育休明けママ必見! 「私ってダメな母親……」「仕事ができない自分」に苦しまないメンタルヘルス
4月から職場復帰を果たした新米ワーママたちにとって、1ヶ月が過ぎようとしているこの時期ですが、新型コロナウィルスの影響で職場復帰時期を見送られた方も多いかもしれませんね。
育休明けの職場復帰はワクワクドキドキする反面、以前のように仕事がこなせない自分に焦ったり、思っている以上に変わってしまった職場環境に戸惑ったり、日々仕事のストレスに心を削られながら、「待ったなし」の家事と育児に疲れを感じることもあるでしょう。
そこでLAXICでは、職場復帰まもない新米ワーママたちに向けて、日々の暮らしで抱えがちな「不安」や「迷い」を自身で和らげ、気持ちを整えるためのヒントをお伝えできたらと思います。
今回は、東京大学医学系研究科にて「働く母親のメンタルヘルス」について研究されている医師の佐々木那津さんに職場復帰時にワーママたちが抱えやすい不安やストレスへの向き合い方について教えていただきました。
「仕事と子育ての両立」で辛い経験をしたことをきっかけに「働く母親のメンタルヘルス」の分野で研究を始めた佐々木さん。自身が手がけたワーママ向けメンタルヘルスプログラム『ハピネス・マム』についてもお伺いしました。
育休明けに感じやすい3つの不安と対処法
編集部:子育てしながら働く女性たちが増えているなかで、ワーキングマザーを研究対象とされている佐々木さんからみて、育休復帰されるママたちの置かれている状況はどのようなものだとお考えですか?
佐々木那津さん(以下、敬称略、佐々木):日本における働くお母さんの就労状況は、出産・育児期にあたる30代に就業率が下がり、子育てが一段落した40代で就業率が上昇するという、いわゆる「M字カーブ」が解消されつつあり、出産後の就業の継続率は上がってきています。
しかし、ママの働く環境は、むしろ辛さを増しているのではないかと感じている面があります。
編集部:というと?
佐々木:出産後も働き続ける女性が増えている一方で、働く理由や価値観が多様化しているため、それぞれがストレスを感じながら、仕事を続けているという厳しい現実があります。
経済的な理由で辛い気持ちを感じながらも仕事を続けざるを得ない方、キャリア形成が見えず仕事への意欲が削がれてしまった方、非正規という形でしか働けない状況にある方など、悩みを抱えた方が多く見受けられます。
また、既婚女性の幸福度について調べた日本の研究(※)では、幸福度の大小は「こどものいない専業主婦>こどものいない働く妻>こどものいる専業主婦>こどものいる働く妻」となり、ワーママの幸福度はそのほかの女性に比べて低いことも分かっています。
(※)出典:慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センター『消費生活に関するパネル調査』に基づく報告:専業主婦が本当に一番幸せなのか(佐藤, 2018)
編集部:今回は育休明けの仕事復帰をテーマにしているのですが、佐々木さんから見て、特に育休明けの女性たちが抱えやすいメンタル面の悩みとはどんなものがあるのでしょうか?
佐々木:そうですね、よくある代表的な悩みとして大きく3つあると思います。まず1つ目は「子どもが体調を崩したらどうしよう」という不安ですね。
編集部:子どもが熱を出して保育園から「お迎えコール」がきたり、インフルエンザなどの感染症にかかり長期間仕事をお休みしなければならなかったりというものですよね。このような悩みとはどのように付き合っていけばよいのでしょうか?
佐々木:子どもの体調不調は突然訪れますので、どう行動したらいいかを「ここに電話する」「この人に相談する」といったように、具体的なところまでメモしておいてフローを確認しておくと焦らず対応できます。そして、事前にそのフローを上司とも情報を共有しておくと良いでしょう。家族や外部のリソースとの連携について、事情をわかっておいてもらうことはとても大切です。
編集部:なるほど! 実際に子どもの体調不良で仕事に影響が出てしまい、「どうしよう」となる前に、あらかじめフローを作っておくということですね。これは大切ですね。ありがとうございます。では2つ目の悩みはどのようなものでしょうか?
