「ワークもライフも諦めなくていい」
ラシク編集長・小山佐知子が感じる社会の変遷と、働くことへの思い
2023年2月、このWebメディア「LAXIC(※以下、ラシク)」は、コンセプトも新たに生まれ変わります。2015年にローンチして以降、ラシクは自分らしく働きたいママをはじめとした女性に向けて、さまざまな情報を発信するとともにエールを送り続けてきました。
立ち上げから8年、世の中の移り変わりに合わせて、人々の価値観や動きも少しずつ変化してきました。それに伴いラシクも、「働きたいママ」から「自分らしく働きたいすべての方々」へと、寄り添う視野を広げます。
今回は、2020年から現任されている小山佐知子(こやま・さちこ)編集長に、働き方に関する自身の思いや感じる社会の変化、ラシクのこれまでと今後についてインタビューしました。
「不妊治療と仕事の両立」の実体験がキャリアや働き方を考えるきっかけに
私は現在、「働き方」、「パラレルキャリア」「共働き」を主なテーマに、コンサルタントと編集者2つの顔で活動しています。コンサルティングは企業や大学向けに行っていて、直近は企業の男性育休推進に関するプロジェクトをサポートしています。
ラシクの運営会社である株式会社ノヴィータには、2年半前から“週3正社員”として勤務しています。自分自身もパラレルキャリア(複数の本業を持つ生き方、働き方)を実践しながら、多様な働き方の選択肢や人材活用について取材をしています。
社会人になった2004年、私が就職したのは、株式会社マイナビでした。最初に従事した営業職は天職でしたね。物を売るだけでなく、クライアントの課題やニーズをくみ取って提案に換える、とてもクリエイティブな仕事で、今の仕事の基礎にもなっています。
当時から、「この人はこういうポジションで輝けるんじゃないか」というように「人」に対する関心も強く、いまでいうプロボノのような形で社内で採用の仕事にも携わっていました。さまざまなことにチャレンジでき、仕事はやりがいがありましたが、30歳を迎えたタイミングで退職することに。不妊治療を最優先にするために、色々と考えた結果、仕事のウェイトを減らすことにしたんです。
フリーランスとしてライターの仕事を始めましたが、不妊治療と仕事の両立の厳しさは変わらず、仕事は“名刺の力”に頼ることがなくなり、自分の腕が試させることを肌で感じましたね。いまでこそ自分の好きなことや得意なことをベースに、在宅勤務で時間的にも柔軟に仕事ができていますが、当時は、時間的にも仕事はままならない状況でした。「不妊治療さえなければあのまま管理職としてバリバリ働いていたのかな……」といった気持ちが浮かんでは消え、気づけばアイデンティティクライシスに陥っていました。
社会の変化とともに色濃くなっていった「ワーママ」という言葉への違和感
私の活動の根っこには、「ワークもライフもどっちも諦めなくていい世の中をつくる」という思いがあるんです。私の人生において、永遠に追い求めるであろうミッションのようなものですね。
フリーランスとして取材活動やコミュニティ活動をしていくうちに、「働きたいのに働けない」というモヤモヤを抱える人は自分以外にも大勢いることに気がつきました。その中で芽生えた「この状況をなんとかしたい」という思いは、今も働く原動力になっています。
ラシクと出会ったのは、2019年、不妊治療と仕事の両立についての取材を受けたときでした。そのころは、企業の社内勉強会などの場でお話しさせていただく機会を積極的につくっていました。不妊がキャリアに及ぼす影響を、個人はもちろん企業側にもしっかりと知ってほしかったんです。ラシクは、取材前に編集部がかなり丁寧にやり取りをしてくれて信頼できるメディアだと感じたこともあり、取材では私の経験を赤裸々にお話しました。
そうしたら、当時の編集長が涙を流しながら、「こんな熱い思いを語っていただいて、本当にありがとうございます」って言ってくれて。それが、すごくうれしかったですね。
私がフリーでライターをしていたことも重なって、取材の後、ご縁をいただき、副編集長としてラシクに関わることになりました。
ラシクがローンチされたのは2015年。女性活躍推進法(2016年4月1日施行)の成立に向けて、「女性の働き方」に対する社会の意識が、少しずつ強くなり始めていたころでした。「ママが働けない」「ワーママと企業にミスマッチが起きる」といった、女性人材を取り囲む環境にアプローチをしたいという代表の思いから立ち上がったプロジェクトでした。
