子育てだって立派なキャリア、ブランクがあっても自信をもってほしい
絹川幸恵さんインタビュー【後編】
2017年みずほ証券で女性初の執行役員となり、そして現在はみずほビジネスパートナー株式会社の代表取締役社長である絹川幸恵(きぬがわ・さちえ)さんのインタビュー後編です。
前編では、均等法第一世代として働き続けてきた絹川さんに立ちはだかったさまざまな壁について、子育てと両立しながらどのように乗り越えてきたか、お聞きしました。後編では、女性が働き続けるために必要な「自信」についてお伝えします。現在お仕事をされている方はもちろん、これから復職を考えている方にも響くお話です!
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自分自身を過小評価してしまう「やまとなでしこ問題」とは
編集部:前編記事の最後に、「女性は自分のことを過小評価しがち」というお話がありました。管理職や女性のリーダーがなかなか増えていかないのは、社会構造的な問題だけでなく、こういった内面的な部分にも要因があるのでしょうか?
みずほビジネスパートナー株式会社 代表取締役社長 絹川幸恵さん(以下、敬称略。絹川):そうですね。自信がないのか、非常に慎重な方が多いですね。そこにも2種類あって、無意識に自分のことを卑下してしまい本当は実力があるのに自信がない方と、そこそこ自信はあるけど対外的には「私なんてめっそうもない」と謙遜してしまう方、両方があるようです。
編集部:対外的に、といいますと?
絹川:いま、女性活躍やクオータ制など、社会全体として女性人材を登用、活用する流れがありますが、「課長をやってみませんか?」と言われて、喜んで「やります!」なんて答えたら、「彼女はよっぽど自信があるんだろうな」と思われそう、だから余計に二の足を踏んでしまう…という傾向です。
こんな私でも、生意気な女だと思われたくなくて、「いえいえ、私なんてめっそうもない」とか言っていたこともありました。周囲のことなど意識せず、言いたい人には言わせておいて、もっと気軽な気持ちで挑戦してみたらいいのにな、と今では思うのですが…。
編集部:まさにインポスター症候群(※)ですね。
絹川:そうです!女性役員仲間の間では「やまとなでしこ問題」と呼んでいます。私たちの時代は総合職で入っていても、男女の差は明らかにありました。けれど、いまは制度も現場も整ってきて、両立支援などは特に充実しています。結婚・出産で仕事を辞める方は大企業ではほぼいなくなりましたよね。
挑戦できる土壌が整ってきているので、内面的なバイアスを取り除いて、もっと気軽に挑戦してほしいと思っています。あとは、もちろん、ダイバーシティの推進が企業価値の向上につながることを経営者がより理解し、深めていく必要があります。
(※)自己評価が低く必要以上に謙遜したり、自分自身を卑下したりする言動が多い心理傾向
子育てだって立派なキャリア、ブランクがあっても自信をもっていい
編集部:キャリアに対する考え方も多様になってきていますよね。
絹川:そうですね。私自身はいわゆる“バリキャリ”なんだと思いますが、だからといって、「ぜひみなさんもバリバリのキャリアを目指しましょう!」と言う気はまったくありません。自分の時間を、どんなことに対し、どれだけ費やすのか。また、家庭と仕事のバランスをどう取りながら働くのかは人それぞれであって、個人が最も心地よい選択をすればいいのです。
家庭や仕事だけでなく、趣味の世界や学びの世界についても、人それぞれ大切な時間があっていいのではないでしょうか。
編集部:それが認められてこそダイバーシティですものね。
絹川:ただ、私が常日頃感じているのが、世の中の母親たちは本当に優秀な人が多いということです。子どもが小学生のころ、PTAの中核を担っているお母様方、専業主婦の方々の能力の高さを目の当たりにして、本当に驚きました。
PTAというのは、組織運営という意味では誰かに人事権があるわけではないので、会社の中よりもよっぽどマネージメントすることが難しいわけですよ。そんな中、本当の意味でのリーダーシップをとって、組織を円滑に回しているお母様方がいらっしゃって、もう頭が上がりませんでした。
編集部:分かります!情報収集能力とかとっさの判断力とか、あと校長先生とかお父さんたちの巻き込み力とか、非常に能力の高いPTA役員の方々、毎年いらっしゃいます。
絹川:そういう方々に「それだけ能力あるのに、どうして働かないの?」と聞くと、「仕事を離れて10年以上経っているから、私なんて雇ってくれるところはないわよ」と、機会がないと決めつけて、最初から諦めてしまっているのです。
でも、私が思うに、育児も立派なキャリアです。たとえば、ワンオペ状態でどうやって家庭を回していこうか、わがままを言う子どもとどう向き合うか、忙しい中どうやって地域コミュニティと関わっていこうか…PTAなんて最たるものでしょう。
これらは立派なキャリアですから、育児や家庭で頑張ってきたことも含めて、もっとご自身の価値に自信をもってください。その中で、少しでも社会に貢献したいな、キャリアアップしたいな、という思いがあるのであれば、一歩踏み出すだけで、これまでとはまったく違う世界が広がると思います。
会社員も専業主婦も、まずは思いついたら一歩前に進むこと
編集部:ここでも自信のなさが生じて、眠れる人材が活用されていないのですね。とはいえ、その一歩が非常にハードルが高いのだと思います。まずは何から始めればよいのでしょうか?