佐々木:2つ目は、復帰後1~2ヶ月後くらいに感じやすい「職場に求められていないのでは」という不安を抱えてしまうことです。
編集部:職場復帰したものの、単調な仕事しか任されなくなったというモヤモヤを抱えるワーママたちもきっと多いですよね。
佐々木:そうですね。保育園のお迎えの時間があるので残業ができない状況も生じやすく、当然お仕事の内容や質が変わってくるというのも、育休明けのお母さんたちの多くが経験されています。
編集部:そうなると、「私じゃなくてもできるような仕事に時間を使うなら、子どもと一緒にいたほうがいいのでは……」と迷いも起こりがちな気がします。
佐々木:まさにそうなんです。そんな時は、自分自身のやっている仕事が誰かの助けになったり、自分が仕事から得ているものについて、小さなことから気付いてみることも大切かなと思います。「やりがい」の理想が高すぎていないか振り返り、仕事によって得ている人間関係の広がりや成長の機会について考えてみましょう。
編集部:なるべくポジティブな面に目を向けるようしたり、自分から「ここまではできる」と発信したりすることも大切なのですね。勉強になります! では最後の3つ目をお願いします。
佐々木:3つ目は、「出産して復帰してから仕事のパフォーマンスが下がってしまった」という悩みです。産業医として育休復帰明けの女性社員の方と面談するなかで、必ずといっていいほど皆さん口をそろえて「復帰後は効率が下がった」とおっしゃっていました。
編集部:すごくわかります。仕事の勘が戻らなかったり、新しいことが全然覚えられなかったり、戸惑いのなかで自信を失うママたちもきっと多いですよね。
佐々木:そうなんです。特に女性は妊娠出産の期間を経ると女性ホルモンのレベルが急上昇と急降下を経験するので、生物学的に体も大きく変化しますから、考え方・感じ方を含め脳の機能も変化する時期です。
そういう意味でも、出産前の自分と比較しすぎるというのはナンセンスですし、こだわりすぎると非常に不安になります。そのため育休後というのは新しいやり方で、自分の仕事をどうやって楽しんでいこうかなという新しい自分を見つけていく期間としてとらえていただくといいかなと思っています。
子どもを犠牲にしている…… 不安の裏には仕事への向き合い方が関係している
編集部:さきほど、日本のワーママの幸福度の低さが話に挙がりましたが、日本は文化的にも「子どもは母親が育てるべき」といった考えがまだまだ根底にあり、子どもを犠牲にして働いているというモヤモヤを現代ワーママの多くが抱えてしまう面があると思います。こういったジレンマが日本のワーママたちの幸福度の低さに影響しているのでしょうか?
佐々木:ジレンマが、幸福度の低さの直接的な原因とは言い切れません。家事負担や社会的な支援不足などの影響もあるかもしれません。ただし、自分の人生経験や文化に基づいて価値観が形成されますので、専業主婦家庭で育てられた場合は、自分が受けてきた子育てをトレースしたい(しなければ)、と思うかもしれないですし、高学歴のママは仕事をしなければ、という社会的なプレッシャーを感じやすいかもしれません。その分、ジレンマは抱えやすいこともあるでしょう。
しかし、「子どもを犠牲にしているんじゃないか」という気持ちを抱えているときは、裏返してみると仕事にやりがいを感じられていない時などに出やすい感情かなと思います。
仕事にイキイキ、ワクワク取り組んでいる時は、保育園に子どもを預けている時間を前向きに考えられます。子どもと離れている時間をネガティブに捉えるのではなく、仕事に取り組むために必要な時間として転換できているからですよね。
なので、「子どもを犠牲にしているのでは」という気持ちになった時は、今一度「自分にとって仕事というのはどういう意味を持っているのか?」、「職業人としてどうありたいか?」といったことを見直してみるのも大事かなと思います。
編集部:ただ「こうありたい自分」と「現実の自分」との狭間で思い悩むママたちも多いかなと思います。 仕事によってはやりがいを見つけるのが難しくかったり、逆に理想を求めて頑張りすぎて苦しくなったり……
佐々木:そうですね。やはり現状とかけ離れた高い理想を持ちすぎないことも大切ですし、結果にこだわりすぎると辛い気持ちを抱えがちになってしまいます。
目標に対して達成できなかったから自分はダメだって思うのではなくて、日々それに向かって少しずつやれているという、もう少し小さい段階に目を向けておくのも重要かなと思います。
たとえば、一日のスケジュールをリスト化して、全部はできなくても、「一つはやれた!」というように、小さな達成感を味わうのはおすすめです。
日常的に小さいことから目標達成を行っていくことで、「仕事のやりがいってこういうことか」とか「充実感って本当はこれだけでも得られたんだ」ということに気付くようになるかと思います。
ワーママのための心のセルフケア
『ハピネス・マム』でできること
編集部:育休明けは環境の変化にさらされ、ストレスを感じやすいため、佐々木さんのお話をお伺いしていても、やはり自分自身で心をケアして、よい方向に気持ちを持っていってあげる工夫が大切だなと感じました。
佐々木:まさにその通りですね。私自身が研究開発を行なったワーママ向けのメンタルヘルスケアプログラム『ハピネス・マム』も、“自分でできる、自分のための心のケア”がコンセプトになっています。
週30時間以上働いている未就学児のいるママを対象にしたプログラムで、科学的根拠のある心理療法をもとに作成されています。現状、効果検証の研究という枠組みなので、基本的に参加は無料です。
編集部:プログラムの特徴はどういった点でしょうか?
