%が既に副業中とのこと。さらに「今はしていないが興味はある」と回答した層を含めると、全体の約4割が副業に意欲的であることがわかりました。
副業をする理由については、「収入以外」と回答したのは約4割。その詳細は以下のとおりとなっています。
1位「できることを増やしたい・スキルを磨きたい」(48.36%)
2位「時間にゆとりができたから」(29.58%)
3位「本業に活かしたい」(24.88%)
4位「人脈を広げたい」(23.94%)
5位「転職したい・起業したい」(9.39%)
この結果についてMERY Z世代研究所所長、平山彩子氏によれば、働くZ世代は
といいます。単に副収入を目的とした副業ではなく、収入以外の目的に重きを置き、同時に複数のキャリアを築く「パラレルキャリア」という選択をする人が増えていると言えるでしょう。
本業に満足している人ほど、副業している!?
また別の興味深い調査結果があります。副業人材マッチングサービス「lotsful」の調査(※3)によれば、本業の人事考課/給与待遇ともに「満足している」場合、副業実施率は8割を超える一方、本業の人事考課/給与待遇ともに「満足していない」場合、副業実施率は2割程度に留まるということがわかりました。つまり、本業への満足度が高いほど副業をしている、ということになります。
満足している本業があるからこそ余裕が生まれ、新たな成長機会として副業を選択する。すると副業により生活の安定感が増し、さらに本業も意欲的に取り組める…。本業と副業との間に、そんな相乗効果が生まれているようです。
副業による労働者のメリット
本業とは別に副業を持つのは時間的にも体力的にも大変そう、と感じる方も多いでしょう。それでも副業をするのは、労働者にどのようなメリットがあるからなのでしょうか。
副収入の獲得
最もわかりやすいメリットは、なんといっても副収入を得ることができる点です。本業の給与に満足していたとしても、プラスアルファの収入源を得ることで経済的な余裕が生まれます。それにより生活の柔軟性を高めたり、将来的な経済不安に備えたりすることができます。
自己実現の追及
本業の収入で生活資金を獲得しながら、副業を通じて自分がやりたいことに挑戦できます。必ずしも副収入だけを目的とはしていないため、趣味やボランティア活動が高じて結果として収入を得ることができた、というケースもあります。本業は収入を得る手段と割り切り、副業で生きがいを見出す人もいます。
自己成長とスキル向上
スキルアップを目的として、別の仕事を通じて新しい知識やスキルを得ることも可能です。中には、本業で異動したい部署があり異動先で役立つ知識を副業で身につけることで、その仕事に対し意欲的であることをアピールしたいという目的の人も。早くスキルを身につけたい熱意ある若手層は、本業以外での経験の積み上げに価値を感じるでしょう。
将来の準備と試行
本業を続けながら、将来の転職や起業に向けた準備を進められるメリットもあります。いきなり転職・起業してしまうより、本業で着実に収入を得ながら副業として実務経験を積むほうが生活も安定し、本当にその道でいいのかトライアルもできる、という考え方です。
終身雇用が当たり前ではなくなった今、Z世代は目の前の仕事を自分がする意味や仕事を通じた成長を大切にしています。仕事や働き方に対する価値観の変化に伴い、副業の捉え方も変わってきていると言えるでしょう。
副業を許容する企業側のメリット
副業を許可すると、本業が疎かになるのでは? 企業としてはそんな心配もあるかもしれません。従業員に副業を解禁することで、企業はどのようなメリットを享受できるのでしょうか。
育成のアウトソース
従業員が副業を通じて社内では得られないスキルを磨くことは、人材育成プログラムの補完となりえます。新しい知識を持つ人材が社内に増え、それを社内に還元してくれることで従業員全体のスキル向上にもつながります
優秀な人材の確保
会社の手続きやカルチャーに慣れた人材を手放すのは企業にとって大きな痛手です。副業という選択肢を与えることで、従業員は「転職ではなく副業」という手段を取ることができるようになります。これにより、企業は優秀な人材を流出させずに済みます。また労働力不足が叫ばれる中、副業を解禁することで優秀な人材を企業間でシェアできるとも捉えられます。
外部ネットワークの活用
従業員が副業で得たノウハウや人脈により、新たな情報やビジネスチャンスを獲得できれば企業の成長にもつながります。従来の業務遂行では得られないであろう思いがけない機会を従業員が外から持ち込むことで、事業拡大や新規事業への挑戦など、広がりが見える可能性も。
副業を許容し従業員のパラレルキャリア構築を後押しすることで、個々の従業員が獲得したスキルや経験、人脈が企業に還元され、組織が活性化していきます。またそうした社風が魅力となり、新たな人材獲得や定着率の改善も見込めます。
副業により多様で柔軟なキャリア構築を
副業は企業と労働者の双方に多様性と柔軟性をもたらすと言えます。労働者は本業と副業の相乗効果で仕事への満足度が増し、企業は従業員が外部で得たスキルや知識の還元により組織活性化につながり、組織にとっても個人にとっても好循環が期待できます。
労働市場全体で見ても、都市部の人材を地方で活かす新たな働き方も切り開かれるなど、新たな活気を市場にもたらし、結果として慢性的な人材不足への解決策ともなるでしょう。副業解禁の波がもたらしたこれからの働き方は、より個別のニーズや志向にあった、納得感のあるキャリア構築につながりそうです。
(※1)厚生労働省 モデル就業規則(令和5年7月版)
(※2)「MERY Z世代研究所 働き方に関する調査」調査概要
(※3)「lotsful 副業に関する定点調査」調査概要
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