絹川:会社員の中でも、いま「自律的キャリア形成」が求められています。これまではキャリアは企業側に委ねられていた部分がありましたが、個人自らがキャリアに関心を持って、自分のキャリア形成を行っていくのです。
これは専業主婦の方にも同じことが言えると思います。どうやって自分の人生を歩んでいこうか、ワークもライフも主体的に考え、自身で選択しながら進めていくことがまずは必要です。
編集部:企業側にもバリキャリだけを認める風潮を緩和してほしいですね。
絹川:そうですね。企業としてもワークキャリアだけを認めるのではなく、ライフキャリアという視点も加味していく必要があると思っています。労働者人口が減っていく中、日本にこれだけの優秀な戦力が残されていて、活用されていないのは本当にもったいない。
編集部:もしブランクがあった場合、どのように進めていけばよいのでしょうか?
絹川:ご自身の心地よいバランスを見つけるためにも、まずは行動してみないと自分がどう感じるか分からないですよね。まずは短時間からでも少し働いてみて、よさそうだったら少しずつステップアップしてもいいですし、ステップアップしなくてもいい。1mmでもいいので、まずは小さいことからやってみて、とにかく前に進むことです。
そのために必要なのは、あまり深く考えないで、思いついたらやってみる、これに限ります。パッと思いついたらまず調べてみる、興味があるものがあれば問い合わせてみる。やるかやらないかは後で決めればいいし、また、実際にやってみて違うな、と思えば辞めればいい。とにかく実行してみること。
みずほビジネスパートナーではそうした女性たちを応援しますし、私たちが一緒に併走してまいりますので、ぜひ興味のある方は一緒に一歩踏み出してほしいです!
編集部:非常に勇気をもらえるお話をありがとうございました。
女性の社会進出において、過渡期真っただ中を生き抜いてきた絹川さんだけあって、ひと言ひと言が信憑性の塊というか、明快で突き刺さるお話ばかりでした。ワークキャリアだけでなく、ライフキャリアも認められ、そして、それぞれの心地よいバランスが尊重される。そんな成熟した社会になるよう、現在子育て中の私たちの世代が、次の世代の後輩たちのために礎を築いていきたいと思いました。誰もが自信をもって、社会へ貢献できる時代をつくっていきましょう。「また仕事をしたいな」、「今の働き方からステップアップしたいな」とお思いの方はぜひご相談してみてはいかがでしょうか。
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プロフィール
絹川幸恵さん
みずほビジネスパートナー株式会社 代表取締役社長
1988年京都大学卒、同年現みずほ銀行に入行。支店勤務の後、マーケット部門に異動、バブル時代をディーリングルームで過ごす。1994年に現みずほ証券に異動、1995年に出産。育児休業から復帰後は企画業務等を担当。その後、本社の部長、支店長等を経て、2017年に執行役員名古屋支店長。営業担当役員を歴任後、2021年にみずほビジネスパートナー株式会社代表取締役社長に就任、現在に至る。
文・インタビュー:飯田 りえ
ライター