そこから現在に至るまで、社会は少しずつ変化し、女性本人やパートナー、企業の働くことに対する価値観が多様化して、柔軟に、そして自分らしく働ける人も少しずつ増えてきたように感じます。
とりわけ、働き方の変化を加速させたきっかけが、コロナ禍でした。女性活躍推進法や働き方改革など国単位での動きがあっても、どこか表面上の取り組みになっていた。そんな状況に風穴を開けて、ある意味、半強制的に人々の意識や行動が変わりました。
いまや出社を伴わない企業はたくさんありますし、「自由に働くってこういうことだよね」と多くの人が実感できるレベルまで社会が変わったのですから、良くも悪くもコロナ禍の力は強大でしたね。
そんなこともあり、編集長に就任したあたりから、「ワーママ」という言葉への違和感も強くなってきました。
テレワークはもちろん、時短勤務や副業など働き方の選択肢が広がり、ワーママたちをかつて悩ませていた“制限”の多くはどんどんなくなってきていることを肌で感じてきたからです。
それに、「男は仕事、女は家庭」のような固定観念も薄れてきた中、柔軟に、自分らしく働きたい人は決して女性やママだけではなくなっています。両立問題も、「個人の課題」から「家庭の課題」、そして多様な人材を抱える「企業の課題」として認識されるようになった今、「ワーママ」という枠組みで捉え、情報発信することの役目を終えたような気がしているんです。
コロナ禍を経て高まった、働き方のフィット感と可能性
社会の移り変わりとともに、自分自身の働き方も変わりました。フリーランスになった2011年は、ちょうど「ノマド」という言葉が認知され始めたころで、パソコン一つで仕事ができる喜びを感じはじめていました。とはいえ、リモートワーク自体、社会的にはまだまだニッチな働き方でした。フリーランスはまだしも、会社員であればなおのこと在宅勤務ができる環境にある人は本当に少なくて、「出社できない人の特別措置」といった意味合いから、育児をしながら在宅で働いている友人の中には、肩身の狭さを吐露する人もいました。
現在は私自身の働き方が、世の中の動きにフィットしてきているように感じるんです。誰もがテレワークを経験できるようになったことで、多様で柔軟な働き方が「特別である」という罪悪感を持つ必要がなくなったように思います。
私自身は2019年からは「親子ワーケーション」もしています。これまでに国内外のさまざまな地を訪れていて、そこでの経験や学びは、親である私だけでなく、息子の成長にもまた良い影響があるように感じます。コロナ禍初期の自粛期間にも感じましたが、親の働き方が変わることで、子どもや家庭に与える影響は見方を帰るとポジティブな部分もたくさんあると思います。子どもを連れてワーケーションに出かけることで、子どもの学び方も一緒にアップデートしていきたいですね。
複業人材が中心となって運営するメディアだからこそ説得力を持って多様な働き方を届けていきたい
最後に、ラシクの今後について少しお話しします。これまで「ワーママ」向けに情報を発信していましたが、リニューアル後のラシクは「自分らしく働きたいすべての方」に向けて、ラシクならではの有意義な情報をお届けします。
軸となるキーワードは、「組織・チーム」「健康経営」「働き方・生き方」「学び・リスキル」「地域」の5つ。これまでは、どちらかというと働く個人に向けた内容でしたが、今後は、多様な「個」を事業発展の起爆剤にすべく企業側(経営者や人事担当者など)に届く切り口を意識していきます。
多くのワーカーは組織のひとりなので、個人が変わるには、企業側が変わる必要があります。一人ひとりが唯一無二の人生を楽しむためには、「企業に働きやすい土壌がある」ことが大前提だと思うんです。
私をはじめ、ラシクを運営するメンバーはフルリモートのパラレルワーカーで、他にも本業を持っています。少子高齢化も進んでいるいま、人材面の課題を抱えている企業はたくさんあるはずです。しかし、どんな企業でも、人材面の課題に向き合う術があることを、新ラシクとして全力でお伝えできればいいなあと思っています。
企業に「働きやすさ」が根付いたその先に、個々の人生が輝く光景があることを願っています。
ライター/紺野天地
ライター