佐々木:ワーママ向けのメンタルヘルスについては書籍でも色々出ていたり、Webでもさまざまな記事が手軽に読めたりしますが、『ハピネス・マム』はセルフケアのなかでも「セルフヘルプ(自助)」という形式で、書き込み式のワークなどがあります。
心理療法では書き込んでノートにしていくことは、カウンセリングとほぼ同等の効果が得られるということが知られています。働いているお母さんたちはお忙しいので、精神系の専門機関を受診したり、週1回カウンセリングに通ったりというのは難しいですよね。その点、自宅でスマホからでもできるプログラムですごくアクセスしやすいですし、低コストで気軽にやっていただけるのが特徴です。
さらに掲示板で全国のママたちとも交流ができ、前向きな子育て方法やワーママのお悩み問題解決など気になる話題を気軽に理解できるコンテンツが充実しています。
私も、自分が仕事と子育てで辛い思いを抱えていた当事者だったことからこの研究をスタートしています。普段の生活の中で私自身が一番に効果を感じているところですので、皆さんにも自信をもっておすすめします。
編集部:これなら気軽にママたちもメンタルのセルフケアができそうですね! 今後はママのセルフケアがもっと身近なものになるといいなと思います。では最後に働くママも多いLAXICの読者にメッセージをお願いできますか?
佐々木:はい、私からママたちにお伝えしたいのは、辛い気持ちを自分の中で抱えたままにしなくてよい、ということですね。
人と共有することで救われることは多いですので、「上司にこんなこと言ったら期待されなくなっちゃうんじゃないかな」とか色んな事を考えがちですが、自分だけで抱えないということは一番大事なことになります。
また誰かに相談する際も、情緒的に気持ちに寄り添ってもらえるということも大切なことかもしれないですが、具体的に解決できるのは誰だろうということを考えることもポイントです。
相談する人数も1人だけじゃなくて人数が多ければ多いほど、自分にとって支えになるかもしれないですし、課題解決の糸口が見えるかもしれないですよね。だからもっともっと周りを見て、自分だけで抱えなくても大丈夫だよとお伝えしたいです。
編集部:子育ては周りを巻き込むことも大切なことですよね。佐々木さん、本日はありがとうございました!
出産後も仕事を続ける女性が増えていると言われているけれど、それはきっと女性の社会進出が進んでいるという表面的な綺麗ごとでないだろうと思うのです。非正規や昇進を諦めたぶら下がり状態など、出産前とはガラリと変わった周りの景色にため息をつきたくなったり、言いたいことを飲み込んだりして、生活のために“働くこと”を選択している人がきっと大半なのではないでしょうか。
男性の育児参加が進んできているとはいえ、結局は「母親」が全責任を負い、ギリギリのところをギリギリの精神状態で切り抜けていくしかない毎日。心が病んでもおかしくないだろうと個人的に思います。だからこそ、我慢とか根性論とか抜きで正しい知識で心をケアし、辛い気持ちを自分の手で和らげる術を知ることで、ままならない現実は変わらなくても自分が目にする景色は変わり、自分のことも、大切な家族のことも、今よりずっと愛するようになれると思うのです。
プロフィール
佐々木那津さん
東京大学医学系研究科精神保健学分野 医学博士課程
2010年 東京大学医学部健康科学・看護学科卒業
2014年 東京大学医学部医学科卒業
2014-2017年 国立病院機構東京医療センター勤務
2017年 東京大学医学部附属病院勤務
2018年より現所属
日本医師会認定産業医、内科医
家族:3歳(2016年生まれ)、5歳(2014年生まれ)の男の子
文・インタビュー:倉沢れい
ライター